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Windowsタブレットが2025年に復活?省電力化が一気に進むx86 CPU

Windowsタブレットが2025年に復活?

画像出所:Intel

いわゆる「何ナノ」と呼ばれるCPUの製造ノードは、その製品の性能に大きな影響を与えます。大手半導体製造業者のTSMC、Intel、Samsungは現在のところ「製造ノードが1世代進むと、同コア数同クロックで消費電力30~40%減か、または同コア数同消費電力でクロック10~20%向上」を目安に開発しています。この製造ノードについて、2023~2025年にかけて、x86 CPUで長足の進歩がある見込みです。

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Intelは従前より、今年2023年後半に出るMeteor lakeでIntel 4になり、2024年には次世代のIntel20A/18Aを量産可能にして、2年で2世代進むとしています(参考・英語)。理屈通り消費電力2/3を2回繰り返せば、現在はモバイルノート向けの15W級(1255U)の性能が、2025年には6~8Wとなる計算になります。(Intel 4は本当は7nmで……云々の説は筆者解説動画を参考にしてください)

Windowsタブレットが2025年に復活?

画像出所:AMD

AMDは今年2023年のZen4でN7/6世代からN5/4世代に進み、同電力で性能+25%程度を達成しています。今後2024年をめどにZen5を開発、そのモバイル版はN3で製造の見込みとなっており、こちらも2世代連続でノードを進め、Zen5世代で5800Uの性能を6~8Wで達成するでしょう。

スマホ用CPUは1コアの最大消費電力が4~6W、全コアでも8~9Wです(参考・英語)。現行のIntel第13世代やRyzen 6000/7035シリーズは1コアの最大消費電力が15~20Wほどもありとてもスマホには載せられませんが、2年後のx86 CPUは(最大クロックが抑えめならば)1コア最大6W、全コア9W程度の8インチ(iPad miniサイズ)のタブレットに載せられる消費電力で、M1、1255U、5800U程度(Windowsでは「バランスモード」等の控えめの設定)の性能を出せる目途が立ちます

つまり、このサイトのオリジン、「Windowsタブレット」が復活する可能性が出てきた--というのが私の予測であり、期待でもあります。Windowsタブレットが好き、という私の個人的な趣味全開で、この先2年間のCPUについて前向きな期待を込めた見込みについて簡単にまとめます。

IntelとAMDの今後のローンチ見込みのタイムライン

IntelとAMDの今後のローンチ見込みのタイムライン。各バーの右端がローンチ見込み時期を示す。開発スケジュールはRaptor lake説明会で標準的なものとして示された「基礎設計1年、シリコン上のみの調整1年、パッケージ含めた調整1年」を当てはめたもの。(クリックで拡大します)

現行世代:1コア最大20 W(ノートPC級)

電池持ちは主に低負荷時、例えば1コア最大消費電力の影響が大きいです。現行のx86製品はこの点だけを見てもタブレットに乗せられないほど電力を食います。

Intel 7のIntel 第12/13世代、TSMC N7/6のRyzen 5000/6000シリーズともに、4.5 GHz程度まで上げると20W近く消費します(HWiNFO実測値)。Ryzenのほうが最大クロックがやや低く、結果的に電池持ちが良い製品が多いです(IntelもDell XPS 13 (9315)の最適化モードのように最大クロックを制限すれば電池持ちは良くなります)
●Ryzen 5800U/6800Uなど8コアTDP 15Wの製品は特に電力効率が良いですが、出荷数が少ないです。それ以外の製品の効率はIntelとほぼ同等です。
●M1/M2はTSMC N5で1世代上のノードで製造されているうえ、スマホ用コアがベースで、3.0 GHz超しか上がらず、1コアの最大消費電力は6W程度ですが、高いクロックあたり性能によりIntel第11世代やRyzen 5000並のシングル性能があります。全コアの電力効率でもIntelやAMDと2倍の差があります(参考・英語)。

若干毛色が違うのがAlder lake-Nで、各種のEコアの検証によれば1コア最大約6 W(3.8 GHz時)で、8コアのIntel N300やN305は、消費電力やGeekbenchスコアがSnapdragon 8 Gen1とよく似ています。AtomがARM対抗製品として始まり、ARMの高性能化に従ってAtomも性能を合わせて現行世代まで来ているので、今でもそのままタブレットに乗せられる水準なのでしょう。

