Ryzen Z2ファミリー:ゲーミングUMPCの次世代CPU

オピニオン

Ryzen Z2シリーズ
この数年、AMDのゲーミングUMPC向けCPU、Ryzen Z1/Z1 Extremeがヒットしています。UMPCが元々の守備範囲であるウインタブでもROG AllyLegion Goがレビューされています。そして最近のCES 2025で、後継製品にあたるZ2ファミリーが発表されました。今回はその概要と、(未発売のためベンチマークはないものの)性能の目安を確認します。

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Z2ファミリーの基本スペック

最上位ティアのZ2 extremeはZen 5世代のStrix Pointベースで、CPU側は8コア5.0 GHz(Ryzen AI 7 360相当の3C+5c)、GPUはRyzen 890M(HX 370相当の16CU)、かつNPUが仕様表から外されており、CPUかNPUに欠けがあるがGPUは完全なダイを選んだもののようです。

中間ティアのZ2(無印)はZen 4世代のPhoenix Point/Hawk Pointベースで、CPUは8コア5.1GHz、GPUはRadeon 780Mの12CUと、Z1 Extremeほぼそのものです。7840Uともほぼ同じですが、唯一NPUだけ仕様表から外されています。

エントリーのZ2 GoはZen 3+世代のRembrandtベースで、GPUはフルスペックのRadeon 680Mの12 CUとなっていますが、CPU側が4コア4.3 GHzと、6800Uの8コア4.7 GHzからかなり削られたものになっています。

Z2ファミリーの仕様の一覧表

Z2ファミリーの仕様の一覧表(若干の補足を筆者が付け加えたもの)

見ての通り、ティアごとに各々アーキテクチャの世代が違っており、各世代の「CPUやNPUコアに少し欠損があるがGPUは万全なダイ」の寄せ集めという印象です。ティアごとの違いは無数にあって細かく考慮したらキリがないですが、シンプルに「上位ティアほど高性能」と考えていいでしょう。最近のAMDは旧型CPUを廉価版として扱う傾向が強く、最新が7、前世代が5、前々世代3担当といった風情になっていますが、Z2ファミリーはその流れが直に反映されているようです。

過去に撮影されたZ1シリーズの外観写真を見る限り、同世代の主力CPUと基盤側の電源系部品(コンデンサなど)の配置が少し違うようで、そのあたりでもカスタマイズされているようです(断片的な写真なので実は全く同じ可能性もあります)。

Z2ファミリーの性能(確度の高い推測)

Z2世代はまだ未発売ですが、既存製品に代理を務めてもらうことである程度予測・比較が可能です。前世代のZ1 extreme⇔7840UもCPU/GPU性能がおなじであるためほぼ互換でした。Z2 ExtremeとZ2 Goは既存製品にCPU/GPUが完全に同じものがないので少し難しくなりますが、たいていの場合GPU側がボトルネックになるのでGPUコア数が同じ製品が参考になるでしょう。

ここではZ2 Extreme (Radeon 890M)の代理としてRyzen AI HX 370、Z2 (Radeon 780M)の代理としてZ1 Extreme、Z2 Go (Radeon 680M)の代理として6800U搭載機種を比較していきます。また参考としてAlder lake(GPDの数機種で採用)、Meteor lake(MSI Clawで採用), Lunar lake(MSI Claw 8 AI+で採用)も比較に加えます。

MSI Claw 8 AI+ A2VM / Claw 7 AI+ A2VM

Core Ultra 7 258V(Lunar Lake、Arc 140V)搭載のMSI Claw 8 AI+ A2VM

性能比較については、Officeをメインに使うような用途は対象としていないでしょうから、ゲーム性能一本に絞って比較します。まずはウインタブで過去に測定された3DMark Time SpyとFireStrike(総合スコアでGraphics単独ではない)を見ると、基本的には1世代あたり15~20%スコアが伸びており、これはZ2内のティアにもそのまま反映できます。

各CPUの3DMarkスコア

ウインタブ過去データより各CPUの3DMarkスコア


ウインタブの過去データでは共通条件で測定した実ゲームFPSがないので、今回はnotebookcheckのデータベースからお借りしていますが、借りものですのでちょっと遠慮して2タイトル、最近のゲームの代表としてCyberpunk 2077 (FHD Low, FSRなし)と、少し前のゲーム(2018)の代表としてStrange Brigade (FHD Ultra)のデータを見てみます。こちらでは1世代あたり10~15%ずつFPSが伸びています。

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Z2関連の各CPU搭載機種のゲームFPSと、ゲーム中のシステム消費電力の実測値

notebookcheckのデータベースより、Z2関連の各CPU搭載機種のゲームFPSと、ゲーム中のシステム消費電力の実測値。元のnotebookcheckではもっと多数のゲームのより細かい条件での測定を閲覧可能

Cyberpunk 2077はフレームレート向上技術のFSRを使っていないデータですが、FSR2以降は「連続する2つのフレームはそんなに違わない」という制約のもとにアップスケール処理を行っており(DLSS2やXeSSも同様)(YouTube動画へのリンクです)、素のFPSがある程度出るようでないとFSRがうまく働かず期待された効果を発揮できません。フレーム補完技術のAFMFは公式に素で60 FPS以上必要で、それを倍増させるのがAFMFだとと明言しているほどです。

