今月初めのCES 2023でIntelとAMDが新製品を発表しました。基本的に今回発表された製品が今年の主力になっていきますので、一通り確認していきましょう。今年は、Intel編とAMD編の2本立てにします。
AMD CPUについてはこちらの記事をご覧ください。
2023年のモバイルCPU展望 - AMD編
Intelでは、2023年初春から第13世代”Raptor lake”が本格的に発売されます。第13世代は第12世代”Alder lake”の小改良版という位置づけで、ソケットも第12世代と同じなのでスムーズに新製品が発売されると思います。小改良版とはいえ、改善の手数が多く性能の伸び率の大きいもモデルも存在します。
モバイルノートとスタンダードノート向け(末尾H, P, U)
第13世代Coreの末尾H (HK)、P、Uのモバイルノートやスタンダードノート向けは、第12世代とほぼ同じ設計、ラインナップで、型番も12の部分が13になった以外ほぼ同じです。通称”Intel7+”と呼ばれる小改良されたノードでの製造となり、第12世代に比べ性能が一桁台~最大10%向上します。また細かい新機能として、DisplayPort 2.1、Bluetooth LEAudio(次期無線イヤホン)、WiFiの便利機能などが追加されています。
ただ、噂されていた第13世代専用設計はほとんど投入されず、特別ハイエンドを求めるような人でなければ第13世代を指名買いするほどの違いもない、というのが率直な印象です。例えば1240Pと1340Pの違いだけなら5,000円差でどちらを買うか迷うという程度ですし、12700H(6+8コア)と13600H(4+8コア)が同じ値段なら12700Hを選ぶと思います。
小型の専用ソケットとなる9W版(末尾0U)は第13世代では省略され、第12世代の製品が引き続き出荷されます。全体では採用例が少なかったのでやむなしではありますが、FMV LOOXやXPS 13 2-in-1(9315)など、2-in-1ではそこそこ人気があったと思います。また、第14世代以降で9W版も復活する予定とのことで、一時的な措置のようです。
他は末尾Pが4種類になるなど少し整理される一方、対応メモリがちょっと速かったり遅かったりする微妙な番号違い(13900Hに対する13905Hや1335Uに対する1334U)が追加されていますが、ほとんどのユーザーは気にする必要はないでしょう。
重量級ゲーミングノート向け(末尾HX)
モバイル用第13世代の目玉は末尾HXのCPUです。これらはデスクトップ向けのシリコンをノート用パッケージに収めたもので、重量級(17インチ・3kg・非薄型)のゲーミングノートで独立GPUを合わせて使うことを前提としており、MSI Raider GE68 HX/GE78 HX、Lenovo Legion Pro 770iなどで搭載がアナウンスされています。
こちらは第13世代専用設計のシリコンが使われ、最上位の13950HXでは圧縮解凍や動画処理に必要なマルチスレッド性能が最大1.5倍となり、前世代のデスクトップ上位を超える性能となっています。私自身の計測ですが、13900Kを電力制限してベンチマークを取ったところ、HX定格の55WでもCinebench R23 mTで2万点越え=12700Kや5900Xに匹敵する性能となり、85Wで12900Kや5950Xを超える性能を発揮しました。
基本的にはこのデスクトップ版を低電圧化したものが13900HXになるはずで、シングルスレッド性能もマルチスレッド性能も高いため、持ち運べるゲーム機、持ち出し可能なワークステーションとして使えるでしょう。
ネットブック・タブレット向け(Nシリーズ)
半年前にお伝えしたAtom後継、Eコアのみの”Alder lake-N”が正式発表されました(プレス資料)。Apollo lake~Jasper lakeの時代は組み込み向けベースでPC向けとしては貧弱な印象がありましたが、今回はAlder lakeからPコアを省略したものに近い”PC向け”の仕様で、コア数倍増(上位8下位4)、クロック向上(最大20%)、最新のデスクトップ用Coreと同じ内蔵GPUなど、私の予想以上の強化となりました。処理能力自体は少し古いCPUと同程度ですが、4Kモニタや最新の通信規格が安心して使えるのは強みです。
上位はCore i3ブランドとなり、8コアでクロックも高く、排熱が間に合う限り15WのN305ならば第10世代のノート向けに近い性能で、デスクトップのi5-8400やi3-10100並です。Surface Go 3の10100Yと比べると、7WのN300で1ランク上、15WのN305で2ランク上というところでしょう。Coreブランドとなったのは、第12世代はi3の出物の数が少ないこと、9W専用パッケージが第13世代では省略されたことから、その補強を兼ねているのだと推測します。ただし価格設定もi3水準で、大手メーカー品に搭載されるならSurface Goの上位モデルに相当する9万円台か、安くてもChromebookや深圳メーカー製で6万円前後からではないかと思います。
下位ではPentium/Celeronブランド廃止に伴い、4コアのPentium Silver後継がIntel Processor N200に、Celeron N4100/N5100後継がN100、N5095後継でN97がラインナップされています。Crossmark(PCMarkに似た「ネットとオフィス」ベンチマーク)では、N100はN5100の1.4倍、N4100の2倍のスコアで、第7世代の15WのCore i7に匹敵する実用性です。IntelのカタログではGemini lakeの初期価格の3,000円増し程度になっており、Gemini lakeやJasper lakeと同じような製品に搭載されると思います。CES2023ではさっそくASUSからN200/N100搭載のミニPC”PN42″が発表されましたが、N97などを使った深圳メーカー製の安価なミニPCが登場するのは夏ごろになるのではないかと思います。
この他に2コアのN50もありますが流通量は定かではなく、2コア製品は主に組み込み向けのAtom Xシリーズに回されるのではないかと思います。
第14世代はいつ出るか?
今年のIntelのモバイルCPUの動向を予測する場合、むしろ第14世代Meteor lakeがいつ出るかのほうが大きな問題かもしれません。Intelの1年前の発表ではMeteor lakeは2023年発売(以前からの噂では夏ごろ)、昨年夏の時点でも「スケジュール通り」という発表となっていました。最近になって「デスクトップ版Meteor lakeは出ない」「2023年夏にRaptor lake Refreshが出る」等といった噂が出ています。
Meteor lakeは次世代製造ノードIntel4を使用しますが、Intelは次世代ノードに必要なEUV露光装置の保有数が少ないためか、Intel4の量産工場は現在アイルランドのFab34の一か所が調整中のみで、今年発売の製品に間に合いそうなのはそれだけです。現世代向けのIntel7が5か所で量産中なのと比べるとずいぶん少なく、Meteor lakeはモバイル向けのみとか、プレミアム帯のみと言われてきたのですが、どうやらモバイル向けのみとなりそうです。
おそらくですが、Raptor lake Refreshが出る夏以降、年末商戦時には最終製品が潤沢に出回っているようなタイミングでMeteor lakeも投入されるのではないか、と予想しています。
Intelは2024年に数多くのEUV露光装置の納品を受ける予定となっており、それに合わせて次々世代のIntel20Aの製造工場が建設中で、デスクトップ向けは第15世代Arrow lakeが次の節目になりそうです。また、2~3年後にはまた大きな変更があるとも言われているので、Meteor lakeを待たずに今出ている第12世代を買っても、それほど損をした気分にはならないでしょう。