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AMDのCopilot+PC、Ryzen AI 300シリーズの概観

AMDのCopilot+PC、Ryzen AI 300シリーズの概観
AMDはComputex 2024Zen 5世代のCPUを発表しました。モバイル版はZen5への更新に加え、GPUがRDNA3.5に、NPUはXDNA2世代に進歩してMicrosoftのAI基準 Copilot+PCに準拠しており(詳細は後述)、フラッグシップとなるRyzen AI 9 HX 370(コードネーム”Strix Point”)の製品はすでに市場投入済みで、ウインタブでもZenbook S16がレビューされています。少々遅くなりましたが、これらのCPUについて概観し、来年初頭と言われる廉価版”Kracken Point”についても触れていきます。

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AMDのCopilot+PC、Ryzen AI 300シリーズの概観

CPU、GPU、NPUがそれぞれ最新世代に更新(クリックで拡大します)

ここがおすすめ
・負荷時の性能・電力効率はSnapdragon X EliteやM2 Proに匹敵、大型ノートなら前世代の”HX”中位並の性能
・一昔前のゲームなどが快適に遊べる高いGPU性能
・Copilot+PC対応の高いAI性能
・バッテリー持ちは、それを重視した設定なら、既存のx86 CPUでは最上級になりうる
・HX 370は総じて「フラッグシップ」と呼ぶにふさわしい性能
・性能7割程度のCopilot+PC対応廉価版”Kracken Point”が来年頭に登場予定
ここはイマイチ
・現状、HX 370は価格や入手性に難
・Copilot+PC認証がまだで(今年中の予定)、AIの対応アプリが少ない

なお、AMDは前の世代で命名形式を変更していましたが、今世代にまた命名形式を変更し、Core Ultraに寄せた形の”Ryzen AI ① ② XXX”という方式に変えています。①が製品のプレミアム度(3, 5, 7, 9)を指し、②は従来末尾にあった電力セグメント(U, HS, HX)、XXXの部分は一桁目が世代、以降が世代内の性能を指すようです。世代番号は、前世代からNPU搭載でRyzen AIだったのだということでこれが「Ryzen AI第3世代」となっています。

ベンチマーク性能

CPU性能

パソコンの用途のほとんどに影響するシングルスレッド性能については、ウインタブでレビューしたZenbook S16はCinebench 2024で110点、notebookcheckのデータベースでは6機種平均で115点となっています。notebookcheckデータベースの7840HSは4機種平均で104.5となっており、前世代に比べ約10%の性能向上が見られます。Core Ultra 100シリーズ(Meteor lake)に対しては7%程度上回り、第13世代Core (Raptor lake)の上位機種と同等となっています。

動画処理などに影響するマルチスレッド性能は、コア数の増加で大幅に増強されています。Zen 5世代のノート用CPUはbig-little型のハイブリッドになり、Ryzen AI HX 370 (Strix Point)ではbigコア4つにlittleコアが8つで合計12コアになりました。後のセクションで詳しい特性を解説しますが、「littleコアは性能が低い」という常識に反し、Zenのlittleコアは2.0 GHz程度で動く限りbigコアとほぼ変わらない性能を見せます。TDP制限の厳しいノートは2.0 GHz以下で動作することが多く、実質的に12コアそのものとして考えてよいでしょう。これにより、同じ消費電力でのマルチスレッド依存処理は性能・電力効率ともに約+25%と大幅に向上しています。

ウインタブでレビューしたZenbook S 16は比較的おとなしめの設定のためCinebench 2024で942点とCore Ultra 7 155Hの大型機種と同程度の範囲にとどまっていますが、notebookcheckによる他機種のレビューではゲーミングノート級の65Wであれば1100点を超え、”HX”の型番にふさわしくSnapdragon X Eliteを上回る程度になります。Zenbook S 16にしても電池持ちの長さを指摘される通りTDP 28W, PPT 33Wと省電力設定のようで、私が以前155Hを計測した際は同程度の電力でCinebench 2024のマルチ性能650~700点程度でしたので、同電力で25%程度性能が高いと見込めるでしょう。

GPU性能

内蔵GPUは前世代からマイナーアップデートされRDNA3.5となっています。実機での性能は、現在のところ前世代より若干上で、十分な電力とメモリ帯域を持つCore Ultra 7 155Hと同程度、3DMark Time Spyで3500~4000点の範囲内のものが多いようです。基本的には前世代やMeteor lakeと同じく「一昔前のエントリーGPU搭載ゲーミングノートと同程度で、軽いゲームなら遊ぶことができる」程度の範疇に収まるでしょう。

