中国メーカーFYHXのモバイルモニター「DR138」の実機レビューです。この製品は単なるモバイルモニターではありません。見た目はノートパソコンそのもので、キーボードや各種入出力ポートを備え、ウインタブ読者なら「注目せざるを得ない」ような、非常に個性的な製品です。
少し前にクラウドファンディングサイトで「PhoneBook」という製品が出品され、話題となったようですが、この製品はそれと非常によく似た製品特性です(電源を入れると「Phonebook」と表示されたりもするのですが、クラウドファンディング品とは別物です)。
今回、この製品をレビューできるのは光栄です。個人的にもひさしぶりに「わくわくする」製品に出会えたと思います。なお、レビュー機はメーカーのFYHXにサンプル提供していただきました。この場にて御礼申し上げます。
目次
1.FYHXele DR138 スペック
スペック表
FYHXele DR138 | |
ディスプレイ | 13.3インチIPS(1,920 × 1,080)タッチ |
発色・輝度 | 72% NTSC、300cd/m2 |
スピーカー | 1W × 4 |
入出力 | USB Type-C(入力用)、USB Type-C(充電用)、miniHDMI、microSDカードリーダー、イヤホンジャック |
バッテリー | 7.6V/5,000 mAh |
サイズ | 307.5 × 209 × 14.7 mm |
重量 | 1,200 g(実測値) |
コメント
筐体構造については後ほどご説明しますが、この製品、見た目は「モバイルノートにしか見えない」です。でも、とりあえずここでは「モバイルモニター」として見ていきます。
13.3インチのFHD解像度、グレア(光沢)タイプのIPS液晶で、輝度は300cd/m2(nit)と標準的~やや明るいくらい、72% NTSC(100%sRGBに相当)と高い発色品質になっています。また、スピーカーを4つ搭載しているので、音質にも期待ができそうです。
入出力ポートもモバイルモニターとしてはちょっと面白いですね。microSDカードリーダーがあります。一方で2つあるUSB Type-Cポートのうち1つは充電/給電専用だったり、HDMIポートがmini規格だったりと、ちょっと使いにくいかな、と思われるところもあります(ただし、ケーブルが付属していますので、当座は不便ということでもないです)。
バッテリーも搭載しています。容量は5,000mAhとまずまずに思われますが、レビューにあたって駆動時間についても確認していきます。
サイズは13.3インチモバイルノートとしては悪くありません。ただし、モバイルモニターとしてはキーボードを搭載していることもありますので、ちょっと重いですね。…まあ、仕方ないところでしょう。
では、筐体を見ていきます。
2.FYHXele DR138 筐体
同梱物
同梱物です。英語の取扱説明書、HDMI – miniHDMIのケーブル、USB Type-C – USB Type-Cのケーブル、そしてACアダプターです。ACアダプターは日本のコンセント形状に合うもののほか、EUプラグなどもあり、全部で3種類の変換プラグがセットされていました。これで海外出張も安心ですね。なお、ACアダプターの実測重量は、日本仕様のプラグをセットした状態で139 gと軽量です。
天板と底面
天板です。筐体素材は金属(たぶんアルミ合金製だと思います)で、筐体色はダークブラウンです。濃い茶色ですが、黒、というのとも違う感じですね。ありふれた感じではなく、かといって派手すぎでもなく、いい色だと思います。
底面です。ゴム足があるのみで、本当に何もついていません。
側面
前面です。この面にはポート類やボタン類はなく、中央にヒンジ開口用のくぼみがあるのみ。
背面です。この製品は(PCじゃないんですけど)コンバーチブル2 in 1筐体で、ヒンジ形状などが2 in 1っぽく見えます。
右側面には画像左から電源ボタン、microSDカードリーダー、USB Type-C(充電/給電専用)、そしてイヤホンジャックがあります。
左側面です。画像左からUSB Type-C(データ伝送用、給電/充電には対応しません)とminiHDMIポート。
一見するとポートがたくさんあるように見えますが、USB Type-Cポートのうちの1つは充電/給電専用なので、電源アダプターと同じです。機器(PCやスマホ)などとの接続にUSB Type-CポートとHDMIポートを使用しますが、ここで注意点があります。
