うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!マジかあああああああああああああッ!取り乱してすみません。こんにちは、とても冷静ではいられないnatsukiです。新聞広告を見て鳥肌が立つという経験を初めてしました。何かのギャグかと思ったあなた、今日はエイプリルフールじゃないですよ。本当の話です。
ついに、あの、『大漢和辞典』が、デジタル化されました!
目次
1.『大漢和辞典』とは
『大漢和辞典』について
この興奮を分かっていただける方には説明不要かとも思いますが、『大漢和辞典』がなんなのか、ということを、まず。
それは、諸橋轍次博士の主導のもと、増補も含めて実に70年以上の歳月をかけて完成され、大修館より刊行されている、世界最大の漢和辞典です。その収録字数は、実に5万字以上、収録熟語数は53万以上。JIS漢字コードの第4水準までの字数総計が11,233字であることを見ても、その規模のとんでもなさがうかがい知れます。B5サイズの通常版で、全15巻。広辞苑が15冊あるようなもので、物理的にも超弩級です。
大漢和あるある その1 ― 大学だと、キャリーカートで持ち歩いている人がいる
あまりの規模の大きさのため、整理方法や収録語彙の偏りなど、様々な批判はあるにせよ、それでも、漢和辞典の最上位に位置するその地位は揺らぎようがありません。そもそも漢字文化圏における「辞典」とは、ただ「字を調べる」ためののもにとどまらず、「百科事典」や「古典文献のインデックス」的要素も含むもので、かつての中国王朝は国家プロジェクトとしてその作成に取り組んだものです。それらの辞典の頂点に立つ『大漢和辞典』は、まさに「智の集大成」と呼ぶにふさわしい書物です。
日本史、東洋史、古典文学、民俗学 etc.…… 様々な学問分野で、この辞典の恩恵を受けている方々も多いでしょう。学生時代、狭い研究棟の図書室で『大漢和辞典』の書棚の前の席に陣取って、後ろ手に次々に必要な巻を取り出して調べ物にいそしんだのもよい思い出です。
大漢和あるある その2 ― 手を伸ばせば、見なくてもだいたい巻数が分かる
望まれつつ不可能と思われたデジタル化
ともかく、1冊で電話帳2冊分くらい分厚いものが全15巻と、物理的にも巨大な辞書のため、早くからデジタル化が望まれたのも当然です。しかし、その道のりは険しいものでした。そりゃそうだ、一般のPCで表示できる文字が1万字強しかないのに、『大漢和辞典』収録文字数はその約5倍もあるわけだから。現状、こういった漢字を表示するだけでも、「今昔文字鏡」などの特殊なソフトが必要です。
大修館ホームページの『大漢和辞典』に関するQ&Aにも、以下のようにあります。
大修館書店『大漢和辞典』編集部では、諸橋博士の残された偉大な辞典を不滅のものにすべく、長年にわたって、努力を重ねてまいりました。しかし、CD-ROM化に関しては、コンピュータで扱える漢字の数の問題や、『大漢和辞典』そのものの巨大さがネックとなって、一朝一夕には実現できない状況です。現在、技術的な問題をクリアすべく研究を続けている段階ですので、少し長い目で見守っていただければと存じます。
なお、記事執筆現在このQ&Aは閲覧可能ですが、実現したので、早晩消されると思います。
ということで、大修館から研究を続けているとのアナウンスはあるものの、実際には商品化は困難であると思われてきました。それが、ついに、ここに実現したのです!とはいえ、フォントというシステムの根本に関わる問題をはじめ、あまりにも巨大な辞書のため、特殊な仕様や機能上の制限も心配ですので、そのあたりも見てみたいと思います。
2.USBメモリによるオフラインでの提供
購入した場合、USBメモリで提供されます。このUSBメモリにより、1台のPCにインストールが可能です。日本では、いまだにCD-ROMでソフトを提供する慣行が根強く残っていますが、ウインタブでもたびたび触れるように、最近のスタンダードノートは光学ドライブを省く場合も多いので、USBメモリでの提供は歓迎できるでしょう。化粧箱付きで、「持つ喜び」も感じられます。一方、ダウンロード版はありません。