ただ、ウインタブで実機レビューしている機種も含め、現在までに発売されているHX 370搭載機種は比較的電池持ちにも配慮したものが多いことは注意が必要です。Ryzen最新世代の内蔵GPUは、TDP設定や使用するメモリの影響を受けやすいことが知られており、内蔵GPUの性能を引き出すことに特化したチューニングをすればもう少し性能は伸びるかもしれません。

NPU

MicrosoftのCopilot+PC基準に対応した50 TOPSの演算能力を持つNPUが搭載されています。Strix Pointではブランド名が(ややCore Ultraに寄せる形で)変更され”Ryzen AI 9 HX 370″という形式になっていますが、ここで”AI”の文字を入れたのはCopilot+対応を謳うアピールもあるでしょう。ただし発売時点ではCopilot+PCの認証が得られず、機能がアクティベートされるのは「2024年内」とされています(Intelは11月ごろと発表しており、おそらく同時期になるでしょう)。AIの活用はMicrosoftが推し進めているため、将来的には活用の幅が広がるでしょう。

性能まとめ

Ryzen AI 9 HX 370をトータルで見ると、シングル性能、マルチ性能、GPU性能、AI性能、電力効率のそれぞれでSnap dragon X EliteやApple M3 Proに近く、トータルで見てRyzen 7000シリーズやCore Ultra 100シリーズよりワンランク上ということができ、最新世代のフラッグシップCPUとして十分な風格を備えていると言っていいでしょう。3年ほど前のAppleが最新プロセスを抑えていた状況と異なり、x86 CPUも同世代・近い世代のプロセスノードを使えるようになったことで、同等の製品を出せるようになってきたとも言えます。

デスクトップ版のZen 5世代については、事前の期待に比べて性能の伸びが微妙でZen4 X3Dに比べて電力効率やゲーム性能で魅力的でないため、辛口の評価が多く見られますが、ノート用についてはハイブリッド化で十分に前世代からの伸びしろを確保しており、魅力的なCPUに仕上がっていると思います。

Copilot+PCとの関係

AI機能については、現段階で「Copilot+PCの規格を満たせそうな仕様として発売するが、発売時点では認証が得られず、今年中と見られる認証時まではNPUがあるのに公式サンプル的なAmuse AI以外のアプリが存在しないという状況で、かなり見切り発車での発売という印象を受けます。

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これに関しては前代のRyzen 7000シリーズ(Phoenix Point)からそうで、前代ですでに10 TOPS程度のNPUが搭載されていますが、迅速に設計が可能な代わり効率が低いFPGAを使っていたり、NPUを使うための基盤ソフト”Ryzen AI Software”が発売時にはまだ完成しておらず、バージョン1が出たのはリフレッシュ版のRyzen 8000シリーズの発売時になってから、Githubのフォーク数も未だ54と2桁止まりで開発者が少なく、今に至るまでまともに動くアプリはWindows Studio Effect程度でサードパーティアプリがない状況です。

HX 370のCPU性能はSnapdragon X Elite(やAppleのM3 Pro)とほぼ同等、AI性能もCopilot+PC基準を満たすためにSnapdragon X Eliteよりやや上になっており、「Snapdragon X Elite対策」としての雰囲気が色濃いものになっていますが、機能を全部詰め込むためにRyzenのノート用CPUとしては例外的に大きく前世代比+30%の232mm²程度の大きさ、ノート用CPUとしては今までなかった2CCXの構成で、本来AMDの方針からはやや外れた傾向を持っており、そのこともCopilot+PCやSnapdragon X Elite対策など外から仕様が決まったという印象を与えます。

リーズナブルな派生版Kracken Point

AMDは今年暮れから来年初頭をめどにCopilot+PCに対応した廉価版製品Kracken Pointを出すと言われています。こちらは前世代のHawk PointとPhoenix2の中間程度の設計で4x Zen 5 + 4x Zen 5cで1CCX、内蔵GPUは規模的半減(性能は通例7~8割程度)と、大きさも180mm²前後で済みそうな規模感になっています。このコア数があればLunar lake(やApple M2無印)と同程度かそれより上の性能が期待でき、メインストリーム~軽量ノート向けとして十分な性能になります。

現在のところ、Strix Pointは性能は十分でありつつも価格が高めの機種が多く流通量も少なく入手性に難がある(と報じられている)のが最大の問題であるため、手ごろな値段で買えることが期待できるKraken PointがAMDのCopilot+PCの本命ということになるかもしれません。

