レノボのノートPC「Yoga Pro 7 Gen 9 14.5型(AMD)」の実機レビューです。CPUにRyzen AI 9 365(Ryzen AI 300シリーズ)を搭載するCopilot+ PCで、AI処理を含め、非常に高いパフォーマンスを発揮します。また、ディスプレイも高精細な有機ELパネルを採用しており、メーカーの謳い文句は「クリエイターのためのAI搭載ノートパソコン」となっています。
なお、このレビューはメーカーよりレビュー機をお借りして実施しています。
・Ryzen AI 9 365搭載のCopilot+ PC
・外部GPU非搭載機としてはトップレベルの性能
・解像度が高く、発色品質が素晴らしい有機ELディスプレイ
・4スピーカー搭載、ノートPCとしては音質が抜群
・スリムで美しく、質感の高い筐体
ここがイマイチ
・バッテリー駆動時間がCore Ultraシリーズ2搭載機よりも短い
・ディスプレイがグレアタイプなので映り込みが強め
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Yoga Pro 7 Gen 9(14.5,AMD):Lenovo
1.製品概要
スペック表
Yoga Pro 7 Gen 9 14.5 (AMD) | |
OS | Windows 11 Home/Pro |
CPU | AMD Ryzen AI 9 365 |
GPU | なし |
RAM | 32GB (LPDDR5X-7500MHz, オンボード) |
ストレージ | 1TB SSD(M.2 2242 PCIe-NVMe Gen4 TLC) |
光学ドライブ | なし |
ディスプレイ | 14.5イ型OLED(2,880 x 1,800)120Hz |
ネットワーク | Wi-Fi6E(a/b/g/n/ac/ax)、Bluetooth 5.3 |
入出力 | USB4 Type-C、USB 3.2 Gen2 Type-C(映像出力、USB-PD対応)、USB3.2 Gen1 Type-A、HDMI、オーディオジャック |
カメラ | Webカメラ(1080p)顔認証対応 |
バッテリー | 73 Wh |
サイズ | 325.5×226.49×16.6mm(最薄部) |
重量 | 1.54 kg~ |
コメント
Yoga Pro 7 Gen 9には注文時の構成カスタマイズが可能なバリエーションモデルがありますが、カスタマイズできるのは基本的にソフトウェア(OSのバージョンとOfficeソフトの付属有無)及び保証&サービス(保証期間の延長や引き取り修理対応など)のみで、ハードウェア構成は上記スペック表の1種類のみです。
冒頭記載の通り、CPUがRyzen AI 9 365であり、ディスプレイが有機ELで高解像である、という点と、レノボの上級ノートPCとして高い筐体品質を備えている、というのがこの製品のポイントです。
2.外観と使用感
ACアダプター
ACアダプターは出力が100Wと大きめ(一般的なノートPCは65Wのものが多いです)でサイズもやや大きく、電源ケーブル込みの実測重量386 gでした。重量に関しても一般的なノートPCよりも100 gくらい重いです。
前面と背面
天板です。筐体色は「ルナグレー」という、若干濃いめのグレーです。筐体素材は金属(アルミ)で、表面には「Al陽極酸化スタンピング=アルマイト加工)」が施されており、錆や腐食に強くなっています。また、この筐体はMIL規格(MIL-STD-810H)の堅牢性を備えています。
底面です。中央上部に通気口、両サイドにスピーカーがあります。Yoga Pro 7 Gen 9は底面の2スピーカーに加え、キーボード面の両サイドにも2スピーカーがあり、合計で4スピーカーを搭載しています。
側面
前面と背面です。こちらにはポート類やボタン類はありません。
左側面には画像左からHDMI、USB Type-C × 2があり、左側のType-CポートはUSB3.2 Gen2規格(データ転送速度最大10Gbps)、右側のType-CポートはUSB4規格(データ転送速度最大40Gbps)で、どちらも映像出力とUSB PDに対応します。また、本機への充電/給電には2つのUSB Type-Cポートのいずれか1つを使います。
右側面には画像左からWebカメラの電子式プライバシーシャッタースイッチ、電源ボタン、イヤホンジャック、USB 3.2 Gen1 Type-Aポートがあります。
ディスプレイ
ディスプレイは14.5型と「ちょっと珍しい」サイズです。モバイルノート、と言えるサイズ感ですが、筐体重量が1.54 kgありますので、PCをバッグに入れて毎日持ち歩くには少々重いかも。「据え置き、ときどきモバイル」くらいの使い方に向きそうです。
解像度は2.8K(2,880 × 1,800)と高くパネルは有機ELです。発色品質は「HDR500, 100%DCI-P3」と開示されていますので、クリエイターのニーズにも応えられる水準ですし、リフレッシュレートも120Hzと高速、さらに「ブルーライト軽減パネル」が使われています。ただし、タッチ対応はしません。
設定アプリ「Lenovo Vantage」に「色の管理」というメニューがあり、sRGB、Adobe RGB、P3と色域(発色の特性というべきか)を変更できます。実際に試してみましたが、この設定を変えると色味もはっきり変わります。どれがいいか、というのはなんとも言えませんが、使い方やお好みに応じて変更できるのはありがたいと思います。
