こんにちは、ウインタブ(@WTab8)です。今回は読者投稿記事です。ウインタブが非常に弱い「CPUの解説記事」となります。しばしばウインタブに寄稿してくださる「渋谷H」さんにご執筆いただきました。大変参考になる、というか勉強になる記事だと思います。私のほうでトップ画像を作らせていただいたほかは一切編集をしておりません。文章オンリーですが、私が下手に「虎の画像」とか「湖の画像」を挿入するのもうっとおしいと思われますので…。
なお、記事の性質上、コメント欄は開放しますし、コメントをいただけるのも歓迎ですが、寄稿者はウインタブのライターではありませんので、マナーが悪いと思われるコメントについては発見次第私のほうで削除させていただきます(私はもう慣れていますが、心ないコメントに傷ついているライターもいるんですよ)。この点あらかじめご了承ください。
では渋谷Hさん、よろしくお願いいたします。
0.はじめに
2020年も後半に入り、Intel・AMD両社から新しいCPUの情報が立て続けに出ています。IntelはTiger Lakeを発表、AMDはZen 3アーキテクチャの次期Ryzenを発表しています。そしてWindowsタブレット的には、Gemini Lakeの後継となるJasper Lakeの情報がリークされたことが重要ではないかと思います。世間的には当然Tiger LakeとZen 3に注目が集まるのでしょうが、そのような記事は多くあるでしょうから、ここではJasper LakeなどAtom系CPUを中心に少しまとめたいと思います。
1.Jasper Lake
現在エントリークラスのモバイル機ではGemini Lake (Refresh)が多く採用されています。Dell・hp・Lenovoなど大手をはじめ、AcerやAsusなど台湾系メーカー、NECや富士通など国内メーカーも採用し、深圳ではChuwiのようにはN4100製品が主力という企業もあります。Windowsだけでなく、Android系のChromebookでも少なからず使用されています。
そのGemini Lakeの後継として、Jasper Lakeが来年春に出るというリーク情報が報じられています。現行のGemini LakeがGoldmont Plusアーキテクチャを14nmプロセスで製造しているのに対し、Jasper LakeはTremontアーキテクチャを10 nmで製造するものになります。TremontはGoldmont Plusに比べ実行ユニットが大幅に増強され、ふた昔前のCoreと同程度、「SandyBridgeとHaswellの中間くらい」ほどになり、クロックあたり性能はGemini Lake世代より平均30%の向上となる見込みと発表されています(参考記事)。
内蔵グラフィックス(iGPU)も第11世代になるほか、10 nm化に伴いIce LakeではiGPUの実行ユニット(EU)数が33%増しになっており、Jasper Lakeもこれと同様にEU数が33%増量されるようです。この結果、Pentium SilverのiGPU能力は第9世代Coreと同等になると思われます(グラフィックスライブラリのソースによる)。
以上のように、ロジックレベルで3割の性能増強が見込まれるほか、Jasper Lakeのクロック周波数はGemini Lakeの10~15%増し(Gemini Lake Refreshと同等)に設定されるようで、これと合わせて総じてGemini Lakeの3~5割増し程度の性能になることが期待できます。各種ベンチマークに単純な算数で計算すれば、第7世代Core U(Surface Pro第5世代)に近い性能を発揮することになるでしょう。
Tremont系CPUは下記にある通りデータセンター向け製品はすでに出荷されており、技術的にはいつでも出せる状態なのだとは思いますが、Intelは10 nmの製造ラインの構築に苦戦していることはすでに公認しており、今年に入っても生産数が増やせず顧客に謝罪するといったことが報じられています。いつ正式発表・受注開始になるかは、Intelの生産体制の構築と、Tiger LakeやSnow Rigdeなど他の10 nm製品の需要にも影響されるのではないかと思われます。
2.Lakefield
