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Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?- マルチ性能、電池持ち、GPUで大きな進歩

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?
筆者は、初代Core UltraことMeteor lakeについて、以前にいくつかの記事を書いていました。その中で、いくつかの性能予想を行っていました。列挙するとおおむね以下の通りです。

2023/3/8 年末商戦の目玉?Intel次世代Meteor lakeは 電池持ち改善に期待
2023/9/25 省電力性をアピールするMeteor lake(次期 Core Ultra)

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⮞ シングルスレッド性能は変わらないか、省電力モードでは改善することがある
⮞ “U”や”P”の後継はコア数増加によってマルチスレッド性能が+30~50%になる
⮞ “H”の後継はマルチスレッド性能+20%程度になる
⮞ 内蔵GPU性能は1.3~2.0倍となり、Z1 Extremeに匹敵する水準になる
⮞ 15-28Wの主力製品では実用的負荷での電池持ちが2~4割程度伸びる

発売後しばらくたってMeteor lakeのレビューもそろってきたので、上記予測の検証を行っていきたいと思います。

ただ、Meteor lakeはノート専用です。デスクトップ用であればマシン構成やBIOSの調整項目で細かく条件を揃えて純粋にCPUの特性だけを測ることが可能ですが、ノートPCでは構成は固定ですしBIOSの機能も限られています。またノートではデスクトップにない電池持ちの検証が必要ですが、使い方によって電池持ちは大きく異なりますから検証法の規格化も簡単ではなく、そもそも時間がかかるため多くのレビューでは計測すらしていません。

同じモデルで新旧比較

今回はこれらの問題を乗り越えるため、「モデル名が同一の新旧機種を同じレビュワーが評価し」「電池持ちを規格化された方法で実機計測している」レビューを集め、そのメタアナリシスを行いました。今回はウインタブより3組、同ジャンル他サイトのthe比較およびnotebookcheckからそれぞれ2組ずつ(これは現在までに確認できる限り条件を満たすほぼ全組にあたります)を選び、Cinebench R23と電池持ちの変化をまとめ幾何平均をとりました。

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?

分析対象の製品

データ出典:
Prestige 16 A12U:ウインタブ
Prestige 16 B1V:ウインタブ
Prestige 13 A12M:ウインタブ
Prestige 13 A1M:ウインタブ
Spectre x360 14 ef:ウインタブ
Spectre x360 14 euウインタブ
ThinkBook 13x Gen 2:the比較
ThinkBook 13x Gen 4:the比較
Inspiron 13(5330):the比較
ThinkPad X1 Carbon G11:notebookcheck
ThinkPad X1 Carbon G12:notebookcheck
Spectrex360 16 f:notebookcheck
Spectrex360 16 aa:notebookcheck

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?

Cinebench R23と電池持ちの前モデル・現モデル間の変化の一覧プロット。マルチ性能のグラフの白数字はコア数の変化、電池持ちグラフの白数字はバッテリー容量の変化を示します。(クリックで拡大します)

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?

マルチ性能の変化率と電池持ちの変化率をベクトル図示したもの。

その結果、シングル性能は平均4%向上、マルチは平均31%向上、バッテリー持続時間は平均41%の増加となりました。これらは事前予想の範囲内に収まります。向上を性能に振るか電池持ちに振るかは機種によりますが、低く見積もってもCPUの違いだけでマルチ性能、電池持ちが両方とも25%は向上する、というのがメタアナリシスの結果です。

内蔵GPUはあまり機種ごとの違いも出ないので代表的スコアで比較すると13900HでTime Spy1947・Fire Strike 5428に対し、155HはTime Spy 3959・Fire Strike 8363と、アプリ次第になりますが+50~100%の性能向上となり、5年前のゲームなら普通に遊べるレベルになっています。

以上のように、マルチ性能、電池持ち、GPU性能の3点で顕著な向上が見られますが、世間的には話題になっていません。個人的には、以下のような理由であると考えています。

