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2023年のモバイルCPU展望 - AMD編(読者投稿:渋谷Hさん)

2023年のモバイルCPU展望(AMD編)
今月初めのCES 2023でIntelとAMDが新製品を発表しました(動画リンク)。基本的に今回発表した製品が今年の主力になっていきますので、一通り確認していきましょう。今年は、Intel編とAMD編の2本立てで、今回はAMD編です。

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なお、Intel CPUについてはこちらの記事をご覧ください。
2023年のモバイルCPU展望 - Intel編

AMDは今年からRyzen7000番台になり、性能が大きく向上したZen4アーキテクチャの製品が登場しました。ただ、モバイルに限り、今年発売のモデルから命名スキームが新しいものになります。一番上の桁はいままで世代名を指していましたが、新スキームでは発売年を示す(7000番台=2023年に発売)ものとなり、アーキテクチャは下1、2桁目で示されることになります。3桁目は従来と同じくコア数、グレードを示しています。末尾はH単独がなくなり35-54WがHS、55W以上がHXで、末尾Uは15-28W、Intelで言うUとPのの両方を指します。新命名スキームでは、例えば「7840HS」は7=2023年の、8=8コアの、40=Zen4の、HS=35-54W、という意味になります。

・7045シリーズ Zen4 新規、デスクトップ用Ryzenの転用
・7040シリーズ Zen4 新規
・7035シリーズ Zen3+ 旧6000番台のリネーム
・7030シリーズ Zen3 旧58xxU/56xxU/54xxUのリネーム
・7020シリーズ Zen2 旧4450U、5300U相当。4コアのみ、ネットブック用

2023年のモバイルCPU展望(AMD編)
Ryzenは元々5800U (Zen3)と5700U (Zen2)が混在するなど一番上の桁の意味があやふやでしたが、今回はさらにZen2、Zen3、Zen3+、Zen4が混在するため、その整理で必要だったのでしょう。とはいえ、新スキームでは例えば「7520Uよりも5400Uや7330Uのほうが設計が新しく性能が高い」と言ったことが起きますし、デスクトップ版では相変わらず一番上の桁で世代名を指しているため、ややこしいことは確かです。

ラインナップがここまで複雑化したのは、TSMCの先端プロセスの枠獲得が厳しく、Intelほど生産量を確保できないのが原因と推測していますが、実際のところを誰かに取材してほしい所です。

Ryzenモバイル7000シリーズは既製品のリネームに近いものも多いですが、7020シリーズは対応メモリがDDR5になるなど、新規に設計しなおされたものもあります。来年以降も、おそらく8030シリーズなどが出ればそのようなマイナーチェンジがあるでしょう。

モバイルノートとスタンダードノート向け

7040シリーズ

2023年のモバイルCPU展望(AMD編)
Zen4のRyzen 7040シリーズはスタンダード~ゲーミングノート向けの35-54W(末尾HS)の製品から発売となります。デスクトップでの比較を参考にすれば、Zen4はZen3(5000番台)に比べ同消費電力の性能が25-30%向上しており、モバイル(末尾U)でも同じようになるはずです。CES2023でのデモでは最上位の7940HSが「M1 Proの+34%(動画リンク)」という数字が示されており、おそらく12900Hか13700Hと同程度になるでしょう。これは、デスクトップ版で同じコア数の7700Xと13600Kをそれぞれ55Wまで電力制限した場合とほぼ同じ数字であり、信憑性の高い数字と思います。

7040シリーズの目玉は内蔵GPUの強化で、前世代の2倍、Intelの内蔵GPUの3倍、AMD Radeon RX 5300MからGeForce RTX3050Ti程度の独立GPU並みの性能が目標とされており、内蔵GPUのみでも本格的にゲーミングノートとして機能することが売り物になるでしょう。

現在はまだローンチされていませんが、7040シリーズには末尾Uで28W(Intelで言う末尾P)の製品もラインナップされるでしょう。こちらはIntel第12世代モバイルと同等以上の性能になるはずです。製造ノードがTSMC N4になって効率が改善するため、軽い負荷なら純粋な省電力になりますし、ゲーミングノートとしては独立GPUがない分アイドル時の省電力性が期待できるので、モニターなど含めて省電力側に寄せた設計にすれば長い電池持ちが期待でき、ゲームもできるスタンダードノートというジャンルができるのではないかと期待しています(TDP上限が54Wまで上がった通り、内蔵GPUであってもゲーム中は相応に消費電力が増え電源接続必須とは思います)。

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さらにXILINX由来のAIコアも加わりましたが、このコアの現在の主たる用途はビデオ会議での人物検出→背景ぼかし等になるので、ビジネスノート用途も十分に狙っていると思います。