1台までという厳しいライセンスの縛り
さて、1台のPCでしか使えないというのはいかにも不便です。1台限定というのを、どういう手段で行うのかはアナウンスされていないのですが、よくあるライセンス認証形式なら、せめて2台にしたり、ライセンスの追加購入を可能にしたり、といったことも考えて欲しいところです。
1人1台で販売開始してしまった以上、この製品のライセンスを変えるわけにはいかないでしょうが、勝手な予想としては、今後、複数ライセンス版は発売されるんじゃないかと思っています。だって、真っ先にこの製品を欲しがるのは、大学図書館などの研究機関でしょう。そういった組織で使うのに、1人1台では購入しようがありませんから。願わくば、個人向けの追加ライセンスの販売もして欲しい。いっそのこと、ソフト音源なんかでよくあるようなUSB認証でもよかったかも。
まず不可能と思われるオンライン版
この手の製品の中には、オンラインで提供されているものもあります。「ブリタニカ・オンライン」が代表的でしょう。これなら、インターネット接続は必須ですが、1つのライセンスで、複数の端末から使えます。が、『大漢和辞典』については、これは今後も提供されないと思われます。言わずもがな、フォントの問題です。なにしろ、収録字数の3/4以上が、通常のPCでは表示できないわけで、『大漢和辞典』を表示するために、専用のソフトやフォントのインストールが必要であり、だったらはじめからオフラインでいいじゃん、って事になりますからね。
3.機能
機能については、まだ実際に動作している動画も公開されていないので、あまり細かいことは言えません。現時点で気になった点だけを、いくつかピックアップしていきます。
感涙の「親字検索」機能
メインの親字検索機能は、非常に期待できます。いままでの『大漢和辞典』の最大のネックは、検索のやりづらさにあるというのは、多くの方が同意してくれるんじゃないでしょうか。画数は、同じ画数の文字があまりに多すぎて意味をなさず、読みは旧仮名遣いで、部首も伝統的なものに則っているので順番や分類が一般的な感覚と違い、四角号碼は普通の人は使えない。「四角号碼」って知ってます?
大漢和あるある その3 ― 索引で引くより、自分の感覚に頼った方が早い
それが、「部首/総画/音訓/部品の複合検索に対応」とのこと。いや、機能としてはデジタル辞書としては当たり前なんですが、それを『大漢和辞典』で使えるという、この一事でえもいわれぬ感動があるわけです。あとは、是非、「音訓」は新旧両仮名遣いに対応していてもらいたいところですが、特にアナウンスはありません。どうなんだろう? ところで、「部品検索」って、どうなるんでしょうね? 「一覧から選択」とありますが、四角号碼のデジタル対応版? これも興味深いところです。
オミットされてしまった「語彙索引」
書籍版『大漢和辞典』には、別冊で「語彙索引」というものがついています。要するに熟語の索引です。と、簡単に言ったって、収録数53万以上ですからね。全部は網羅できず、主要なもののみとなっています。そしてこれは、デジタル版では実装されませんでした。ううむ、痛い。ただし、書籍版『大漢和辞典』では、親字検索が苦行のようなやりづらさだったからこそ、この「語彙索引」が活きてきたという面があるので、親字索引の困難が解消されたデジタル版では、なくてもさほど不便は感じないのかもしれません。こればかりは、使ってみた感覚でないと分かりませんなぁ。
ページビューアはマルチウインドウ対応
これも当たり前かもしれませんが、重要なところですよね。『大漢和辞典』を使うほどの用例や熟語だと、複数の漢字を同時に参照する必要性が高いですから。
大漢和あるある その4 ― しおりは、ぺらぺらの普通のじゃなくて、他の本
デジタル版では、マルチウインドウ対応で、複数の文字を並べて表示可能です。もちろん、拡大も可能です。
タブレットでの使用感も期待?