⮞ CPU性能アップに見えにくい(次節にその理由)
⮞ 電池持ちをまじめに検証しているレビュワーが少ない
⮞ 発売直後の機種で設定ミスがあり、性能が10%ほど低く見積もられていた(参考

電池持ちの測定法については、公式のスペック表でも2023年までJEITA 2.0の値が多かったですが、今や負荷が軽すぎてほとんど意味がないと批判され、今年からJEITA 3.0の記載になり、数字だけ見ると持続時間が短くなったようにさえ見えることがあります。海外メーカーはMobileMarkを使用している例もありますが、正直これも軽すぎて比較に使えないというのが私の意見です。第三者レビューも、意味のあるレビューをしているところは少なく、雑誌も記事の締切が短いのか電池持ちの検証までしていないところが大半で、Meteor lakeの良さが伝わるのは相当先になるのではないかと思います。

Core Ultra 7-155Hはi7-1355Uの後継(!)

現在までに発表・発売されているMeteor lake搭載PCは、そのほとんどかCore Ultra 7-155Hか125Hです。末尾が”H”なので、i7-13700H等を搭載していたゲーミングノートがたくさん出ている……と思いきや、モバイルノートのほうが多く出ています。Ultra 7-155H搭載機種の同名前モデルのCPUを調べると、主にi7-1360Pの後継として使われていることが分かります。私がレビューしたSpectre x360 14-euに至ってはi7-1355Uの後継です。

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?
これは熱・電力設計からみても分かります。Ultra 7-155Hは末尾がHですが、前世代の”P”と同じTDP 28 Wで、最大ターボだけが第13世代”H”と同じ設定です。直接レビューしたSpectre x360 14は最大ターボ電力まで64 W設定と、前世代”P”と全く同じ熱設計となっていました。つまり、Ultra 7-155Hは基本的にi7-1360Pの後継CPUだ、ということができるでしょう。

(最小)~推奨~(最大PL1)~最大ターボ
Ultra 7 155H: (20)~28 W~(65)~115 W
Ultra 9 185H: (35)~45 W~(65)~115 W
i7-1355U: (12)~15 W~(–)~55 W
i7-1360P: (20)~28 W~(–)~64 W
i7-13700H: (35)~45 W~(–)~115 W

155Hの前モデルで、”P”を飛び越えて”5U”の後継にすら使われているのは意外に思う方もいるかもしれませんが、第12~13世代の”5U”、”P”、”H”は同じソケットで、”5U”も実質的にはほとんど”P”同然に使われており、Dell Inspiron 13のように”P”と”5U”が選べるモデルすらありました。型番的にもi7-1355UとUltra 7-155Hは55の部分が共通していますから、ある程度後継であることを意識しているでしょう。

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ただ、Ultra 7-155Hも初期設定が前世代”P”並なだけで、最大ターボ電力は”H”並に設定されており、MSI Prestige 16 AI Studio B1VやAORUS 15(外部レビュー・ASCII)のようにi7-13700H以上の性能を出すものもあります。また、最上位のUltra 9-185Hのみは前世代”H”と同じ設定で、据え置きノートでの採用を想定しているでしょう。このことから、前世代のモバイルノート~スタンダードノート向けの”P”から下位ゲーミングノート用の”H”まで幅広くサポートするモデルという位置づけと言えるかと思います。

他のモデルも合わせていえば、Ultra 7-155H(や165H)はi7-1360Pやi7-1355Uの後継で、i7-13700Hの代わりもできないことはない、といった売り方のようです。Ultra 5-125H(や135H)はi5-1340P、i5-1335U、i5-13500Hの後継で、Ultra 9-185Hのみがもっぱら高出力向けのi7-13700H~i9-13900Hの後継、というところでしょう。

セグメント違いゆえの性能差

Ultra 7-155Hは6P+8Eというコア数や末尾のHがi7-13700Hと同じため、しばしば両者の間で比較が行われてきました。公開データベースのPassmarkでは、155Hは23911、13700Hは27525で性能が下がったように見えます。

