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IntelのCopilot+PC、Core Ultra 200V (Lunar lake) の概観

IntelのCopilot+PC、Core Ultra 200V (Lunar lake) の概観
Intelは今月初め新CPUのLunar lakeを発表しました。実機発売は今月末に解禁の予定です。Intelは第12世代以来Intel 7/Golden Cove/Gracemontの派生が続いてきましたが、Lunar lakeが属するCore Ultra 200シリーズは製造プロセスがTSMC N3B系が中心になり、Lion Cove/Skymontへと構造も刷新されクロックあたり性能(IPC)が大幅向上、Copilot+PCの基準にも準拠するなど、世代一新という感の強い製品となっています。

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ここがおすすめ
・CPUの基本性能はM2相当、モバイルノートで「ネットとオフィス」用途なら最速級
・バッテリー持ちはx86では頭一つ抜けて上、Snapdragon X Elite以上、M3 Macと互角以上の機種が出そう
・Copilot+PC対応の高いAI性能で、それ以外にもAdobe等で対応済みアプリがある
・実ゲームでも高いフレームレートが期待でき、低消費電力でも実用レベル
・総じてビジネスモバイル、ポータブルゲーム用として非常に優れている
ここはイマイチ
・軽量ノート用でコア数が少なく、フラッグシップ級の性能ではない。動画編集等には向かない
・Copilot+PC認証がまだ(今年中の予定)

概要

Lunar lakeは最低保証TDPが8Wとタブレットに載せられるレベルの超小型・超省電力を意図した設計で、従来の9W版「U」や末尾「Y」のように小型化されたソケットを採用し、メモリをCPUパッケージに同梱することでさらなる小型化に対応しています。そのうえで最大ターボ電力は15W版U並に設定され、UMPCからビジネスノートまでカバーする設計になっています。末尾文字は「V」になりましたが、U, V, Yは全てギリシア文字のウプシロンの派生で、そのシリーズの一つということでしょう。

末尾「U」系統の後継としてコア数が4P+4Eと少なく、省電力化を進めるためハイパースレッディングが廃止されてさえいます。このためマルチスレッド性能は同世代の大型機種ほどは望めません。それでも第12・13世代の末尾「P」(1260P等)と同等、Ryzen 6000シリーズの末尾「HS」に肉薄するマルチ性能は確保し、そのうえシングルスレッド性能は従来機種より上がりますので、持ち歩き前提のビジネスノートであれば実用的には買い替え元より高速なCPUとなるでしょう。

なおLunar lakeのEコアはMeteor lakeのLP-Eコアに相当するブロックに配置され構造上は4P +0E + 4LP-Eと言えるものですが、コア性能・コア間通信を大幅に改善し従来のEコアと同様に扱えるようにしたものです。本稿では「Eコア」「LP-Eコア」の両方の言葉を使いますが、基本的にどちらも同じものを指しています。

ベンチマーク上の性能の概算

CPU性能

パソコンの用途のほとんどに影響するシングルスレッド性能については、公式発表会で+14%程度と説明されており、Lunar lakeの仕様表からCinebench 2024のシングル性能を概算すると計測誤差込みで上位機種が115~125点、下位機種が110~120点程度(Cinebench R23で2050~2200程度)になると見込まれ、メーカーから流出しているテストデータもそれを支持しています。モバイルノート用としてはCore Ultra 100シリーズ (Meteor lake)の100~105より1割強上、Ryzen AI 300シリーズの110~115程度より若干上、Apple M2と同等以上でM3より若干下という程度に収まるでしょう。第13世代以前ではバッテリー駆動時にシングル性能が低下することがありましたが、Lunar lakeでは省電力化でそのようなことがなくなるため、快適性はベンチマーク以上に向上するでしょう。

動画処理などに影響するマルチスレッド性能は、予測精度は低いのですが、35W前後(モバイルノートPCの「パフォーマンスモード」等)であれば、Cinebench 2024のマルチ性能が550~650点前後(R23で10000~11500点前後)と期待でき、前世代の末尾U(155U、1355U)製品の500~550点と比べると20%程度の性能向上、 平均的なi7-1360P搭載機種と同等以上、AppleM2と同等以上でM3より若干下になると見込まれます。仕様表の全コア最大クロックをTDP無制限で達成した場合でも800点止まりですが、大型ノートでは155H、HX 370、Snapdragon XEliteのいずれも900点台以上は出ますので、これに比べるとワンランク落ちます。

