MSI VenturePro 15 A2RWの実機レビューです。メーカーの製品コンセプトは「目立たないゲーミングノートPC」。トップ画像を見ていただくと、ゲーミングノートよりはビジネスノートに近い印象ですよね?つまり「目立たない」。しかし、dGPU (外部GPU)にGeForce RTX 5060 Laptop GPUを搭載するなど、「ゲーミングノートのスペック」を備えた製品です。
なお、このレビューはMSIより機材の貸し出しを受けて実施しています。
・落ち着いたビジネスノートの外観
・しかしスペックはゲーミングノート
・頑丈でクセが小さく、使いやすいキーボード
ここはイマイチ
・省電力・静音重視のため性能はやや控えめ
目次
1. スペック表
スペック表
項目 | 仕様 |
---|---|
OS | Windows 11 Home/Pro |
CPU | Intel Core 7 240H |
GPU | NVIDIA GeForce RTX 5050 Laptop GPU GeForce RTX 5060 Laptop GPU |
RAM | 16GB (8GB×2, DDR5) 32GB(16GB ×2, DDR5) |
ストレージ | 512GB/1TB(M.2 NVMe) |
ディスプレイ | 15.6インチ(1,920 × 1,080)144Hz |
無線通信 | Wi-Fi 6E、Bluetooth 5.3 |
ポート類 | USB 3.2 Gen2 Type-C (映像、PD対応) USB 3.2 Gen2 Type-A ×2 HDMI、LAN (RJ45) オーディオジャック |
カメラ | Webカメラ(92万画素) |
バッテリー | 55.2Whr |
サイズ | 359.3×245.25×23.15mm (突起部含まず) |
重量 | 2.2 kg |
バリエーションモデル
・A2RWFG-0861JP:Win 11 Pro/RTX5060/32GB/1TB
・A2RWFG-1052JP:Win 11 Home/RTX5060/16GB/512GB
・A2RWEG-5150JP:Win 11 Home/RTX5050/16GB/512GB
レビュー機は「A2RWFG-0861JP」です
2. 外観
ACアダプター
ACアダプターはノートPC用としては大ぶりで出力も120Wと大きいです。ゲーミングノートとして見た場合はこれでもコンパクトな部類だと思いますけどね。
電源ケーブル込みの実測重量は454 gでした。なお、後述しますがVenturePro 15 A2RWのUSB Type-CポートはUSB PDに対応しているので、Type-Cポートからの充電/給電も可能ですが、(断定できないものの)CPU:Core 7 240H、GPU/RTX 5060という構成の場合、「ACアダプターの出力である120Wでもギリギリ」だと思われますので、PCゲームなどGeForceがフル稼働するような場面でUSB PD給電をすると、十分な性能が出ない可能性があります。
なので、ビジネス用途の軽い作業はPDでも可、ゲーム/重い作業はACアダプター必須、という使い分けが無難でしょう。
天板と底面
天板です。筐体色は「ソリッドグレイ」という、黒に近い濃いグレーで素材は樹脂です。ただし、安っぽさは皆無です。MSIといえば「天板にドラゴンのロゴ」がおなじみですが、VenturePro 15 A2RWはビジネスPC用のアルファベット・ロゴが使われています。また、MIL規格 (MIL-STD-810H)準拠の堅牢性を備えています。
底面です。ご覧のように「がっつり」通気口が開けられており、筐体内部のファンやヒートパイプをチラ見できます。下側左右(使用時に手前側になります)にはスピーカーがあります。
なお、MSIのノートPCはユーザーが筐体を開口すると保証が切れてしまいます。RAMやSSDの増設や換装をする場合はMSI公認サポート店に作業を依頼すれば保証は切れません。また、保証が切れても構わないのであればDIYでの作業もできます。
側面
前面です。中央にヒンジ開口用の突起があり、ポート類やボタン類はありません。
背面です。こちらにも大きめの通気口があります。ポート類やボタン類はありません。
左側面です。画像左からセキュリティロックスロット、通気口(排気口)、有線LANポート、USB 3.2 Gen 2 Type-Aポートがあります。
右側面です。画像左からイヤホンジャック、USB 3.2 Gen 2 Type-Cポート、USB 3.2 Gen 2 Type-Aポート、HDMIポート、DC-INジャックです。