昔のようなことはないだろうと思いますが、それでも有機ELパネルの場合は「焼付き」が心配になりますよね。Lenovo Vantageにパネル保護の設定があり、一定時間経過後にタスクバー(同じものが長時間表示されがち)やバックグラウンド(これも同じものが長時間表示されがち)を暗くしたり、ディスプレイ全体を暗くすることができます。
発色については文句なしのYoga Pro 7 Gen 9ですが、唯一「グレア(光沢)タイプ」である、という点には注意したいところです。まあ、発色優先の有機ELディスプレイ、ということなので仕方ないとは思いますが、映り込みは激しいです。この画像は「わざと映り込みが激しくなるように」して撮影したものなので、実際ここまでひどく映り込むケースは少ないと思いますが、出先でこの製品を使う場合は(窓などの光源を背にしないなど)設置場所に少し気を使う必要がありますね。
キーボード
キーボードです。「84キー(Fnキー+Windowsキー+Copilotキーを含む)、JIS 配列、バックライト・キーボード、マルチタッチパッド」と開示されています。また、キーボード面の両サイドにスピーカーも搭載しています。
キートップには指のかかりをよくするためのわずかなくぼみがあります。バックライトは「弱、強、AUTO」の3種類の明るさを設定できます。
キーピッチは手採寸で約19 mm、キーストロークはやや浅めです。実際に30分ほどテキスト入力をしてみましたが、キーの押下圧(重さ)が適切と感じられ(人によっては少し重いと感じられるかもしれませんが、重くて指が疲れるということはないでしょう)、打鍵音も静かなので、長時間快適に作業ができると思います。また、バックライトについては、個人的には「常時『弱』で十分」と感じられましたが、AUTOにしておくと明るさの調整をPCがやってくれるので楽です。
「Lenovo Hotkeys」というアプリが入っていて、あらかじめいくつかのキーボードショートカットが登録されています。
また、キーボード最上段・右から3番目のキー「Smart Key(星印がついたキー)」はユーザーがカスタマイズ可能で、任意のアプリを起動するように設定できます。
その他
Yoga Pro 7 Gen 9はコンバーチブル2 in 1筐体ではなくクラムシェル筐体(普通のノートPC)ですが、ヒンジは180度開口します。この構造の場合、ビジネスミーティングなどで向かい側にいる人と画面の共有がしやすくなります。
レノボではYoga Pro 7 Gen 9の筐体を「コンフォートエッジデザイン」と称しています。この用語が意味するところがイマイチわからないのですが、側面や背面が緩やかにラウンドした形状になっていて、「手間がかかっているよね」と感じられる造形ではありますし、故に高級感も感じられましたね。
Yoga Pro 7 Gen 9は底面に2つ、キーボード面左右に2つ、合計で4つのスピーカーを搭載しています。また、音響アプリはDolby Accessです。
音質は素晴らしいです。ノートPC用のスピーカーの割に低音がしっかり出ていますし、キーボード面にスピーカーがあることによって臨場感も高いと感じられます。Dolby Accessによる音響効果も高く、動画視聴や音楽鑑賞に耐える品質と言え、ノートPC用として高く評価できます。
なお、Yoga Pro 7 Gen 9は「Copilot+ PC」の要件を満たしていますが、レビュー時点でCopilot+ PCの認定が未済のようで、Copilot+ PCのみが使える「ペイントアプリのCocreator機能」や「WebカメラのWindowsスタジオエフェクト機能」とは使えませんでした(近日中にOTAアップデートが入り、これらの機能が使えるようになるはずです)。
3.性能テスト
設定アプリのLenovo Vantageにはパフォーマンスを調整できる「モード」という項目がありますが、今回は「自動」のまま測定しています。「AI PCなんだからシステムにお任せで大丈夫でしょ?」ということで、あえて「ゲーム」とか「クリエイティブ」の設定は使っていません。
表計算ソフトやビデオチャット、画像加工など、実際のビジネスシーンをシミュレートしたテスト、PC Markのスコアです。どちらかというとビジネス系のPCの性能測定で重視すべきベンチマークテストと言えます。ウインタブが最も重視しているテストです。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 9 185H:8,099
Ryzen AI 9 HX 370:7,511
Ryzen 7 8845HS:7,446
Ryzen 9 PRO 6950H:6,987
Ryzen 7 8840U:6,949
Ryzen 7 PRO 6850H:6,858
Core Ultra 7 155H:6,849
Core Ultra 7 258V:6,821
Ryzen 5 8645HS:6,708
Core i9-13900H:6,542
Core Ultra 5 135H:6,485
Core Ultra 7 155U:6,392
Core Ultra 5 125U:6,376
Ryzen 5 7535U:6,021
Yoga Pro 7 Gen 9が搭載する「Ryzen AI 9 365」をウインタブがテストするのは今回が初めてです。過去データを見ていただくとわかる通り、一般的な傾向として、PC MarkではIntel CoreよりもAMD Ryzenのほうが高めのスコアになります。今回、特に気になるのは「Intel Core Ultraシリーズ2」と比較してどうか、という点ですよね?
