ポメラやテプラなど、独特の文具を開発するキングジムが、また面白そうな製品を発表しました。電子ペーパーを利用したメモ帳「カクミル」です。決して、どっかの小説投稿サイトではありません。最新のポメラと言い、キングジムでも電子ペーパーはブームのようですね。この製品、注目のしどころは二つあって、一つは、「電子ペーパーを使った手書きメモ」という製品特性、そして、もう一つは、クラウドファンディングを利用している、ということです。
1.どんな製品?
概要
まずは、どんな製品なのか、ということですが、電子ペーパーの卓上メモです。キングジムらしい、機能を限定したシンプルなコンセプト。要するに、電子ペーパーに書き込んだものが99枚保存できます、ってものです。ポメラでも「あえて言おう、メモであると!」というフレーズがありましたが、ポメラがキーボード入力であるのに対し、これは手書きということになります。テキストではなく、あくまで書き込んだ「図像」を保存するということですね。
それから、この製品特徴を端的に表すのが、電源を入れる、切るという概念がないということ。内部的には、書き始めれば自動で電源が入り、書き終わると切れるようですが、電子ペーパーなので、電源が入っていなくても表示は消えません。なので、使う側からすると、電源のON/OFFというものはないわけです。
台形の筐体で、書くときは平置きで、普段は見やすいように縦置きもできます。縦に置いたときは、回転感知で画面も自動的に回転します。ペンは磁石でくっつくようになっていて、デザイン的にもスッキリしています。
実はこの製品は、液晶画面の「マメモ」という前身機がありまして、まったく新しいコンセプトの製品というわけではありません。マメモは、卓上型の「TM1」と、ポケットタイプの「TM2」があり、「TM2」は生産終了しているのに対して、「TM1」は生産を継続していて、それなりに売れ続けているようです。形状からしても、この「カクミル」は、「マメモ TM1」を、液晶画面を電子ペーパーにして、全体的にスペックアップした後継機種、ということになるでしょう。
細かいスペック
スペックを細かく見てみると、以下の通りです。
画面:4.3inch(56.2×93.65mm)
E Ink社 電子ペーパーディスプレイ
解像度:480×800dot
タッチパネル:抵抗膜方式
電源:単3形アルカリ乾電池 または エネループ × 4本
電池寿命:未定
本体サイズ:93(W)×41(D)×132(H)mm
質量:約200g ※電池含まず
データ保存先:本体メモリ(メモ:最大99枚、ToDo:最大30件)
インターフェイス:microSDカード
機能:メモ、ToDoリスト、カレンダー、時計、電卓(10桁表示)
画面は、TM1が3.08インチ(縦159×横256dot)、TM2が3.42インチ(縦320×横239dot)だったので、一回り大きくなり、その分、重量も増してます。マメモは、ディスプレイがかなり小さかったのですが、カクミルは実際のメモ帳に近いサイズになりました。また、解像度も大幅に向上しています。タッチパネルは、「抵抗膜方式」とのことですが、これはいわゆる「感圧式」です。Nintendo DSなんかと同じですね。一般に、繊細性で劣るとは言われますが、マメモもこの方式ですし、そこは手慣れたキングジムなので実用面での心配は要らないでしょう。イラストを描くようなものではないので、筆圧感知とかアバウトで構いませんからね。ペンに電池が要らないのも、手軽でよいところです。
メモは99枚まで保存可能。一方で、仕様が未定なのが、「microSDカードに出力可能」という部分です。まさかOCR機能とかはつけようがないはずなので、画像出力だとは思いますが、どういうことを想定しているのか興味深いところです。
その他、ToDoリスト、カレンダー、時計、電卓の機能が付きます。面白いのは時計の目覚まし機能で、決まった時間に目覚ましとともに特定のメモを表示することが可能です。ToDoの亜種としての使い方が可能というわけです。
2.クラウドファンディング「Makuake」の活用
さて、この「カクミル」、クラウドファンディングで開発資金を集めるという手法をとっています。キングジムがこの「Makuake」を利用するのは初めてではなく、昨年、「トレネ」という、「荷物番」をしてくれるガジェットという、これまたニッチな製品の開発に利用しています。また、ポメラの海外版をキックスターターに出したりもしていますね。
ウインタブでもよく取りあげているように、近年、海外のメーカーで挑戦的な製品をクラウドファンディングで開発するという例が増えています。あるいは、必ずしもクラウドファンディングで開発費を調達する必要がないものの、宣伝戦略の一環として利用していると思われる例も見られます。つい先日の記事のGDP Pocket2なんかは、開発費はともかく、ニッチな製品には違いないので、クラウドファンディングも重要な販路の一つなんでしょうね。余談ですが、このところ仕事で激務が続いていまして、この記事は出張先での息抜きに初代GPD Pocketで作成しております。出張の話を戻して、日本の大手国内メーカーでクラウドファンディングを利用する例はまだまだ少ないですが、ニッチなアイデア商品を輩出してきたキングジムの場合は、確かに、企業の性格としてもクラウドファンディングと相性がいいのかもしれません。
