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省電力性をアピールするMeteor lake(次期 Core Ultra)

省電力性をアピールするMeteor Lake
最近、Intelのメディア向け説明会が2023年8月のマレーシアでのTech Tour(メディア向け工場見学会、配布資料一覧)、2023年9月のIntel Innovation 2023で相次いで開催され、Intelの主力CPUで初めてチップレット(タイル)を採用するMeteor lakeについての技術的な説明がされました(資料)。今回は、そこで行われた説明、特に省電力アピールについて読み解いていきたいと思います。

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発売時期

今回Meteor lakeの「公式リリース」は2023年12月14日と明かされました。私の過去の記事では「順調にいけば8~9月ごろに出荷開始……年末商戦にはある程度商品が出そろっている程度」と予想していましたが、これより遅くなりそうです。

ただ、開発が遅れているわけでもないようです。Intel 4はTiger lakeの代の10nmより歩留まりが高く、Foveros工程での歩留まりも2021年時点で86%超と十分許容範囲内と説明されており、Ice lakeのような状況ではないようです。Geekbenchデータベースにメーカー製試作機のベンチマークがリークしていますが、通例このようなリークの2~4か月後には実機が発売されることを考えると、最速なら年末商戦に間に合いそうにも見えます。

ただ、Tech Tourでの質疑応答(ASCII)やメディア向けスライドから、Intel 4、Foverosともに量産工場が今年後半~来年にならないと立ち上がらず、今現在は本来量産向けではないオレゴンの開発Fabで「仮量産」のような状態であることが読み取れ、技術的には成熟しているが量が確保できないのが遅れの原因のようです。量産工場は2020~21年に建設が開始されており、そのころは新型コロナウイルス流行によるロックダウンで製造装置の納品が遅れているというニュースが複数流れていましたので、その影響が今出ているというのが私の推測です。

省電力性をアピールするMeteor Lake

Intel 4の歩留まり(左)とFoverosの生産能力(右)

この世代からCore Ultraというブランド名が導入され、「Core Ultraは、IntelのCPU製品の中で最新世代であることを示すブランド名となり……以前から使われてきたUltraのつかないCoreブランドも残される」(PCWatch)とされますが、2世代を併売するためのブランド名変更は、最新世代の出荷量がしばらく少なそうなことが原因ではないかと推測できます。

性能

今回の発表では、CPUの性能アピールはほとんどありませんでした。リークの情報とも合わせると、私の過去の記事の予想から大きな変化はなく、シングルスレッド性能は第13世代のノート向けと変わらず、マルチスレッド性能はコア数・TDPが同じなら20%増程度で、末尾”P”や”M”のセグメントはコア数増によって40%増程度になることもある、というところに落ち着きそうです。

GPUは以前の記事では第13世代の約1.3~1.5倍と予想していましたが、今回の発表では同じ電力で性能2倍とアピールされており、これについては一定の信憑性が置けるというのが今の私の意見ですが、これはまた後に説明します。

“Low Power Island” ―― 省電力特化コア

性能アピールが少ない中で、今回の発表の中心は省電力アピールでした。

Meteor lakeの真ん中にあるSoCタイルには、低消費電力特化ユニットが複数配置されています(プレゼンでは”Low Power Island”というキャッチフレーズを付けていました)。特にバッテリー駆動時に、これら低消費電力ユニットを優先して使い、電気食いの高性能タイルをなるべくスリープさせるという戦略と説明されています。

これが生まれた遠因は、内蔵GPUが別タイルになったことです。近年のインテルのCPUでは各コアを共有L3キャッシュ付きの高速(1000 GB/s程度)なリングバス(回覧板方式の伝達)で繋いでおり、Raptor lakeまではその輪の中に内蔵GPUも入っていました。しかし、タイル分割に伴い遠く離れたGPUタイルまでリングバスの輪に入れると、時間と消費電力の無駄が多くなるため、高速リングバスから内蔵GPUを切り離すことになります。

ここで、分割されたCPUと内蔵GPUのどちらにもメインメモリへのアクセス手段を用意する必要がありますが、Meteor lakeでは、メモリコントローラとリングバスを繋いでいた通信線(System Agent)を引き延ばし、CPUとGPUの両方がアクセスできる中速(市販の最高速メモリと同等の128 GB/sの帯域幅)の共有バスが作られ、さらにここに低消費電力特化ユニットを追加した格好です。このバスはNOC (Network on Chip) Fabricと名付けられており、クロスバースイッチのような構造で新規ユニットも追加しやすいと説明されています。

省電力性をアピールするMeteor Lake

NOC (Networkon Chip) Fabric導入の概要図(筆者作成)

LP-Eコア

追加された低消費電力特化ユニットで最も特徴的なのはLP-Eコアです。CPUコアながらSoCタイル側に2コアあり、論理設計はEコアと同じで、物理設計がさらに低クロック寄りになっているようです。