仕様表の基本周波数(P:2.2 GHz, E:2.2 GHz)からマルチ性能を概算すると約400点(R23で7000点強)となりますが、ノート用CPUの基本周波数は通例ファン音が聞こえずに済むレベルまで絞った場合の値です。基本周波数通りであればi7-1355U等は約230点、i7-155H等でも約330点まで落ち込むほどで、ここで400点が出せるのはモバイル特化、低消費電力志向の面目躍如と言えるでしょう。

CPU部分を概観すると、通常Apple M2に近い性能・電力効率(ターボ時M3に近い性能)である一方、スタンダードノートで主力のMeteor lake-H、Ryzen AI 9 HX 370、Apple M3 Proなどと比べると一回り小型でマルチ性能は低くなっています。とはいえ「ネットとオフィス」用途である限りはマルチ性能は8コア、650点あれば十分で、多くのタスクで律速要因となるシングル性能は上がっていますから、体感的な快適性は大半のユースケースで前世代より向上すると考えられます。

GPU性能

Lunar lakeでは内蔵GPUが世代交代しXe²になり、全体的なアップグレードのほか、AIエンジンのXMXが搭載されるようになっています。エンジンの規模的には前世代の末尾Hと同等、末尾Uの2倍程度で、3DMarkなどのベンチマークでは155HやHX 370と同程度に(好条件では半分程度の電力で)なると期待されます。

加えてなにがしかの最適化が進んだようで、実ゲームでは155Hに対し+31%、HX 370に対し+16%高速で、XMXで強化されたXeSSを使えば155Hに対し2倍ものフレームレートを実現すると謳っています。最適化(計算エンジンの数を超える性能向上)の理由はいくつか考えられ、CPU側のハイパースレッディングの削除SoC側のLow Power Islandのメモリアクセスの改善(スライド内に表記あり)、Xe²内のキャッシュ増量や圧縮アルゴリズムの改善、XMXによるXeSSの高速化など、様々なものの積み上げでそうなることは十分ありえます。発表会の説明を信じればXeSS使用時はワンランク重いゲームまで遊べるようになるはずで、発売後のベンチマークが楽しみです。

IntelのCopilot+PC、Core Ultra 200V (Lunar lake) の概観

発表会でのゲーム性能の主張スライドをまとめたもの(数値は本文参照)(クリックで拡大します)

AI性能

Lunar lakeはCopilot+PC基準を満たす48 TOPSのNPUを搭載しています。Intelは発表会でこれに加え、GPUのAIエンジンが68 TOPSの性能を持ち、CPU+GPU+NPUの合計で120 TOPSのAI性能を持つことをアピールしています。Qualcommは推論モデルの低ビット化に熱心でSnapdragon X EliteではNPUから浮動小数点演算が削除されているほどなのに対し、Lunar lakeでは高精度モデルも実行可能であることをアピールしています。

このあたりはIntelと他社のAIに対する取り組みの違いを反映していると思われます。RyzenのNPUはRyzen 7000シリーズ発売時には開発フレームワークが未完成のままリリースされるほどで、現在でもまともに動くアプリは公式のものに限られます。Snapdragon X Eliteも似た状況でCopilot+公式アプリ以外は更地といった状況で、Adobe CSのAI機能もGPU実行のためユーザーフォーラムでNPU実行にしてほしいという要望が上がっています。

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一方、Intelは7年前からNeural Compute StickなどAI機能を温め、同じAIモデルをCPU、GPU、NPUのどれでも動かせるようにする中間フレームワークOpenVINOも作っており、XeSSなどGPU上のAI活用も積極的です。CPU+GPU+NPUの合計を示すのも、以前から積み上げてきたソフトウェア資産がどれでも使えるというアピールということでしょう。

IntelのCopilot+PC、Core Ultra 200V (Lunar lake) の概観

Adobeなどメディア系AIが実際にはGPU実行で、GPUののAI性能が低かったり動かなかったりするSnapdragon X Eliteより実用性が高いと主張するスライド(クリックで拡大します)

電池持ち改善

Lunar lakeの発表会ではSnapdragon X Eliteよりもさらに電池持ちが良いというアピールがされています。電池持ちは機種やユースケースごとに違うため発表会の数字をそのまま当てはめられるわけではありませんが、Lenovo Yoga Slim 7i Gen9予約ページの記載はJEITA3.0持続時間が13.7時間とPrestige 13 AI Evo A1Mの公式スペック11時間の25%増し、別のyoutuberのレビューも155Hの25%増しであることから、ウインタブの標準的なテストでも動作時間9時間越えはもちろん10時間越えも期待され、大半のテスト法でM3 Macと同等以上と予測できる内容になっています。

