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Intelの予告済み次世代CPU、Arrow lake & Panther lakeの概観

Arrow lake & Panther lakeの概観
Intelは9月初めに新CPUのLunar lakeを発表し24日に解禁となりました。Intelは第12世代以来Intel 7/Golden Cove/Gracemontの派生が続いてきましたが、Lunar lakeは製造プロセスがTSMC N3B系が中心になり、コアのアーキテクチャもLion Cove/Skymont系列に刷新され、大きな変化があります。

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Lunar lakeが属するCore Ultra 200シリーズは、デスクトップ用および大型ノート用シリーズをコードネーム”Arrow lake”が担当し、これもLion Cove/Skymontを使用するとされます。今回はこのArrow lakeを中心に見ていきますが、Lunar lakeおよびPanther lakeとは複雑に絡み合っており、Panther lakeについても合わせて説明します。

Arrow lake & Panther lakeの概観

Computex 2024内Intel Tech Tourで提示されたIntel CPUのロードマップ

Arrow lake

Arrow lakeは従前からMeteor lakeの後継として予告されていたCPUで、Core Ultra 200シリーズのうちデスクトップ用のArrow lake-S(10月後半発売見込み)と大型ノート向けのArrow lake-H/HX(2025年初頭?)を担う製品です。

Arrow lakeは基本的に前世代Meteor lakeのCPUタイルだけを最新のものに差し替えたもので、SoCタイル等はMeteor lakeの使いまわしと考えられています(公式のドキュメントで対応命令セットが異なる06_C5HがありLion CoveとLP-Eコア用のCrestmontの共通項になっているほか、Intel innovation 2023ではMeteor lakeと同じ絵が使用されています)。デスクトップ版についてももともとMeteor lakeで発売する予定はあり、設計済みのSoCタイルがあったと考えられています。

ただ、SoCタイルがそのままであるとすると、NPUも従来のままになりCopilot+PCに対応しないと考えられます。過去に出た噂の中にはSoCタイルを急遽置き換えたものが出るといったものがあるため、どんでん返しがある可能性もありますが、今のところ過大に期待しないほうがよいでしょう。

CPU性能

パソコンの用途のほとんどに影響するシングルスレッド性能については、Computex 2024でクロック当たり性能(IPC)+14%程度と説明されています。Arrow lake世代では普及価格帯製品の最大クロックは据え置きで、IPCの向上を反映してシングル性能は前世代から10%超の伸びになるでしょう。オーバークロック(OC)対応の最上位機種のみ最大クロックが前世代よりやや下がるため、こちらでは性能は微増程度にとどまるでしょう。

マルチスレッド性能については「TDP無制限時の最大クロックが伸びないものの低電力での電力効率は上がる」という関係になります。このため、低めの電力で動作する無印デスクトップやノート用では、特にターボ終了後の時間帯で30%超の大幅な性能向上が期待できる一方、OC対応の最上位機種では最大クロックの低さが足かせとなって微増にとどまるでしょう。

各コアを見ると、EコアのIPCが前世代比1.5倍と大幅に伸びた(IPCだけ見ると前世代のPコア並)となる一方、Pコアはハイパースレッディング(HT)が削除されクロック当たりマルチ性能が微減となるため、トータルのマルチスレッドIPCは微増程度に留まるでしょう。Eコアの性能向上とHTの削除は、「重い処理が運悪く遅いコアに配置されてしまう」という事故の回避につながるため、Cinebenchなどの最大性能ベンチでは数字に出ない、PCMarkで測る類の体感性能の向上につながります。

GPU性能

内蔵GPU性能については、ノート用のArrow lake-Hは基本的にMeteor lake-Hの流用であり性能は据え置きと見られています。デスクトップ用のArrow lake-Sについては、置き換え元のRaptorlakeに比べて一定の性能アップがあると見込まれていますが、いずれにしてもゲームを快適に遊べるほどにはならず、作業用に留まるでしょう。

またこの世代からタイル化で内蔵GPUを独立に扱えるようになったため、前世代までは内蔵GPU無効版(末尾F)は偶発的に発生したものを出荷していたものが、今世代からは需要に応じてGPUタイルをダミーシリコンに置き換えた低価格版を意図的に生産できるようになるので、少し価格付けのバランスが変わるかもしれません。

デスクトップ版Arrow lake-Sの概観と予想

デスクトップ版Arrow lake-Sは10月後半の発売予定とされます。マザーボードは第12~14世代と互換性がなくなり、新たにUltra第2~3世代向けのものに変わり、DDR5専用となります。