大修館のホームページのスライド画像では、タブレットでデジタル版『大漢和辞典』を使用していますが、公開されている限りのインターフェースだと、入力項目のウインドウが小さく、とてもタッチフレンドリーには見えません。インストールに必要な空き容量20GBというのも、ストレージが小さめな一般的なタブレットには苦しいでしょう。
ただ、検索に必要な「部首/総画/音訓/部品」といった要素は、キーボードによる入力をさほど必要とするものではありません。入力インターフェースの使い勝手次第では、案外相性がいいのかも…… これも、使ってみないことには分かりませんね。
用例などから他の文字へのリンクは?
百科事典系では定番の、他の項目へのリンクですが、「『……に通ず』といった本文中の参照字は、大漢和番号を入力してジャンプできます。」とのことで、思わず「直リンクじゃねぇのかよ」とツッこんでしまいますが、よくよく考えてみれば、漢字ひと文字ひと文字にリンクを張るわけにもいきません。リンクについて考慮してくれてはいるようですが、これも、「大漢和番号を入力してジャンプ」という操作が具体的にどういう動きなのか想像しづらいので、使ってみないことにはなんとも言えない部分です。
「お気に入り」「付箋」などのメモ機能も
「お気に入り」に、よく調べる漢字を登録できます。また、「調べたページにメモを付けて登録できる『付箋』機能も搭載」とのこと。メモの使い勝手にもよりますが、これはありがたい。自分で、他の文献の用例とかも足していけますから。
4.価格と動作環境
発売日は11月28日。9月10日より特設サイトで予約販売が始まっています。
価格は、税別130,000円のところを、発売特価で、2019年3月末まで税別100,000円。書籍版が税別240,000円なので、妥当な価格でしょう。古本だと、だいたい1/10の2万円台半ばが相場ですけどね。ポンと出せる金額ではないものの、この価格分の価値が十分すぎるほどにあるということは、これまで『大漢和辞典』を使ってきた人はよくご存じのはずですから。価格そのものには納得なので、だから、あの、もうちょっとライセンスの縛りをですね……
動作環境は以下の通り。
対応OS: Windows7/8.1/10
CPU: Core i3以上推奨
メモリ: 4GB以上推奨
モニター解像度: 1280 × 720ピクセル以上推奨
ストレージ空き容量: 20GB以上
OSはWindowsしか対応しません。CPUにはそんなに負荷がかかることは無いと思いますが、なにしろ、特殊な文字を大量に使っているので、メモリは食うのかな? あと、データをまるまるインストールするため、ストレージの空き容量がそれなりに必要なことは注意ですね。
いまどきのWindowsソフトとしては、そんなにスペックを要求しているわけではないんですが、それでも、個人的には、CPUの要求がちょっと高いなと感じてしまいました。というのは、「辞書」という性質上、作業している画面とは別の画面で表示していたい。マルチディスプレイならいいんですが、よく使う人なら、いっそのこと、『大漢和辞典』専用PCを作ってしまうというのも手だと思うんですよ。もしも、タッチ操作での使い勝手がそんなに悪くないなら、CPU:Celeron N3450、RAM:4GB、ROM:64GB、解像度:FHDくらいのタブレットPCで運用するのってステキだと思いませんか? そのくらいのスペックなら中華タブなら2万強で買えるのもあるし、という夢が広がるんですが。もっとも、Core i3といっても世代によって性能はピンキリなので、Celeron N3450なら十分いけそうな気もします。Atom x5-Z8350じゃさすがにきついかなぁ……
5.まとめ
「知識の集約」というのは、学問にとって必要不可欠な要素であるとともに、また夢でもあります。歴代中国王朝は、書物の編纂事業を通して政権の正当性を主張しましたし、西洋近代科学は啓蒙思想家達が集結した『百科全書』の刊行によって飛躍的な進歩を遂げました。この『大漢和辞典』も、諸橋轍次博士が生涯をかけ、多くの人々がともに追いかけた夢であり、それはデジタル化というさらなる夢へと受け継がれました。いま、その夢が、ここにいちおうの完結をみたのです。大仰な言い方ですが、この書物は、そう言うに足る実用性と影響力と、そして物語を備えています。興味を持った方は、『大漢和辞典を読む』も、是非ご一読を。