価格
価格を見ておきます。さすがに、キングジムなので金銭に関しての間違いはないでしょう。ここは、最悪出資金が戻ってこない場合も覚悟する必要がある一般的なクラウドファンディングと違って、安心できるところです。ただし、出資金が目標額に達しない場合は、商品開発を断念するとのことです。で、出資コースの額をみると、クラウドファンディングにした理由がなんとなくわかります。
公式の「ストーリー」としては、企画を出したんだけど社内でぽしゃって、泣きの一手でクラウドファンディングで資金が集まったならいいだろう、ということになったらしいですが、要は、おそらくコスパですね。
現在、早い者勝ちの安めの早期出資者枠はだんだんと埋まってきて、記事執筆時点で残っているのは13,000円のものです。参考までに、前身機「マメモ TM1」は、定価税抜き5,980円で、発売から8年が経過した現在、実売2,000円~3,000円といったところです。マメモ TM1の生産が8年間続いているってことは、それなりのニーズはあるということです。ただ、いくら全体的にスペックアップして、電子ペーパーを使っているからと言って、正直、一般的な市場では、この値段はなかなか厳しいのではないでしょうか。この製品に食指が動くのは、この製品の特性をよく分かってニーズがあり、かつ電子ペーパーの良さも理解している、というより、電子ペーパーであることに一種のこだわりを持つ人でしょう。うん、そりゃ、クラウドファンディングだな。キングジムからすれば、この出品は、この価格で売れるかどうかの市場調査も兼ねているんでしょうね。
出資スケジュール
スケジュールは、7月25日にプロジェクトが開始しまして、出資締め切りは10月30日。それまでに、目標資金1,000万円が集まらなければ、プロジェクトは不成立となります。プロジェクト成立の際は、2019年4月に製品が届く予定。出資者特典としては、6種類から色を選べます。
3.まとめ ― 成立できるか?
キングジムらしい、刺さる人には刺さる製品だと思います。個人的には、単なる画像データというだけでいいので、書いたメモをBluetoothなどでスマホに飛ばす機能が欲しかったところですが。機能に対しての価格的には、はっきり言って「ロマン枠」でしょう。あとは、実績のあるキングジムなので、製造側の事情からすればまっとうな価格であろうことと、使用感を現在の技術でできる限りの高水準にまとめてくるであろうことは、信頼してよいと思います。
出資状況は、プロジェクト開始から2日間で資金調達率50%を達成するも、記事執筆時点で5日間が経ち、資金調達率は約65%。13,000円コースが売り切れれば、成立といった感じです。成立するかどうか、なかなか微妙なところですね。このくらいだと、出資して成立した暁には、「俺が出資してやったおかげでこの製品は世に出た」と悦に入ることもできるかもしれません。そもそも、こんな製品、キングジム以外には作らないでしょうから、価格にかかわらず、唯一無二の製品であることは間違いありません。コスパに釣り合わない分は、ニッチで挑戦的な製品を輩出する数少ない日本企業であるキングジムへの応援と、電子ペーパーへの愛情で補って、一考の余地はあると思うんですがどうでしょうか?
コメント
高いな
電子ペーパー愛好者としてつい勢いで13000円をポチってしまいました。
natsuki様、一緒に祈りましょう。
画面も小さいし解像度も低いし1980円位が妥当でしょ
1980円でもいらないけど
3000〜4000円位で売り始めて
あきばお~で980円で投げ売りされて終わる気がする
コメントありがとうございます。
価格は、ロマンです。そりゃあ、もう。
商業的に勝負できる価格なら、クラウドファンディングを使わずに、普通に販売すればいいだけなので。
買う側からすると、はじめから費用対効果は度外視。「キングジムしか作ることのできない」という部分を評価するかどうかという製品ですね。
まじめに、一般流通用の製品として、機能と価格のバランスを考えてみると、マメモTM1が定価約6000円、発売から数年した実売価格が2000円台半ば~3000円程度でロングセラーとなっていることを考えると、スペック差から、定価7000円の、落ち着いた実売価格で4000円あたりが、一般消費者に売れるぎりぎりの価格でしょう。でも、それでは電子ペーパーを利用した端末では、採算は取れないので、やっぱりクラウドファンディングで行くしかなかった製品だと思います。
こういう、商業的な成功を度外視した製品に挑む日本企業は少なくなってしまいましたから、その応援の気持ちを込めて、今回の記事を書かせていただきました。
H.B様、ともに祈りましょう。現在、75%……
何か、割とあっさり成立しましたね…。
とりあえず、どんなものが手元に来るかを楽しみに待っています。