このユニットの追加目的は、低負荷時にCPUタイルを休ませることにあります。先ほど説明した高速リングバスはそれ自体が一定の電力を消費しますが、Eコア一つで済むような低負荷で高速バスを回すのはオーバースペックで電力を使いすぎです(公式説明では動画デコーダも例に上がっています)。このため、Meteor lakeのThread Directorは「Eコア1つか2つだけの時はCPUタイルを休ませる」「ゲームのように常時Pコアが回るようなアプリでは常にCPUタイルが使われる」と説明されています(公式説明動画):

1.アイドル状態であるならば、新しい処理はまずLP-Eコアで行う。
 a. LP-Eコアで手に余るなら、順次Eコア→Pコアに昇格させる
2.Pコアがすでに動いているならば、新しい処理も最初からCPUタイルで行う。
 a. “Eコア1つだけには過剰”なだけで、相乗りする分には高速なほうが良い
3.CPUタイルが「Eコア2つだけ」レベルに落ちたらLP-Eコアへの移行を試みる

筆者が以前に作成した動画で、最近のARM CPUがシングル性能のPrime・マルチ性能のBig・省電力性のLittleの3種のコアを持つことと対照したとき、Alder lakeのEコアはマルチ性能重視で省電力性が微妙、結果PコアがPrime・EコアはBigという役割になっていてLittleコアが欠落していると指摘しました。LP-Eコアは純粋に省電力用途のためで、今回のインテルの説明でもシングルがPコア、マルチがEコア、省電力がLP-Eコアの担当と説明されています。

この変更は、「待機中でスマホ並みの処理しかしないならスマホ並みの消費電力に」という方向性でバッテリー持ちの改善を目指しています。PCはスマホに比べ高速で電力を食う周辺機器を使っていること、スマホは「今使っているアプリ以外をOSが勝手に停止する」設計なのに対しPCは並列実行が普通であることから、完全に同じとはいかないでしょうが、ある程度の省電力性を期待してもよいでしょう。

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省電力性をアピールするMeteor Lake

シングル性能はPコア、マルチ性能はEコア、省電力性能をLP-Eコアが担当する「Prime-Big-Little型」であることを説明するスライド

動画デコーダ

“中速バス”上にはGPUから分離された動画デコーダとHDMI等の画面出力ユニットが配置されており、SSDやWiFiを束ねる周辺機器用バスもここにつながっています。このため、Youtubeの動画を(ライブチャットなどをせず)再生するだけならSoCタイル上の低電力ユニット群(WiFi-→LP-E→デコーダ→画面出力)で完結でき、CPUやGPUを回さず再生するデモがイベントでも行われています。

バッテリー駆動時間のベンチマークにはJEITA2.0をはじめとして動画連続再生時間がよく用いられますが、この数字はだいぶ改善するでしょう。実用上も、タブレットで見る用途が主であれば相応にバッテリー持ちがよくなる恩恵を受けるのではないかと思います。

省電力性をアピールするMeteor Lake

(a)旧来のアーキテクチャでは動画再生のためにメディアデコーダを動かすためだけに太いリングバスを走らせる必要があったとするスライド
(b)Meteor lake以降、動画再生だけならSoCタイル内で完結するとするスライド
(c)SoCタイルにある低電力特化コア群の一覧

NPU(AIコア)

NPU (Neural Processing Unit)は、特に深層学習を利用したAIを効率的に処理するためのユニットです。今回Intelが示した例では、画像生成AIでCPUの¼の電力で2倍の速度、GPUの¼の電力で0.75倍の速度となっており、SoCタイルの一部を占めているに過ぎない「おまけコア」ながら高い性能を発揮しています。

スマホではカメラの画質改善にAIコアが盛んに使われており必須となっていますが、PCでは現在のところ広く使われるのはビデオ会議の画質・音質の改善か、生体認証での人物識別といった用途に限られています。現在はMicrosoftがニューラルAIの開発に積極的で、Windows Copilotでの音声入力や予測変換、Microsft 365 CopilotでのWord/Outlookの下書き生成・Excelの自動集計・Powerpointのクリップアート生成など、一般用途も広がるのではないかと思います。この点について詳しい話は筆者作成動画もあわせてご覧ください。

中速バスの役割

IntelはXPU、AMDはhUMAという名前で、アクセラレータ的な異種コアとメインメモリを共有する設計思想がありますが、Meteor lakeでは”中速バス”ことNOC Fabricでそれがある程度達成できているように見えます。今後ここに様々なXPUが増えそうな予感はします。