実際に購入するのは、ある程度専門的に漢文を読む人に限られるとは思いますが、これは、達成することそのものが大きな意味を持つプロジェクトです。これだけの偉業に取り組み、成し遂げた大修館書店には、最大限の賛辞を送りたいと思います。
6.関連リンク
大漢和辞典 デジタル版:大修館書店
コメント
>1台限定というのを、どういう手段で行うのか
のとこですけど、複数PCにインストールはできるけど、起動するにはUSBドングルが必要とかじゃないですかね?HASPキーとか。
興奮してるのはわかるけどどんな読者層に刺さる記事なのかは疑問。
これを喜ぶのは、ごく一部の学生や研究者だろうけど、当代の知識を体系化して後世に残す文化事業はとても大切なことなので、出版社には敬意を表したい
…ローマ法大全のデジタル版もお願いシマッス…
画像で出せばフォントとかいらないじゃん
無くても困らないけど欲しいw
普段ここを見る層にはあまり刺さらないかもしれないけれど、大漢和大辞典で凄く苦労してきた層には刺さるよねっと。欲しいわ
これ用にPC一台用意してね
って仕様なわけですね
このブログで熱く語る内容かとは思いつつ(笑)
何度か古本で揃えてやれと決心した記憶が。
みなさま、コメントありがとうございます。
こういうものがある、というのを多くの人に知ってもらいたいという思いもあり、また、私の知る限り、文系であろうとなんらかの研究職に就いている人は、ガジェットマニア・パソコンマニア率も高いので、案外ウインタブ読者層にも分かる人が多いんじゃないかと思って書きました。
それに単純に、知識の集成というだけで惹かれるものがあるというのは、共感してくださる方も多いと思います。漢文さえ読めれば、辞書や図鑑をついつい読み込んじゃうような人にとっては、まさに神のような本です。
> ずめんさん
その形式であることを願っています。それはそれで、タブレットと相性悪いんですけれどね。
> 3.匿名さん
ローマ法大全はこちらなんかどうでしょう。
https://home.hiroshima-u.ac.jp/tatyoshi/Sources.htm
史料に関しては、漢籍資料ですらデータベース化がかなり進んでいるので、ましてやアルファベットのものは、世界史教科書レベルに有名なものは、たいていどこかがデータベース化してくれていますね。
> 4.匿名さん
実は、その辺の仕様も気になるところで、むしろ、これって選択とかコピペとかできるよね……? まさか画像ファイルじゃないよね? という一抹の不安もあったりします。
> かぜさん
なにしろ、書籍の方が、「据え置き型辞書」ですから(笑)
大学図書館なんかなら、『大漢和辭典』専用PCを何台か置いておいてもいいと思います。かなりマジで。
30年程前に大学で東洋史を専攻した際、大漢和辞典には大変お世話になりました。懐かしい。デジタル化の興奮はわかる人にしかわからないと思いますが、まさかここの記事で知ることになるとは(笑)。
辞書系はOSのメモリーを食いすぎるので気をつけてくださいw
歴史好きの自分としては、今回の記事は
「素晴らしい!」の一言です。
もちろん買--いたいんだけど、ま、まあ財布と相談して(汗)。
高値ですからね(^_^;)。
次の記事も、楽しみにしていますね。
コメントありがとうございます。
> 10.匿名さん
東洋史は、大漢和なくしては成立しませんもんね。他の分野も含め、大学時代に大漢和と格闘したという、共通の思い出を持つ人って、実はかなりいると思います。
> なおさん
やはりメモリーは食いますか。中華タブだと、6GBとか、ときには8GB積んでるのもあるから、中華タブこそ最適かもしれないですね。Tbook 16 Power(CPU:x7-Z8750、RAM:8GB)とか。こういう偏ったスペックは、大手は出さないですからね。
> 12.匿名さん
そういっていただけると、すごく励みになります。せっかくのライターという立場なので、ウインタブのストライクゾーンを、あえてちょっと外すような(笑)ネタもお送りできればと思っています。今後ともよろしくお願いします。
ちなみに、新発売記念価格は来年3月までです。時間はあるので、ゆっくり購入を迷いましょう。