GMKtecのミニPC「NucBox M3 Ultra」の実機レビューです。「NucBox M3シリーズ」には他に「M3(Core i5-12450H搭載)」と「M3 Plus(Core i9-12900HK搭載)」がありますが、このM3 UltraはCore i7-12700H搭載ですから、CPU性能で見ると「真ん中のグレード」ということになります。M3シリーズはいずれもCPUに第12世代 Intel Core (Alder Lake)を搭載し、高い性能と手頃な価格を両立したミニPCです。
なお、このレビューはメーカーからのサンプル機提供によって行っています。
・ビジネス用のメインPCとして十分な性能
・筐体の開口は容易、RAMやSSDの増設・換装がしやすい
・ポート類が充実、HDMIポートも2つ搭載
ここはイマイチ
・ファン音が大きめ
・3つのパフォーマンスモードのメリハリが弱い
1. スペック
スペック表
項目 | 仕様 |
---|---|
OS | Windows 11 Pro |
CPU | Intel Core i7-12700H |
RAM | 16GB/32GB(DDR4 3200 MT/s, 最大64GB) ※スロット×2、空きなし |
ストレージ | 512GB/1TB SSD (M.2 PCIe 3.0) ※M.2 2242 スロット空き1 |
ディスプレイ | なし |
無線通信 | Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2 |
ポート類 | USB Type-C(映像出力対応) USB 3.2 Gen2 Type-A×3 USB 2.0 Type-A、LAN (RJ45) HDMI×2(4K@60Hz) 3.5 mmオーディオジャック |
カメラ | なし |
バッテリー | なし |
サイズ | 114×106×42.5mm |
重量 | 430 g |
※このスペック表はベアボーンモデル(OSなし、RAM/SSDなし)を考慮していません。
バリエーションモデル
・ベアボーン (OS/RAM/SSDなし)
・RAM 16GB / SSD 512GB
・RAM 32GB / SSD 1TB
※ベアボーンモデルと32GB/1TBモデルはGMKtec日本公式ストアのみの取り扱い
2. 外観
同梱物です。画像左上に保証書、その下に取扱説明書 (日本語を含む多言語で書かれています)、中央上のビニール袋に入っているものがVESAブラケットと取り付け用のネジです。PCモニターの背面に取り付けるための金具ですね。画像右がACアダプターで出力は100Wと大きめです (ノートPC用のCPUを搭載するミニPCの場合、65W出力のものが多いです)。画像下中央がHDMIケーブル、右下が電源ケーブルです。
上面 (天板)です。シンプルなデザインで色はブラック、ガラスに見える (実際はアクリルだと思います)コーティングが施されており、ちょっと高級感があります。
前面にはUSB 3.2 Gen 2 Type-Aが2つと電源ボタン。
背面です。上部に排気口があり、下部にポートがたくさんついています。左からDC-INジャック、イヤホンジャック (上段)、HDMI (下段)、有線LAN、USB 2.0 Type-A (上段)、USB 3.2 Gen 2 Type-A (下段)、USB Type-C (映像出力対応、上段)、HDMI (下段)です。
側面です。左右全く同じデザインなので一側面のみ掲載します。こちらには通気口があるのみ。
底面です。四隅にゴム足とその内側にネジがありますが、筐体開口の際はこのネジ (4つ)を外します。他には画像上部にVESAブラケット用の穴とネジ穴があります。
筐体を開口したところです。開口は非常に容易で、一つ上の画像にある4つのネジを外すのみです。引っかかりそうなツメもありません。おそらくどなたでも問題なく開口できると思います。
画像左側にRAMが2枚 (黄枠)、画像右側にヒートシンクで覆われたM.2 2280 SSDが見えます (水色枠)。また、中央にはM.2 2242 SATA/PCIe (両対応)のSSDスロットがあります (赤枠)。つまり、RAMについては初期状態で空きはなく、増設する場合は初期状態のRAMを取り外す必要があります。SSDに関してはM.2 2242サイズのものを増設できます。
なお、RAMはDDR4-3200規格のもので、HWiNFOで確認してもモジュールメーカーがUnknownと表示され、判別ができませんでした。SSDはMaxio Technology製で、PCIe 3.0 ×4規格でした。
RAMとSSDを外してみました。SSDの下にWi-Fiモジュールとボタン電池があります。
3. 性能テスト
パフォーマンスモード
GMKtec NucBox M3 Ultraは他のGMKtec製品と同様に、BIOSでパフォーマンスの調整が可能です。「Power Limit Select」とあるように、「電力の上限」を決めるモードですね。
今回はそれぞれのモードでベンチマークテスト「PC Mark」を実施しながら、アプリ「HWiNFO 64」にてCPUパッケージ温度の最大値、サーマルスロットリングの発生有無、CPUパッケージ電力の最大値を測定しました。
PC Mark | CPU最高温度 | サーマル スロットリング |
CPU最大電力 | |
High Performance | 5,820 | 97℃ | 発生 | 45.6W |
Balance | 5,723 | 97℃ | 発生 | 37.8W |
Quiet | 5,561 | 96℃ | 発生 | 31.3W |
