Lenovoの14インチノート「ThinkPad E14 Gen 3(AMD)」の実機レビューです。ThinkPadのEシリーズはThinkPadの中でも低めの価格になっていて、最も購入しやすいThinkPad、と言えそうです。しかし「ThinkPad」という名前を冠したPCに低品質なものはありません。なので、ある意味最高のコストパフォーマンス、とも言えるのがEシリーズです。
今回レビューする「EシリーズのGen 3」はCPUにAMD Ryzenを搭載しています。つい先日、この製品と同じシステム構成でサイズが異なる15.6インチノート、ThinkPad E15 Gen 3(AMD)の実機レビューもしていますので、こちらもあわせてご覧ください。
Lenovo ThinkPad E15 Gen 3 (AMD)の実機レビュー - 15.6インチ、スタンダードサイズのThinkPad。抜群の使いやすさでバリューな価格も魅力!
・第4世代Ryzenを搭載し、ビジネスノートとして高い性能
・注文時に広範なカスタマイズが可能
・キーボードの品質はノートPCとして最高水準
・堅牢な筐体
・据え置き主体ながら「時々モバイル」も可能なサイズ感
・ThinkPadシリーズとしては割安な価格設定
E14 Gen 3 ここはイマイチ
・14インチノートとしては重い
・黒くてそっけない、いかにもThinkPadなデザイン(人によってはメリットかも)
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E14 Gen 3(AMD):Lenovo:Lenovo
目次
1.ThinkPad E14 Gen 3 スペック
ThinkPad E14 Gen 3(AMD) | |
OS | Windows 10 Home/Pro Windows 11 Home/Pro |
CPU | AMD Ryzen 3 5300U / Ryzen 5 5500U / Ryzen 7 5700U |
外部GPU | なし |
RAM(メモリ) | 8GB/12GB/16GB/24GB |
ストレージ | 256GB/512GB PCIe SSD 1TB SSDを増設可 |
光学ドライブ | なし |
ディスプレイ | 14インチ(1,920 × 1,080) |
ネットワーク | 802.11 a/b/g/n/ac、Bluetooth 5.1 Wi-Fi 6(ax)選択可 |
入出力 | USB 3.2 Gen2 Type-C、USB 3.2 Gen1、USB 2.0、LAN(RJ45)、HDMI、オーディオジャック |
カメラ | Webカメラ(720p)顔認証選択可 |
バッテリー | 最大約 17.7時間 |
サイズ | 324 x 220 x 17.9-20.9 mm |
重量 | 1.64 kg |
ディスプレイのバリエーション
ThinkPad E14 Gen3のディスプレイはすべて14インチ、FHD(1,920 × 1,080)解像度ですが、4つのバリエーションがあります(選択するベースモデルによっては選べるディスプレイ仕様が2つだけ、というケースもあります)。
・TN液晶、250nit
・IPS液晶、250nit
・IPS液晶、300nit
・IPS液晶、300nit、sRGB100%
コメント
ThinkPad E14 Gen 3(AMD)は他のThinkPadシリーズと同様、注文の際に細かく構成をカスタマイズすることができます。 また、OSのバージョンについても現在はWindows 10とWindows 11を選択できるようになりました。
CPUは第4世代Ryzen Mobile(5000番台)のRyzen 3/Ryzen 5/Ryzen 7で、いずれもZen3アーキテクチャではなくZen2アーキテクチャとなります。Zen3のRyzen 3 5400U/Ryzen 5 5600U/Ryzen 7 5800Uのほうがより高性能ではあるのですが、Zen2でもベンチマークスコアはIntel 第11世代Coreプロセッサーを上回るケースが多くなっていますので、ビジネスPCたるThinkPad E14には十分な実力を見せてくれるはずです。
RAMは最大で24GBまで、ストレージは標準の256GB/512GBに加え、1TBのSSDを増設注文することができます(ベースモデルによっては容量の選択肢が異なるケースもあります)。ただし、1TB SSDを増設すると定価ベースでは11万円、割引後でも6万円以上(購入時点の割引率によって金額が変わってきます)の追加料金がかかりますので、ThinkPad Eシリーズの製品価格を考慮すると現実的な選択肢とは言いにくいです。
ディスプレイは上に書かせていただいたとおり、輝度や発色性能によって4種類が選べます。最も高品質なsRGB100%のものにしても追加料金が小さい(定価ベースで3,300~6,600円程度。ベースモデルの初期ディスプレイ仕様によって変わります)ので、個人利用の場合はsRGB100%のものにされることをおすすめします。
