昨年からよく見かける「Copilot+ PC」という用語、ウインタブでも高性能PCの目安として便利なので記事内でよく使っています。一方で、個人的にはCopilot+ PC以外でも性能の高い、また品質の良いPCはいくらでもあるので、必ずしも「次に買うのはCopilot+ PC」とは思っておりません。
そこで、「ちょっと疑問に感じているところ」も含め、Copilot+ PCとは何か、ということについてこれから解説します。
目次
1.Copilot+ PCの要件
Copilot+ PCは、Microsoftが推進する次世代AI対応PCの新基準です。主な要件は以下のとおりです。
・NPU(AI専用プロセッサ)性能:40 TOPS以上
・RAM:16GB以上
・ストレージ:256GB以上(NVMe SSD)
・Windows 11 Copilot+対応版を搭載
・モダンスタンバイ、Copilotキー推奨
これらを満たすPCが「Copilot+ PC」として認定されます。このうち「CPUの要件=NPU性能が40TOPS以上」というのが最も大きなポイントと言え、逆に言うとCopilot+ PCの要件を満たすCPUを搭載しているパソコンで、CPU以外の要件を満たさず、Copilot+ PCとならないケースは見たことがありません。
NPU性能が40TOPS以上のCPUは意外に数が少ないです。以下に列挙します。
CPUシリーズ | コードネーム | 主な型番 |
Qualcomm Snapdragon X | — | Snapdragon X Elite X1E-78-100 Snapdragon X Plus X1P-42-100 |
Intel Core Ultraシリーズ2 | Lunar Lake | Core Ultra 7 258V Core Ultra 5 226V |
AMD Ryzen AI Max | Strix Halo | Ryzen AI Max+ 395 Ryzen AI Max 390 |
AMD Ryzen AI 300 | Strix Point | Ryzen AI 9 HX 375 Ryzen AI 9 365 |
AMD Ryzen AI 300 | Krackan Point | Ryzen AI 7 350 Ryzen AI 5 340 |
※Lunar Lakeの型番一覧はこちら
※Strix Halo、Strix Point、Krackan Pointの型番一覧はこちら
なお、Intel Core Ultraシリーズ2についてちょっとだけ注意していただきたいことがあります。Core Ultraシリーズ2にはコードネーム「Lunar Lake」と「Arrow Lake」があります。Arrow Lakeは決して性能が低いわけではありませんが、NPU性能が低めでCopilot+ PCの要件を満たしていないため、「Copilot+ PC対応のCPU」ではありません。
参考までに、上に列挙したCPUコードネームのうち、代表的なものの性能数値(スコア)を比較してみます(参考として、上に記載のないCore Ultraシリーズ1・Meteor Lake)の型番も載せます。
CPU | コードネーム | Passmark シングルコア |
Passmark マルチコア |
GPU TFLOPS |
NPU TOPS |
Snapdragon X Elite X1E-78-100 | — | 3,200 | 23,000 | 3.8 | 45 |
Ryzen AI Max+ 395 | Strix Halo | 4,000 | 50,000 | 12.0 | 50 |
Ryzen AI 9 HX 370 | Strix Point | 3,900 | 35,200 | 5.9 | 50 |
Ryzen AI 7 350 | Krackan Point | 3,900 | 24,100 | 3.1 | 50 |
Core Ultra 7 258V | Lunar Lake | 4,000 | 19,000 | 4.0 | 47 |
Core Ultra 7 255H | Arrow Lake | 4,400 | 29,100 | 4.6 | 13 |
Core Ultra 7 155H | Meteor Lake | 3,500 | 24,900 | 4.6 | 11 |
このように、Arrow LakeとMeteor Lake(Core Ultraシリーズ1)のみNPUのTOPS値がCopilot+ PCの要件である40を下回っていますが、PassmarkスコアやGPUのTFLOPS値を見ると、これらの型番は決して性能面で劣っているわけではなくArrow Lakeに関しては「むしろ高性能」です。
冒頭に書いた通り、「Copilot+ PC以外でも性能の高い、また品質の良いPCはいくらでもある」んです。例えばGeForceなどの外部GPUを搭載しないPCでゲームやコンテンツクリエーションをする場合はLunar LakeよりもArrow Lakeのほうが快適、とすら言えます。また、この記事の本筋から外れますが、Ryzen AI MaxシリーズのGPU性能は飛び抜けて高くなっており、「外部GPUいらず」と言えるかもしれません。
2.NPUがないと困るのか?
NPUとGPU、できることに本質的な違いはない
NPUが行うAI処理(AI推論処理)は、GPUでも実行可能です。GPUはもともと並列演算が得意なため、AI推論タスクも問題なく処理できます。技術的には、NPUとGPUで「できることそのもの」に大きな違いはありません。違うのは、消費電力効率と、AI推論に特化しているかどうかだけです。
NPUは消費電力を抑えられるため、ノートPC向けに有利
NPUを使うことの最大のメリットは「少ない電力でAI処理を実行できる」という点です。同じ処理をGPUで行うと数段大きな電力消費となり、特にノートではバッテリー駆動時間が心配になると思われます。
どちらを使うかはソフトウェアが決める
この点、先日某メーカーの方とお話をし、確認しました。NPUでもGPUでも処理できるAIタスクがあった場合、どちらを使うかはソフトウェアの仕様によります。たとえ高性能なNPUを搭載するPCであっても、ソフトウェア側でNPU優先で動く設計になっていなければ、AI処理は引き続きGPUやCPUで行われるだけです。
現状、NPUを活用できているソフトウェアは限られている
2025年現在、PC上でNPUを本格活用しているソフトウェアはごく一部にとどまっています。
代表的なのは、
・Webカメラ映像のリアルタイムぼかし・補正機能
・音声通話時のノイズ除去
といった比較的軽い処理くらいです。高負荷なAI処理(画像生成、自然言語生成など)は、依然としてGPU依存が主流です。よって、あくまで現時点の話ですが「NPUが活躍するシーン」は非常に限定的です。
3.まとめ-NPUは将来に備えた機能、現状では必須とは言えない
NPUは確かに、省電力AI処理において価値あるハードウェアです。特にモバイルノートにとって、バッテリー寿命を伸ばしながらAI機能を使うためには有効な存在となり得ます。
しかし、現時点では
・NPUがなくてもGPUでAI処理はできる
・NPUを活かすにはソフトウェアの最適化が必須
・NPUが活躍するシーンはまだ限られている
という現実も無視できません。NPUは将来性ある技術ですが、現時点でPC選びの絶対条件とは言えません。Copilot+ PCかどうかにこだわらず、 スペックや使用環境を踏まえて、本当に必要なものかを慎重に判断すべきです。
4.関連リンク
【Copilot+ PC】AI とともに、新しい時代へ:Microsoft
インテル® Core™ Ultra プロセッサー:Intel
AMD Ryzen™ AI プロセッサ:AMD
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