「Lenovo IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9」の実機レビューです。14型のコンバーチブル2 in 1 PCで、CPUにSnapdragon Xを搭載するCopilot+ PCです。ウインタブでは以前からこの製品に注目していました。その理由として「Copilot+ PCである、というだけでなく、有機ELパネルを採用したディスプレイやスタイラスペンが付属するなど、2 in 1パソコンとしても充実したシステム構成であるにもかかわらず、価格が非常に安い」というのがあります。
もともと「レノボのIdeaPad」は非常にコストパフォーマンスが高い製品ラインですが、かつては「安いぶん、筐体の質感やディスプレイの発色がイマイチ」なものも見受けられました。しかし、このIdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9に関しては「なぜ割安なのかわからない」ような、素晴らしい品質の製品でした。
なお、このレビューはメーカーよりレビュー機をお借りして実施しています。
・多彩な形態で使えるコンバーチブル2 in 1筐体
・発色品質の高い有機ELディスプレイ
・筆圧対応のペン入力ができる(ペンも付属)
・金属製でしっかりした筐体
・コストパフォーマンスは抜群!
ここがイマイチ
・ARM版Windowsなので、アプリの互換性に不安あり
・オンデバイスAIは今のところ使い道が限られる
・重量1.5 kgと、モバイル利用には微妙に重い
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IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9:Lenovo
目次
1.製品概要
スペック表
IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9 |
|
OS | Windows 11 Home/Pro |
CPU | Qualcomm Snapdragon X Plus X1P-42-100 |
外部GPU | なし |
RAM | 16GB(LPDDR5X-8448MHz, オンボード) |
ストレージ | 512GB/1TB SSD(M.2 2242 PCIe-NVMe Gen4 TLC) |
光学ドライブ | なし |
ディスプレイ | 14インチOLED(1,920 x 1,200)タッチ |
ネットワーク | Wi-Fi 7 (be/ax/ac/a/b/g/n)、Bluetooth 5.3 |
入出力 | USB3.2 Gen2 Type-C(映像出力、PD対応)× 2、USB3.2 Gen1 Type-A × 2、HDMI、オーディオジャック、microSDカードリーダー |
カメラ | Webカメラ(1080p) |
バッテリー | 57Whr(動画再生 約14.1 時間) |
サイズ | 313 x 227 x 17.5 mm(最薄部) |
重量 | 1.5 kg |
コメント
IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9はCPUにSnapdragon X Plus X1P-42-100を搭載するCopilot+ PCです。このCPUはSnapdragon Xシリーズの中では下位に位置しますが、AI処理チップNPUの性能は最大45TOPSと上位型番と同じです。NPU性能は「オンデバイスAI処理(クラウドではなく、ローカルPCの中で各種AI処理を行うこと)」で威力を発揮しますが、2024年12月現在だとオンデバイスAIを活用できるソフトウェアがほとんどありませんので、このレビューでも「いつものPC作業」での使用感をメインにお伝えすることになります。
IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9の特徴はCPUだけではありません。タブレットモードやテントモード、スタンドモードなど、クラムシェルノート(普通のノートPC)では不可能な形態で使用できるコンバーチブル2 in 1筐体を備え、ディスプレイはタッチ対応の有機ELパネルを採用し、筆圧対応のペン入力もできる(ペンも付属します)など、比較的手頃な価格で購入できる製品としては装備も充実しています。
では、外観から見ていきましょう。
2.外観
ACアダプター
ACアダプターはノートPC用らしく小ぶりですが、重量は電源ケーブル込みで291 gとやや重いです。
天板と底面
天板です。筐体素材は金属製で「Al陽極酸化スタンピング」という説明がありましたので、「アルマイト加工が施されたアルミ」です。筐体色は「ルナグレー」というやや色の濃いグレーで、パソコンの色としてはオーソドックスだと思います。