ただこれは、155Hが前述の通り第13世代末尾”P”の後継として使われているので消費電力が少ないためと考えられます。CinebenchとPassmarkのスコアの比例関係から推測すれば、155Hは平均35W駆動のスコア、13700Hは平均55W駆動のスコアの平均値と考えられます。notebookcheckのデータベース記載の電力設定の平均値でも13700HでPL1=60W、PL2=90Wに対して155HはPL1=45W、PL2=75W程度(未発売の重量機種含む)で、155Hのほうが低い熱設計の機種が多いのが原因でしょう。

Core Ultraの末尾”H”は今後の世代も1 kgを切る軽量ノートから放熱に余裕のある16インチ超級まで広く使われることが予想され、CPUの型番だけでは性能を判断しにくくなり、実機計測を見てから、という時代になるのではないかと思います。

コア特性詳細分析

CPUの特性を詳しく見るため、Ultra 7-155HのPコアとEコアそれぞれのクロックごとの消費電力の測定して電力性能曲線を描き、それを第12世代のCPUと比較しました(第12⁓14世代のクロック当たり性能はほぼ同じです)。

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?

横軸がIAコア電力(対数表示)、縦軸が動作クロック(読み取り値を有効桁数2桁で四捨五入)の片対数グラフ。横軸の対数表示を線形にするとなじみのある曲線になります。

Pコアについては、直線の傾き(対数でない軸なら曲線の形)は第12世代と同じで、どのクロック領域でも電力が4割減る結果となりました。これは、従前から学会などで発表されていたIntel 4のスペック通りの性能と言えます。一方、Eコアは第12世代のそれと異なる傾きを持っており、3.0 GHz以上では効率が高いものの、それ以下では第12世代並みです。

最大クロックもPコアとEコアで異なります。Pコアの最大クロックは155Hで下がっていますが、Eコアの最大クロックは上がり続けています。

Pコア:12700H=4.7 GHz ⭜ 13700H=5.0 GHz ⭝ 155H= 4.8 GHz
Eコア:12700H=3.5 GHz ⭜ 13700H=3.7 GHz ⭜ 155H= 3.8GHz

この原因はわかりませんが、両者を説明する仮説は立てられます。通例、半導体の基礎設計段階において、クロックが高まるが効率の低い回路(高性能セル)と、クロックは低いが効率の高い回路(高密度セル)の両方が用意されます。EコアやZen 4cなど”リトル”側のコアは高効率セルを多く使います(Zen 4cはZen 4と同じ論理設計のまま、物理設計を高密度セル中心にしたものとされます)。

一方、Intel 4には高密度セルが用意されず、同じ製造設備で製造法を改善したIntel 3まで先送りになっているとされます。このため、本来高密度セルを使うはずのEコアも、Meteor lakeでは高性能セルを使わざるを得ず、周波数は高いが効率改善は限定的となったのではないか、というのが私の推測です。

Meteor lakeは私の事前予想の範囲内とはいえその下限値に近い程度の伸びで、Intel 4のスペック通りならもっと伸びると予想していたところからするとすこしがっかりという印象ではあるのですが、その理由もEコアがまだ完成度が低いから、ということで一応説明はつきます。

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?

Intel 7/4、高性能セルと高密度セルのNMOSとPMOSのフィン数を模式的に表した図(データ出典)。多いほど高クロック・低効率になるが、Intel 7→4ではフィンそのものの性能を改善して少ないフィン数でも同等の性能が出せるようにしています。

LP-Eコアは実際どう?

Meteor lakeでは新しく導入されたLP-Eコアが省電力に貢献するという売り文句で紹介されました。最大クロックが2.0 GHzに制限されており、計算能力は期待されていないのは明白で、実際Cinebench R23で同時動作スレッド数を2つ減らしてもスコアは変わらないか若干上がることさえありました。

省電力に貢献しているか試してみると、アイドル時に他のコアを休ませつつLP-Eコアだけが動いているのが見られますが、省電力効果の中心となるリングバスのクロック低減はできていると言えるものではなく、省電力に貢献しているかはちょっと微妙に見えます。

後継のLunar lakeはEコアがリングバスから外れてLP-Eコアを兼ねたような作りになるようですし、Arrow lakeはデスクトップ版はLP-Eコアがないという噂もあり、まだLP-Eコアのベストな仕様は固まっておらず、将来的に改善していくのではないかと思います。

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?

