レノボのゲーミングハンドヘルドPC「Legion Go」の実機レビューです。GPDやOne-Netbookといった中国のメーカーが火をつけたWindowsのゲーミングハンドヘルドPC(ゲーミングUMPC)ジャンルですが、2023年になってASUS、そしてLenovoと、世界的な大手メーカーが参入を開始し、2024年に入ってからはMSIもゲーミングUMPCを発表しました。
レビュー機Legion Goは大手メーカーであるレノボが手掛ける最初のゲーミングハンドヘルドPC(以下、ウインタブでよく使っている表現のゲーミングUMPCと言います)で、筐体も他のゲーミングUMPCとは異なる、凝った仕様になっています。
なお、このレビューでは実機をメーカーよりお借りして実施しています。
・8.8インチと大型のディスプレイを搭載、リフレッシュレートも144Hz
・コントローラーが分離式で、多彩な使い方ができる
・設定アプリLegion Spaceで細かな設定が可能
ここがイマイチ
・ゲーミングUMPCとしては大柄、人によっては大きすぎるかも
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Legion Go:Lenovo
目次
1.概要
スペック表
Legion Go | |
OS | Windows 11 Home |
CPU | AMD Ryzen Z1 Extreme |
GPU | なし |
RAM | 16GB |
ストレージ | 512GB SSD(PCIe NVMe M.2) |
ディスプレイ | 8.8インチIPS(2,560 x 1,600)タッチ、144Hz |
ネットワーク | Wi-Fi 6E (ax/ac/a/b/g/n) 、Bluetooth 5.3 |
入出力ポート | USB4 Type-C × 2、microSDカードリーダー、オーディオジャック |
バッテリー | 49.2WHr(動画再生 約7.2 時間) コントローラー部900 mAh |
サイズ | タブレット:210 × 131 × 20.1 mm コントローラー:44.5 × 131 × 40.7 mm タブレット+コントローラー:298 × 131 × 40.7 mm コントローラードック:42.5(半径) × 14.8 mm |
重量 | タブレット:639 g コントローラー:215 g タブレット+コントローラー:854 g コントローラードック:31 g |
バリエーションモデル
3月19日現在、上記スペック表の単一バリエーションです
コメント
Legion GoはゲーミングUMPCジャンルとしては典型的、あるいは標準的と言えるシステム構成になっています。CPUのRyzen Z1 Extremeは大人気となったASUS ROG Allyと同じで、中国メーカーのゲーミングUMPCに広く採用されているRyzen 7 7840Uとの相違点も少なく、ほぼ同等の性能です。RAM/SSDも16GB/512GBと、ゲーミングUMPCとしては一般的な容量ですが、PCゲームをたくさんインストールする、という用途の場合、512GBというのはちょっと少ないかな、と思います。
Legion Goが他のゲーミングUMPCと顕著に異なるのは「ディスプレイサイズが8.8インチと大きいこと(一般的なゲーミングUMPCは7インチ程度のサイズです)」および「コントローラー部分が分離でき、多彩な形態で利用ができること」です。
ディスプレイが大きいことによる視認性の向上、またコントローラーを分離できることによる多彩な操作パターンに期待できる一方で、筐体はゲーミングUMPCとしてはやや大柄です。
以下、Legion Goの個性的な外観からご説明していきます。
2.外観
同梱物
Legion Goには携帯に便利なケースが付属します。硬質な素材、いわゆるハードケースなので、常識的な使い方であれば十分に筐体を保護してくれると思います。
ACアダプターです。65W出力でサイズは一般的なノートPC用のACアダプターよりも小さく、ケーブル込みの実測重量は177 gでした。
これは「コントローラードック」といいます。ここに本体から分離した右コントローラーをセットできます(後述します)。
前面と背面
前面です。こうしてみると8.8インチというディスプレイの大きさがよく分かるというか、ディスプレイ部分の存在感が大きいですね。