底面です。中央上部に通気口がありますが、スピーカーやメンテナンス用の開口部はありません。
側面
前面と背面です。ポート類やボタン類はなく、背面に通気口(排気口)があるのみ。
右側面には画像左から電源ボタン、microSDカードリーダー、USB3.2 Gen1 Type-Aポート×2があります。
左側面です。画像左からHDMIポート、USB3.2 Gen2 Type-Cポート×2、イヤホンジャックです。電源ボタンが側面にあるというのが2 in 1 PCらしいところ。ポートの数は充実していると思います。
ディスプレイ
ディスプレイは14インチで解像度は1,920 × 1,200、アスペクト比(画面の縦横比)は16:10です。有機ELパネルを搭載しており、発色は素晴らしいです。メーカー開示だと「HDR500、100%DCI-P3」になっていますので、きれいなのは当たり前ですね。また、このディスプレイはタッチ対応し、グレア(光沢)タイプなので、それも発色の美しさに寄与していると思います。輝度も400nitと高いですが、やはりグレアタイプの恩恵か、体感的にはかなり明るく感じます。私は実機レビューの際にディスプレイ輝度を70%に設定することが多いですが、この製品の場合は50%くらいでも十分明るく感じますね。この価格帯(11万円~12万円台)の製品としては文句なしの品質だと思います。
ただし、グレアタイプのディスプレイは映り込みが激しいので、特にモバイル利用の場合は設置場所をよく考える必要があります(例えば窓を背にして設置すると映り込みがかなり気になります)。
キーボード
キーボードです。「84キー(Fnキー+Windowsキー+Copilotキーを含む)、JIS 配列、バックライト・キーボード、マルチタッチパッド、パワーボタン」と開示されており、キーピッチは手採寸で約19 mm、キーストロークはやや浅めに感じられました。打鍵感は良好です。また、バックライトも搭載しており、手動で2段階の明るさにできるほか、AUTO(輝度自動調整)にすることもできます。
IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9のスピーカーはキーボード面の両サイドにあります。最近はこのようなスピーカー配置のノートPCが増えていますが、底面にスピーカーがある製品よりも音質はいいです。これは、細かく説明するまでもなく、直感的にご理解いただけるのではないでしょうか。
実際に音楽を聴いてみると、音質はクリアでステレオ感もしっかり出ています。個人的には低音が効いているほうが好きなのですが、低音はちょっと弱め、逆に高音がやや強めに感じられます。
音響アプリはDolby Accessです。このアプリにはイコライザーもありますので、お好みに合わせて音質の調整が可能です。Dolby Accessがあることを加味すると、音楽用としても悪くはない、ノートPC用としては高品質なスピーカーだと思います。
コンバーチブル
IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9はコンバーチブル2 in 1筐体なので、テントモードやスタンドモード、タブレットモードにして使うことができます。テントモードにして外付けキーボードを使ったり、スタンドモードで動画を視聴したり、タブレットモードでペン入力をしたりと、クラムシェルノートには真似のできない、多彩な使い方ができます。
特にPCでイラストやマンガなどを描く場合、タブレットモードは「必須」ですね。私はPCで絵を描く趣味はありませんが、クラムシェルノートで画面にペン入力する場合は「ディスプレイ面が全く安定しない」ので、まともに絵を描くことはできません。
ペン
付属のスタイラスペンです(カスタマイズ対応モデルでは「レスオプション(ペンを付属させない)」も可能です。」
握るとこんな感じ、一般的なボールペンやシャープペンシルなどと同じようなサイズ感です。
すみません、私はPCで絵を描く趣味がなく、このペンの品質をしっかり評価する能力もありませんが、4,096段階の筆圧と傾き検知に対応し、少し落書きをしたり線を引いたりしてみた感じ、描き味も非常に良かったので、イラストやマンガの制作にも使えるんじゃないかな、と思いました。このペンが基本「付属品」であることを考慮すれば「アタリ」と言っていいでしょう。
4.AI機能など
Webミーティング
Webミーティングに使うカメラやマイクに関してはAIが駆使されています。マイクに関しては必ずしもCopilot+ PCだけでなく、比較的上位クラスのノートPCであればほとんどのメーカーの製品がAIノイズキャンセリングに対応しています。