先日レビューした、同じレノボのYoga Slim 7i Aura Edition Gen 9(Core Ultra 7 258V搭載)のスコアを見てみましょう。
トータルスコアで1,000点以上の差がつき、Essentials、Productivity、Digital Content Creationのいずれの項目でもCore Ultra 7 258Vが太刀打ちできない結果となりました。これは上にも書いた「PC MarkではRyzenのほうがスコアが高い傾向にある」ということと符合します。このあとCINEBENCH 2024のスコアを掲載しますが、おそらくPC Markというテストは「マルチコア(マルチスレッド)性能がスコアに大きく影響する」のだと思われます。
とはいえ、Yoga Pro 7 Gen 9の7,896もYoga Slim 7i Aura Edition Gen 9の6,821も、PC Markが想定する「ビジネスシーンでの利用」では申し分のない、高水準なものであることは間違いありません。
CPU性能のみを測定するCINEBENCH 2024のスコアです
参考(過去データから一部抜粋):
Core i7-14700:122、1,177
Core Ultra 7 258V:120、627
Core i9-13900H:117、687
Core Ultra 9 185H:111、910
Ryzen AI 9 HX 370:110、942
Snapdragon X Elite:108、1,038
Ryzen 9 8945HS:108、958
Snapdragon X Plus X1P-42-100:108、754
Ryzen 7 8845HS:106、956
Ryzen 9 7940HS:106、914
Core Ultra 7 155H: 105、964
Core Ultra 7 155U:101、533
Ryzen 5 8645HS:98、585
Core Ultra 5 125U:95,533
Core Ultra 5 125H:95、516
Ryzen 9 PRO 6950H:93、774
Ryzen 7 PRO 6850H:91、765
Ryzen 7 5825U:85、590
Ryzen 3 5425U:78、365
※左からシングルコア、マルチコアのスコア
ここではCINEBENCH 2024のスコアを掲載していますが、前身のCINEBENCH R23の頃から「シングルコアではIntel Core、マルチコアではAMD Ryzen」という傾向がありました。最近だとCore Ultraシリーズ1の登場以来、Intel Coreもマルチコアのスコアが向上し、両者に目立った違いはなくなったなあ、と感じていました。
しかし、Core Ultraシリーズ2とRyzen AI 300シリーズになり、再び「シングルコアではIntel Core、マルチコアではAMD Ryzen」に戻ったような気がしますね。Core Ultraシリーズ2はAI処理チップNPUの性能が大きく上がり、省電力性もアップした一方で、コア数・スレッド数は減少し、ハイパースレッディングも廃止されたため、マルチコア性能が落ちています。今回のテストでも、シングルコアに関してはレビュー機Yoga Pro 7 Gen 9(Ryzen AI 9 365)がYoga Slim 7i Aura Edition Gen 9(Core Ultra 7 258V)よりも劣り、マルチコアに関しては大差をつけてYoga Pro 7 Gen 9が勝る結果となりました。
グラフィック性能を測定するPC Markのスコアです。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 7 258V:4,324、8,426、34,337
Core Ultra 9 185H:4,143、8,223、31,710
Core Ultra 7 155H:3,924、8,338、24,476
Ryzen AI 9 HX 370:3,800、8,026、31,138
Core Ultra 5 135H:3,454、7,235、24,791
Core Ultra 5 125H:3,392、7,301、23,168
Ryzen 9 7940HS:3,362、7,776、29,076
Ryzen 7 8845HS:3,330、7,908、29,873
Ryzen 7 8840U:2,943、7,206、27,471
Ryzen 9 PRO 6950H:2,846、7,051、27,983
Ryzen 7 PRO 6850H:2,660、6,601、26,920
Ryzen 5 8645HS:2,437、6,253、24,401
Core Ultra 7 155U:2,319、5,162、19,024