コントローラー部分の説明画像です。一部わかりにくいところがありますが、27のLegion Lと32のLegion Rというのは「追加ファンクションキー」で、Legion Rには初期状態で設定アプリ(クイック設定)の起動が割り当てられています。ゲーム用の主要キー(ジョイスティックやABXYボタン)については一般的なゲーミングUMPCと変わりません。
また、右コントローラーにタッチパッドを装備しているのが特徴的です。Steam Deckもコントローラー左右にタッチパッドがありますが、Legion Goのタッチパッドは右側にひとつだけです。
背面です。中央に通気口があり、コントローラー部分にもたくさんのボタンが付いています。しかも左右非対称…。
説明画像です。M1、M2、M3、M4はプログラム可能なボタンで、特定の機能やマクロを割り当てることができます。またY1、Y2も特定の操作を割り当てることができます。面白いのは「マウスホイール」がついていることですね。
背面にはキックスタンドもついています。他社のゲーミングUMPCにもキックスタンドがついているものがありますが、Legion Goのキックスタンドは大型で頑丈と感じられ、使っていて安心感があります。
側面
上面です。左右にLB/LT、RB/RTボタンがあり、画像左側の丸く光っているのが電源ボタン、通気口を挟んでmicroSDカードリーダー、USB Type-C、音量+・-ボタンがあります。
下側面です。画像左にUSB Type-Cがあります。また右側(右コントローラー)のところにFPSモードスイッチ(感度の調整)とマウスセンサーがあります。なぜここにマウスセンサーがあるのかについては後述します。
左右側面です。右側面(右コントローラー、下の画像です)にはM1、M2ボタン、そして下部には上にご説明したFPSモードスイッチとマウスセンサーがあります。
コントローラーの分離
コントローラーの分離は容易です。コントローラーを外すとご覧の通り8.8インチサイズのWindowsタブレットに早変わりします。で、正面から見るとベゼルの細いタブレットなんですけど、厚さは約2センチありますし、重量も639 gと、タブレット製品としてみると厚くて重いですね。
右コントローラーはコントローラードックにセットして操作できます。今回のレビューでは試していませんが、FPSやフライトシミュレーターのようなゲームで使うと便利だと思います。また、この際に「マウスセンサー」が活きますw ドックにセットした状態でコントローラーを動かす(滑らす)とマウスのようにして使えます。
筐体の表面は樹脂製ですが、使っていて華奢な印象はありませんでした。また、他社のゲーミングUMPCのほとんど(ウインタブが知る限り全て)も表面は樹脂製です。コントローラーが分離できることによる剛性感の低下も特に感じられませんでした。
3.システム
Legion Goには設定アプリ「Legion Space」がインストールされています。Windowsの各種設定をはじめ、ゲームプレイを快適にするための多彩な設定が可能です。
ゲーミングPCのほとんどで設定ができる「パフォーマンス」の項目です。ゲームプレイ時には基本的にパフォーマンスモードを使うことになりますが、ゲーム以外の場面、例えば仕事で使うような場合は省エネモードでも十分快適に使えますし、バッテリーの駆動時間も伸びます。また、サーマルモードとファン風量が独立した設定項目になっています。
ディスプレイの設定です。最大解像度は2,560 × 1,600、リフレッシュレートは最大144Hzです。ゲームプレイ時には144Hzのほうがいいに決まっていますし、解像度も高いほうがいいに決まっていますが、当然システム負荷が大きくなり、バッテリー消費も激しくなりますので、プレイするゲームタイトルや利用環境(電源接続かバッテリー駆動か)によって使い分けることになります。
コントローラーは「非常に細かく」設定できます。いやほんと、ここまで必要か?と思えるくらいです。実際私はレビュー期間中、この機能の多くを試すことができませんでした。当然購入される人には歓迎される機能でしょう。
Legion Spaceの設定機能の多くはLegion Rを押せば呼び出せます。ゲームプレイ中にも呼び出せるのが便利です。
4.性能テスト
ベンチマークテスト