2023年後半:1コア最大12 W(11インチ2-in-1級)

AMD Ryzen 7045/7040

AMDは年初のCES 2023でTSMC N4製造となるRyzen 7045/7040番台を発表しています。デスクトップ版の性能から類推して、前々世代Ryzen 5000シリーズに対して最大消費電力は据え置き、速度(・効率)は+25~30%程度が期待されます。Ryzen 7 7700(無印)の実測値では1コア最大駆動時は4.7 GHzで11.2 W程度に抑えることができ、Intel第13世代のPコアと比べると同性能での消費電力は2~4割少なく、はっきりと電池持ちで差が付くでしょう(最大性能に関してはIntelはEコアで電力効率を補ってある程度差を埋めています)。

ただ、Ryzen APUの最新世代は出荷数が少なく、U版はここのところ夏ごろまで新製品が遅れるため(現在でもAMD公式サイトに7840Hはありますが7840Uはなく正式な型番は未定)、事実上今年後半に出るMeteor lakeとの対決になるのではないかと思います。Ryzenは後れを取っていたシングル性能をこの世代で強化する一方、Meteor lakeは電力効率を上げ、両者とも弱点を補いあった結果似た性能になり、”7840U”と”i7-1460P”が性能・電力効率ともに互角になるのではないかと予想しています。

内蔵GPUはGPUコア数からの理論値で前世代比2倍程度になると見られていましたが、発売直前になってカタログスペックの最大クロックが引き下げられた(参考・英語)ほか、同一電力では前世代と同等、TDPを上げても1.3~1.5倍程度しか向上していないという(未確定の)情報が流れています。ボトルネックが消費電力なのかメモリ帯域なのかは分かりませんが、今世代では潜在能力を生かしきれないかもしれません。

Intel Meteor lake

前回解説しましたが、今年後半(9月ごろ)に出るであろうMeteor lakeは、製造ノードがIntel 4に進歩し、第12世代に比べ同じシングル性能で消費電力3~4割減、同TDPで性能が1.5倍になると見込まれます。計算通りなら1コア4.5 GHzでも約12 Wに収まり、TDP 9W版が性能・効率(電池持ち)ともにM1に近いものとなるでしょう。高負荷時の消費電力・性能はM2の同TDP帯製品並になり、電池持ちもまあまあ改善するでしょう。

Apple A17 & M3

ウインタブのカバー範囲からは外れますが、Appleも今年TSMC N3 (N3B?)で製造されるA17やM3を発売すると言われています。N3は昨年暮れに量産が始まっていますが(参考・日本語)、現状ほぼApple専用と言われています(参考・英語)。一般的に、量産開始直後は最大クロックや歩留まりの悪さから小型のスマホ用チップに回され、改善が進んでから大型PC向けチップに移行するのが通例なので、A17搭載iPhone/iPadの発売が先で、M3搭載機の発売時期は2023年末になると見込まれています(参考・日本語)。

性能についてはM1/M2に追いついてきたMeteor lakeを再び突き放すでしょうが、M3世代のうちにIntelの次の世代(Arrow lakeかLunar lake)が出て、また競争になるのではないかと見込んでいます。

2024年後半以降:1コア最大6~8 W(8インチタブレット級)

2024年後半以降に買えるx86 CPUは、クロックを上げずIPC向上を目指すという前提の下で、1コア最大6~8 Wクラスのタブレットに使えるものになるはずです。もちろん性能競争が起きて高クロックになればそうはなりませんが、Intel、AMDとも新ノードに移行したてであまりクロックが上げられず、省電力方向に振るのではないか、というのが私の見立てです。

Intel – Arrow lake & Lunar lake

Windowsタブレットが2025年に復活?