・お使いのPCやスマホのUSB Type-Cポートが映像出力に対応している場合、USB Type-Cで接続すれば映像出力のほか、キーボードやスピーカーも使えます(miniHDMIポートは使用しません)
・お使いのPCのUSB Type-Cポートが映像出力に対応していない場合、miniHDMIとUSB Type-Cの両方に接続する必要があります(ケーブルを2本使う、ということです)。この場合、PCとHDMI(miniHDMI)で接続しただけではFYHXele DR138のキーボードやスピーカーは使えません。
私のメインスマホ、Pixel 5のUSB Type-Cポートは映像出力に対応していませんので、この時点で「詰み」です。なので、他のモバイルモニターでもそうですが、どんなスマホとも接続ができる、というわけではありません。この点はご注意下さい。
キーボード
キーボードです。当然ですが英語配列で、キーピッチは手採寸で19 mm強(19.25~19.5 mmくらいです)と余裕があります。後述しますが打鍵感は「普通のノートPCと全く同じ」です。
キーボード最上段にあるファンクションは「モバイルモニターらしい」ものがあります。「バッテリー残量をワンプッシュで表示できる」機能です。設定項目については後述しますが、基本的に「いっぺん設定してしまったら、あとは輝度を調整するくらい」だと思いますので、輝度がキーボード上で調整でき、バッテリー残量がワンタッチで確認できるのであれば、あとは細かい設定に煩わされることもないかな、と思います。
キートップはわずかに凹凸(中央が凹んでいる)がありますが、打鍵感にはほとんど影響しません。
また、このキーボードにはバックライトも装備されていて、明るさは1段階のみです(ON/OFF以外は調整できません)。
ディスプレイ
正面から見たところです。上部と左右のベゼルは「まあ細い」くらいです。ノートPCとしてみれば十分な細さですが、モバイルモニターとしては特にナローベゼルという感じではありません。
また、このディスプレイはタッチ対応することもあり、グレア(光沢)タイプです。そのため、映り込みはかなり大きめです。
筐体その他
この製品はコンバーチブル2 in 1筐体なので、テントモード(上の画像)、スタンドモード(真ん中の画像)、タブレットモード(下の画像)に変形して使うことができます。テントモードやスタンドモードに関しては、ノートPCの場合、正直言って「意味があるのか?」と少し疑問に感じるときもあるのですが、この製品に関しては有効です(後述します)。
3.FYHXele DR138 各種操作項目について
モバイルモニターとしての設定項目は?としばらく悩んだのですが、このように、画面の右下付近を上から下に軽くスワイプしてやると設定項目を表示できます(ちゃんと取説を読めよ!ということでした…)。
で、これが設定項目です。
取扱説明書の一部を掲載しておきます。比較的低価格で購入できるモバイルモニターよりも少し調整項目が多いと思います。なお、「Brightness」という項目が2つあり、私なりに確認してみたところ、一方がいわゆる「画面の明るさ(輝度)」でもう一方が「明度(色ごとの明るさ)」もしくは「彩度(色相の鮮やかさ)」を指しているものと思われます。誠に申し訳ありませんが、ここは私の力では判断できませんでした。
4.FYHXele DR138 使用感(共通)
ディスプレイ
発色については、72%NTSCと開示されているのと、もともとモニター製品なので上にご説明したとおり設定を細かく調整できるということで、特にコメントはありません。通常の利用シーンでは十二分にキレイだと思います。
また、このディスプレイはタッチ対応しますが、タッチ感度についても私の感覚では鈍感さは全く感じられず、しっかりと反応してくれたと思います
キーボード
ノートPC用のキーボードとしてみても十分な品質になっていると思います。というか、普通にノートPCですね、これ。十分な余裕のあるキーピッチにやや浅めのキーストローク、打鍵音も比較的静かですし、安っぽさは全く感じられません。
ただ、このキーボードは英語配列なので、例えば手持ちのミニPCやデスクトップPCに接続する場合、いちいちWindowsの設定を英語キーボードにしてやる必要があります。多くの人は日本語配列のキーボードを使っていると思うので、ここは少しめんどくさいかもしれないですね。