VenturePro 15 A2RWのUSBポートは合計で3つとやや少なめですが、すべてGen 2 (10Gbps)と高い規格です。なお、上で説明したUSB Type-Cポートの給電能力は最大100Wです。また、システムの状態によりバッテリー充電に必要なUSB PDの出力が異なります。
システム稼働中(S0)、スリープモード中の充電:90W以上(最大100W)
休止状態(S4)、電源オフ中(S5)の充電:45W以上
つまり、そこらへんのスマホ用モバイルバッテリーだと充電ができない可能性が高いです。この点はご注意ください。
ディスプレイ
ディスプレイは「15.6インチ、フルHD (1,920×1,080)、ノングレア、144Hz」と開示されています。アスペクト比 (画面の縦横比)は16:9と「トラディショナル」な形状です。最近は16:10のものが主流になっているので、むしろ「ちょっと珍しい」かもしれません。そのせいもあり、下部ベゼルがかなり太いです。また、視野角も広いのでIPS相当の液晶が使われていると思います。
発色ですが、この製品を単体で使うぶんにはキレイと感じられるものの、100%sRGBクラスのモニターと比較すると色味がやや淡いです。おそらく「45%NTSC (よくある「並レベル」の色域です)」の品質ではないかと思います。事務仕事などビジネス用としては十分な品質であり、リフレッシュレートも144 Hzと高速なのでPCゲームにも向くと思いますが、繊細な色の識別を必要とする使い方には向かないでしょう。
キーボード
キーボードは「シングルカラーバックライト内蔵日本語キーボード」と開示されています。MSI製品のキーボードは英語配列の名残を残すものが多いですが、VentureProの場合は「異様に小さいキー」とか「形が変なキー」は見受けられません。強いて言えば方向キーが小さいくらいでしょうか。
キーボード面は頑丈に作られており、「ゲーミングノート仕様」ですね。多少強打したくらいではたわんだりしません。「ゲーミングノートあるある」なんですが、キーボード面が頑丈なせいで「打鍵は気持ちよく、静音」です。
キーボードバックライトはホワイトのみで、輝度を3段階に調整できます。バックライトをOFFにすると印字がやや見にくいと感じられるため、私は試用中にバックライトを常にON(暗いほう)にしていました。
その他
スピーカー・マイク・カメラ
スピーカーの音質は若干こもり気味ですが、PC用のスピーカーとしては良好な部類だと評価します。作業中のBGMとしてなら音楽も比較的気持ちよく聴けます。音響アプリ「DTS Audio Processing」で音質の微調整が可能です。
AIによるWebミーティング支援として、マイクとスピーカーのノイズキャンセリング機能が挙げられます。また、レビューでは試していませんが、AI LANマネージャーというネットワークトラフィックの最適化機能も搭載しています。
この画像にWindows「スタジオエフェクト」という項目がありますが、これはMSIの独自機能ではなく、Windowsの設定アプリへのショートカットです。
ショートカットはありますが、VenturePro 15 A2RWの搭載CPU、Core 7 240HはNPUを内蔵しておらず、Windowsスタジオエフェクトの機能は使えません(項目自体がありません)。カメラで使えるのは「基本設定」のみです。また、Venture Pro 15 A2RWのWebカメラは画素数が92万画素と「並」クラスで、画質は悪くなく、実用性にも問題ないと評価できますが、他社のビジネスPCのWebカメラ画素数は2MPとか5MPといったものが増えており、少なくともそれらの製品よりもキレイ、ということは言えません。
3. 性能テスト
ベンチマークテスト
ベンチマークテストの実施に際し、レビュー機を付属のACアダプターで電源に接続、設定アプリMSI Center Sのユーザーシナリオを「Performance」に、Performanceモードのオプション項目にあるファンモードを「Cooler Boost」に設定しました。
参考(ハイスペックなゲーミングノート):
Core i9-13980HX/RTX4090:22,052、38,273、15,196
Core i9-13980HX/RTX4080:19,011、35,262、12,345
Core Ultra 9 275HX/RTX5070Ti:17,666、34,879、11,544
Core Ultra 9 275HX/RTX5070:14,923、32,826、9,162
Core i9-12900H/RTX3080Ti:12,849、28,768、7,999