最大クロックは上位機種が最大5.7 GHz、中位機種が最大5.2 GHz程度と見られ、Cinebench 2024のシングルスレッド性能は計測誤差込みの概算で125~140点となり、Ryzen 9000シリーズ(デスクトップ用)やM3と同程度になるでしょう。その他は中位が5.2 GHz前後、下位が5.0GHz前後と予想され、ベンチマーク概算値は115~125点でM2やHX370に近いスコアになるでしょう。いずれも前世代を10~15%程度上回ります。

マルチスレッド性能については、リークされた周波数設定(発売直前のリークはマザーボードメーカー経由が多く信憑性が高い)を見ると、全コアターボ時の最大周波数は前世代と同程度から1割増にとどまり、末尾KのSKUはRyzen 9000シリーズの対抗製品と同程度になると思われます。

一方ベース周波数(14世代の設定ではK版65W時、無印35W時)は前世代の3割増の数字になっており、低電力帯では大きな性能向上が見られるでしょう。リークされたTDP設定では「baseline (defdault) profile」「performance profile」の2つが用意されるようになっていますが、いずれも第14世代に比べ低めの値となっており、こちらからも低消費電力帯での性能向上を推察できます。各社のベンチマークではゲーム中の消費電力を取る例がありますが、こちらは特に中位モデルや無印モデルで大幅な低減を期待でき、低発熱で知られる7800X3Dと同等かそれ以下になるケースも見られると予想します。

Arrow lake & Panther lakeの概観

Raptor lake-S→Arrow lake-S(リーク)でのベース周波数とターボ最大周波数の変化を示すプロット。ベース周波数では伸びが大きいが最大周波数では小さく、全体的に低電力寄りの特性になったことを示す(クリックで拡大します)

Arrow lake & Panther lakeの概観

Raptor lake-S→Arrow lake-S(リーク)でのTDPの変化を示すスライド。baseline(defdault)profile」「performance profile」の両方を示す。

ノート版Arrow lake-Hの概観と予想

ノート用末尾Hのシングルスレッド性能については、最大クロックが上位が5.2 GHz、中位が5.0GHz前後と予想され、ベンチマーク概算値はCinebench 2024 STで115~125点と、M2やHX 370に近いスコアになるでしょう。いずれも前世代を10~15%程度上回ります。

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マルチスレッド性能については、デスクトップ版におけるベース周波数設定がノート用のTDPに合致するためそれを当てはめると、Arrow lake-HはMeteor lake-Hに対して同電力性能が1.3倍ほど、35W時にCinebench 2024 MTで1000前後になると推定され、概ねHX 370・Snapdragon X Elite・M3 Proの対抗馬として設定されるでしょう。Arrow lake-HXもRaptor lake-HXに対して同電力性能1.3~1.5倍となり、65WでCB24MTスコアが1500を超える程度と予想され、M3 Maxの対抗馬として設定されるでしょう。 M3ファミリーはLunar lake/Arrow lakeと同じくN3Bで製造されており、同じプロセスで同じ程度の性能を達成したと見ることもできます。

性能についてはともかく、Arrow lake-Hは市場における立ち位置のほうが問題と考えられます。特にCopilot+PC認証がないと思われる(認証を受けられるようSoCタイルを作り直すと遅れる)ため(消費者はともかく)宣伝文句が欲しいメーカーからは敬遠されやすいでしょう。ビジネスノート向けではすでにLunar lakeが幅広く採用されており、Dell XPS 13やLenovo Yoga Slim 7i Gen 9のほか、MSI Prestige、ASUS Zenbook、Acer Swift など前モデルはMeteor lake-Hの155Hを採用していた機種がLunar lakeに鞍替えしています。ビジネスPCでCopilot+PC対応を後から取り下げてArrow lake-Hを採用する可能性は考えにくく、Copilot+PC対応にこぎつけたとしても流れができてしまっており採用機種はだいぶ減ると思われます。

Lunar lakeはGPUチップ増設用のPCIeレーンを持たないため、ゲーミングノートはArrow lake-HかArrow lake-HXになります。Arrow lake世代は比較的低電力でも性能が落ちないため、Arrow lake-HXが薄型ノートでも採用されてArrow lake-Hの採用例が減る可能性もあり、Arrow lake-Hの立地の薄さが気になるところです。

