こんにちは、近郊ラピッドです。今回もよろしくお願いいたします。今回は推測が多くなっておりますので、あらかじめご了承ください。今年の2月よりアメリカ・カナダ・EU・イギリスで「Steam Deck」がいよいよ出荷開始となります。今回の記事ではSteam Deckに搭載されているAPU(CPUとGPUを統合した製品)と、普通のノートパソコンに搭載されているRyzen APUのスペックを比較し、Steam Deckにどれぐらいの性能が期待できそうかを考察します。
1.Steam Deckについて
ウインタブにもかのあゆさんによるSteam Deckの記事があるので既にご存じの方が多いとは思いますが、Steam Deckの簡単な説明を致します。
Steam DeckはPCゲームを携帯して遊ぶことができる小型端末です。中身はPCなのに携帯ゲーム機の様な姿をしています。7インチ液晶や内蔵コントローラーを搭載していて、Steamのゲームを遊ぶことができます。OSはWindowsではなく、LinuxベースのSteamOSとなっていますが互換機能によって多くのPC向けゲームがプレイできるように設計されています。
ちなみに、Steam Deckは主にゲームで遊ぶための端末ですが、公式サイトの仕様を見ると、LinuxのKDEデスクトップ環境が搭載されているようです。またSteam Deckは外部ディスプレイが接続可能となっています。Linuxのデスクトップ環境にわざわざ言及している点からすると、Steam Deckは外部ディスプレイに接続すれば普通のPCとしても使えるようです。小さな液晶付きのミニPCといった感じでしょうか。
Windowsもインストールできるそうですが、デバイスドライバなどが供給されるのかはまだ不明です。普段あまりゲームをしない方でも、ミニPCとして使えるならば気になるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このSteam Deckですが、AMDのカスタムAPUを搭載しています。これは既存のRyzen APUとは異なるAPUとなっており、型番なども特に公開されていません。そこで、今回は公開されているスペック情報を基にカスタムAPU(この記事ではSteam Deck APUと表記することとします)と既存のモバイル向け Ryzen APUの性能を比較し、Steam Deckがどの程度の性能を持っているかを検討したいと思います。ゲーム機として、そしてPCとしてどの程度の性能があるでしょうか。
2.CPU部分の比較
Steam Deck APUとRyzen 3 5300Uを比較してみました。表からも分かりますが、Steam Deck APUはRyzen 3 5300Uに近い処理性能を持っています。具体的な違いですが、最大クロックはRyzen 3 5300Uの方が0.3GHz高い一方で、対応メモリ規格がSteam Deckの方がLPDDR5とより高性能な規格になっています。
(出典:Passmark)
参考までにRyzen 3 5300UのPassMarkベンチマーク結果を載せておきます。
性能の考察
Steam Deck APUはZen2アーキテクチャーで、最大3.5GHzなので、シングルコア性能という観点ではTiger LakeやZen3アーキテクチャー搭載のモバイルCPUとはある程度の差はあります。Core i7-1165G7やRyzen 7 5800Uなどとは大分差があるとはいえ決して低いわけでは無く、特に問題はないでしょう。
マルチコア性能はRyzen 3 5300Uに比較的近い水準になると思われます。5300Uは現時点でPassMarkの平均スコアが10000を超えており、モバイル向けとしては十分なマルチコア性能を持っています。そのことを考えると、Steam Deck APUは携帯ゲーム機としては非常に高いマルチコア性能を持っていると言えるのではないでしょうか。余程高負荷なゲームは別ですが、多くのPCゲームを遊ぶのに十分な処理性能を持っていると言えます。またモバイルPCとしても十分な性能を持っています。
また対応メモリ規格がLPDDR5と高速な規格が採用されているため、メモリ帯域が重要な場面ではRyzen 3 5300Uよりも高い性能を発揮する可能性があります。
まとめると、Steam Deck APUはシングルコア性能はそれなりの一方で、マルチコア性能は平均的なモバイルノート並みの水準となっているため十分な性能を持っていると言えます。Steam Deckは主にゲーム用途向けですが外部ディスプレイを接続してPCとして使う場合でも、ある程度のクリエイティブ作業に対応できそうなCPU性能となっています。
3.GPU部分の比較
Steam Deck APUとRyzen 7 5800U、そして最近発表されたRyzen 7 6800U、Ryzen 5 6600Uを比較してみました。Ryzen 6000シリーズではGPUのアーキテクチャーがVegaからRDNA2に刷新されて性能が大幅に向上していますが、Steam Deck APUも同じくRDNA2アーキテクチャーを採用しています。
性能の考察
Steam Deck APUのグラフィックス性能ですが、Ryzen 7 5800UとCU(GPUコア)数が同じになっています。しかしアーキテクチャーがRDNA2に刷新され、高速なメモリ規格に対応しているため、クロックの差を考慮してもSteam Deckの方が高いグラフィックス性能を発揮するものと思われます。またRyzen 5 6600Uが6CUなのに対しSteam Deckは8CUとなっていることからすると、Ryzen 5 6600Uと同等以上の性能になっていると思われます。
一方でRyzen 7 6800Uは12CUとなっているため、Steam Deckの性能は6800Uよりは大分低い水準に留まります。6800Uのグラフィックス性能はGTX 1650 Max-Q並みという噂がありますが、Steam Deckはそれよりは明確に下のランクの性能になるでしょう(完全に憶測ですがMX350~MX450ぐらいでしょうか)。
以上の点を踏まえると、Steam Deckのグラフィックス性能はRyzen 7 6800Uには劣るものの従来のRyzen APUよりは高い水準となっており、720p解像度ならば多くのゲームが十分な速度で動作する性能になっていると思われます。PCとして使う場合でも、軽いクリエイティブ作業にもある程度対応できるでしょう(ただし、Steam Deckのデスクトップ環境やWindows環境がGPU支援に対応しているならばの話です)。
4.おわりに
上記の考察をまとめると、Steam DeckのカスタムAPUは、Ryzen 3 5300Uに近い水準の処理性能を持ち、グラフィックス性能はRyzen 7 5800Uよりも高い水準を期待できるということになります。
Steam Deckはこのように高い性能のAPUを搭載していますが、メモリはLPDDR5規格で16GB搭載、ストレージも中位モデル以上はNVMe SSD搭載となっており、システム全体がモバイルPCとしても高い水準の性能になっています。
この高性能さを考えると、Steam Deckが多くの720p解像度のゲームを快適に遊ぶことができるとされているのも不思議ではありません。この性能ならば普通にPCとしても問題なく使えそうです。外部ディスプレイに接続するならば液晶付きミニPCとしても使用可能です。デバイスドライバさえ提供されればWindows 11ミニPCとしても快適に使えると思います。
高い水準の性能にも拘らずSteam Deckの価格はかなり安価に設定されています(256GB SSDの中位モデルで$529)。この価格でこれほどの性能のAPUが搭載されているのは驚きです。実際の性能がどうなるのかが楽しみです。