一応、モードごとに電力が変わり、それが若干スコアに影響を及ぼしているのが見て取れます。しかし、他のGMKtec製品のようなメリハリは感じられません。例えばNucBox K11 (Ryzen 9 8945HS搭載)では (PC Markではなく、CINEBENCH 2024での測定でしたが)Performanceモードでは最大70W、Quietモードでは最大35Wとモードによる差が大きく、他社製品となりますがGEEKOM GT13 Pro (Core i9-13900HK搭載)ではPerformanceモードでは最大54W、Quietモードでは最大20Wと、やはりモード間の差は大きかったです。
モード間の電力差が小さいことはCPU温度やサーマルスロットリングの発生有無 (QuietモードでもCPU温度が上昇し、サーマルスロットリングが発生している)に影響を及ぼしているだけでなく、「騒音」にも影響しています。NucBox M3 UltraではQuietモードでも大きめのファン音が出ました。
この結果を見て、ウインタブとしては「Quietモードではもう少し電力を抑えたほうが良かったのでは?」と感じました。
ベンチマークテスト
では、以下にベンチマークスコアを掲載します。すべてHigh Performanceモードで測定しています。
表計算ソフトやビデオチャット、画像加工など、実際のビジネスシーンをシミュレートしたテスト、PCMarkのスコアです。ビジネス系のPCの性能測定で重視すべきベンチマークテストと言えます。ウインタブが最も重視しているテストです。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 9 185H:8,099
Ryzen AI 9 365:7,896
Ryzen AI 9 HX 370:7,511
Ryzen 7 8845HS:7,446
Core Ultra 7 258V:7,527
Ryzen 9 PRO 6950H:6,987
Ryzen 7 8840U:6,949
Ryzen 7 PRO 6850H:6,858
Core Ultra 7 155H:6,849
Ryzen AI 5 340:6,767
Ryzen 5 8645HS:6,708
Core i9-13900H:6,542
Core Ultra 5 135H:6,485
Core Ultra 7 255U:6,404
Core Ultra 7 155U:6,392
Core Ultra 5 125U:6,376
Core i9-13900HK:6,344
Ryzen 5 7535U:6,021
Core i7-1360P:5,929
Core i5-1340P:5,677
Core i7-1355U:5,452
Core i5-1334U:5,145
Core i7-1255U:4,834
Core i5-1335U:4,775
Core i5-1135G7:4,066
過去データを見ると、より世代の新しいCore i9-13900H/HKのデータがあり、それらのデータと比較すると8~11%程度低くなっています。Passmarkの公表値ベースだと性能差は7%程度なので、それよりも若干大きめのスコア差となりました。Core i9-13900H/HKのデータもミニPCでの測定数値で、最大電力が54Wになる設定で測定した (M3 Ultraは最大45Wでの測定)もののため、少し大きな差が出たものと思います。
個人的には「事務仕事用ならPCMarkのスコアは4,000点もあれば十分」と考えています。5,800点であれば一般的なビジネス用途でストレスを感じない性能であると評価します。
グラフィック性能を測定する3DMarkのスコアです。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 7 258V:4,397、8,611、35,677
Core Ultra 9 185H:4,143、8,223、31,710
Core Ultra 7 155H:3,924、8,338、24,476
Ryzen AI 9 365:3,895、8,885、34,303
Ryzen AI 9 HX 370:3,800、8,026、31,138
Core Ultra 5 135H:3,454、7,235、24,791
Core Ultra 5 125H:3,392、7,301、23,168
Ryzen 9 7940HS:3,362、7,776、29,076
Ryzen 7 8845HS:3,330、7,908、29,873
Ryzen 7 8840U:2,943、7,206、27,471
Ryzen 9 PRO 6950H:2,846、7,051、27,983
Ryzen 7 PRO 6850H:2,660、6,601、26,920
Ryzen 5 8645HS:2,437、6,253、24,401
Core Ultra 7 255U:2,430、4,916、20,096
Core Ultra 7 155U:2,319、5,162、19,024
Ryzen AI 5 340:2,123、5,159、22,941
Core Ultra 5 125U:2,081、4,826、19,421
Core i9-13900HK:1,979、5,507、19,723
Core i9-13900H:1,956、5,440、19,477
Core i7-1360P:1,786、4,991、16,779
Core i7-1355U:1,760、4,859、16,891
Core i5-1334U:1,386、3,672、13,157
Ryzen 5 7530U:1,281、3,137、13,730
Ryzen 7 5825U:1,242、3,226、12,859
Ryzen 3 5425U:1,122、2,848、11,949
※左からTime Spy、Fire Strike、Night Raidのスコア