同じTremont系モバイルCPUとしては、Core系Sunny CoveとAtom系Tremontを混載したLakefieldがすでに出荷されています。TDPは7Wなのでタブレット市場も十分に狙えるはずですが、価格はややお高めです。他サイトでのベンチマークの結果を見ると、シングルスレッド性能はCore m相当、マルチスレッド性能は想定Jasper Lake相当となっており、発熱や消費電力の制御も相まって結果的には「スレッド数に応じてSunny Cove x 1とTremont x 4の得意な方だけを動かしている」に近い挙動のようです(参考記事)。モバイル用CPUが全コアを最大クロックで走らせられず事実上機能切り替え動作になってしまう問題は「ダークシリコン」と名付けられていましたが(参考記事)、徐々に顕在化してきたのだと思われます。
解説記事によれば、Core系とAtom系の対応命令セットの違いを吸収できず共通命令しか使えていない、ハイパースレッディングが機能しないなど(参考記事)、本来狙っていたポテンシャルを出せていない印象で、期待していた自分としてはがっかりなのですが、Intelとしてはこれはまだ発展途上で、後継の異種コア混載CPUとなるAlder Lakeでは「次世代のハードウェアスケューラが搭載され、すべてのコアがシームレスに動くようになる」としており、この方向性で発展させていくようです(参考記事)。
3.Snow Rigde
Tremontアーキテクチャを10nmプロセスで製造した製品としては、データセンター向けAtomのSnow Rigdeシリーズが2020年春には受注が始まっており、Jasper Lakeはそれより1年後回しになっています。これにはコロナ禍の影響もあるようで、Intelの決算を見ても、リモートワークで需要の増えたデータセンターの売上が伸び、一方で人々が出歩かなくなったことでIoT部門が大幅減速しているので、今後しばらくAtom系コアは(ビデオ会議用タブレット等の需要を除けば)データセンター優先の傾向が続くのではないかと思います。
4.Atom系コアの今後
Atom系コアは、元々ARMに近い領域を対象としていたこともあり、ARMの性能が低いうちはそれと同程度の性能しかありませんでした。しかし昨今は状況が変わり、ARMのほうが巨大化しています。例えばiPhone向けSoCのトランジスタ数、ダイ面積や価格はCoreやRyzenの3番台に匹敵するものになりつつあります(参考記事1, 2)。消費電力もそれにつれて高くなり、ハイエンドではSnapdragonが7W、iPadもバッテリー耐久テストの実測で軽めのゲーム30分で32.4 Whの電池が約10%減少=6 Wを消費している計算になりCPUのTDPはおよそ4-6 W程度と推定されます(手元のiPad miniで少し重めのゲームで試しても同様でした)。
BaytrailからCherry Trail世代のAtomはTDP 2W台のモバイル市場で敗北し、Windows x86向けとしては非力すぎて評判を取れず、Apollo Lake以降はTDP 6W台の2in1市場に撤退したという格好ですが、結果的に言えばスマホもハイエンド品が6 W台になり、年々巨大化して6インチ台のかつてタブレットだったサイズが増え、市場のほうがAtom撤退以降の領域に勝手に移ってきた状況です。Android系のChromebookでGemini Lake採用例が増えていたり、一方でSurface Pro XのようにMicrosoft直々にWindows on ARMを推してくることもあったりと、Atom系のARM対抗としての役割が再びクローズアップされてきたように思います。Intel製品ではLakefieldやTiger LakeでARMに対抗するような省電力機能(参考記事)が組み込まれており、Atom系CPUでも順次採用されることが見込まれ、Windowsを含めたタブレット・2in1の市場が再び活性化すると期待しています。
IntelはLakefieldやAlder Lakeなど異種コア混載CPUにも積極的です。ハイエンドスマホ向けのARMはbig+LITTLE+GPU+機械学習専用回路など異種コア混載が当たり前になり、Intelもbig(Core)+LITTLE(Atom)+新GPUのXe+機械学習向けGNAと同じようなセットを取り揃える方向性で動いています。これはそれぞれのコアに最適な仕事を割り振って他を休ませることで消費電力低減と性能向上を両立する戦略で、Atom系コアはそのIntelの新戦略の重要なパーツとしてその地位を新たにしたという状況ではないかと思います。
