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最近のCPUの“爆熱”化の理由

最近のCPUの“爆熱”化の理由
正式に本サイトのライターになったこともあり、自分の過去の記事を見直していたのですが、実は「第12世代Alder lakeは定性的には省電力である」という記事を2回書いていました。ご存じの通り第12世代は爆熱で悪名高く、その点で予想は完全に外しています。直近の記事でも7700(無印)を例にZen4はクロックを抑えれば定性的に低消費電力だと書いていますが、現実にはX付きシリーズは「爆熱」化しています。

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予想を盛大に外してしまっていますが、ただ、その予想を立てたのは根拠のないことではありません。

1.電力効率は定性的に改善している。前世代と同じ性能をより少ない電力で達成でき、同じ電力で前世代より高い性能を発揮する。
2.電力効率の改善で得た余裕以上に性能を上げようとしてより多くの電力を消費している

というのが実情です。今回はこのことについて、もう少し詳しく掘り下げます。

定性的には電力効率は改善し続けている

まず、CPUは原則新しい世代ほど電力効率が良くなっています。例えばIntelは、第12世代の発表時には「60Wの12900Kは240Wの11900Kと同等の性能」というスライドが出ており、第13世代の発表時には「60Wの13900Kは240Wの12900Kと同等の性能」というスライドを出しています。

その11900K(定格PL1動作時140W)や同じ8コアの5800X(実効130W前後)はCinebench R23で約15000点でしたが、同程度の性能を12600Kは100W程度、13600Kは65W程度、7700Xも60W程度で実現しています。いずれも爆熱として悪名高い最新世代のCPUですが、ダイ面積等で実質コア数が同じであっても同程度の性能をより低い電力で実現していることから、電力性能比が改善しているのは間違いありません。

最近のCPUの“爆熱”化の理由

同一性能を出すために必要な電力の推移

ノート用CPUは、放熱能力やバッテリー容量の制限から、無制限に消費電力を上げることはできず、世代が変わっても15Wや35Wの枠を維持していますが、その制限の中では世代を経るごとに着実に性能が上がっています。また、タブレット向けのTDP 9W製品(1250U)や、安価なTDP 15WのAtom系CPU (N305)でも、6年前のデスクトップ向けTDP 65WのCPUと同等の性能を発揮しており、ノートPCでも定性的に電力効率が改善しているのはこちらからも分かります。

最近のCPUの“爆熱”化の理由

同一TDPでの世代別の性能の推移

最近のCPUの“爆熱”化の理由

ほぼ同一性能を達成するCPUの世代別の変遷

一般的には、製造プロセスが1世代進歩すると、同コア数同クロックで消費電力が3~4割減る(=同電力同クロックでコア数を1.5倍にできる)か、同コア数同電力でクロックを1~2割上げられます。Ryzen5000→6000シリーズやIntel第12→13世代のような半世代でも5~10%程度の電力効率の向上が見られますし、Eコア導入で実効的なマルチスレッド性能の電力効率向上を果たしている例もあります。

では、なぜ今のCPUは爆熱化し、電池持ちも相変わらずなのでしょうか。

ライバル間のクロック引き上げ競争

まず一つ目は、クロックを上げ過ぎと言うことです。クロックを1 MHz上げるために必要な電力は元のクロックが上がるほど増え、近年のCPUでは3.0 GHzを超えたあたりから加速度的に電力効率が悪化します。特に限界に近い領域では、「性能を10%上げるために電力を2倍消費する」といった非常に効率の悪いことになります。電力効率を追求するにはクロックをほどほどで抑えるほうがいいのですが、「爆熱」世代のCPUは限界までクロックを上げてしまっています。

これはデスクトップ用で顕著で、Intel第12~13世代のK付きモデルやRyzen 7000シリーズのX付モデルは、CPUの温度限界か、マザーボードの電力供給限界のいずれかに到達するまでクロックを上げる設定が標準になっています。かつては1~2割ほど安定オーバークロックのマージンが残っている程度に効率の良いクロックが標準として選ばれていましたが、今では標準がかつてのオーバークロック状態とも言え、「ファクトリーオーバークロック」と通称されるような事態になっています。

最近のCPUの“爆熱”化の理由

Core i9-13900KとRyzen 9 7950Xの電力性能曲線。標準設定の半分の消費電力でも8割程度の性能が出せる

ノートでも同じようなことは起きています。Intel 第12~13世代はノートでも5.0 GHz前後の高い最大クロックを設定しており、これでM1より明確にシングル性能では上回ったものの、単コアブースト時の消費電力はM1の4倍にも達しており、電池持ちの悪化する重要な原因になっています。末尾Uでも公称TDPの15Wを無視して28W消費する設定になっているような機種にも事欠きません。

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AMDは従前消費電力を抑え気味だったのですが、最近は内蔵GPUのためもあって電力使用量を引き上げ、クロックもギリギリまで上げるようになってきています。定性的には電力効率が改善したはずのZen4世代でも、Ryzen 7840Hは最大クロック時の電力効率は前世に比べ悪化したというレビューが出ていますし、Ryzen 7 7736Uの公称TDPは10-28Wですが、HP Dragonfly Pro等は基本40W、短時間なら51W出せるよう設定されており、7040シリーズもそういった公称値越えが許可されています。

こういったクロックの上げ過ぎの原因は、IntelとAMDの競争でしょう。Intel Coreは第10世代ころからRyzenにコア数で負けており、マルチ性能を稼ぐため全コア最大クロックで走るようにしましたが、当然、その分電力効率は悪化し、240Wを消費する仕様になりました。