3D MarkでもCore i9-13900H/HKとのスコア差に着目してみます。M3 Ultraが搭載するCore i7-12700Hよりも「1世代新しいこと」「Core i7ではなくCore i9であること」を考慮すれば、妥当なスコア差というか、むしろ健闘していると思います。
このスコアはGeForceなどの外部GPUを搭載するPCには遠く及びませんが、少し古いゲームタイトルや軽量なゲームタイトルであれば楽しめるくらいの実力はあると思います。
CPU性能を測定するCINEBENCH 2024のスコアです。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 9 275HX:132、2,094
Core i7-14700:122、1,177
Core Ultra 7 258V:121、676
Core i9-13900HK:117、827
Core i9-13900H:117、687
Ryzen AI 9 HX 375:114、1,144
Core Ultra 9 185H:111、910
Ryzen AI 9 HX 370:110、942
Ryzen AI 9 365:109、1,008
Snapdragon X Elite:108、1,038
Ryzen 9 8945HS:108、958
Snapdragon X Plus X1P-42-100:108、754
Ryzen 7 8845HS:106、956
Ryzen 9 7940HS:106、914
Core Ultra 7 155H:105、964
Core Ultra 7 155U:101、533
Core Ultra 7 255U:101、516
Ryzen 5 8645HS:98、585
Core Ultra 5 125U:95、533
Core Ultra 5 125H:95、516
Ryzen 9 PRO 6950H:93、774
Ryzen 7 PRO 6850H:91、765
Ryzen 7 5825U:85、590
Ryzen 3 5425U:78、365
※左からシングルコア、マルチコアのスコア
シングルコア (シングルスレッド)性能に関してはCore Ultraシリーズ1 (Core Ultra 7 155U)と遜色ない性能です。また、マルチコア (マルチスレッド)性能でもCore Ultraシリーズでハイパースレッディングを廃止した影響もあり、相対的には高いスコアになっています。
SSDの読み書き速度を測定するCrystal Disk Markのスコアです。GMKtec NucBox M3 UltraはPCIe 3.0 ×4接続のSSDなので、この数値は妥当と思われます。日常の利用でストレスを感じるような場面はまずないと思います。
発熱とファン音
高負荷時のCPU温度については上の「パフォーマンスモード」のところに記載したとおりです。サーマルスロットリングが発生していて、やや高めになっています (ただし、サーマルスロットリングが発生するのは正常なことではあります)。高負荷時には筐体にやや発熱が感じられますが、「熱い」というほどではありません。
ファン音は「総じて大きめ」です。High PerformanceモードやBalanceモードでファン音が大きめなのはわかるとして、QuietモードでもGMKtecの他製品よりも大きなファン音がします。高負荷時には手元の騒音計で54dBを越え、少々耳障りです (なお、騒音の数値は生活音も含まれるため、必ずしも正確ではありません)。
このファン音だと、少し不快に感じる人もおられると思います。ミニPCなので身体から少し離れた場所に設置すると思いますし、設置場所も柔軟に変更できるので、不快に感じられる場合はひと工夫することになるでしょう。
4. レビューまとめ
GMKtec NucBox M3 UltraはGMKtec日本公式ストアとAmazon、楽天で販売中で、Amazonと楽天ではRAM16GB/512GB SSDモデルのみの扱いとなり、10月9日現在のAmazonでの価格は56,999円です。また、RAM32GB/1TB SSDモデルはGMKtec日本公式ストアで64,357円です。なお、価格は日々変動しますので、詳細は下記のリンクボタンから各通販サイトにて確認してください。
また、「M3 Plus」というモデルもあり、M3 Ultraと同一筐体で「Core i9-12900HK/RAM32GB/1TB SSD」という構成で、こちらはAmazonで63,664円で販売されています (M3 Ultraと同じ製品ページです)。CPU性能にそこまで大きな差はないと思いますが、それでもCore i9-12900HKのほうが高性能だと思いますし、RAMとSSD容量が倍増して63,664円ということなので、(あくまでこの記事執筆時点での価格を見ての話ではありますが)M3 Plusにする、という選択肢もあるかと思います。
実機をテストしていて、ファン音が少し大きめかな、と感じましたが、5万円台半ばで購入できるミニPCとしてみると、CPU性能や筐体のメンテナンス性、筐体のデザインや質感などは高く評価できます。ウインタブ読者のメインPCとしても快適に使える製品だと思います。
5. 関連リンク
2014年にサイトを開設して以来、ノートPC、ミニPC、タブレットなどの実機レビューを中心に、これまでに1,500本以上のレビュー記事を執筆。企業ではエンドユーザーコンピューティングによる業務改善に長年取り組んできた経験を持ち、ユーザー視点からの製品評価に強みがあります。その経験を活かし、「スペックに振り回されない、実用的な製品選び」を提案しています。専門用語をなるべく使わず、「PCに詳しくない人にもわかりやすい記事」を目指しています。
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