また、配列の話をすると、このキーボードはEnterキーの右に一列あるタイプなので、慣れないと少々ミスタイプが多めになってしまいます。まあ、ここは慣れてしまえばそんなに問題ではないでしょう。
スピーカー
FYHXele DR138はキーボード面に4つのスピーカーを搭載しています。また「ステレオ」です。音質は接続するデバイスの音響調整用のアプリの出来によっても変わるはずですが、ここでは「素(音響アプリを全く使っていない状態)」での音質について書きます。
結論から言うと、PC内蔵スピーカーとしては「まあ普通」くらいです。4スピーカーだから音質がいい、という感じではありません。ちょっと厳しく書くと、よくある「低音が弱く、薄っぺらな音質」です。また、4つのスピーカーの位置が近いので、ステレオ感も弱めです。
ただしこれは「ちゃんと音楽を聴いたら」ということであって、実用品としては決して低品質ではありません。Webミーティングとか作業中に低音量でBGMを流すといった使い方をするぶんにはそんなに不満は出ないだろうと思います。
バッテリー
ミニPCに接続した状態で2時間ほど作業してみて、バッテリー消費量を確認しました。ただし、この製品はCPUやRAMを搭載しているわけではなく、バッテリー消費の大部分は「ディスプレイ表示」で、スピーカーとキーボードバックライトによっても多少はバッテリーを消費すると思います。一応どんなことに使ったのか、ということは明記しておきます。
ディスプレイ輝度を80%に、スピーカー音量を50%に、キーボードバックライトをONにして
・YouTubeの動画視聴を30分
・ブラウザー上でテキスト入力を1時間
・Webでの調べ物等を30分
※実際には「ながら」で作業していますので、ここまできっちり区分けされてはいません
これでバッテリー消費は37%でした。単純計算だと1時間あたり18.5%のバッテリー消費、バッテリー駆動時間は5時間半弱くらい、ということになります。まあ、節約(ディスプレイの輝度を落とすとかキーボードバックライトを消灯するとか、こまめに電源を落とすとか)しながら使えば出先で終日使えそうな感じですね。
5.FYHXele DR138 使用感(ミニPCと)
まずはミニPCに接続して使ってみました。接続したPCはGMK NucBox 2です。NucBox 2は第8世代Core i5を搭載し、価格も手頃、とても魅力的な製品なのですが、今回のレビューに関しては「USB Type-Cポートが映像出力に対応しない」という点が「ちょっとマイナス」でしたね。HDMI(映像のため)とUSB(キーボードやスピーカーのため)、2本のケーブルを接続しなくてはなりませんでした。USB Type-Cポートが映像出力に対応している場合、USB Type-C – USB Type-Cのケーブル1本でセットアップが完了します。
しばらく使ってみた感じ、「まるっきり違和感なし」です。完全に普通のノートPCと同じ使い心地です。しいて言えば、この画像に写っているマウスはモニター側ではなくミニPC側のUSBポートに繋いだ、という点が異なるくらいです。
正直なところ、「あえてミニPCとFYHXele DR138とペアにして使う意味はどこにあるのよ?」と言われてしまうと回答に詰まります。この使い方で固定するのなら、最初からノートPCを買えばいいわけですから。ただし、複数の場所(自宅と事務所など)に(ミニPCを含む)PC本体があって、それらの場所を行き来する機会があるとか、出先で(後述する)スマホ接続をして使う、という利用シーンまで含めると、ニーズのある人が出てくるだろうと思います。
この製品は「そもそもモニター」なので、キーボードのことはいったん忘れて、「普通のモニター」としても使えます。この画像では「スタンドモード」にしてミニPCとキーボード、マウスを接続した状態です。
FYHXele DR138のキーボードは「絶対に使わなくてはならない」わけではありませんよね?このように、「必要のないときには普通のモニターとして使う」ということも可能なわけで、そこまで視野に入れると、グッと使いみちが広がるように思います。まあ、当たり前の話ですけど…。
6.FYHXele DR138 使用感(スマホと)