さらに同時期に、現在ポータブルゲーム機で歓迎されているZ1 Extremeの後継機種Z2 Extremeが発売されるという話も出ていますが、Kracken Pointベースの場合は性能面で若干見劣りする感は否めないため、どのようなものになるかはまだこの先の情報を待った方がよさそうです。

技術的な深掘り

ZenアーキテクチャのLittleコア

Ryzenシリーズは、ハンドヘルドゲーム機で流行したZ1 Extremeなど前世代の小型製品向けCPU(コードネームPhoenix 2)以降、通常のZenコアと小型化Zenコア(Zen 4c, Zen 5c)を混載したハイブリッドになっており、Ryzen AI 9 HX 370をはじめとする”Ryzen AI”以降の世代は全てハイブリッドになるようです。

Zen 4cやZen 5cは、元となるZen 4やZen 5の論理設計はそのままに、物理設計を見直して〈低クロックである代わりに小型化した〉ものになります。サーバー用のEPYCやStrix Pointでは、コア本体の35%小型化とL3キャッシュの削減を合わせて、Zen 5が1つ分の面積にZen 5cが2つ入る設計になっています。論理設計が同じなので、クロック当たり速度(IPC)や対応命令セットは元となるコアと同じです。これは、IntelのEコアが小型化設計に特化してアーキテクチャや対応命令セットが異なるのとは対照的で、特にAVX-512がそのまま使えるのが強みになっています。

両者は面積効率・電力効率の面でもやや特性が異なります。Intel 第12~14世代のEコアは同じクロックならPコアに比べ面積効率1.6倍〈ノートやサーバーでは同じ価格でマルチ性能アップ〉、最大クロックでは電力効率1.5倍〈デスクトップでは省電力で同じマルチ性能〉という特性を持ち、ノートでもデスクトップでも強みを持つためどちらでも使われます。

一方でZen 4c/5cは、最大でも3.3 GHz前後である上に2.3 GHz付近を境目に通常のZen 4/5コアより電力効率が低下してしまう特性を持っています。このため、2.0 GHz前後で動作するならZen 4/5cコアは純然たる1コア分として動作し面積効率1.5~2.0倍となる〈ノートやサーバーでは同じ価格でマルチ性能アップ〉のに対して、最大クロックでは面積効率も電力効率も通常のZen 4/5コアと変わらず単にシングル性能が下がるだけ〈デスクトップでは利点なし〉になります。実際、Zen 4世代のAPUでは、Zen 4×6コアの8600GZen 4×2+Zen 4c×4コアの8500Gは、同じ6コア・65Wですが、ハイブリッドの8500Gは8割程度のマルチ性能にとどまっており、これはコアの面積にちょうど比例する関係になっていました。

(このセクションは筆者作成動画の再編集版です)

AMDのCopilot+PC、Ryzen AI 300シリーズの概観

Zen 4とZen 4cの電力性能特性の違い(クリックで拡大します)

Zen 5アーキテクチャの特性

Zen 5は、製造プロセスはZen 4と同じく4nm世代で、ハーフノードの更新にとどまり、最大クロックもほぼ一緒です。一方で論理構造(マイクロアーキテクチャ)は大幅に刷新され、トランジスタ数は28%増加、クロック当たり性能は16パーセント向上を謳っています。この数字はWindowsの次期大型更新24H2で提供される最適化機能込みの数字とされており、現在までの計測ではシングルスレッド性能が前世代に比べ約12%上昇程度のレビューが多くなっています。同じ電力で揃えた場合、コア数(ハイブリッドを含まない)が同じなら8%程度性能が向上しています。もう少し細かいところでは、AVX-512が効きやすいテストでは35%もの性能向上となっており、用途によっては大幅な性能向上が期待できるでしょう。

以前にプロセス据え置きでアーキテクチャのみ更新した例と比べると、性能も電力効率も20%近く伸びたZen 3ほどではなく、シングル性能が10%伸びただけでデメリットもあったRocket lake(第11世代)よりは成功していると言えるでしょう。トータルの数字としては、コア当たりの性能も伸びつつコア数を増やして性能稼いだAlder lakeからRaptor lakeの変化が近いと思います。

(このセクションは筆者作成動画の再編集版です)

AMDのCopilot+PC、Ryzen AI 300シリーズの概観

Zen5のIPC(クリックで拡大します)

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