こんにちは、natsukiです。ここ1年、相次いで主要なペンタブ・液タブメーカーが、各社の技術を活かした、高精度のペン入力性能を持つAndroidタブレットを発売しました。イラスト作成はもちろん、ノートやプレゼンなどにも大いに活用できる、非常に注目の製品群と言えるでしょう。一方で、一気に出そろったためか、良くも悪くも製品スペックがどれも似通っています。そこで、これらをまとめて比較してみたいと思います。なお、私は、今回紹介する製品のうち、実際に「XPPen Magic Note Pad」をレビューし、その後も継続利用しています。レビュー記事と、継続利用の経験を踏まえての記事は下記をご覧ください。




また、個人的に、XPPen Magic Note Padの他にも、ペン入力に優れたタブレットとして、電子ペーパータブレットのBOOXシリーズと、業務用&子供向けにiPadも日常的に使用していて、それぞれの特性に合った使い方を模索しています。その他、今までウインタブでペンタブ、液タブをいくつかレビューしてきたり、今となっては上記製品にペン性能は劣るものの、それなりの精度のペン入力に対応したWindowsタブレットやコンバーチブルPCである、ASUS VivoTab 8、Cube Mix Plus、Surface GO2、Lenovo Yoga770、Lenovo IdeaPad 5 2-in-1 Gen 9 14(AMD)も利用してきました(特に後半3機は私と家族の主要マシンとしてバリバリにフル活用中)。それらの経験からも、適宜コメントできればと思います。
1.全体的な特徴
今回紹介する製品は、いずれもAndroidタブレットです。その全体的な傾向をまとめてみます。
いずれも、ペンタブ・液タブの老舗メーカーで、高いペン入力性能が期待できる
今回の記事で主に取り上げる製品は、いずれも、これまでペンタブや液タブを開発してきた名の知れたメーカーから発売されたものです。しかしこれらメーカーは、今までは、ペンタブや液タブのような周辺機器や他社への技術提供といったものが中心で、自らOSを搭載するタブレット本体を発売することは珍しく、あっても高価格帯の本格的なクリエイター向け製品くらいでした。それが、比較的手の届く価格帯、露骨に言えば、iPadの最廉価機種と同等かそのちょっと下の価格帯で、ペン入力機能を前面に押し出したAndroidタブレットを相次いで発売したということです。
具体的に見ておくと、まず昨年末にXPPenとugeeが発売をはじめ(ちなみに、両者は同じ会社の別ブランドということらしいです)、最近になりここにHuionも参入、そしてついに王者Wacomも参入してきたという経緯があります。これら4社とも、ペン入力デバイスの開発でしのぎを削ってきたメーカーゆえに、品質に期待が高まります。実際、XPPen Magic Note Padを使っていると、視差(下記参照)やジッター(斜めに線を引いたときに生じるブレ)の低減、自然な筆圧感知など、過去の液タブやペン入力対応のタブレット製品からの進化を如実に感じます。
また、今回紹介する製品は、すべて、フルラミネーションディスプレイを搭載しています。フルラミネーションディスプレイは、ディスプレイのペンのセンサーまでの厚さが非常に薄く、物理的なペン先と実際の反応の間のズレ、いわゆる「視差」が少なくなっているのが特徴です。逆に、フルラミネーションディスプレイでない場合は、この視差がそれなりにあり、ペン入力の精確性・快適性において大きな差が現れることになります。もちろん、同じフルラミネーションディスプレイでも、製品によって差はあります。この点の分かりやすい例としては、後述しますが、iPadの下位モデルはフルラミネーションではないため、上位モデルとの間に歴然たる使用感の差があります。iPadは比較的店頭での試用の機会が多いので、試してみると差を実感できるでしょう。
個人作業に専念できるアンチグレア(非光沢)のディスプレイ
今回紹介する製品のうち、格安のHuion Kamvas Slate 10以外は、すべて低反射のアンチグレアディスプレイを採用しています。一般的に、タブレット製品は光沢のあるグレアディスプレイを採用する場合が多く、これは大きな特徴となっています。アンチグレアディスプレイの快適性は、個人的には実用上非常に重要だと感じる部分です。アンチグレアというと、くっきり感や色味が落ちるんじゃないかと心配する人がいるかもしれませんが、XPPen Magic Note Padを使っている限り、それはまったく杞憂です。いちおう、デメリットとして、斜めから見たときに暗くなりがちで、視野角が狭く感じられるという点はあります。ただこれは、個人で使っている限りはさほど問題とならないでしょう。
似たり寄ったりの処理能力