通信周りではオプションでWi-Fi6に対応させることができます。また、入出力ポートの構成は14インチノートとしては悪くありませんが、AMD CPUなのでUSB Type-CポートはThunderboltではありませんし、すべてのUSBポートがGen1規格以下なので、データ伝送速度も5Gbpsまでとなります。
ノートPCで14インチというのはちょっと微妙で、毎日バッグに入れて持ち運べる「モバイルノート」と、基本的に据え置き型で使い、たまに外に持ち出して使うことも想定する「スタンダードノート」の両方のタイプがあります。ThinkPad E14 Gen 3はタテ・ヨコサイズだけ見ればコンパクトと言えますが、重量が1.64 kgとやや重く、どちらかと言うと「スタンダードノート」に近いと言えます。
なお、レビュー機の構成は「Windows 10 Home/Ryzen 5 5500U/RAM8GB/256GB SSD」という構成で、レノボ製品ページでは「パフォーマンス」という名称のモデル、10月25日現在の価格は税込み78,232円です(セール価格なので、時期によって変動します)。
2.ThinkPad E14 Gen 3 筐体と使用感
同梱物
同梱物です。ペーパー類では左下にスタートガイドがありますが、そんなに親切な内容ではありません。ビジネスユーザーを想定した製品だと思うので、これでも特に問題はないと思います。それ以外のペーパー類はは保証関連、サポート関連のものになります。ACアダプターはスタンダードノート用としては標準的なサイズで、実測重量は電源ケーブル込みで286 gでした。
天板と底面
天板です。ThinkPadシリーズは基本的にすべて同じデザイン(一部のモデルで筐体色が異なるものがあります)ですね。黒無地の天板で左上にThinkPadロゴがついています。また、ThinkPadロゴの「i」の点の部分は通電時に赤く光ります。
レビュー機の天板素材はABS樹脂製でした。ThinkPadシリーズの天板素材は基本的に樹脂製ですが、E14の場合はベースモデルによってアルミ天板になる場合もあります。ただ、どちらにせよThinkPadというのはもともと高級感を売り物にしたPCではなく、また頑丈であることには変わりないので、素材についてはあまり気にしなくていいんじゃないかと思います。
底面です。通気口のほか、ユーザーがメンテナンスできるようなハッチはありません(筐体は開口可能です)。
底面の両サイドに細長いスピーカーグリルがあります。以下にスピーカーの使用感について述べます。
スピーカーの使用感
高く評価できます。よくある「パソコンのスピーカー」のように、低音がまったく出ず、高音ばかりが強調されるペラペラの音質ではありません。音響アプリを使わない状態だとさすがに低音は弱くなりますが、全体的にバランスがよく取れ、ペラペラな音質にはなりません。
プリインストールされている音響アプリのDolby Audioをオンにすると低音が強化され、音に重みが増します。ただ、人によっては逆にバランスを欠き、ややこもった音質に感じられるかもしれません。この場合はイコライザーで細かく音質を調整できますので、よりお好みの音質に近づけることができます。
ThinkPad E14 Gen 3のスピーカーはノートPC用としては非常に出来がいいと評価します。
側面
左側面です。画像左からUSB Type-C、USB Type-A、HDMI、イヤホンジャックです。
右側面です。画像左からUSB Type-A、有線LAN、セキュリティロックスロットです。なお、こちらの面にあるUSB Type-Aポートは2.0規格となります(右側面のUSB Type-Aポートは3.1 Gen 1規格)。また、ちょっと意外かもしれませんが、ThinkPad E14 Gen 3にはSD(microSD)カードリーダーはありません。
前面です。こちらにはポート類やボタン類はありません。
背面にもポート類・ボタン類はありません。
キーボード
おなじみの「ThinkPadのキーボード」ですね。「89キー (Fnキー、PgUpキー、PgDnキー、Windowsキー)、JIS配列」と開示されていて、実際レビュー機は日本語配列でしたが、注文時のカスタマイズで日本語配列と英語配列を選べ、オプションでバックライト付きにできます。レビュー機にはバックライトなしのものが装備されていました。なお、14インチサイズなので当然ではありますが、テンキーはありません。
ThinkPadのキーボード配列は概ね素直、と言っていいのですが、唯一「左下のFnキーとCtrlキーの位置が一般的なノートPCのキーボードとは逆」という特徴があります。しかし、設定アプリのLenovo Vantageでキーボード設定を変更でき、FnキーとCtrlキーの入れ替え(見た目は変わらないが、キーマッピングが変わる)が可能です。