また、ベースタイルの余りスペースにAdamantineキャッシュなるL4相当のキャッシュが置かれるという噂がありましたが、「中速バス」がせいぜい最速のDDR5程度で、これならば直接メインメモリにアクセスすればよくキャッシュを置いてもメリットが少ないと考えられます。ベースタイルが機能なしのただの配線専用かのように書かれているスライドがあったり、質疑応答も歯切れが悪く、乗らない可能性のほうが大きいだろうと見ています。

内蔵GPU:Xe-LPG

GPUは単体GPUのARC Alchemistベースに刷新され、実行ユニット増やプロセスノード改善で性能向上&レイトレーシング対応など本格的にゲームへの対応が進んでいます。上位版の内蔵GPUは上手くいけば単体GPUのARC A370Mと同程度、おそらくは携帯ゲームコンソールに使われるAMD Z1 Extremeに匹敵する水準になると見られています。画質を落とせばAAAタイトルも遊べる程度という判断で良いでしょう。

省電力性をアピールするMeteor Lake

新しいiGPUのXe-LPGは現行世代に比べ電力当たり性能が倍になる

またアップスケーラのXeSSが使用可能で、メディア専用スライドでは540pでレンダ後にFHDにアップスケールすることでFPSが1.5倍になるという図が示されていました。発表では、このXeSS等を活用しバッテリー持ちを2~3倍にする(が画質が落ちFPSが半分程度になる)長時間ゲームモードが提案されています。

同電力性能がRaptor lakeまでの2倍となることから、ゲームをせずブラウザのレンダリング等だけでGPUを使うケースでも、省電力化という形で恩恵を受けるでしょう。

中負荷のオフィス作業での省電力性

その他の省電力アピールとしては、Intel 4で同電力性能+20%・同性能電力-40%が期待できるという従前からの資料が改めて示されています。Meteor lakeは最大5.1 GHz程度になると言われており、いくつか出ている資料を見る限り、CPUコア単独では最大クロック時の消費電力が少なくとも-20%、一般的なオフィス用途など中負荷で-35%程度消費電力が減るものと期待できます(CPUコア以外も含むCPUパッケージ全体では削減率はもう少し控えめになります。動画エンコードなど最大負荷時はTDPいっぱいまで電力を消費するので変わらないでしょう)。

またスライド中にサラっと書かれている程度でしたが、DLVR (Digital Linear Voltage Regulator)という、電力供給制御をCPUコアに近い所できめ細かく行うことで、中程度の負荷の時に最大20%程度電力を節約できる技術も導入が明言されています(Raptor lakeで導入の噂があったものの見送られていました)。

他にはIOタイルは信号線を外部とつなぐ接点面積を確保するために使われるが個別電源管理で省電力にも貢献するといった話や、ノート本体のモニタとの接続規格Embedded DisplayPort (eDP)の省電力機構(Burst Fill, Selective Update, Panel Self-Refreshなど)への積極対応がアピールされていました。画面はアイドル時の主要な電力消費者で、リフレッシュのたびに情報伝送の面でも液晶自体の物理的制御の面でも電力を消費するので、この節約ができれば一定の意味があるでしょう。

これらの技術により、ウインタブのバッテリー持ちテストで行うような中負荷のオフィス作業でもある程度の節電効果が見込まれます。

ノートPCの電池持ち

電池持ちがいいと言われるAppleのノートでも、TDPいっぱいまで負荷をかける耐久テストでは論理値通りにすぐ電池がなくなります。60 Wh前後のバッテリーを搭載しているならM2 Max (TDP 30W)は2時間足らずで電池が切れますし、それはi7-1370P (TDP 28W)でも同じであることは、そういった負荷テストを実施しているレビューからも分かります。

一般に「ノートPCの電池持ち」と言われているものは、低~中負荷時の効率で決まります。例えば60Whのバッテリーで動画連続再生時間15時間(JEITA2.0やYoutube連続再生)と謳うノートはそこそこありますが、この場合はそのような負荷で平均4Wで駆動していることを示します。スマホやタブレットでは「見る専」用途が多いので、動画再生特化で消費電力を下げる機構を持つCPUが多く、今回Meteor lakeも同様の機能を持つことになります。

ウインタブではよくサイトの編集作業(ブラウザでWordpress編集、画像編集+作業用音楽)それ自体を負荷とするバッテリー消費ベンチマークをとっていますが、「パソコン」として使う人にはこれが実用的に意味のある数字でしょう。バッテリー持ちはSSDやモニタなどの影響も受けますし、LP-Eコアをはじめとする省電力機構がオフィス用途でどの程度効果を発揮するかは、実機計測待ちになります。

「実用上のバッテリー持ち」は使い方依存の部分も多く実機計測以外にまともな計測手段がありませんが、この手間を惜しんで実用とかけ離れたメーカー公表スペックか、放置で測れるYoutube連続再生時間で済ませているレビューが大半の中で、オフィス使用シナリオでガチレビューをやっているウインタブは参考になります。

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