今回、紹介する製品のうち、格安のHuion Kamvas Slate 10以外は、すべてCPU(SOC)にHelio G99を搭載します。Helio G99というのは、Antutu v10でのスコアがおおむね30万点台後半から40万点くらいで、オフィス系アプリやイラストアプリなどを動かすには十分な処理能力で、よっぽど高解像度のイラストを書かない限りは、問題無くこなせます。もっとも、原神などのヘビー級ゲームには向きません(一部、Helio G99で原神がプレイ可能とうたう言説を見かけますが、画質設定を限界まで落とす必要があり、現実的なゲーム体験として個人的には無理があると思います)。実際にXPPen Magic Note Padを使っている経験として、単独で使っていて処理能力不足を感じることはありません。ただ、プレゼン端末として使ったときに、環境やアプリ次第でしょうが、インターネットに接続しつつ無線接続で映像出力を行うと、実用的に使えてはいるものの、熱くなったり、処理落ちしてカクついたりと、かなりギリギリです。
インターネットのブラウザなどを参照しながら、イラストアプリやノートアプリなど動かす程度なら十分。ただし、あまりマルチタスクをやらせると無理が出る部分もある、くらいの処理能力です。
独自の機能やアプリで個性を出す機種も
一部の製品は、独自の機能を搭載して、個性を出しています。
特に異彩を放つのはXPPen Magic Note Padで、この機種は思い切ってアウトカメラを廃しています。これによって、平置き時にガタつきません。また、本体にペン収納スペースがあり、かなり強力なマグネットで固定します。そのため、カバーを使わなくても、単独での取り回しの良さを実現しています。物理的なボタンによって切り替えられる3種類のカラーモードや、専用ノートアプリXPPen Notesを備え、この利用に合わせたユーザインターフェースになっているなど、システム面も特徴的です。ペン入力というと真っ先に想定しがちなイラスト機能ではなく、ノート機能をアピールしているというのも異色です。なお、3つのカラーモード切替は、ugee Trio Pad UT3も備える機能で、XPPenとugeeの同企業としての共通性がうかがえます。
イラスト作成面で個性を出しているのは、Wacom MovinkPad 11です。独自スケッチアプリのWacom Canvas搭載や、イラストアプリの大手CLIP STUDIO PAINTとの高度な連携、独自の画像管理アプリWacom Shelfといった、イラスト作成に特化したシステムを搭載しています。4メーカーの中では発売がもっとも遅れたのがWacomなんですが、さすがは王者、満を持しての登場と思わせるだけのインパクトがあります。
2.用途
従来、意外にもAndroidタブレットにおいて、ペン入力機能はあまり重視されてきませんでした。ペン機能をユーザーに特に強くアピールした製品は、SamsungのGalaxy Tab SシリーズとHUAWEIの一部製品くらいでしょうか。が、ペン入力機能が強化されることで、以下のような用途に世界が広がります。
イラスト作成
まずは、いうまでもなくこれでしょう。やっぱり、タブレットに高性能なペンで絵を描くというのは、ロマンですよね。一方で、線の精密性、筆圧など、繊細な精度が要求される、技術水準の高い部分でもあります。今回紹介する製品が、いずれも、ペンタブや液タブなどのペン入力に特化したメーカーであることからも、そう簡単な話ではないことが分かると同時に、これらメーカーが本腰を入れてきたことに期待も高まります。
ノート、メモ
最近の製品が強くアピールするのがこの用途です。イラストは結局、一部の人の趣味に限られますが、ノートやメモとしての利用は万人に必要とされるものでしょう。実際、どんなにデジタルデバイスのアプリが進化しても、やはり手書きの自由度にはかないません。私も、日常的にもっとも使う用途は、やはりこれです。まあ、この用途を突き詰めていくと、電子ペーパータブレットという別の選択肢も出てくるんですが、今回は脱線なのでそれは省略。
資料への書き込み
既存の資料への書き込みも重要です。良くも悪くも、世の中のデジタル化の進展によって、私たちは膨大な量の資料に接します。これらに、手書きで自在に書き込めるというのは、非常に便利なものです。
Miracastを利用してのプレゼン端末
個人的に重宝しているのが、この用途です。注意点として、今回紹介するタブレットは、いずれも有線での映像出力には対応していません。そもそも、Androidタブレットで有線の映像出力に対応する機種自体が、Galaxy Tab Sシリーズなどかなり限られます。ただしAndroidは、基本的に無線での映像出力機能を持つため、Amazonで1,000円台くらいで買えるMiracast互換レシーバーを使えば、プロジェクターなどへの無線映像出力が可能です。ペンを使って、いろいろリアルタイムで書き込むことができるのは、プレゼンの際に非常に便利です。もっとも、無線の映像出力はわりと負荷が高いらしく、経験上、あまり無茶はさせられないのは上記の通りです。あとは、プロジェクター側に無線アダプターを装着できるか(HDMIの差し込み口が細くて延長ケーブルが必要になったり、アダプターのUSB電源がネックになることがある)という、環境面の問題もありますが。
3.iPadとの違いは?