このレビューのために、ライターのかのあゆさんにGALAXY S9を貸してもらいました。GALAXYの上位モデルはUSB Type-Cポートからの映像出力に対応するだけでなく、「DeX」という、PCライクなデスクトップUIが使えます。
この時点でお気づきの人も多いと思います。FYHXele DR138は「接続するスマホを選ぶ」ということです。繰り返しになりますが、私が使っているPixel 5はUSB Type-Cからの映像出力に対応しませんので、そもそも使えません。また、映像出力に対応するスマホをお使いの場合でも、FYHXele DR138と画面解像度(アスペクト比)が合わないはずですし、そもそも「単にスマホの画面がそのまま表示されるだけ」なので、期待される使い勝手にはならないと思います。
なので、FYHXele DR138をフルに使いこなすためには「デスクトップモード(スマホメーカーによって呼称は異なります)」搭載機種であることが望ましいです。この機能を搭載しているスマホはかなり少なく、GALAXYの上位モデルのほか、HUAWEIの上位モデル、motorolaの上位モデル(最新モデルのedge 20シリーズもデスクトップモードに対応しています)くらいです。
で、GALAXYを接続してみた感想ですが、Google Chrome(ブラウザー)とかAndroid版のExcelなど、「ある程度キーボード接続を想定しているアプリ」に関してはかなり快適に使えました。デスクトップモード(この場合はDeX)のUIは機種によって異なりますし、慣れるまではIMEの切り替えなどで少し戸惑うと思いますが、Office系アプリを使っての文書作成やWebサービスの利用などであれば、PCと同等に使えるでしょう。
ただし、Chromebookでもそうですが、「Excelのマクロ」とか「Photoshopのような高度な画像加工ソフト」などは使えませんので、本格的に仕事に使うのであれば、これら「そもそもPCでないと無理」な作業の有無、というのが問題になってくると思います。
それと、これもどちらかと言うと「スマホに依存する話」なのですが、GALAXY S9の場合、「ハブを噛ませることができない」です。つまり、USB Type-C – USB Type-Cのケーブルでダイレクトに接続するしかなく、したがってUSB接続のマウスは併用できません(Bluetoothマウスなら大丈夫かと思います)。かのあゆさんに確認したところ、世の中には「DeXに対応するハブ」というものが存在しているらしいので、それを使えば他のUSB機器も使えるようです。
7.FYHXele DR138 レビューまとめ
FYHXele DR138はAliExpress内のfyhx Storeで販売中で、11月8日現在の価格は289.99ドル(33,564円)ですが、クーポンコード「VOFS7EJ82JVA」を頂いており、これを使用すると259.99ドル(30,092円)で購入ができます(11月30日まで)。また、現時点で検証ができないのですが、11月11日のセール日になると、元値が下がりますので、さらに安く購入できる可能性もあります。
DeXなど、デスクトップUIを使えるスマホを使われている人には購入する価値が高い製品だと思います。逆に言えば、そういうスマホを使っていない人の多くには、すぐにおすすめできる製品とは言いにくいです。ただし、「当面は普通のモバイルモニターとして使い、いざというときにキーボードやスピーカーを活用したい」とか「パフォーマンスの高いデスクトップPC(ミニPC)と組み合わせて、省スペースで高性能なPC環境を構築したい」とか「特定のPCだけでなく、様々なデバイス(今回はテストしていませんが、ゲーム機などと一緒にも使えます)と接続する機会があるので、キーボードやスピーカーは確保しておきたい」といったニーズのある人には試してみる価値はあると思います。
Amazonなどを見ていると、13.3インチでタッチ対応のFHDモバイルモニターは15,000円~25,000円くらいで買えるようなので、それに「数千円から1万円くらいを追加してこの筐体を手に入れるべきか」という判断になりますね。ウインタブ愛読者に個人的な意見を言わせてもらうと「そんなん、手に入れるべきでしょ!」ということになりますw
8.関連リンク
FYHXele ポータブルモニター:fyhx Store(AliExpress)