最初に3D Markのスコアを掲載しますが、このテストのみ「パフォーマンスモード」と「省エネモード」で測定しています。たのテストはすべてパフォーマンスモードにしています。
参考:
One-Netbook ONEXFLY:3,128、7,297、1,605
ASUS ROG Ally:3,138、7,264、1,349
ゲーミングUMPCの場合、ほとんどがRyzen Z1 ExtremeもしくはRyzen 7 7840Uを搭載しており、両者はゲームプレイに影響する部分の設計が共通なので、「CPUはほぼワンメイク」という状況です(MSI ClawがCore Ultra搭載ですが、現状まだウインタブでレビューはしていません)。よってベンチマークスコアも一長一短、という感じで「大差なし」と考えていいでしょう。あとは各製品の設定アプリでディスプレイ解像度やリフレッシュレート、パフォーマンス設定を調整しながら個別ゲームに対応していくことになり、その観点で言えばTDPまで細かく調整できる中国メーカー製品(One-Netbook社やAYANEOなど)に一日の長があると言えるかもしれません。
また、Legion Goに関して言えば、省エネモード時のパフォーマンス低下は顕著です。ただ、こうやってベンチマークの数値を見てしまうとダメっぽく感じられますが、体感としては「意外とまともに動くかも」と思ってしまいます。実際バッテリー駆動時間も結構伸びますしね。
ファイナルファンタジー15(FF15)のベンチマークスコアです。「グラフィック品質と解像度を落とせばプレイできるよ」ということですね。
こちらは表計算ソフトやビデオチャット、画像加工など、実際のビジネスシーンをシミュレートしたテスト、PC Markのスコアです。どちらかというとビジネス系のPCの性能測定で重視すべきベンチマークテストと言えますが、Legion GoもWindows PCですし、モニターやキーボードなどの周辺機器を接続してミニPC(デスクトップPC)として活用することもできますので、一応スコアを掲載しました。
6,691というスコアは外部GPUを搭載しないノートPCとして見る場合、「非常に高い」です。第13世代のCore i7-1355Uで5,000点台半ばくらい、Core i7-1360Pでも6,000点弱くらいなので、PC Markの想定するビジネスシーンではハイエンドなモバイルノートやスタンダードノートを凌ぐ実力があると言えます。こうしてみると、Legion Goをゲーム専用機にしておくのはもったいない、という気もしますね。
SSDの読み書き速度を測定するCrystal Disk Markのスコアです。PCIe4.0のSSDとして最高速とまでは言えませんが、十分に高速です。Legion Goの用途を考えると、速度には全く問題がないものの、そもそも容量が512GBのみ、という点の方に問題があるような気もします。PCゲームはタイトルによって100GB超えの容量のものが珍しくないので、ビジネスPCのように「512GBもあれば当面は余裕」という感じではありませんからね。
ゲームプレイ
実際にいくつかのゲームをプレイしてみました。試したゲームのうち、「最重量級」だったのはForza Horizon 5でしたが、ベンチマークモードで「低画質」が推奨されたものの、高画質でも十分快適にプレイできましたし、描画の遅延とかコントローラーからの入力ラグも感じませんでした。
FPSゲームも少しプレイしてみました。私は視力が悪いため、7インチくらいの画面だとエイム(照準)がうまくできないw というのがあるんですが、Legion Goはディスプレイサイズが大きく、かなりプレイしやすかったです(ただし、人間設定が低いので、戦績は悪いです)。
Legion Goに限った話ではありませんが、外部GPU非搭載のゲーミングUMPCではほとんどのゲームが楽しめます。ゲームタイトルによってハードウェア側の解像度設定やゲーム側のグラフィック設定を調整する必要があり、そこはハイスペックなゲーミングPCには劣りますが、表示品質にある程度目をつぶれるのであれば十分にゲームを楽しめると思います。
バッテリー
今回のレビューで私が最も長時間を費やしたのForza Horizon 5でパフォーマンスのモードを変えながら、バッテリーの消費量を測定してみました。