タブレット端末におけるペン入力の可能性を、先頭に立って開拓してきたのは、やはりiPadです。では、あえてiPadではなくてAndroidタブレットを採用する意味はあるのか?私は、はじめに触れたように業務や子供用にiPadも使っているので、その経験からも比較しておきます。
価格の優位性
iPadのペン入力性能を見るときに重要なのが、先述のフルラミネーションディスプレイかどうかということです。実は、現行のiPadのラインナップのうち、最廉価帯のiPad(A16)(11インチ)は、フルラミネーションディスプレイではありません。iPad(A16)の最小構成は、記事執筆現在で税込み58,800円と、今回紹介するAndroidタブレットと競合する価格帯ですが、フルラミネーションディスプレイではないため、ペン入力の使用感は大きく劣ります。この辺でコストダウンしているわけですね。
現行のiPad(A16)以外のiPadは、すべてフルラミネーションディスプレイを採用しています。このうち、フルラミネーションディスプレイ採用機としてはもっとも安価なiPad mini(A17 Pro)は、記事執筆現在の最小構成価格が78,800円です。が、8.3インチというディスプレイサイズの点で、今回紹介するAndroidタブレットとは競合しません。11インチと13インチがあるiPad Air(M3)とiPad Pro(M4)なら、フルラミネーションディスプレイ採用で、iPadの高性能なペン機能を十分に活かせますが、iPad Air(M3)の最小構成がギリギリ10万円を割るものの、基本的に10万円台です。またもちろん、iPadのペンは別売で、しかも筆圧検知にまで対応するペンはなかなかいいお値段がするので、ここにも費用がかかります。
対して、今回紹介するAndroidタブレットは、セール価格込みで、おおむね6万円台には収まります。また、ペンやカバーといった基本的な付属品も、はじめからセットになっています。もろもろ込みの価格だと、iPadとは2倍かそれ以上の価格差があるということです。
アンチグレアディスプレイ
iPadが、反射ありのグレアディスプレイなのに対して、今回紹介するAndroidタブレットは、Huion Kamvas Slate 10以外、すべて低反射のアンチグレアディスプレイを採用しています。これは、すでに触れたように、落ち着いて作業をする際の快適性として非常に重要です。
もちろん、iPadにアンチグレアの保護フィルムを貼るという手もあります。が、手間はもちろん、フィルムの厚さ分だけ、先述の視差も拡大してしまうことになります。
一定の摩擦感
Apple Pencilの純正ペンは、ほとんど摩擦が無く、ここに抵抗感を感じる人も多いでしょう。ただ、Apple Pencilにはサードパーティー製の豊富な替え芯があるので、それらで各自に応じた摩擦感を追求することは可能です。
システムとしての互換性
これは、使っている人の環境次第です。というか、個人的経験に基づく恨み言です。要するに、私の場合、Apple独自の仕様にほんとうに色々な面でさんざんに振り回され続けているので。
iPadの方がいい場合も
もちろん、絶対値としてiPadがペン入力に優れたタブレットであることは間違いありません。次のような点では、iPadに優位性があるでしょう。
・圧倒的な世の中の情報量
・豊富な周辺機器
・Appleのエコシステム(特にMacやiPhoneユーザーに恩恵が大きい、私にとっては苦痛)
・余裕のある処理能力
・タブレットとしては優れたカメラ性能(スキャンやイラストの下絵などとして)
4.一覧表
各社の製品を、サイズ別、ブランド別で整理してみます。
サイズ別比較表
ブランド | 製品名 | ディスプレイ サイズ |
光沢 | 解像度 | OS | CPU | RAM | ストレージ | microSD カードスロット |
カメラ | 筆圧段階 | ペンについて | カラーモード 切り替え |
アプリ・システム | サイズ | 重量 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Huion | Kamvas Slate 10 | 10.1インチ | グレア | 1,920×1,200 | Android 12 | Unisoc T616 | 8GB | 128GB | あり | イン 5MP アウト 13MP |
4,096レベル | 充電式 | なし | 243×161×8.6mm | 575g | |
ugee | Fun Drawing Pad UT2 | 10.36インチ | アンチグレア | 2,000×1,200 | Android 14 | Helio G99 | 6GB | 128GB | あり | イン 8MP アウト 8MP |
4,096レベル | 充電式 | なし | 247.06×156.82×7.53mm | 466g | |