キートップは非常に立体的な形状で、中央部が大きく凹んでいます。この点もThinkPadのキーボードの特徴と言え、打鍵感に大きく寄与しています。なお、キーピッチは手採寸で約19 mm、キーストロークはやや深めです。
キーボードの使用感
素晴らしいの一言だと思います。私は個人としてThinkPad推しなのですが、推しだから高評価しているわけではありません。逆です。キーボードが素晴らしいからThinkPad推しなのです。
立体的で指のかかりがよく、ノートPC用としてはやや深めで確実な打鍵感が得られ、長時間のタイピングでも疲れを感じません。また、ThinkPadのトレードマークである「赤いでべそ(トラックポイント)はタッチパッド操作になじめない人にも使いやすく、個人的には「マウス以外で唯一使い物になるポインティングデバイス」だと思っています。
繰り返しのご説明になりますが、E14 Gen3は注文時のカスタマイズにより、日本語配列と英語配列が選べ、またバックライトの有無も選択できます。カスタマイズ料金は低額(割引後だと2000円以下)なので、念のためにバックライト付きのキーボードを選んでもいいと思いますが、もともとキートップの印字がくっきりと見やすいので、レビュー期間中はバックライトの必要性を感じませんでした。
なお、同じEシリーズには15.6インチのE15 Gen3があり、こちらのキーボードにはテンキーが付きます。筐体サイズはE14より大きくなりますが、数値入力が多くテンキーが必要、という人はE15のほうを選んでもいいと思います。
ディスプレイ
正面から見たところです。左右のベゼル幅はそこそこ細いですが、特に「ナローベゼル」という感じではありませんね。でも、無骨なイメージのThinkPadとしてはこれでも十分スッキリしたものになっていると思います。
ディスプレイの使用感
レビュー機のディスプレイは「250nit、45%NTSC」という仕様でした。
ブラウザーで「花」を画像検索し、手持ちのディスプレイと比較してみました。輝度がやや低め、原色の発色がやや弱めと感じられました。ビジネス文書の作成とかWebで調べ物をするとか、リラックスして動画を視聴するなどの用途では全く文句のない品質ですが、このように他のモニターと発色比較をすると、少しだけ不満が出てきます。
E15 Gen3はオプションでsRGB100%のディスプレイを選択でき、追加料金も低額なので、予算が許すようならsRGB100%のタイプに変更されるといいと思います(厳密には「色が鮮やかに見える」のと「sRGB率が高い」のとは少し意味合いが違うのですが、より高い仕様のディスプレイを選択するほうが納得できますよね)。ただ、標準のディスプレイでもシビアに評価しなければ特に問題なく使えるとは思います。
筐体その他
ThinkPadシリーズの多くがそうなのですが、ThinkPad E14 Gen 3もヒンジが180度開口します。ビジネス利用の際に、向かい側に座っている人と画面を共有したりする際にとても便利な構造です。
3.ThinkPad E14 Gen 3 性能テスト
ThinkPad E14 Gen3(AMD)にはパフォーマンスを調整するような機能はありません。設定用アプリのLenovo Vantageに「電源スマート設定」というのがあり、性能テストにあたって、ここを「パフォーマンスモード」にしています。
スコアの目安(2021年水準)※あくまで「目安」です | |
GeForceなど外部GPU搭載機 | 5,000以上 |
高性能なビジネスノートパソコン | 4,000以上 |
中位のノートパソコン | 3,000以上 |
エントリーノートパソコン | 2,000以下 |
表計算ソフトやビデオチャット、画像加工など、実際のビジネスシーンをシミュレートしたテスト、PC Markのスコアです。ビジネスノートであるThinkPad E14 Gen 3の性能測定にあたっては、最も参考になり、また重視すべきテストだと思います。
レビュー機はRyzen 5 5500U搭載です。第4世代Ryzen Mobileですが、Zen3アーキテクチャではなく、ひとつ前のZen3アーキテクチャです。4,651というスコアはビジネスノートとしては優秀なものと言え、第11世代のCore i5/Core i7といい勝負くらいです。ウインタブで直近実機レビューした製品のスコアを見てみると、
Lenovo ThinkPad X13(Core i7-1165G7):5,205
Lenovo IdeaPad Slim 550 14(Ryzen 5 5500U):5,076
dynabook MZ/HS(Core i7-1165G7):4,967
Lenovo ThinkPad E15 Gen 3(Ryzen 5 5500U):4,638
MSI Summit E13 Flip Evo(Core i5-1135G7):4,572
HP ProBook 430 G8(Core i5-1135G7):4,131
VAIO SX12(Core i3-1005G1):3,401