一方Intelは第12世代でゲームFPSに影響の大きいシングルスレッド性能を強化しましたが、それを受けAMDもRyzen 7000シリーズで単コアの最大クロックを上げるようにした結果、こちらも電力効率が悪化しました。X3Dシリーズは放熱上の問題からV-Cacheダイの最大クロックを10%ほど落としていますが、その結果電力効率が大幅に改善しており、それだけ標準のRyzen7000シリーズは無茶なクロック向上をしていると見ることもできます。

こういったことは以前2000年ころにもありました。当時IntelとAMDが拮抗しており、両社とも爆熱をいとわず通称「ギガヘルツ競争」などが生じた結果、AMDは“焼き鳥”と呼ばれる過熱焼損が多発したThunderbirdアーキテクチャ(参考)を生み出し、Intelは燃費最悪として悪名高いPentium 4(参考)を送り出しました。

一方、AMDが不調に陥っていた2005年ころからの10年間はIntelもそれほど過激な設定はせずオーバークロックのマージンが十分にとられていました。ただ、競争の少ない状況下でCPUの進歩は停滞してしまっていた時代ともいえ、それが良いことか悪いことかと言われるとなんとも言えないところです。

もう一つの原因、コア数増加競争

爆熱化のもう一つの原因は、コア数増加競争でしょう。実はコア数が増えない限りにおいては「爆熱世代」のCPUもおとなしいものです。例えば4コアCPUだけを比べると、Core i7-960のTDP 130 Wに始まり、2600の95 W、6700の65 W、12100の60 Wと、性能は上がり続ける一方で消費電力は徐々に下がっています。

最近のCPUの“爆熱”化の理由

4コア8スレッドCPUの性能(passmarkデータベースより)と定格消費電力(TDP)の推移

一方、コア数が増えればそれだけ電力を多く消費することが可能です。爆熱の誹りを受ける第12世代であっても4コアのi3-12100は簡易水冷を使おうが100W以上使おうとすると焼き切れてしまいます。200Wを使うにはPコアが8つなければそこまで行けません。爆熱として悪名高い12900Kも250W近辺が限界で、それ以上は水冷を使うにしても工夫が必要でした。Eコアを16個増やした13900Kは定格では12900Kより高い電力効率を示しますが、一方で簡易水冷を付けてリミッターを外せば簡単に300Wを超える電力を消費可能です。

AMDはRyzen世代から、CPUを複数のチップレットに分けてInfinity Fabricという仕組みで接続するようになり、この設計が優秀でコアを容易に多数並べることができるようになったことから、いわゆるマルチスレッド性能が必要な分野で飛躍的な速度の向上をもたらしました。サーバやワークステーション向けのEPYCやThreadripperではそれが顕著ですが、家庭向けでも16コアの製品がフラッグシップとなりました。

Intelもこれに対抗するために面積効率の良いEコアを使ってコア数を増やし、第13世代でスレッド数(Eコアの特性上、実質的なコア数とみなしてよい)は同等になりました。そしてコア数だけでなくクロック数でも競うダブルの消費電力増加が起きた結果、消費電力はかつてないほど高いものとなってしまった、というのが現状でしょう。

最近のCPUの“爆熱”化の理由

各世代CPUのTier別のコア数の推移

爆熱競争は収まるか

爆熱競争には2種類ありますが、まずクロック競争については、両社とも限界までクロックを上げ、その限界によって消費電力が変わるのではないかと読んでいます。Intelについては、Intel 4やIntel3についてはクロックがRaptor lakeと同程度に収まると見られ、省電力寄りにならざるを得ないのではないかと思います。Intel 20A以降についてはRibbonFET・PowerVIAとも定性的な省電力化に貢献する一方で最大クロックの上昇に耐える作りで、クロックを上げてくる可能性が高いのではないかと読んでいます。

コア数増加競争はあと2年ほど落ち着くのではないか、と考えています(今度こそ爆熱化は収まると何回も言っては外していますがご容赦ください)。Zen2世代は過去類例のない多コアを実現したことで非常によく売れましたが、多コア競争後の第13世代やRyzen 7000世代は性能が上でも売上は不調で、むしろ型落ちで安価になった第12世代やRyzen 5000世代のほうがよく売れているという逆転現象が起きています。ビデオカードでは4090は売れても4080は売れず、一般ユーザーはミッドレンジを待っていて二極化したような状態になっています。CPUも同様に、今後は6+8コアやV-Cache付き8コアで大半の用途がカバーされ、より多くのコアを搭載するCPUはHEDTに近い扱いとなり、二極化が進むのではないか、というのが私の予想です。

まあ……ここまで書いておいてなんですが、Alder lakeは定性的に電力効率が上がっているので低消費電力側に振ると言っていた人間の予想ですから、「そういうこともできる」程度にお考えいただければ幸いです。

(この記事は筆者作成動画の再編集版になります)

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コメント

  1. 匿名 より:

    経済性を考えてケチった(ダイサイズを抑えてクロック上げた)最近のGPUはほんと酷い
    微細化でトランジスタ単価が下げる方法が無いのでGPU恐竜時代をどう収拾付けるのか…

  2. 匿名 より:

    CPU自体はユーザー側でも設定で電力下げて対処することできますが、大電力に対応するためのマザーボード側の電源回路がコスト高で結果としてマザーボードの値段が上がる一員になってるのが辛いところですね

  3. 匿名 より:

    性能向上と引き換えに熱と消費電力が上昇。一般的なPC作業では8コアなんて必要ないし、高度なクリエイティブ作業をしない限りは「i3でいいや」ってなってる。