一方、IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9はCopilot+ PCの機能である「Windowsスタジオエフェクト」が搭載されており、この画像にあるように「アイコンタクト」や「クリエイティブフィルター」といった機能が使えます。
ということで、ライターのかのあゆさんとSkypeでWebミーティングをやってみました(私とかのあゆさんは日頃Skypeを使っていて、Skypeに慣れているというのが理由です)。また、私もかのあゆさんも自分の顔を晒すことに抵抗はありませんが、必ずしも読者の方々の審美眼に合わないと思われますのでボカシを入れています。
で、AIノイズキャンセリングについては「優秀」です。自分の声以外の騒音をほぼ完全にカットしてくれますので、自宅でのリモートワーク中や屋外(移動中)でのWebミーティングでは威力を発揮すると思います。
一方で「Windowsスタジオエフェクト」は「面白いことは面白い」んですが、IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9だと少しパワー不足かな、という挙動もありました。スタジオエフェクトのクリエイティブフィルターで私の顔をアニメ調にしたところ、「シワも取れていい感じ」になったのですが、画面が少しカクついたり、プチフリーズしました。考えられる理由として「たまたま回線速度が遅かった」「メモリが足りない」「CPU(NPU)のパワー不足」という点が想定されます。
回線のせいであればIdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9になんの罪もありませんし、ウインタブではまだWindowsスタジオエフェクトのテスト経験が浅いので、このレビューでは原因の特定はできません。すみません。ただ、少しカクつくというのは実用性を大きく阻害するようなものとも思えず、概ね楽しく使えるんじゃないかと思います。
Cocreator
Copilot+ PCに実装されているオンデバイスAI機能「ペイントアプリのCocreator」も試してみました。今回はいらすとやさんの画像を使わせてもらっています。
Cocreatorでは自分で描いた絵(今回はいらすとやさんのイラスト)に「作成する画像の説明」を入力し、「スタイル」を指定(今回は「アニメ」)、「創造性」のバーを動かして絵を変えていきます。
試した結果がこれ。「厳しい」ですよね、これ…。いろいろ試して「コツ」のようなものをつかめればもう少しマシに使えるかもしれませんが、今のところCocreatorの機能は高く評価することはできないです。
Windows on ARM
最後に、AIとは別な話になりますが、ARM版Windowsと普段使いのアプリの互換性について簡単に触れます。結論から言うと、私の普段使いのアプリで動かなかったのは「Google日本語入力」でした。以前試したときには「インストールすらできなかった」のですが、IdeaPad 5x Gen 9のレビュー時には「インストールはできたが不具合が多く(まともに感じ変換できないなど)使い物にならなかった」と、一定の進歩はしていましたw
あと、フリーの画像加工ソフト「GIMP」では、アプリ起動時にこのような「エラーのようなもの」が表示されましたが、特に問題なく使えました。
普段お使いのアプリがMicrosoft製のもの(Officeなど)とかAdobeのような大手メーカーのメジャーなアプリであればARM版Windowsであってもほぼすべて使えると思います。一方で、フリーソフトなどあんまりメジャーではないアプリやPCゲームなどでは動かないものもそれなりにはあるでしょう。Google日本語入力なんて「十分メジャーだよね」と思うんですけど、それでも動きませんでしたし。なので、ARM版Windows機(というかSnapdragon X搭載機)の購入を検討される際に、心配であればWebで情報収集するとか、アプリの製造元に聞いてみる、といった確認はしておくほうがいいでしょうね。
5.性能テスト
ベンチマークテスト
今回は「ARM版Windowsネイティブ」であることがはっきりしているCINEBENCH 2024で測定しました。また、Crystal Disk Markも測定しています。
参考(過去データから一部抜粋):
Core i7-14700:122、1,177
Core i9-13900H:117、687
Ryzen AI 9 HX 370:110、942
Snapdragon X Elite:108、1,038
Ryzen 9 8945HS:108、958
Ryzen 7 8845HS:106、956
Ryzen 9 7940HS:106、914
Core Ultra 7 155H: 105、964
Core Ultra 7 155U:101、533