Core Ultra 5 125U:2,081、4,826、19,421
Core i9-13900H:1,956、5,440、19,477
Core i7-1360P:1,786、4,991、16,779
Core i7-1355U:1,760、4,859、16,891
Ryzen 5 7530U:1,281、3,137、13,730
Ryzen 7 5825U:1,242、3,226、12,859
Ryzen 3 5425U:1,122、2,848、11,949
※左からTime Spy、Fire Strike、Night Raidのスコア
グラフィック性能に関してはCore Ultraシリーズ2といい勝負、という感じですね。一般にPCゲームではシングルコア性能が重視されるということが言われていますので、Core Ultraシリーズ2とはPC Markのような大きな差はつきませんでした。また、Core Ultraシリーズ2、Ryzen AI 300とも、内蔵GPUの性能が向上している、というのもあると思います。
このスコアであればPCゲームも十分楽しめると思いますね。
SSDの読み書き速度を測定するCrystal Disk Markのスコアです。Yoga Pro 7 Gen 9のSSDは「M.2 2242 PCIe-NVMe Gen4」と開示されており、読み書き速度は高速です。一般的なビジネス利用はもちろん、PCゲームやクリエイティブワークでも不満を感じないと思います。
バッテリー駆動時間
Windowsの電源モードを「最適な電力効率(もっとも省電力なモード)」に、Lenovo Vantageの電源モードを「適応パワー・モード(自動)」に、ディスプレイ輝度を70%に、音量を30%、キーボードバックライトをAutoにして下記の作業をしてみました。
・ブラウザー上で文書作成を約25分
・画像加工ソフトGIMPで簡単な画像加工を約55分
・ブラウザー上でYouTubeの動画・音楽視聴を約25分
・ブラウザーを使ってWebサイト閲覧を約10分
上記トータルで約115分使用し、バッテリー消費は28%でした。単純計算だと1時間あたり14.6%のバッテリー消費、バッテリー駆動時間は7時間弱となります。レビュー機材の個体差や測定時間の短さ等があるにせよ、Core Ultraシリーズ2搭載機よりもバッテリー駆動時間は短めかな、と感じられました。Core Ultra 7 258Vを搭載するYoga Slim 7i Aura Edition Gen 9はバッテリー容量が70WhとYoga Pro 7 Gen 9の73Whよりも小さいにも関わらず、ウインタブのテストでは駆動時間約10時間と評価しています。
発熱とファン音
特筆することはありません。発熱・ファン音とも使用感に影響を及ぼしません。…というか、非ゲーミングノートではもはやこの項目について言及する意味はないような気がしますね…。
4.レビューまとめ
Lenovo Yoga Pro 7 Gen 9 14.5型(AMD) はレノボ直販サイトで販売中で、12月18日現在の価格は259,820円(Lenovo Reward Point10倍=23,620円相当)から、となっています。
Ryzen AI 9 365の性能は非常に高く、外部GPU(GeForceなど)を搭載しない製品としてはトップクラスのパフォーマンスを見せてくれました。PCゲームやコンテンツクリエーションといった、いわゆる「重い」作業も十分こなせると思います(もちろん程度問題はありますけどね)。このレビューでは「オンデバイスAI」についてはテストできていませんので、AI性能をCore Ultraシリーズ2と比較することはできませんが、PC Mark(日常のビジネス)のスコアはCore Ultraシリーズ2を上回り、3D Mark(PCゲームなどグラフィック関連タスク)ではほぼ互角、しかしバッテリー駆動時間は(短いとは思いませんが)Core Ultraシリーズ2よりも劣る、という結果でした。
メーカーが言っているように「クリエイターのためのAI搭載ノートパソコン」という表現がぴったり来る製品だと思います。とにかくゲーム!なのであれば素直にゲーミングPCを選ぶべきと思いますが、高精細で発色品質の高い有機ELディスプレイを搭載し、薄型で比較的軽量な筐体であることを考えれば、ガチゲーマーでもなければ十分に満足できる、魅力的な製品だと思います。
5.関連リンク
Yoga Pro 7 Gen 9(14.5,AMD):Lenovo
2014年、低価格な8インチWindowsタブレットに触発されサイト開設。企業でユーザー側代表としてシステム開発や管理に携わっていました。「普通の人」の目線で難しい表現を使わず、様々なガジェットを誰にでもわかりやすく紹介・レビューします。