XPPen | Magic Note Pad | 10.95インチ | アンチグレア | 1,920×1,200 | Android 14 | Helio G99 | 6GB | 128GB | なし | イン 13MP アウト なし |
16,384レベル | バッテリーレス | あり | 専用ノートアプリ | 182×259×7mm | 500g(実測) |
Huion | Kamvas Slate 11 | 10.95インチ | アンチグレア | 1,920×1,200 | Android 14 | Helio G99 | 8GB | 128GB | あり | イン 8MP アウト 13MP |
4,096レベル | 充電式 | なし | 256.8×168.3×7.5mm | 500g | |
Wacom | MovinkPad 11 | 11.45インチ | アンチグレア | 2,200×1,440 | Android 14 | Helio G99 | 8GB | 128GB | なし | イン 5MP アウト 4.7MP |
8,192レベル | バッテリーレス フェルト芯 |
なし | 専用スケッチアプリ CLIP STUDIO PAINT連携強化 |
266×182×7mm | 588g |
XPPen | Magic Drawing Pad | 12.2インチ | アンチグレア | 2,160×1,440 | Android 12 | Helio G99 | 8GB | 256GB | あり | イン 8MP アウト 13MP |
16,384レベル | バッテリーレス | なし | 279×192×6.9mm | 599g | |
Huion | Kamvas Slate 13 | 12.7インチ | アンチグレア | 2,176×1,600 | Android 14 | Helio G99 | 8GB | 256GB | あり | イン 8MP アウト 13MP |
4,096レベル | 充電式 | なし | 280.6×211.8×7.5mm | 682g | |
ugee | Trio Pad UT3 | 14.25インチ | アンチグレア | 2,400×1,600 | Android 14 | Helio G99 | 8GB | 256GB | あり | イン 13MP アウト 8MP |
4,096レベル | 充電式 | あり | 322.41×222.02×6.95mm | 760g |
ブランド別比較表
ブランド | 製品名 | ディスプレイ サイズ |
光沢 | 解像度 | OS | CPU | RAM | ストレージ | microSD カードスロット |
カメラ | 筆圧段階 | ペンについて | カラーモード 切り替え |
ソフトウェア | サイズ | 重量 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
XPPen | Magic Drawing Pad | 12.2インチ | アンチグレア | 2,160×1,440 | Android 12 | Helio G99 | 8GB | 256GB | あり | イン 8MP アウト 13MP |
16,384レベル | バッテリーレス | なし | 279×192×6.9mm | 599g | |
XPPen | Magic Note Pad | 10.95インチ | アンチグレア | 1,920×1,200 | Android 14 | Helio G99 | 6GB | 128GB | なし | イン 13MP アウト なし |
16,384レベル | バッテリーレス | あり | 専用ノートアプリ | 182×259×7mm | 500g(実測) |
ugee | Trio Pad UT3 | 14.25インチ | アンチグレア | 2,400×1,600 | Android 14 | Helio G99 | 8GB | 256GB | あり | イン 13MP アウト 8MP |
4,096レベル | 充電式 | あり | 322.41×222.02×6.95mm | 760g | |
ugee | Fun Drawing Pad UT2 | 10.36インチ | アンチグレア | 2,000×1,200 | Android 14 | Helio G99 | 6GB | 128GB | あり | イン 8MP アウト 8MP |
4,096レベル | 充電式 | なし | 247.06×156.82×7.53mm | 466g | |
Huion | Kamvas Slate 10 | 10.1インチ | グレア | 1,920×1,200 | Android 12 | Unisoc T616 | 8GB | 128GB | あり | イン 5MP アウト 13MP |
4,096レベル | 充電式 | なし | 243×161×8.6mm | 575g | |
Huion | Kamvas Slate 11 | 10.95インチ | アンチグレア | 1,920×1,200 | Android 14 | Helio G99 | 8GB | 128GB | あり | イン 8MP アウト 13MP |