Ryzen 5 8645HS:98、585
Core Ultra 5 125U:95,533
Core Ultra 5 125H:95、516
Ryzen 9 PRO 6950H:93、774
Ryzen 7 PRO 6850H:91、765
Ryzen 7 5825U:85、590
Ryzen 3 5425U:78、365
※左からシングルコア、マルチコアのスコア
シングルコア、マルチコアとも高いスコアが出ました。特にシングルコアではCore Ultra 7 155HやRyzen 7 8845HSシリーズといったx64の上位型番を凌ぐスコアになっています。マルチコアのスコアも決して悪くはありませんが、上位型番であるSnapdragon X Eliteには水を開けられ、Core Ultra 7 155HやRyzen 7 8845HSには及びませんでした。
ただし、Core UltraのU型番であるとか、Ryzen 5シリーズとの比較ではマルチコアでも優位に立っており、Snapdragon X Plusは十分に高性能であると評価できます。
SSDの読み書き速度を測定するCrystal Disk Markのスコアです。PCIe4.0 ×4接続のSSDとしては標準的くらいかな、と思いますが、普段使いでは「超高速」と言っていい水準です。
バッテリー駆動時間
ディスプレイ輝度を70%、音量を30%、Windowsの電源モードを「最適な電力効率」、設定アプリLenovo Vantageのモードを「自動・共通」に設定し、下記の作業をしてみました。
・ブラウザーでWebサイト閲覧を約30分
・画像加工ソフトGIMPで簡単な画像加工を約30分
・テキストエディタでテキスト入力を約45分
・ブラウザー上でYouTubeの動画・音楽鑑賞を約20分
・SkypeでWebミーティングを約50分
上記トータルで約175分使用し、バッテリー消費は23%でした。単純計算だと1時間あたり約7.9%のバッテリー消費、バッテリー駆動時間は12時間30分強となります。
メーカー公称値は「動画再生14.1時間(JEITA3.0)」なので、個人的には「結構いい線行ってる」と思います。これなら終日バッテリー駆動で作業ができそうですね。
発熱とファン音
発熱、ファン音とも全く問題ありません、以上。…あ、いや、本当に指摘するようなことがないんです。ベンチマークテスト中にファン音は聞こえますが、音量は小さくて耳障りということはないと思いますし、発熱に関しても高負荷時にキーボード面の上部に多少熱を感じますが、ほとんど気になりません。
6.レビューまとめ
Lenovo IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9はレノボ直販サイトで販売中で、12月3日現在の価格は117,394円です。
Copilot+ PCだから…、Snapdragon X搭載機だから…、ということでなく、「普通にWindowsのコンバーチブル2 in 1 PC」として見る場合、筐体品質、性能、ディスプレイの品質などは「非常にハイコスパ」だと思います。ExcelやWordなどのOffice系のソフトを使っての事務作業、動画視聴、Web閲覧、SNS、またペン入力と、一通りのことはごく快適にこなせます。有機ELディスプレイの発色品質も素晴らしいと感じました。
一方で個人的には「現段階のソフトウェアのオンデバイスAI対応状況(=対応するアプリがほとんどない)」からみて、Snapdragon X搭載機を選ぶ必然性が感じられませんし、Copilot+ PCでなくてはならないという必然性も感じられません。特にSnapdragon X搭載機、すなわちARM版Windows搭載機の場合、動作しないアプリも散見されますし、PCゲームの多くがエミュレート動作になるか、もしくは動作しないと思われますので、ベンチマークスコアに見合うパフォーマンスを体感できる場面は限定的となります。なので、「個人的には」と前置きさせていただいたうえで「ARMネイティブのアプリをもっぱら使うという人以外でSnapdragon X搭載機に20万円以上支払うのはいかがなものか」と考えます。
ただし、IdeaPad 5x Gen 9に関しては「この価格である」という点において、ARMであるかx64であるかにこだわらず、購入する価値は大きいと思います。繰り返しになりますが、ディスプレイ品質や筐体品質を考えれば激安レベルと言って良い製品だと思うので。
7.関連リンク
IdeaPad 5x 2-in-1 Gen 9:Lenovo
2014年、低価格な8インチWindowsタブレットに触発されサイト開設。企業でユーザー側代表としてシステム開発や管理に携わっていました。「普通の人」の目線で難しい表現を使わず、様々なガジェットを誰にでもわかりやすく紹介・レビューします。