Core i7-13700HX/RTX4070:12,677、27,892、7,528
Ryzen 9 6900HX/RTX3070Ti:11,088、26,107、6,904
Ryzen 7 8845HS/RTX4060:10,138、22,587、5,644
Ryzen 7 6800H/RTX3060:9,359、21,320、5,363
–レビュー機のおよそのポジション–
Core i7-13620H/RTX4050:9,087、20,397、4,999
Core i9-13900H/RTX4060:9,013、20,391、4,833
※左からTime Spy、Fire Strike、Port Royalのスコア
ウインタブでRTX 5060搭載機のベンチマークテスト結果を記事にするのは今回が初めてです。そのため、同じGPUを搭載するノートPCとの比較はできませんが、RTX3060、RTX4050、RTX4060のスコアと比較すると「低め」と感じられます。
人気のPCゲーム、モンスターハンターワイルズのベンチマークスコアです。ウインタブではGeForce RTX 5060 Laptop搭載機の過去データはなく、RTX5070Ti、RTX5070搭載機のデータのみあります。
Core Ultra 9 275HX/RTX5070Ti:23,212 (135.83)
Core Ultra 9 275HX/RTX5070:18,841 (111.73)
※解像度2,560×1,600での測定データです
※カッコ内は平均FPS
過去データがないので、このスコアについてはなんとも言えませんが、「RTX 5070との本来の性能差を考慮しても、低いのでは?」と感じます。上の3D Markのスコアもやや振るわなかったことから、おそらく「ACアダプターが120W」という点に問題があるように思われます。つまり、VentureProという製品の位置づけ上、パフォーマンスに全振りするのではなく、電力消費など、汎用ノートPCとしてのバランスを重視しているのだろう、ということです。
CPU性能を測定するCINEBENCH 2024のスコアです。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 9 275HX:132、2,094
Core i7-14700:122、1,177
Core Ultra 7 258V:121、676
Core i9-13900H:117、687
Ryzen AI 9 HX 375:114、1,144
Core Ultra 9 185H:111、910
Ryzen AI 9 HX 370:110、942
Ryzen AI 9 365:109、1,008
Snapdragon X Elite:108、1,038
Ryzen 9 8945HS:108、958
Snapdragon X Plus X1P-42-100:108、754
Ryzen 7 8845HS:106、956
Ryzen 9 7940HS:106、914
Core Ultra 7 155H:105、964
–レビュー機のおおよそのポジション–
Core Ultra 7 155U:101、533
Core Ultra 7 255U:101、516
Ryzen 5 8645HS:98、585
Core Ultra 5 125U:95,533
Core Ultra 5 125H:95、516
Ryzen 9 PRO 6950H:93、774
Ryzen 7 PRO 6850H:91、765
Ryzen 7 5825U:85、590
Ryzen 3 5425U:78、365
※左からシングルコア、マルチコアのスコア
レビュー機が搭載するCore 7 240HはCoreシリーズ2の型番で、コードネームはRaptor Lakeです (Raptor Lake Refreshと言われることもあります)。つまり、第13世代のCore iプロセッサーのリフレッシュ版で、コア数/スレッド数はCore i7-13620Hと同じ10コア16スレッドです。残念ながらCore i7-13620Hのデータがないのですが、第13世代の上位型番であるCore i9-13900Hのスコアと比較してみると、シングルコア(シングルスレッド)はもう少し高くても良かったのでは?またマルチコア(マルチスレッド)は健闘しているよね、という感じでしょうか。
過去データに多いCore Ultraシリーズ1 (Meteor Lake, Core Ultra 7 155Hなど)との比較では、シングルコアでは割といい勝負、マルチコアでは大きめの差をつけられています。