素のFHDで40 FPS程度出ていないと、FHDへのアップスケールがうまく働いて60 FPSで遊べるようにはならないと思われますので、重いゲームでもLow設定なら素で40 FPSを超えられるZ2 Extremeは、様々なゲームでFSRを使ってそれなりのFPSを出せるでしょう。

Lenovo Legion Go 2

Ryzen Z2 extreme搭載の Lenovo Legion Go (8.8”, 2) Prototype

各SKUの寸評

ここからZ2 extreme / Z2 / Z2 Goのそれぞれの寸評を書きますが、私個人の感想になりますので、その点ご留意ください。

Z2 Extreme

CPU側のコア数も含め、ハンドヘルドUMPC用としては間違いなく最高性能の一角になるでしょう。もはやDDR5の帯域がボトルネックとなっているような印象で、キャッシュなどで解決しない限り今はこのあたりが限界のように見えます。

最高性能で見る限り、(Z1 Extreme採用製品でも特にチューニングが行き届いた)ROG Ally Xとの差はそこまで大きくならなそうに思えます。それらの機種をすでに持っているなら、買い換えるべきかは微妙とも思えます。もっとも、TDP制限時を重視するならもっと評価は上がるかもしれません。いずれにしても「性能が違いすぎてこっち一択」というほどの差はつかなそうで、新規で買うならZ2/Z1 extreme搭載機種とはコスパで比べることになるのではないか、というのが私の予想です。

Z2 (無印)

Z1 Extremeと基本的に同じなので、大量にレビューのあるそちらを参考にするとよいでしょう。ROG Ally Xはチューニングも行き届いており、2025年に買うにしても普通に優秀な製品で、調整が下手なZ2 Extreme搭載機種を食えるポテンシャルがあるだろうなと思います。当然ながら、現在Z1 Extremeを持っている人の買い替え先にはならないでしょう。

Z2 Go

Zen 3+世代の7x30U等のダイの中から、CPUがダメでGPUだけ完全なものを貯めて作った、という感のある製品です。搭載されているRadeon 680Mは決して悪くはないですが、最新AAAタイトルを遊ぶならもっと上が欲しいでしょう。CPU側も、今回は必ずGPU側がボトルネックになる前提で性能の推測をしていますが、参考にした6800Uが8C (4.7 GHz)に対してZ2 Goは4C (4.3GHz)といささかならず遅いので、重めのゲームではCPU性能の低さがボトルネックになる可能性も否めません。

基本は古いゲームや、Steamで買った軽いゲームだけ遊ぶという用途に向いているように見えます。スペックから考えるとSteam Deck (Zen2×4 + RDNA2×8CU)の高級版程度に考えるとよさそうです。Z2相当のZ1 extremeの型落ち品・中古品が市場に散見されるので、こちらは5~6万円クラスの格安機で、と考えれば妥当かな……という印象です。

バッテリー持ち

WindowsゲーミングUMPCのほとんどはバッテリーでのプレイが1~2時間程度しかもたず、ウインタブでも「泣き所」と評されています。

電力効率の高い新世代になればバッテリー持続時間が伸びるかも……と思われがちですが、そうはなっていません。多くのAAAタイトルは200W程度は使うマシンで動かすことを前提としてしまっており、それをUMPCで動かそうとすると手持ちサイズの筐体で実現可能な放熱性能限界(40W程度)を常時使わざるを得ないからです(携帯コンソール用のゲームは最初から数Wで動くように設計されています)。

この結果、電力効率の違いはほぼ性能の違いとしてだけ表出し、バッテリー持ちはもっぱら搭載バッテリー容量(Wh)で決まり、軽量の40 Whなら1時間、重くても80 Whを積めば2時間は持つ、といったような格好になっています。

各ゲーミングUMPCのバッテリー容量とゲーム中の持ち時間、およびそこから計算できる平均システム消費電力

notebookcheckデータベースより、各ゲーミングUMPCのバッテリー容量とゲーム中の持ち時間、およびそこから計算できる平均システム消費電力


2時間を超えて長時間動かす、あるいは軽量の40 Whバッテリーでもある程度の時間動かしたいということでれあれば、電源モードを下げTDP制限をして、その範囲内で快適に動くよう、画質設定を下げるとか、軽いゲームを遊ぶしかないでしょう(ほかにディスプレイ輝度を落とすなどでも多少は延命できますが)。

Ryzen Z2開発中のAMDへのインタビューでは、バッテリー持ちを3倍に伸ばしたいといったようなコメントがされていますが、シリコン自体は680M, 780M, 890Mそのものでその部分で根本的に変ることはないので、FSR等のソフトウェア的な軽量化を促進したい、というように読むのが無難でしょう。

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コメント

  1. 匿名 より:

    Z2 GoはZen3+/RDNA2なら7×30じゃなくて7×35相当じゃないですかね(7×30はZen3/Vegaなので)

    しかしノート向けCPUは内蔵グラフィックでゲームをするには中位モデル(CoreUltraのUやRyzen5クラス)のiGPU性能ではやや不安で、かといって上位のCPU搭載機だと今度はCPU性能は持て余すのにお値段が上がってしまって、CPUコアを削ってiGPUは上位性能って性能バランスはノートPCでも出してくれたら嬉しいのですが…

    ただこれって需要が限られているゲーミングUMPCだからこそ賄えてるだけでコストカット的な意図は薄いだろうし、最初からそう言うスペックで作らない限りは通常のノートPC向けの出荷は無さそうですよね…

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