4,096レベル | 充電式 | なし | 256.8×168.3×7.5mm | 500g | |
Huion | Kamvas Slate 13 | 12.7インチ | アンチグレア | 2,176×1,600 | Android 14 | Helio G99 | 8GB | 256GB | あり | イン 8MP アウト 13MP |
4,096レベル | 充電式 | なし | 280.6×211.8×7.5mm | 682g | |
Wacom | MovinkPad 11 | 11.45インチ | アンチグレア | 2,200×1,440 | Android 14 | Helio G99 | 8GB | 128GB | なし | イン 5MP アウト 4.7MP |
8,192レベル | バッテリーレス フェルト芯 |
なし | 専用スケッチアプリ CLIP STUDIO PAINT連携強化 |
266×182×7mm | 588g |
5.各製品の特徴
以下、ブランド毎に、各製品の注目点をまとめます。
XPPen ― 実機レビューからもペン性能の素晴らしさは文句なし
ここ1年の、ペン入力を重視したAndroidタブレットの先鞭を切ったブランドです。ラインナップは2機種。共通の特徴として、圧倒的な16,384レベルの筆圧段階に対応、そしてペンがバッテリーレスというところがあります。もっとも、筆圧については、このレベルになると、正直、4,096段階との違いはよく分かりません(笑)。使用感に直結するのは、ペンがバッテリーレスということの方で、これは、XPPenとWacomのみです。充電が必要ないので、いざというときに使えない心配がない他、重量も軽いという利点があります。ちなみに、HuionやWacomのラインナップが出てきたあたりから、対抗のためかセール価格がひとまわり下がったので、要チェックです。
・Magic Note Pad(10.95インチ):はじめに触れたように、ノート性能をアピールした、かなり攻めた機種です。アウトカメラをオミットすることで平置きしてもガタつかず、本体にペン収納スペースを持つので、カバーがなくても単独でノートとしての完成度が高くなっています。インターフェースと一体化した専用ノートアプリ「XPPen Notes」や、ボタンによる3つのカラーモードの切り替え機能といった独自機能も魅力です。もちろん、ペンがバッテリーレスなのも強み。サイズ的には、ugee Fun Drawing Pad UT2、Huion Kamvas Slate 11、Wacom MovinkPad 11と競合しますが、非常に個性が強いので、比較検討するというよりは、惚れて買うかどうかという製品です。セール価格が、ここ数ヶ月で、5万円台を見るようになってきました。私が見ている限りのセール価格で、おおむねWacom MovinkPad 11(6万円台後半)>XPPen Magic Note Pad>ugee Fun Drawing Pad UT2≒Huion Kamvas Slate 11(4万円台)>Huion Kamvas Slate 10(2万円台)といった感じで、うまいこと付加価値や性能で序列化されています。
・Magic Drawing Pad(12.2インチ):サイズ的に競合するのは、Huion Kamvas Slate 13。こちらの方が少し小さく、筆圧スペックと、ペンがバッテリーレスな点ではこちらの方が上まわります。Androidのバージョンが12とやや古いですが、実用上は問題ないでしょう。価格は、上記のようにここ数ヶ月でセール時に6万円台まで下がるようになってきて、価格的にもHuion Kamvas Slate 13と同等です。
ugee ― XPPenよりペンのスペックでやや劣るがUT3のサイズは魅力
XPPenと同じ会社の別ブランドということで、発売もおおむね同時期です。ペンの筆圧段階が4,096段階で、充電式と、XPPenよりもスペックダウンしています。その分、競合機種はやや安価。XPPen Magic Note Padの備える3つのカラーモード切り替え機能は、Trio Pad UT3も備えます。
・Fun Drawing Pad UT2(10.36インチ):サイズ的には、XPPen Magic Note Pad、Huion Kamvas Slate 11、Huion Kamvas Slate 10、Wacom MovinkPad 11と競合。このうち、XPPen Magic Note Pad、Wacom MovinkPad 11は非常に個性が強いのに対して、このugee Fun Drawing Pad UT2とHuion Kamvas Slate 11は比較的オーソドックスな構成のため、価格も比較的安価で、セール時に4万円台です。Huion Kamvas Slate 11とは、スペックも価格もほぼ同等で、迷いどころですね。ugee Fun Drawing Pad UT2の方が少し小さいので、可搬性を重視するならこちらかな、というところ。