省電力化を達成した主な技術的背景は下記の通りで、かなり幅広く手を入れています。

①製造プロセスの進歩によるCPU・GPUの基本的な電力効率の改善
Meteor lakeのLP-Eコアが非力でPコアを完全に休ませるに至らなかった反省から、LP-Eを通常のEコア並みに強化(チップ内通信も改良)
Thread Directorに強制的にLP-Eコア上で走らせ続けるモードを追加(要再ビルド)
④PコアからHyper-Threadingを削除してシングルスレッドの電力効率を7~15%向上
⑤メモリ同梱化で通信距離が短くなり、メモリとの通信電力を40%削減
⑥メモリ同梱化でマザーボードの面積が減少、大容量バッテリーが搭載可能に
⑦別GPUに原則対応せず(Thunderbolt経由の外付けは可)、PCIeレーンを20→8に大幅削減
⑧クロック管理や電源管理の単位微細化

なお公式発表の中でも、WordやExcelは電池持ちが良い一方、Teams等ビデオチャットでは相対的にやや悪い結果となっています。私がMeteor lakeを実機レビューした際には、Zoomでマイクをオンするとやたらと電力を食うことを確認していますが、こういった通話機能の省電力性においては、スマートフォンから発展してきたApple製品やSnapdragonに比べ最適化が進んでいないと言う印象を受けます。

IntelのCopilot+PC、Core Ultra 200V (Lunar lake) の概観

同メーカー同筐体または同メーカーで近い筐体の製品でSnapdragon X EliteやRyzen AI 9 HX 370よりバッテリー持ちが良いと主張するスライド(クリックで拡大します)

Copilot+PCとの関係

Lunar lakeは噂が出た当初、Intel 18Aの初製品として2025年初頭のCESでお披露目されるのではないか、という見方が多勢でした。昨年9月の発表会の段階でも、Arrow lakeの次にLunarlakeが出てくるかのような図になっています。実際には今年9月、Arrow lakeより早くの発売となりましたが、第二四半期決算の説明会でもLunar lakeの発売は予定より早いと認めています。また製造もTSMC N3Bとなっています。

同じ世代にあたるArrow lakeは基本的に前世代Meteor lakeのCPUタイルだけを最新のものに差し替えたもので、NPUは従来のままになっており、Copilot+PCに対応できません。このため、Copilot+PCに対応するために急遽予定を変更しTSMC製にしてでもLunar lakeの予定を繰り上げたのではないか、というのが私の見方です(発売スケジュールについては、第12世代以来ノート用のラインナップを年初のCESで発表して春に新作が揃うというケースが多かったものの、最大マーケットのアメリカで「できれば新学期シーズンの9月、最悪でも11月最終週のブラックフライデーに新作のセールスをしたい」という要望が多かったようで、その件も決算で触れられています)。

発表会でもSnapdragon X Eliteとの比較が盛んに行われており、Copilot+PCを意識しているのは間違いないでしょう。ただRyzen AI HX 370と同様にLunar lakeも発売直後はCopilot+PC認定されておらず、ともに今年中(11月ごろ)に認証されるという話になっています。

Intelは独自のAIフレームワーク”OpenVINO”を開発しており、github上では、OpenVINOのお気に入り数は6.8kで、これはCUDAの13.2kに次ぎ、ROCmの4.5kを上回ります。QualcommのAIサンプルの415やRyzen NPUの342とは桁が一つ違い、エコシステムが十分に成立する段階まで到達し、投稿サイトのMediumやQiitaでも(他2社と異なり)「NPUを使ってみた」という記事が投稿されています。ただ、これはとりもなおさずMicrosoftのDirectML(githubお気に入り数2.2k)やONNX(githubお気に入り数17.6k)と主導権争いをすることもあり得るため、IntelとMicrosoftで意見が一致しない、ということはありそうです。実際、AMDのHX 370の発表ではCopilot+PCにその段階で非対応にも関わらずCopilot+PC対応を全面的に売りにしていましたが、Lunar lakeの発表会ではCopilot+PCという言葉がスライドに全く含まれておらず、両者の立ち位置の違いを感じました。

昨年の情報との比較

なお、この製品については今年に入るまでほとんど情報がなく、昨年私が書いた記事も相当憶測含みになっています。「シングル性能は高いがマルチ性能はそこそこ止まり」「ダイやパッケージの小型化よる省電力化・低廉化」「15Wをメインに7~28W」「デスクトップ用よりAI性能重視」「Thunderbolt等のみに絞った低い拡張性」あたりはほぼ当たっており、中でもLP-Eコアが大型化してEコアを兼ねた構造になる、という点は海外メディアと比べても半年早く推定していました。一方で、GPU性能はかなり低く見積もっており、チップレットの構成やAI性能は予想から外れていました。概ね8割程度の的中率でした。

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