MSI Modern 15 A10M(Core i3-10110U):3,234
こんな感じです。同じThinkPad Eシリーズで同じCPUを搭載する15.6インチノート、E15 Gen 3とほぼ同スコアになっています。まあ、ディスプレイサイズが異なるだけで、ほぼ同じ品質、同じ性能ということが言えると思います。
続いてはCPU性能のみを測定するCINEBENCH R23のスコアです。ここでも先日レビューしたThinkPad E15 Gen 3(AMD)とほぼ同スコア(E15はシングルコア1,160、マルチコア7,312)となりました。Ryzen 5 5500U搭載のPCとしては標準的なスコアと言えます。第11世代Coreプロセッサーとの比較では、「シングルコアで若干低め、マルチコアでは高め」というのがRyzenの特徴で、実際のビジネスシーンではIntel CPUと(良くも悪くも)大きな体感差は出ないものと思います。
続いてグラフック性能を測定する3D Markのスコアです。PC Markでは十分に満足できるスコアを記録したE14ですが、グラフィック性能を切り出して測定するこのテストでは振るいませんでした。というか、E14が振るわない、ということではなくて、Ryzen 5 5500Uが振るわない、というほうが正確だと思います。
第11世代のIntel Coreのうち、内蔵GPUにIris Xeを搭載しているもの(Core i3を除くほとんどの型番がそうです)だと、今回のスコアよりもずっと高いスコアになります(Core i5-1135G7だとFireStrikeで4,000点が出ることもあります)。
Intel Coreプロセッサーは第10世代まではベンチマークスコアでRyzenに及ばないことが多かったのですが、第11世代になって内蔵GPUの性能が飛躍的に向上し、同クラス(例えばRyzen 5とCore i5、Ryzen 7とCore i7)のRyzenを上回るグラフィック性能になっているようです。
でもまあ、ThinkPad E14 Gen3はビジネスノートですし、動画編集や高度な画像加工、非常に凝ったPowerPoint資料の作成などを別にすれば、これで十分、とは言えるでしょう。
ラストはストレージの読み書き速度を測定するCrystal Disk Markのスコアです。レビュー機はNVMe SSDを搭載しているため、非常に高速ですね。このスコアよりもさらに高いスコアをマークする製品もあります(PCIe ×4接続のもの)が、個人的にはThinkPad E14 Gen 3のスコアでもビジネス用としてはオーバースペック気味だと思います。実際にはこの半分くらいのスコアでも全く不満は感じないでしょう。
と、いうことで、ストレージ速度に関しては文句なしです。
4.ThinkPad E14 Gen 3 レビューまとめ
Lenovo ThinkPad E14 Gen 3(AMD)はレノボ直販サイトで販売中で、10月25日現在の価格は税込み75,152円から、となっています。この価格は「平日の日中の価格」ですが、ThinkPadシリーズは平日22時からの「ナイトセール」と週末(土日)の「週末セール(週末限定のクーポンが出ます)」で購入するのが最もお買い得になりますので、購入するなら平日の日中は避けるほうがいいでしょう。
ThinkPad Eシリーズには今回レビューしたE14 Gen 3(AMD)のほか、15.6インチサイズのE15 Gen 3(AMD)や、Intel CPUを搭載するE14 Gen 2、E15 Gen 2もあり、いずれもThinkPadシリーズの中でも低価格な部類で、お好みに合わせてCPUやRAM、ストレージの構成を変更しても10万円を切る価格で購入ができます(ただし、カスタマイズの内容によっては10万円以上になります)。
上位(価格が高い)のPCのほうが下位(価格が安い)のPCよりも筐体の品質とかデザインが良くなっていることが多いですが、ThinkPadシリーズは基本的に「みんな同じデザイン」ですし、低価格だからといって筐体が華奢であるとか、キーボードが使いにくいといったことはありません。なので、個人的には「ThinkPadではEシリーズが一番の狙い目なのでは?」と思っています。
今回レビューしたE14 Gen 3にせよ、15.6インチサイズのE15 Gen 3にせよ、「しっかりThinkPad品質」に仕上がっていますし、広範なカスタマイズ項目により納得の行く仕様にでき、さらに他社のスタンダードノートよりもむしろ割安、というのは驚異的だと思います。
ちょくちょく外に持ち出す機会があるのなら今回レビューしたE14 Gen 3を、持ち出しの頻度が少なく、テンキー付きキーボードと大きめのディスプレイでじっくり作業したいのなら先日レビューしたE15 Gen 3を、と、ニーズに合わせて選ばれるといいと思います。Eシリーズはウインタブおすすめです。
5.関連リンク
E14 Gen 3(AMD):Lenovo