こんにちは、近郊ラピッドです。今回はCPUの電力制限の設定を変えることでベンチマークスコアがどのように変化するかを見て行きたいと思います。
目次
1.電力制限値によって性能は変化する
最近のノートPCに搭載されているCPUは省電力でも高い性能を発揮するようになっています。しかし発熱や消費電力が高くなってもよいのでより高い性能を発揮させたいという場合があります。一方で性能はそこまで高くなくてもよいので更に省電力で使いたいという場合もあります。
そのような場合に電力制限の値を変化させることで、省電力側に振ることもできれば高性能側に振ることもできます。ノートPCの場合は電源設定でバッテリー節約モードや高パフォーマンスモードに変更することである程度コントロールすることができます。
そのような調整をした場合、消費電力と性能はどの程度変化するのかという点を実測して確かめてみました。ただし、電源オプションによる操作では大まかにしか設定を変更できない上にCPUの発熱状況に応じて数値が変動する場合もあるため、検証に使うには向いていません。
そのため今回は電力制限の値をソフトウェアで強制的に指定して測定しました。この方法ならば具体的な消費電力が分かるため、電力効率がどのように変化するかも把握しやすくなっています。
2.今回の計測の手法と測定環境
計測にはCore i5-8350UというCPUを使用し、指定した値は5・10・15・20・25Wとしました。8350UはデフォルトのTDPが15Wなので、この時のスコアが基準値となります。スコアはCINEBENCH R23のマルチコア性能とシングルコア性能のものを計測します。
使用するCPUは2017年発表のやや古い製品ですが、4コア8スレッドであり、2022年現在でも普段使いには十分な性能となっています。最新製品では無いとはいえ、電力制限を変えるとどのように性能の変化があるかを検証するのに支障はないと思います。
なお、新しい世代のCPU搭載機を入手できた場合は改めて実測しようと思っています。同じ電力制限の値でも世代によってどのように違うかを比較するのも面白そうです。
今回はベンチマーク実行中、電力制限の値が終始固定されるように設定しました。そのため電力制限が最初は高く途中から下がるという事がないようになっています。つまり、PL1=PL2の設定になっています。
OSはWindows 10で、メモリはLPDDR3-1867 8GB(4GB×2)、SSDの環境となっています。今回使用したPCは、PC本体に風を当てるなどの追加の冷却を行った状態ならば、電力制限が25Wでもサーマルスロットリングを発生させずにCINEBENCH R23(マルチコア)を実行できました。
なお、検証に使ったPCは使用開始からある程度経過しており、クリーンな環境ではありませんので、Core i5-8350Uの実力を正確に計測している訳では無い点にご注意ください。ただ、今回は正確なベンチマーク結果を取る目的ではなく、電力制限の違いによってどのように性能が変化するかを大まかに知るという目的のため、問題はないと判断しております。
3.結果
5Wに設定した場合
マルチコアのスコア:1361pts
シングルコアのスコア:626pts
10Wに設定した場合
マルチコアのスコア:2243pts
シングルコアのスコア:791pts
15Wに設定した場合
マルチコアのスコア:2915pts
シングルコアのスコア:912pts
20Wに設定した場合
マルチコアのスコア:3245pts
シングルコアのスコア:908pts
※シングルコア時は15W程度でクロック上限の3.6GHz付近に到達するため、シングルコアテストの際は20W設定時でも消費電力は15W程度に留まりました。スコアが15W時よりも僅かに下がっているのは単純に誤差だと思われます。
25Wに設定した場合
マルチコアのスコア:3502pts
シングルコアのスコア:918pts
※シングルコア時は15W程度でクロック上限の3.6GHz付近に到達するため、シングルコアテストの際は25W設定時でも消費電力は15W程度に留まりました。
4.考察
以上の結果をグラフにしました。
マルチコア性能とシングルコア性能の変化についての考察
基準値の15Wから5Wに落とした場合、電力制限を3分の1にしている影響で相当にマルチコア性能は低下しますが、スコアの低下率よりも消費電力の削減率の方が高いため1Wあたりの性能はむしろ向上しています。ただ電力効率が良くとも性能自体はかなり低下するため、このCPUの場合ではあまり魅力的な設定ではないと思います。しかしもっと新しいCPUの場合は5W設定でも、もっと高いスコアを出せるため、そのようなCPUならばある程度実用性があるかもしれません。
一方で基準値の15Wから25Wに上げた場合、マルチコアのスコアはある程度上がりますが、増えた消費電力の割にはスコアの伸びが低いため、1Wあたりの性能は下がっています。ただし、省電力性や静音性が下がっても性能自体は確実に上がるため、パフォーマンスを最優先にしたいケースでは使える設定だと思います。
計測結果を見ると、Core i5-8350Uの場合は10Wから25W辺りの設定が実用的に感じますが、実際intelのWebサイトで公開されている仕様でも、TDPを10Wや25Wに変更できると記述されています。このように近年のCPUは電力制限枠を変更することができ、どのTDPになっているかはPCによって異なっているため、同じCPUを搭載したPC同士でも性能はかなり差があるという場合もあります。
ワットパフォーマンス(消費電力あたりの性能)の変化についての考察
電力制限値 | スコア/電力制限値(pts/W) |
5W | 272.2 |
10W | 224.3 |
15W | 194.3 |
20W | 162.3 |
25W | 140.1 |
マルチコアテスト時のスコアを電力制限の値で割って算出した数値を表にしました。電力制限の値が低くなるほどこの数値は大きくなっています。
この結果から、CPUは電力制限の値を下げると1Wあたりの性能は向上する傾向があり、逆に電力制限の値を上げると1Wあたりの性能は下がる傾向があるという点が読み取れます。このCPUだけでなく、Intelの他のCPUでも同様の傾向になっています。またIntelの製品でもAMDの製品でもこの傾向があります。
5.終わりに
今回は電力制限の値を変えることによって、同じCPUでも性能が大きく変わるという点を実測によって確かめました。近年は同じCPUでもTDPの設定がPCによって大きく違うということもある上に、同じPCでも省電力モード時はTDP10W、高パフォーマンスモード時はTDP25Wに変更されるというケースも存在します。
多くのノートPCでは電源プランの変更や、メーカー独自のユーティリティーによって電力制限を大まかにコントロールできるようになっています。こうした設定によってPCの性能や静音性、バッテリー駆動時間が大きく変化することもあります。例えばあるHPのノートPC(ENVY x360 13-ay0000)では、バッテリー節約モードでは5W付近まで電力制限が掛かりますが、パフォーマンスモードでは25W付近まで電力制限が引き上げられます。このように電力制限を大きく変化させることで、様々なケースに対応できるようになっています。
最近のノートPCは電源プラン設定を変えることによる性能の変化が大きくなっているため、少しでもバッテリー駆動時間を長くしたい場合やパフォーマンスを引き出したい場合は、こうした設定を見直すのも良いでしょう。思いのほか大きく変わるかもしれません。