SSDの読み書き速度を測定するCrystal Disk Markのスコアです。このスコアはPCIe Gen4のものと思われ、非常に高速です。
ノートPCのRAM容量、ストレージ容量については、こちらでウインタブの見解を述べています。
ノートPCのメモリは16GB以上が必須?本当に8GBでは足りないのか? - 用途別に考えるRAM容量
ノートPCの「ちょうどいい」ストレージ容量は?1TBが正解?用途と予算に合わせて考える
バッテリー駆動時間
Windowsの電源モードを「最適な電力効率」に、MSI Center Sのユーザーシナリオを「エコサイレント」に、ディスプレイ輝度を70%に、音量を30%に、キーボードバックライトをON (最も暗いもの) にして下記の作業をしました。
画像加工ソフトGIMPで簡単な画像加工を約35分
ブラウザー上でYouTubeの動画・音楽視聴を約40分
ブラウザー上でテキスト入力を約20分
上記トータル約95分の使用でバッテリー消費は約50%でした。単純計算だと1時間あたり約31.6%のバッテリー消費、バッテリー駆動時間は3時間強 (3時間~3時間半程度)となります。VenturePro 15 A2RWのバッテリー容量は55.2 Whと開示されていますが、これはGeForceを搭載する高性能ノートPCとしては小さいです。それもあってバッテリー消費が大きめに見えてしまうんでしょう。
15.6インチサイズで重量が2.2 kgあるので、外出先に持ち出して使う機会は多くないものと思われますが、外出先で使う場合は電源の確保、ACアダプターもしくはUSB Type-Cの急速充電器を用意しておくのが良いと思います。
発熱とファン音
低負荷時 (文書作成や簡単な画像加工、動画視聴など)ではファン音はほとんど聞こえません(ユーザーシナリオ:エコサイレント)。一方、ユーザーシナリオをPerformanceにして、このモードのときだけ設定可能なファンモードをCooler Boostにするとファン音はかなり大きくなります。ただし、それでもMSIの他のゲーミングノートよりはファン音は小さめで、ビジネスノートとしてみれば「かなり騒々しい」、ゲーミングノートとしてみれば「そこまで騒々しくない」くらいです。Cooler Boostは私達ユーザーも「それなりに覚悟して使う」はずなので、その意味では許容範囲ですね。
上でベンチマークスコアが今ひとつ振るわない、と書きました。CINEBENCH 2024実行中にCPU温度やCPU電力を測定しましたが、PerformanceモードでもCPUの最高温度は91℃、CPU最大電力は49Wでした。Core 7 240Hはターボパワー時の最大電力は115Wと開示されているので、明らかに「抑えた設計」です。よって、ベンチマークスコアが振るわなかったことのトレードオフとして、発熱や静音性、消費電力については好ましい結果になったと言えます。
4. レビューまとめ
MSI VenturePro 15 A2RWはMSI公式ストア、MSIストア楽天市場店、Amazonなどで販売中です。レビュー機「A2RWFG-0861JP」の価格は229,799円です (9月8日現在のMSI公式ストアでの価格)。
GeForceを搭載する高性能PCとは思えない落ち着いた外観は「高性能PCが欲しいけれど、ド派手なゲーミングノートはちょっとなあ…」と考えている人にはピッタリだと思います。一方、同スペックのゲーミングノートと同等の性能にはなっていません。省電力性・静音性・可搬性などを重視した設計思想であると言え、それはベンチマークテスト中のCPU温度や消費電力からも理解できますし、ゲーミングPCに長いノウハウを持つMSIがあえてACアダプターを120W出力のものにした、という点からも明らかです。
冒頭に書いたメーカーのコンセプト「目立たないゲーミングノートPC」というのは決して不適当なものではありませんが、ウインタブとしては「ゲームもいけるビジネスノートPC」「ビジネス利用の快適性を損なわない高性能ノートPC」であろう、と評価します。
5. 関連リンク
2014年にサイトを開設して以来、ノートPC、ミニPC、タブレットなどの実機レビューを中心に、これまでに1,500本以上のレビュー記事を執筆。企業ではエンドユーザーコンピューティングによる業務改善に長年取り組んできた経験を持ち、ユーザー視点からの製品評価に強みがあります。その経験を活かし、「スペックに振り回されない、実用的な製品選び」を提案しています。専門用語をなるべく使わず、「PCに詳しくない人にもわかりやすい記事」を目指しています。
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