画像出所:Intel

Meteor lakeの次は、Intel 20A/18Aが2024年内の量産を目指しており(日本語英語)、それを使用したArrow lakeとLunar lakeが計画されています。20A/18Aが想定通りの性能でクロックを上げなければ、この世代でi7-1255U(”バランスモード”等)相当の性能が6~8W程度になり電池持ちもMac並になるでしょう。15Wの”i7-1565U”が6+8コアであればM1 Maxと同程度で、2+8コアでクロックを抑えればスマホにすら載せられる水準が見込めます。

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これらの世代では基礎技術が大きく変わります。まず、10年使われてきた2.5次元(凹凸面)のFinFET (Tri-gate)から3次元のRibbonFET (Gate-All-Around)となります。微細化には必要なことですが、加工コスト・難度も1段階上がるでしょう。合わせて、Intel名PowerVIAこと裏面電源供給(参考・日本語)が導入されます。シリコンウェハ上にトランジスタを形成した直後は、要は部品が並んでいるだけの状態で、その”表面”に金属で微細な配線を形成してチップが完成します。現在はその配線が混雑しているうえ電源線に適さないほど細くなっており、これ以上の微細化のため、電源線だけ”裏面”側に移し末端部でシリコンに穴をあけ”表面”に引き込む方法が導入されます。

後者は設計ルールに大きな影響を与えるため、設計に大幅な変更が必要になります。Meteor lakeまでは第6世代Skylakeを建て増ししたような設計が使われてきたものが、第15~17世代で刷新され、低クロック高IPCに寄せた効率化がされるという噂がありますが(Moore’s law is dead・動画)、それが本当にあるならば、どのみち設計の刷新を迫られるこの世代になるのではないかと思っています。

これらの20A/18Aを使う製品については、Lunar lakeは基礎設計段階が終了しシリコンでの検証・修正段階に移ったとコメントされており(参考・英語参考・英語)通常の開発スケジュールであればあと2年、2024年暮れ~2025年頭に発売されるでしょう。ただ新技術が大量投入されているので、遅れも十分にあり得ます。Lunar lakeは公式に”Ultra low power”を狙っており、タブレットやスマホも十分に視野に入っているでしょう。タイル化によってバリエーションも作りやすくなっているはずで、PCIe等を削った超省電力バージョンも期待できます。

Arrow lakeはLunar lakeより先に出るとされ、この1年の公式発表(参考・英語, 参考・英語)では一貫してそう書かれていたのですが、今年1月末に出た2022年の決算発表(参考・英語)ではArrow lakeの文字が見えません。現在Intelは赤字解消のため開発計画の大幅調整を行っているようで(参考・英語)、Meteor lakeとArrow lakeはデスクトップ向け・ノート向け・iGPUのスペックなど調整がありそうです。

また、もしEコアのみのLunar lake-Nが出るとすると、Skymont 8コアを第11世代Tiger lakeとほぼ同じ性能としたとき3~6Wとなります。この数字は懐かしのCherry Trailのシナリオ動作電力(SDP)~TDPとほぼ同じであり、当時雨後の筍のように出た8インチタブレットやスティックPCはもちろん、ミドルレンジのスマホに組み込める水準になります。Lakefieldと同じようにパッケージ化すれば小型製品にぴったりでしょう。2~3年後の”現行世代”と比べたら半分以下の性能でしょうが、その時点でTiger lake並の性能が”使える”水準か否かで言えば、エントリ向けとしては十分通用するのではないかと思います。

AMD Zen5

AMDは、昨年の株主向け説明会の資料(参考・英語)が正しければ、2024年にZen5を投入する計画です。資料の表記ルールを信じれば、ノートPC用APUは最新のTSMC N3Eでの製造になるでしょう。N3Eへの移行ではクロック+20%と消費電力-20%が同時に達成できるとされており(参考・英語)、”8850H”はApple M3 Max等と互角の性能になることが予想されます。Ryzen APUはGPD WINONEXPLAYERAOKZOEなどゲーム機型UMPCで多く採用されていますが、6800UをN3Eにポートし設計時に最も省電力側のオプションを選ぶだけでも、CPUのみで6~8W、GPU込みでも15W程度に収まり、携帯ゲーム機らしいサイズ感に収まるでしょう

Zen4では演算ユニット本体の強化はAVX-512以外はされず、クロックあたり性能(いわゆるIPC)の伸びは限定的でした。Zen5では設計の刷新、”New grounds-up microarchitecture”が来ると予告されています(動画)。今のところ確たる情報はないですが、IPCが+20%程度という憶測が多く、省電力な低クロックでも十分性能が出るでしょう。