7035シリーズ

7035シリーズ(7735、7535、7335)は、Zen3+世代でRyzen 6000番台のリネームと言っていいものです。内蔵GPUはIntel競合製品の1.5倍程度の性能があり、古いゲームはもちろん、AAAタイトルでも画質を落とした設定ならば遊ぶことができます。

末尾HSのスタンダード~ゲーミングノート向けは、競合となるAlder lake Hシリーズに性能で一歩届きませんでしたが、末尾U (28W)のモバイル~スタンダードノート向けはTDPが同じAlder lakeのPやUシリーズに比べ電力効率、内蔵GPUの両方で優位性を見せています。その特性から携帯ゲームPCで人気があり、ONEXPLAYER mini ProAYANEO 2AOKZOE A1など複数機種が発売されています。7035シリーズでは特別にTDPが低い携帯PC向けが7736Uとしてラインナップされています。

Ryzen6000シリーズは、特に末尾Uの製品は現在でもトップクラスのCPUの一つと言えますが、その割には搭載機種が少ないのが残念なところです。7035シリーズへの移行でこれがどのように変わるかに注目しています。

7030シリーズ(末尾U)

7730U, 7530U, 7330Uは、ほぼ旧58xxU/56xxU/54xxUのリネームで、対応メモリもDDR4のままです。末尾Hの製品がラインナップから外れ、末尾UかつTDP 15Wのもののみになります。

2世代前のCPUになりましたが、事務用途であれば現在でも躊躇いなく新品で買えるCPUの一角でしょう。「ネットとオフィス」型ベンチマークのCrossMarkではIntelの第11世代と第12世代の中間程度で、Intelの末尾Uと比べるとマルチ性能はRyzenやや有利、シングル性能はCore有利と一長一短です。シングル性能についてはクロックが上がりにくい影響もあるのですが、それを逆手にとって、比較的電池持ちが良い製品が多いと思います。

今のノートPC市場では、5625U搭載機種が安価に大量に出回っており、スポットセールなどでは7万円前後になることもしばしばあるほどで、ここ数か月では事務用としてコスパが最も良いCPUとして推す人も少なくありません。自社の7520Uや、IntelのN305の出る幕がしばらくないかもしれないと思わせるほどです。ただ、AMDの決算と見比べるとちょっと作りすぎて値崩れした雰囲気もあり、この状況がどの程度続くかは私も自信がありませんが、逆に言えば狙うなら今でしょう。

7020Uシリーズ(末尾U)

7020シリーズはコードネーム”Mendocino”と呼ばれていたTDP 15WでZen2コアの製品で、4コアのRyzen 7520U、7320U、2コアのAthlon Gold 7220Uの3つがラインナップされています。コアは3世代前のZen2ですが、DDR5対応や内蔵GPU更新など手も入っています。

用途は安価なモバイルノートやChromeBookでの軽い閲覧・事務用になると思いますが、GeekBenchやCrossMarkのデータベースでは、Ryzen 4450Uや5300U、Intel第10世代やN305とほぼ同程度となっています。また現在はこのCPUが入るべき価格帯で同社のRyzen5 5625Uが強力なライバルになっており、こちらを採用した製品はまだあまり多くはありません。

重量級ゲーミングノート向け(7045HXシリーズ)

2023年のモバイルCPU展望(AMD編)
昨年IntelがTDP55WのHXシリーズを発売しましたが、AMDもZen4で対抗製品となるRyzen 7045シリーズ、コードネーム”Dragon Range”(動画リンク)を発売しました。こちらもIntelの製品同様にデスクトップ用チップをモバイル向けパッケージにしたもので、型番も末尾HXで合わせ、TDPも同じく55W、重量級(17インチ・3kg・非薄型)の大型ゲーミングノート向けで、独立GPUを合わせる前提となっています。

性能は、最上位の7945HXはノートながら前世代の5950Xや12900Kを超え、今世代の7900Xや13700Kに匹敵するものと思われます。様々な検証記事()によると、Zen4は12~16コアの製品が55-75W前後でベストの電力性能比となるようで、エコモード65W(実際は88W)でも前世代5950Xの1.2倍の性能を発揮するほどで、ライバルのRaptorlake HXシリーズに比べ同電力で1~2割ほど性能が高くなるのではないかと思います。シングル性能もデスクトップ並みと予想され、ゲーム、ワークステーションのどちらの用途でも非常に強力な性能になるでしょう。

ただ、Zen4のほうが同じ消費電力でも温度が上がりやすいことから、冷却の制限で最高性能が伸びない可能性もあります。またZen4デスクトップではシステム全体の消費電力やアイドル時の消費電力が高く出る傾向にあり、この製品もその特徴を引き継いでいると考えられるためバッテリー持ちは悪いことが予想されますが、3kg級のノートは普段から持ち歩いたりせず電源につなぎっぱなしで使うことを意図しているでしょうから、あまり問題にはならないでしょう。

関連リンク

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