・Trio Pad UT3(14.25インチ):デカい!サイズで競合する機種はありません。イラスト作成においては、本格的にやるなら、大きさそのものが優位性になります。当然、可搬性は劣りますが、どどんと置いてじっくり描きたいならこれ、という機種です。なお、明らかにイラスト向けなこの機種で活躍しがいがあるかは微妙ですが、XPPen Magic Note Padと同じ3つのカラーモード切り替えにも対応します。さすがに大きいので、価格も、セール時に6万円台後半といったところです。
Huion ― オーソドックスな構成で、スペックを抑えた安価な機種も
機能的には独自性があまりなく、オーソドックスな構成の機種を出しています。その分、価格は抑えられていて、特に、今回紹介するなかでは唯一CPUがUNISOC T616のKamVas Slate 10は、頭抜けて安いので注目です。
・Kamvas Slate 10(10.1インチ):CPUに他機種がHelio G99を搭載するのに対して、Kamvas Slate 10は、UNISOC T616というAntutu v10で約20万点台半ばのものを搭載。それでも、よっぽど高解像度にしなければ、アイビスペイントを動かすには十分です。映像外部出力とかやると厳しいかも。その分、価格がセール時に2万円台後半と圧倒的に安いのが魅力です。ただ、ディスプレイがグレア(アンチグレアフィルムをオプションで購入可能)だったり、Androidのバージョンも12(一部13との記述もあるが、公式サイトのスペック表では12となっている)など、価格相応とはいえ、Helio G99クラスの製品に比べると見劣りする部分はCPU以外にもあり、悩ましいところです。
・Kamvas Slate 11(10.95インチ):オーソドックスな構成の製品です。ugee Fun Drawing Pad UT2とサイズもスペックも価格も競合する製品で、セール価格で4万円台くらいです。サイズはこちらの方が少し大きめ。
・Kamvas Slate 13(12.7インチ):こちらもオーソドックスな構成の製品。サイズ的に競合するのはXPPen Magic Drowing Padで、こちらの方が少し大きめです。ペンの筆圧レベルとバッテリーレスな点でXPPen Magic Drawing Padに優位性がある一方、Androidのバージョンは、XPPen Magic Drawing PadはAndroid 12、こちらはAndroid 14です。価格的には、セール時に6万円台と、XPPen Magic Drawing Padと同価格帯です。
Wacom ― 王者らしい、イラスト特価の独自機能に注目
Wacomは、記事執筆現在ではMovinkPad 11(11.45インチ)の1種類のみです。筆圧段階は8,192レベルで、ペンはバッテリーレス、専用スケッチアプリWacom Canvasを備え、これに合わせたインターフェースも採用。Wacom Canvasは大手イラストアプリCLIP STUDIO PAINT(入門版のCLIP STUDIO PAINT DEBUTの2年ライセンスが付属します)と連携し、さらに独自の画像管理アプリWacom Shelfも搭載、と、徹底してイラスト作成に特化した機能が詰まっています。価格は、6万円台後半と、今回紹介した製品の中では高い方。だが待って欲しい、Wacomの液晶タブレットって、最廉価のWacom One(新型)11.6インチモデルで、ペン付きの場合セール価格で5万円をギリギリ切るかどうかですよ? 実際のところ、今まで、液晶タブレットの価格で見ると、Wacomと、XPPen・ugee・Huionの間にはそうとうに大きな差が存在していました。それが、「単独で動作するWacomのタブレット」がこの価格と考えると、そうとうに攻めた価格設定と言ってよいでしょう。ともかく性能を追求するというなら、これで決まりと言える製品です。
6.余談:結局使ってみなきゃ分からない書き心地と、今回取りあげなかった機種について
ところで、ミもフタもない話をすると、手書き性能というのは結局のところ、スペックだけでなく、実際に使ってみないと何とも言えないところがあります。例えば、快適性にとって最も重要なペンの追随性は、筆圧レベルとはまったく無関係です。視差についても、フルラミネーションディスプレイの中でも、機種によって違いはあるものです。ジッターについては、実際に書いてみなくては何とも言えません。従って、ペンの手書き性能にこだわるならば、理想は、店頭で実機を試すことです。が、実際にはなかなかそうも行かないし、だからこそ、この記事にも一定の需要があると思って書いています。そこで、やはり性能の目安になるのは、ブランドです。