次世代Ryzenでキャッシュ構造などが大きく変わる可能性もあります。Ryzenではキャッシュが重視され、ダイ面積の半部以上がキャッシュで(@locuza_)、さらにL3増量版のX3Dも出ていますが、一方で今後(しばらく)は高価な最新ノードを使ってもキャッシュ面積が縮小しません(参考・英語)。実際Ryzen7000世代のV-CacheはN7のままのようです。Ryzenが進歩を続けるにはキャッシュ構造の改変が必要そうで、信憑性は定かではありませんがそのような噂もあります(RedGamingTech・動画)。個人的にはノート向けAPUにV-Cacheが搭載されることを期待しています。

また、Zen4の小型版であるZen4cがあり、小さなコアを多数積むと有利な特定のサーバ用途にBergamoというコードネームで新EPYCを開発中であるという発表がありましたが(参考・英語)、そのZen4cはL3を減らしてコアを1.5倍多く詰めたものという話があります(参考・日本語)。一時はこれを使ってRyzenもBig-Littleになるという話もありましたが、今のところ具体的な話はなく、憶測どまりになっています。

余談・その他の話題

Raptor lake Refresh

Intel 4用の工場は今のところ1つしか建設されていないため(参考・英語)、Meteor lakeは生産量が少ないという噂が多く、モバイル向けしか出ない、プレミアム向けセグメント専用だ等の住み分け説がありました。それを裏付けるように、Intelの株主向け非公開説明会で、デスクトップ用として夏にRaptor lake Refreshと呼ばれる製品が出ると説明されたという話が出ています。

Intel 7のコア数やクロックの向上はほとんど限界のため、出るとすれば、現行の第13世代に0.1 GHzずつ上乗せしたお茶濁しが一番可能性が高そうです。ただ、Intel 7は少しずつ性能向上しており、Raptor lakeではAlder lake当時と比べ最大クロックと(同コア数の)電力効率が10%ほど向上しています。Intel 4から開発成果が還元され、消費電力やコストの削減に重きを置いた「Intel 6」的な中間的なハーフノードが出る可能性も低いながらあるのではないかと思っています(実際Raptorlakeのそれはそう呼ばれているようです)。

Intel 4 / Intel 20Aは本当に出るのか

ノード更新は通例2年に一度程度のペースで、2023にIntel 4、2024に20Aと1年に1度あるのは速いと言えます。特に10nmで遅れたIntelがなぜここまで速く出すのか、という声も多く聞きます。これについては、むしろ10nmで遅れたゆえにスケジュールが詰まってしまったのではないか、というのが私の意見です。製造ノードはかなり先を見据えた世代まで研究が行われていることが多く、例えば昨年の学会ではRibbonFET (GAA)の次の世代のCFETの研究が紹介されています(参考1, 2)。RibbonFET+裏面電源供給のIntel 20Aも長らく開発はされていて、10nmの遅れで結果的に近い時期になってしまったのではないでしょうか。

また、個々のタイルの製造技術とは別に、2023年内にFoveros Directというチップ接合技術が量産可能になるとされています(参考・日本語)。この技術はAMDのV-Cacheに使われているTSMC SoICと同世代の接合技術で、採用されればタイル接合の高速化・省電力化に貢献しますし、自由度も上がるでしょう。例えばV-CacheのようなL3の外付けも可能になるでしょうし、CPUタイルの2枚組構成、例えば「面積がほぼ同じPコア×8のタイルとEコア×24のタイルを自由に組み合わせられるようになる」といったことにも発展していくと期待しています。

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コメント

  1. CH21 より:

    x86ではなくx64だと思われます。

    • 渋谷H より:

      x64をサポートしていてx86をサポートしていない製品は実質ないのと、歴史的経緯から、(ARM等と対比するときには)x86と呼ぶのが一般的かと思います。英語版WikipediaのInstruction
      setsの分類でもx86に代表させてますし、Redhatなどでもそういう呼び分けをしておりますので。https://www.redhat.com/ja/topics/linux/ARM-vs-x86

  2. もーん より:

    実用上は稼働時よりスリープ時の消費電力のほうが恩恵あると思いますが、まだまだキツそうですね。
    数時間放置していたら休止状態に自動移行→再度利用まで15、20秒またされるなんて
    現状のモダンスタンバイはイケてなさすぎる。
    10年前ならよかったんでしょうが、スマホ・タブレットが普及した2023年にこれは…。

  3. 渋谷H より:

    同感です。IntelもOptaneを休止状態専用キャッシュに使ってくれればいいのにと昔から思ってましたw