Arrow lake & Panther lakeの概観

Arrow lake-H/HXのベース周波数からの予想性能。概ねArrow lake-HがM3 Pro、Arrow lake-HXがM3 Max程度になると推定される。

ノート用小型版Arrow lake-Uの概観と予想

このほか、Arrow lake-Uと呼ばれる、2P+8EコアでMeteor lake-Uの後継モデルも存在が取り沙汰されています。ただし末尾Uに相当するセグメントではすでにLunar lakeが出てしまっており、いまさらTSMCで2P+8Eタイルを生産してもメリットがあるとは考えにくいのも事実です。

これについては「Intel 4で製造されているMeteor lake-UをIntel 3で作り直したバージョンである」という噂があります。Meteor lakeに使われているRedwood CoveとCrestmontはXeon 6シリーズのためにIntel 3に移植済みで設計生産は容易でしょうし、現在でもRaptor lake Refresh(150U等)が提供されてますから、Meteor lakeの更新版が販売されることは不思議ではありません。

ただ、Arrow lakeではLion CoveとSkymontという新アーキテクチャが採用されており、クロックあたり性能などが異なりますので、噂通りであるなら混乱を招くようなコードネームは避けてほしいところです(ウルトラCでCopilot+PC対応のSoCタイルに差し替えるというのなら分からなくはないですが……)。

私が行ったMeteor lakeの実機レビューでは特にEコアが低消費電力時の特性が悪いという結果になりました。当時この原因をIntel 4に高密度低電力セルが存在しないためと予想していましたが、Intel 3の高密度セルはIntel 4に比べ同電力クロックが18%向上、同クロック電力が40%減少すると学会で報告されているため、Intel 3版に仕立て直すことで特に低TDPのノートで性能が改善する可能性があります。Xeon 6766EやXeon 6980Pの仕様からもそれは推察され、消費電力15W時で15±10%程度の性能向上があり得ると予想しています。

Arrow lake & Panther lakeの概観

Intel 3化で最大18%の同電力性能向上があることを示すスライド。
Hafez, W., et al. “An Intel 3 Advanced FinFET Platform Technology for High Performance Computing and SOC Product Applications.” 2024 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits (VLSI Technology and Circuits). IEEE, 2024.

Core Ultra 300シリーズ?のPanther lake

Panther lakeは昨年9月のIntel Innovation 2023で存在が公表されたCPUで、Core Ultra 300シリーズとして市場に投入されると見られています。現在までに出ているいくつかの噂を総合すると、基本的にはLunar lakeを大型化してArrow lake-Hの領域までカバーし、Arrow lake-Hと同程度のCPU性能を達成しつつ、同時にCopilot+PC対応のNPU性能や、Lunar lake由来の省電力機能を持つ製品であると見られます。主要部分はIntel 18Aで内製化の予定で、サンプルはすでにOSが起動しメモリコントローラーが目標性能を達成しているとされ、来年後半に発売と見られています。

この製品は、(1)Arrow lake-H(の少なくとも初期計画)では対応できないCopilot+PC規格に対応する (2)利益を圧迫するTSMC外注(決算発表説明)を脱却して内製に戻す、という2つの主要目標に対応するものと考えられ、来年後半といっても可能な限り早期のリリースを望んでいると思われます。

詳しい発売時期はIntel 18Aの生産能力の成熟にかかっていますが、先日の株主向けアナウンスでは「Allow lake-HのCPUタイル程度の小型チップならぎりぎり生産できるが、Lunar lakeなどNPU込みのチップの生産は厳しい」という水準(D₀<0.4)になっています。Intel 4の例から見るに、本格量産水準(D₀<0.2)に達するのは来年夏と見ていいのではないかと思います。また18Aの工場は現在アリゾナ州チャンドラーに建設中のものがありますが、2024年1月段階でまだ建物の建設途中なので、工場として稼働を始めるのがいつになるかという問題もあります。

総合的に言えば2025年末、Meteor lakeが出たのと同時期というのがありそうなスケジュールですが、Lunar lakeの解説でも紹介した通りアメリカで「できれば新学期シーズンの9月、最悪でも11月最終週のブラックフライデーに新作のセールスをしたい」という顧客の要望があり、また前述した通りインテル自身も内製化を急いでいるために可能な限り早期のリリースを望んでいると思われ、Sapphire Rapidsで正式リリース前にやったようなリスク生産中の製品の早期販売に踏み切る可能性もないではない、というのが私の見方です。

(この記事は筆者作成動画その1その2を再編集のうえ加筆したものです)

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