また、ここからは筆者の推測になりますが、多コア化で強みを見せるRyzenに対抗するため多コア化しやすいAtom系コア(Snow Rigdeでは24コア製品が出ています)でマルチスレッド性能を稼ぎたいのではないか、という意図をプレス発表から感じます。Sunny cove1コアとTremont4コアで消費電力を揃えたときのマルチコア性能は後者は前者の2倍になりTremontのほうが消費電力性能が優れていると発表していますし(参考)、Sunny Cove1コアとTremont4コアがほぼ同じ面積であるため(参考)、歩留まりで苦しむIntelとしては面積節約で歩留まりを上げる効果も期待しているかもしれません。
5.Tiger Lake
直近ではIntelからモバイル向けのTiger Lakeが発売されました。Tiger LakeはCPUコアがWillow coveに世代更新、GPUがXeに刷新(G7モデル)、製造プロセスが10 nm SuperFin化と、ここのところ停滞していた技術更新がまとめて入っているという印象で、順当なパワーアップが期待できそうです。実際、上がっているベンチマークは良好な数字です。
Tiger Lakeはモバイル向けの中でも「UP4クラス」と呼ばれるTDP 10 W帯(7~15 W)の製品が約半分を占め、10~13インチタブレットあたりに向いた製品の品ぞろえが良くなっています。Surface Proなどモバイルノートに近い2in1製品はTiger Lakeが中心になると思われます。また、ARM並みの省電力性を目指す方向をEvo Platformという名で進めていくようです。
加えて、モバイル機の熱設計(TDP)について「オペレーティングレンジ」という名で幅広い値が定義されるようになっています。ACPI、サーマルスロットリングの実装以降のモバイルCPUの実効性能は熱設計次第ということはスティックPCのころから分かっていたことで、しばらく前からcTDP (configurable TDP)という概念が採用されていましたから、Tiger Lakeから急にそうなったのではなく、もともとそうだったものが本格的に公認されたというのが適切な理解だと思います。
6.Ryzen
AMDからはZen3製品の発売予告と、Zen2ベースのモバイル向けRyzen 4000U番台の発売開始がありました。AMD Ryzenはモバイル向けの優先順位は低いことが多く、デスクトップ向けのハイパフォーマンス製品が先、モバイル向けは1年後というのが通例になっています。Zen 3ベースのCPUは今年からになると思いますが、モバイル向けは来年になるでしょう。
今年はZen2ベースのモバイル向けRyzen 4000U番台(TDP 15W)が発売され、パフォーマンスの高さで市場に浸透しています。消費電力あたり性能も改善はしてきていますが、パフォーマンスが高い分だけ消費電力も高めのようで、大手メーカー製品でIntelとAMDが選択できるモデルではIntelのほうが駆動時間が長い傾向にあります(例:Intel 16時間 vsAMD 13.6時間、Intel 23.1時間 vs AMD 14.9時間)。半ば据え置きで使う用途のノートPCやバッテリーを積まないミニPCでは気にしなくてよくなりますので、この分野ではRyzenは特に魅力的な選択肢になるのではないかと思います。
現状TDPが10 Wを割るレンジ、intelでいうところの「Y」や「N」に相当する製品は計画されていないようで、タブレットに降りてくるのはまだまだ時間がかかりそうです。
コメント
自分にはコアすぎる…
完成品レベルでしかモノを見てないので
CPUのレベルは理解が追いつかないでした。
lakefildはなぁ
S0iXステート(モダンスタンバイ)ですら
デスクトップ用OSだとうまく扱えないのにbig.LITTLEなんかどうなんだろう
UWPネイティブにコンテナで切り離した状態でwin32が存在する
windows10X用の設計と見るべきでしょうけどね
資産を捨てる前提でのarmに対抗系だと
肝心のOSが世に出ないので評価し辛い・・・
よっしゃ、性能良くなる!!!!!!!
CHUWI,ALLDOCUBE,TECLASTあたりのWindowsタブレットに期待します!!!