NPU(AIコア)は実際どう?

NPU(AIコア)については、現状対応アプリの数が少なすぎるという一言に尽きます。一応Windows Studio Effectが対応しているためWeb会議では多少使いどころがありますが、電源につなぎっぱなしならCPUで処理しても体感的には変わらないので恩恵を感じにくいところです。

最近はHP GlamCamやTobii /experienceなど視線検出アプリも増えており、論理的にはこれらはNPU化の恩恵を強く受けるはずですが、ログを取っている限り現在のバージョンでは使っていないようです。一応OpenVINOのサンプルを使って自力でアプリを使うことはできますが、する人はめったにいないでしょう。

将来の展望については、私の意見はこちらの記事と同じく、まずOEMメーカーの独自アプリから徐々に対応が進み、Microsoft Copilotのローカル化がキラーアプリになるという見方です。特にOffice向けは企業のデータマネジメントポリシーとの絡みからローカル実行を強く要求するでしょうし、MSの顧客層から考えていつか必ず実装されるでしょう。ただ、MSはMeteor lakeやPhoenixの3倍程度のAI推論能力を要求しているという話があり、エコシステムの完成は次世代・次々世代あたりに持ち越されそうです。

総合評価:初代Core Ultraは買い?

では、初代Core Ultraは買ったほうが良いでしょうか?私の実機レビューの結果から見て、買い替え前に使っていた機種との比較ならば次のように評価できると思います。

⮞ 第11世代以前、Zen2以前からならば、電池持ちや性能が体感できるレベルで改善
⮞ 第12世代やZen3世代からは、故障等の他の買い替え理由があれば納得できる
⮞ 第13世代やZen4世代からわざわざ買い替える意味はない

Core Ultra / Meteor lake、実際のところどうなの?
また、今年発表予定のLunar lakeとArrow lakeはアーキテクチャに大きな手が入って性能が上がるとされています。では、次世代のCPUを待ったほうが得でしょうか?

⮞ 初代Core Ultra (Meteor lake)は事前予想より未完成な状態で世に出てきており、噂によると次世代のArrow lakeも当初想定されていたゴールに対して未完成な部分が多い
⮞ 大改編後の次の世代は、未完成な部分の仕上げができるためか、単なる焼き直しを超えた伸びしろが期待できる。過去実績でも第13世代Raptor lakeは第12世代の焼き直しかと思いきや、半世代分程度の電力効率の改善が見られた

Meteor lakeではIntel 4への変更・タイル化という大改編があり、次のArrow/Lunar世代でもアーキテクチャ(論理設計)面で大きく手が入り製造プロセスも変わるので、私も以前は大改編を待って買ったほうが良いかなと思っていました。自分の過去の記事でも、第12世代ではアーキテクチャ変更+ハイブリッド導入の大改編があり省電力化を期待していた一方で、第13世代は論理設計面で第12世代の焼き直しにすぎず買い替えの価値は低いと見ていました

しかし実績を見ると、大改編初代(12・14)は煮詰め方が足りず性能は確かに伸びているものの事前予想の下限にとどまる一方で、次の世代(13)は焼き直しにとどまらない完成度の向上があって期待以上の伸びが見られました。Core Ultra 第2~5世代あたりも、今まで聞いている噂の限りでは同じように完成度の低い大改編初代→ほぼ同一設計だが完成度を上げて半世代分ほど性能向上、のパターンを踏みそうです。結局、結局どの世代で買ってもそこそこの進歩に落ち着くので、待ったり急いだりしても得なことはなく、必要な時に買えばいいというのが今の私の意見です。

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