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Atomの発熱と性能について(読者投稿記事: 渋谷Hさん)

Intel Atom
こんにちは、ウインタブ(@WTab8)です。今回は読者投稿記事を掲載します。「渋谷Hさん」が投稿してくださったのですが、ウインタブでやっている読者レビュー企画でも、ライター企画でもなく、自発的にご執筆され、「興味があったら記事にして下さい」ということでお送りいただきました。興味ありますとも!そして読者の方々にも参考になる内容ですよ。公開情報を元にきめ細かい調査と考察をされています。

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本当はコメント欄を開放して読者の方々とディスカッションができれば最高なんですけど、原則的に私以外の方に執筆していただいた記事ではコメント欄を閉鎖することにしています(理由はお察し下さい)ので、この記事でも泣く泣くそのルールに従っております。では渋谷Hさんの力作をどうぞ!

1.はじめに

BayTrail/CharryTrailの代になり、AtomはWindowsを快適に動かすための一つの基準、Vistaの要求性能を満たすようになりました。Passmarkスコア2000弱という数字は9年前のミッドレンジPC(Core2 Duo E8400 2180)、6年前のバリューPC(Celeron E3500 1403)やミッドレンジノート(Core i3-350M 1908)に匹敵する性能です。加えてIntelの内蔵GPUはCPU以上の速度で強化がなされ、動画再生支援なども最新のものになっていますから、5年前のノートPCやバリューPCを使っているなら最新タブレットのほうが快適というレビューが出るのも自然なことと思います。

参考サイト:ドスパラ「Diginnos Stick DG-STK2S」:PC Watch 西川和久の不定期コラム

しかし、Atom(特にCherryTrail)は“長時間フル稼働させ続けようとするとベンチマークほどの性能が出ない”という特性があるようで、重いゲームに向かないのもそのためのようです。その原因を公開されている情報から掘り下げてみました。

2.放熱性能の限界

IntelはAtomの消費電力について、フルパワーで稼働させたときの消費電力であるサーマル・デザイン・パワー(TDP)ではなく、「典型的な使い方」をした時の消費電力であるシナリオ・デザイン・パワー(SDP)のみを公開しています。

参考サイト:Intel Atom x7-Z8700 Processor:Intel公式サイト

このSDPは少々曲者で、「典型的な使い方」をした時の単なる目安というわけではなく、メーカーが「熱設計を簡素化できることを目的」とした数字とIntelは謳っており、機械の放熱設計の参考にするよう求めています。Atomの仕様表にはTDPが掲載されておらず、実際の製品もSDP基準の放熱設計となっているようです。

参考サイト:7WのSDPを実現するIntel「Yプロセッサ」の正体:PC Watch 笠原一輝のユビキタス情報局

仮にSDPに基づいた放熱設計の機械でCPUをフル稼働させたならば、最初の数秒はCPUの温度が低いため問題ありませんが、放熱性能の低さゆえにすぐに温度が上がってしまい、しばらくすると保護のために周波数を下げざるを得ないということが起きるでしょう。この問題は表面積が小さく放熱性能の低いスティックPCでは顕著に現れます。例えば、周波数の同じBayTrailのスティックPCとノートで比較した記事では、ノート型のほうが放熱性能が良く最大周波数を維持できる時間を長くできるため、ベンチマークの成績が良くなっています。

参考サイト:m-Stick MS-NH1:使ってわかった2万円切りスティック型PCの実力|デジギア一点突破

CherryTrailは内蔵GPUの性能が上がっており、ドスパラ関係者のいう通り発熱=最大消費電力もそれに応じて上がっているようで、CPUと内蔵GPUを同時に最大周波数で動かせるのは短時間のようです。

参考サイト:最速、最新にこだわるドスパラの製品展示会に参加してきました:ウインタブ

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PCMark 8
PC Mark 8
バージョン2 Home(accelerated)/詳細を見ると、クロックはほぼ1.84GHzで作動しているのが分かる。Casual GamingとVideo Chatだけ急激にクロックが落ちているが、替りにGPUが活発化し温度が一番高い状態になる。
引用元:ドスパラ「Diginnos Stick DG-STK2S」:PC Watch 西川和久の不定期コラム

現行Atomはベンチマークの数字上は一昔前のバリューPCに匹敵する性能ですが、その性能を発揮できるのはネットサーフィンやOfficeソフトの使用など「一瞬だけフル稼働してもっさり感をなくす」といった状況で発揮されるもので、長時間CPU・GPUともにフル稼働するようなゲームでの利用は想定しておらず、もし実行しても放熱がボトルネックとなって能力をフルには発揮できないのが実情といえるでしょう。タブレットはスティックPCに比べれば表面積が大きい分だけ放熱性能が良くフル稼働する時間が伸びますが、実際にそうすると電池を倍以上の速度で消費してしまい、軽さが求められるタブレットではそれを前提としないのは致し方ないと思います。

参考までに、IntelはミニPC向けにx7-Z8700同等性能のPentium N3700(TDP 6W, SDP4W)という製品を出荷していますが、
N3700 ITX
画像のようにN3700の上には大きなヒートシンクが設置されています。スティックPCのシステム全体の最大消費電力は7~8W程度とされていますが、フル稼働させ続けるにはこの程度の放熱器が必要のようです。

3.CPU以外の消費電力

現行Atomは放熱性能の問題を除けばしばらく前のバリューPCやノートPCに匹敵する性能を発揮しますから、それらのPCと同じようにメイン機として使えるようにしたいという声も少なくありません。そのためにメモリやUSB3.0ポートの増量、ストレージの高速化を求める声もしばしば聞かれます。

ローエンドのAtom
x5-Z8300でこれなのだから、Atom x7-Z8700搭載のスティックタイプがあれば面白そうだ。メモリは4GBだとさらにGoodだろうか。
引用元:ドスパラ「Diginnos Stick DG-STK2S」:PC Watch 西川和久の不定期コラム

しかしタブレットやスティックPCのように限界まで電力消費・発熱を抑える必要がある場合には、メモリやUSBポートの消費電力も決して無視できません。例えばPCIe、ディスク、USBなどとの通信を担当するチップセットの消費電力(TDP)は、デスクトップ向けで6W、モバイル向けでも3W程度となっています。

参考サイト:インテル 製品の仕様情報:Intel公式サイト

Atom(CPU+GPU+チップセット)のSDPはわずか2W、TDPも3~4W程度と推定され、デスクトップ機ではUSBやHDDとの通信だけでAtom以上の電力を消費していることになります。デスクトップ機でこの程度は誤差でしょうが、タブレットやスティックPCでは大きな問題です。USB3.0は高速な分消費電力も相応に増えるでしょうし、バスパワーのことも考えればそうそう簡単に増やせるものでもないでしょう。メモリを増量した場合、1W変わるか変わらないか程度とは思いますが、スティックPCがシステム全体で負荷時7W程度であることを考えれば設計者にとっては難しいところでしょう。

CherryTrailの潜在能力をフルに発揮できるメイン機として使うならば、USB3.0やSATAを増設する余力のある電源を備え、大きな放熱器をもったミニPCやネットトップ、中国でいうTVボックスにするのが適切なのでしょう。ヘビーに使うメイン機がほしいのであれば、適当な既製品のミニPCかベアボーンのほうが良い選択でしょう。タブレットやスティックPCの魅力はそれ以外のところにあると思います。

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