要するに、Wacomは絶対王者なので、ハンパな製品を出せない使命を背負っています。まあ、Wacom買っておけば間違いないという信頼感があります。そのWacomを長く追ってきたのがXPPenで、こちらは、実際に実機を使っているので、自信を持って性能をお伝えできます。ただ、そのXPPenですら、文字を書くときの追随性においては、私の手持ちのタブレットでは、電子ペーパータブレットのBOOXにはかないません。ただし、BOOXの場合は、徹底的に最適化された専用アプリでしか十分にペンを使えないという点は割り引いて考えなくてはいけませんが。ちなみに、BOOXのペンの技術はWacomです(一部の廉価機種はペン形式が異なっているので違うかも)。ugeeは、XPPenと同じ会社なので、同程度の精度はあるだろうという安心感はあります。ただ、上記でも触れたように、XPPenブランドとugeeブランドでは、筆圧段階の違い以外にも充電の有無の差があるので、異なるペン形式を採用しているようではあります。Huionは、私自身は使用経験がないのでなんともコメントできないのですが、こちらも液タブの老舗メーカーではあるので、XPPenやugeeに対して後出しで製品を出すからには、一定の品質は期待できます。
さて、高度なペン入力機能をウリにするAndroidタブレットは他にもあります。ただ、詳細な仕様や実際の使い心地は不明な点が多く、今回の記事では採りあげませんでした。以下、気になりつつも取りあげなかった製品を列挙しておきます。
Samsung Galaxy Tab Sシリーズ
Samsung Galaxy Tab Sシリーズは、Wacom製のペン入力機能を備える、歴史と性能に定評のあるシリーズです。ペン入力を最大限活かすための独自の機能も多く備え、従来であれば、ペン性能にこだわるAndroidタブレットなら、これ一択といってよかったでしょう。今回採りあげなかったのは、単純に価格帯の問題です。バリエーションは非常に豊富ながら、中心となるラインナップは基本的に10万円台です。唯一、最廉価のGalaxy Tab S6 Lite 2024(10.4インチ)は、おおむね5万円台で購入可能で、今回紹介した製品群と同価格帯です。ただ、フルラミネーションディスプレイかどうかの確証が取れない(少なくとも同製品のかつてのバージョンはフルラミネーションディスプレイではなかったものもある)など、ペン性能でどこまでのコストダウンが行われているかが、私が得られる情報では評価できないため、比較からは外しました。
上位ラインナップであれば、文句なしのペン性能を発揮してくれるはずです。。
BekoQurd T4
2024年8月発売の11インチAndroidタブレットで、汎用的なペン形式であるUSI 2.0の、筆圧4,096段階のペン入力機能を備えます。CPUはHelio G99で、実売価格は2万円台半ばと、非常に安い……。レビューを探すと、それなりに多くの動画が上がっていて、少なくとも一般的なタッチペンとは異なり、ちゃんとメモ程度になら使えるペン性能は持つようです。しかし、私が探した限りでは、動画レビューを見る限り、視差やジッターの評価、アイビスペイントなどを使った実際のイラスト作成といった細かいチェックを行っているレビューは見かけませんでした。そもそもこの製品、ブランドのサイトもなく、フルラミネーションディスプレイなのかどうかということも分かりません。また、単にペン入力に対応してコスパがいいタブレット、というだけなら、後述するXiaomiのRedme Pad 2というバケモノが出てしまいました。ということで、今回紹介した製品と比較するにはあまりに情報不足ということで、取りあげませんでした。
Lenovo Tabシリーズ
LenovoのAndroidタブレット「Lenovo Tab」はラインナップが非常に豊富で、その中には専用ペン対応の製品も多くあります。ただ、こちらも探した限りでは、本格的なペン性能を検証したレビューは見当たりませんでした。Lenovoの宣伝も、ペンは使えるよ程度で、それほど商品の売りとして前面には出していない印象です。もっとも、ざっとしたレビューではおおむね好評ではあるようです。
私は、Lenovo Tabは持っていないのですが、専用ペンに対応したWindowsの2in1パソコン「Lenovo Yoga770」「Lenovo IdeaPad 5 2-in-1 Gen 9 14(AMD)」はそれぞれ、私と子供のメインマシンとしてヘビーユースしています。そして、この2機種のペンを評価する限りでは、追随性と視差は十分に優秀、ただし、かなり強いジッターが出る、また、ペン先がシリコンのような素材で、摩擦が強すぎる、といったところです。さすがに大手メーカーだけあって決して悪い性能ではないものの、ジッターは正直、線画をちゃんと描くのは厳しいレベルでブレます。逆に、ジッターがあまり気にならない、文字などの細かい書き込みをする分には優秀と言えます。もちろん、WindowsとAndroidでは、性能やそもそものペン形式が異なる可能性は十分にあります。Windowsのペン性能とて、メモを取ったり、ノートでも図などを描かなければ通用するくらいの性能はあるんですよね。ということで、こちらは迷ったものの、Windowsでの性能を元に、やはりXPPenやWacomなどの専門メーカーには一歩劣るとして、取りあげませんでした。Windowsの2機種の詳しいレビューとジッターの具合は、下記記事をご覧ください。