まずディスプレイ輝度を50%に、モードを「パフォーマンスモード」にして約40分プレイしたところ、バッテリー消費量は52%でした。この場合は1時間あたり78%程度のバッテリー消費、駆動時間は1時間15分くらい、ということになります。
次にディスプレイ輝度を50%のままにして「省エネモード」にして約30分プレイしてみたところ、バッテリー消費量は17%でした。この場合は1時間あたり34%程度のバッテリー消費、駆動時間は約3時間となります。
この結果はあくまで「Forza Horizon 5をプレイした場合」なので、バッテリー駆動時間はプレイするゲームにより変わってきます。ただ、パフォーマンスモードであれば「2時間もてばいいくらいか」だと思います。
発熱とファン音
発熱に関しては優秀だと思います。ゲームプレイ中に発熱を感じることはなく、実際に筐体に触れてもほとんど熱を感じませんでした。一方でファン音量を上げるとそれなりに大きなファン音はします。ただ、スピーカーの音の邪魔になるような音量・音質ではありません(耳障りな音ではない、ということです)。
5.レビューまとめ
Lenovo Legion Goはレノボ直販サイトで販売中で、3月22日現在の価格は134,860円です。ゲーミングUMPCジャンルの価格面で最強と言えるのはASUS ROG Allyの109,800円だと思います。One-NetbookやAYANEOのゲーミングUMPCだとLegion Goと同じくらいですかね。ただ、これら中国メーカーの製品はRAM/SSD容量が大きめですし、最近はディスプレイサイズも様々、キーボード内蔵の製品があったりするので、一概には比較できません。もちろんLegion Goも特徴のある筐体を備えていますしね。
私はウインタブの他の記事でもよく言っている通り視力が悪く、Legion Goの8.8インチというディスプレイサイズはとてもありがたいと感じました。PCゲームの多くは小さなディスプレイサイズに最適化された設計ではありませんので、視力の悪くない方であっても、このディスプレイサイズは歓迎できると思います。レビュー開始前に、「ゲーミングUMPCとしてはちょっと大柄だし重いので、使用感が心配」と思っていましたが、実際のところ、そこまでサイズが気になることもありませんでした。というか、7インチ級のゲーミングUMPCでも重量は600 g以上ありますので、重いと言えば重いですからね。
コントローラー分離式でユーザーがカスタマイズできるボタンが非常に多い、というのがLegion Goの大きな特徴です。好んでプレイするゲームのジャンルにもよりますが、この点は多くの人には高評価だと思います。
また、必要に応じてモニターやキーボードなどの周辺機器を別途用意することになりますが、コントローラーを分離してしまえばWindowsタブレットとして、またミニPCとしてお仕事にも違和感なく使えます。というか、いつも思うんですけど、WindowsのゲーミングUMPCはどの機種もお仕事に使えますが、客先で使い始めると「遊んでんじゃねえ!」と叱られそうですよねw Legion Goならその心配もいりません。
6.関連リンク
Legion Go:Lenovo
コメント
この省電力設定の低いスコアですら一斉を風靡したRyzen7 4700Uのvega7/i5-1135G7のiris-Xe80EUくらいの実スペックはあるのが恐ろしい話ですが……
それはさておき、Legion goの分解動画を見ると、よく言えばメンテナンス性に優れた作り、悪く言ってしまうと大手にあるまじき杜撰な冷却設計が浮き彫りになりますね
具体的に言うと、物理的なCPU冷却能力はGPD WIN miniと同程度しか無いと思います
そのため、「設計上の物理的な仕様」として、TDP 20W超での運用を続けると、そのうちシステムが熱暴走して落ちるのが仕様ですね……
Ryzen Z1 ExtremeでのTimespyスコア3400は、通常、TDP28W超でのスコアのはずなので、Legion GoのRAMが8000超相当までOCされているのでなければ、Timespyなどを連続で動かすと熱暴走での強制シャットダウン地獄に陥ると思います
実際にゲームによる連続稼働中に熱暴走でシステムが落ちるという報告もありますし
以上の物理的な仕様から、Legion Goの購入は9インチの高性能Windowsタブレットが欲しい場合を除き、あまりオススメできません