先日、Intelの新しいデスクトップ用CPUのCore Ultra 200Sシリーズ(Arrow lake-S)の発表が行われました。こちらの概観および性能については、ほぼ以前の記事の説明通りになりそうなことが確認されたため、ここでは割愛します。
デスクトップ用の発表が主でしたが、合わせてノート用のArrow lake-HXおよびArrow lake-Hについてもチラ見せ的な発表があり、2025年第一四半期の登場となることが説明されました。最近の通例通り、年初のCESで正式な発表があり、2月ごろから新機種がぼちぼち登場する感じになるでしょう。
今回の公式説明ビデオの中で、ちょっと気になる発表がありました。それは、ビジネス~スタンダードノートを担当するCore Ultra 200H (Arrow lake-H)について、内蔵GPUにAI用回路XMXが追加された”Xe with XMX”にアップグレードされ、77 TOPSのAI性能となる、というものです。
以前の記事で〈Arrow lakeはMeteor lakeをベースとしており、SoCタイルの作り直しは考えにくいのでNPUはそのままでCpilot+PCには対応しないだろう〉という旨を書きましたが、デスクトップ用はその通りでしたが、ノート用はSoCタイルに比べ(端にあるので)幾分差し替えがしやすいGPUを強化してAI性能を確保したようです。
ただしCopilot+ PCに対応するとは限らない、が……
ただし、GPUが77 TOPSになるからといって、これがそのままCopilot+ PCに対応するとは限りません。GPUでCopilot+ PCにならないのか?という記事でも書きましたが、Copilot+ PCの認証を受けるには、Copilot+ PC用アプリが動作するソフトを整備する必要があります(tool chainと総称される中間フレームワークのDirectML / ONNX等が動くようドライバを作ってWindows Copilot Runtimeを走らせる環境を作り、純正のCopilotランタイムであるWindows Copilot Library (on-device models)が動作することを確認する、という作業と思われます)。NPUはその作業が今月か来月には終わりWindows Updateでリリースされますが、Xe GPUについてそのような作業をしているという話は出ていませんし、今回の発表でもCopilotに言及はありませんでした。
GPUでの対応では、NVIDIAが自社GPUでのCopilot+ PC対応作業に入っていることを公言しており、今年中のベータ版のリリースとおそらく来年終わりごろまでの正式サポートになりそうで、GPUでのCopilot+ PC対応自体は進めることが可能であるということは分かっています。Intel GPUの場合、Xe世代のGPUがすでにNNX/DirectML/Olive等がサポート済みで、CopilotLibraryを扱う際のVRAM割当量など固有の問題が解決すれば対応できそうに見えますし、Copilot+ PC対応を目指すのでない限りわざわざXMX付きに変更する理由が見当たらないので、販売時は未対応だが2025年内対応を目標とするCopilot+ Ready PCとする、といった感じになるのではないかと想像します(もちろんどうにもならずOpenVINO専用で終わる可能性もありますが)。
内蔵GPUでCopilot+ PCに対応できるなら……
仮にArrow lake-HのXe with XMXでCopilot+ PCに対応できるのであれば、今後のIntel製品ではその方法で対応するものが増えるのではないかと思っています。
10 TOPS級のNPUはおまけ程度の大きさで済みますが、40 TOPS級のNPUはかなり面積を食うことがLunar lakeのダイ写真から分かります。デスクトップをCopilot+PC対応にするならば、40 TOPS分のNPUを用意するより、そのダイ面積を内蔵GPU強化に割いてそちらを40 TOPSにする(Intelデスクトップ用の場合コア倍増+XMX追加)のほうが若干安くつくでしょうし、NPU追加とGPU強化のどちらがうれしいかと言われたら大半のユーザーはGPU強化と言うのではないでしょうか。今回のXe with XMXですら、XeSSが高速化したりAI機能強化のためキャッシュが倍増していたりとゲーム性能に貢献しており、これで内蔵GPUでCopilot+PCがOKになるならNPU強化よりお得と私は感じてしまいます。
40 TOPS級のNPUを載せるならば、Deep Link(ArcビデオカードとCPU内蔵GPUの連動機能)のようにGPUとNPUが連動し、NPU側がXeSSのようなアップスケールやフレーム補完に使えるとか(MS側の自動スーパー解像度はNPUでアップスケールを行う)、GPU側のDP4AやXMXとNPUが共同して一つのモデルを動かして合計TOPSを生かせる(Deep Linkで別のGPUをまとめて扱うサポートがあったり、Meteor lakeのサンプルとして連動させた例はある)ようにならないと、内蔵GPUのXMXでのCopilot+ PC対応より魅力的にはならないように思います。
もう少し贅沢を言うならば、Studio EffectやLive Captionのような軽い常駐型AIタスクは10 TOPS級のNPUでもあればそれを使って電力を節約し、生成AIのような重いタスクは40 TOPS級のプロセッサに投げて時間を節約するといったような賢い振る舞いをしてくれると嬉しいのですが、現在のCopilot Libraryの未成熟な状況を考えるとそこまで考える状況にはないのでしょう。
疑われるスケジュールの混乱
以前の記事を書いていた時には完全に失念していたのですが、2024年頭の前年度通期決算説明会で、「Arrow lakeもLunar lakeとともにAI性能が3倍になる」という発言が出ていました。そのしばらく前の2023年末に、内蔵GPU関係のGithubコミットでArrow lakeの内蔵GPUにXMXが搭載されることを示唆するものがあり、この時点で予兆は出ていたと言えます。
かなり古いサードパーティ作成の「ロードマップ」では、2024年10月ごろにArrow lake-Hが登場し、半年たたずに「AI性能が高いArrow lake-H Refresh」が出るとされていて、これを読んだときはさすがにそんなことをしても在庫管理など対応しきれないだろうと思っていたのですが、結果的には”元来のArrow lake-H”はキャンセルされ”Arrow lake-H Refresh”とされるものが最初から出てきているというのが実情ではないかと思います。
ローカルCopilotはかなり遠大なプロジェクトで、計画としてはAI活用のコア部分(Windows Copilot Library)だけで40、それを利用するアプリは無限大……といったようなエコシステムを構想しているようです。しかし一方でそれは遠大すぎて、今年中に完成しそうなライブラリは40のうち4~5個で、使えるアプリも限られたものにとどまりそうです。どうせこうなるなら、NPU搭載を急かすよりGPUでのCopilot+ PC対応を急かしたほうがよほど消費者が喜んだのではないか、と正直なところ思います。
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