XiaomiのAndroidタブレット
この他、Xiaomiの「Xiaomi Pad 7/7 Pro(11.2インチ)」や「Redme Pad 2(11インチ)」も気になるところです。私が見た限りのネット上のレビューでは、追随性と視差においてはなかなか優秀な能力を持つようです。一方で、ジッターはわりと目立つようで、やはりXPPenやWacomなどの専門メーカーには一歩劣ると考え、取りあげませんでした。ただ、Redme Pad 2は、CPUにHelio G100-Ultra(その名称通り、Helio G99よりちょっと上)を搭載しながら、最小構成のRAM4GB、ストレージ128GBであれば、ペン別売とはいえ、発売セールで2万円を切るという、ペン入力対応のタブレットとしては狂った価格を実現しています。この価格なら、多少のジッターくらい許せてしまうかもしれません。
7.この先の展望
私自身、かつて安価にWacom製ペン入力機能を備えたASUS Vivotab Note8には非常に感動し、またBOOXに惚れ込んでいることからも分かるように、「タブレットのペン入力性能」には個人的にこだわりを持ち続けてきました。ついに「専門の液晶タブレットに匹敵する性能」をもつAndroidタブレットが、これだけ安価に手に入る時代になったということには、大きな感慨を禁じ得ません。最後に、期待も込めて、この先の展望を少し考えてみたいと思います。
ライトなイラスト作成には液タブが不要になるか?
少なくとも、実際にレビューしたXPPen Magic Note Padは、イラスト用の液晶タブレットと遜色ない性能を持ちます。強いて言えば、縦持ちを想定してペン先のキャリブレーション(反応位置調整)がなされているため、横持ち時にはペン先が1mmほどズレるので、横向きでの作業には向かないというくらいでしょうか。
これは、どこまで本格的な作業を行うかにもよりますが、実際にイラスト作成をする際、ライト層にとっては取り回しの良さは非常に重要です。実際に我が家の場合は、より高性能な液晶タブレットがあるにもかかわらず、イラスト作成ガジェットとしては、ながらく単独で完結するWindowsタブレットのCube Mix Plusが現役でした。



今後はおそらく、イラスト作成能力を求める人にとっても、ライト層にはこういう単独で完結するタブレットの方が普及して、液タブはより本格的な作業向けというすみ分けができていくんじゃないかと思われます。
イラスト作成以外にも、手書きノート・メモアプリが普及
ペン入力機能というと、従来想像されるのはイラスト作成で、逆に言えば、イラスト作成に興味のない大多数のユーザーにとっては、ペン性能はさほど製品としての魅力につながりませんでした。しかし、最近では、ペン入力による直感的な操作が可能なノート・メモアプリがどんどん充実してきており、イラスト作成をしなくても、ペン入力機能の活かしがいがあるようになってきています。
実際のところ、私自身の業務においても、子供のタブレット端末の使い方を見ていても、だんだんと「ペンを使うこと」自体が、当たり前の操作手段となってきているのを感じます。すくなくともAndroidにおいては、今後ますます、ペン入力に対応するアプリは増えていくことでしょう。
Androidにもペン入力標準化の時代が到来?
一昔前までは、Androidタブレットで実用レベルのペン入力が可能な機種というと、SamsungのGalaxy Tab Sシリーズしかなかったのが、今回紹介したペン専門メーカーの製品はもちろんのこと、気がつくとLenovoやXiaomi等の大手国際メーカーのAndroidタブレットも、ペン入力機能を持つ機種が増えてきました。繊細な性能の追求に差はあれど、Androidタブレット全体として、ハード面でもペン入力対応機種はますます普及していくでしょう。
一方で、ペン入力があるというだけで、価格が大きく上がるのも事実です。ウインタブでもよく紹介する、Teclast、ALLDOCUBE、AlphawolfなどのメーカーでHelio G99搭載機であれば、2万円台でかなり充実したスペックのものが手に入ります。つまり、メーカーとしてのブランド力の差もあれど、ペン性能をプラスするだけで、価格は2倍かそれ以上に跳ね上がるということです。しばらく、Androidタブレットの購入を検討する際に、ペン入力機能とコスパのどちらを求めるかどうかというのは悩みどころとなりそうです。
8.関連リンク
Magic Note Pad
Magic Drawing Pad
タブレットPC:ugee
Kamvas Slate / Kamvas Studioシリーズ:Huion
MovinkPad 11:Wacom


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