ペンタブレット(液タブ/板タブ)でおなじみのHUIONのAndroidタブレット「Kamvas Slate 13」の実機レビューです。HUIONではこの製品を(液晶ペンタブレットやペンタブレットとは別ジャンルの)「スタンドアローンタブレット」と称しています。ウインタブ読者や私にしてみれば「ペン入力性能がめっちゃ高いAndroidタブレット」と理解するのがわかりやすいのですが、メーカー側では「PC接続が不要、単体でイラスト制作を楽しめるペンタブレット」ということのようです。ただ、いずれにしてもこの製品のジャンルは「Androidタブレット」で間違いないです。
通常、この手の製品のレビューはライターのnatsukiさんが担当してくれているのですが、今回は私と私の家族による「タブレットを使って初めてのお絵描き」という形式でレビューをしたいと思います。ペンタブレットに慣れていないので突っ込んだ解説は難しいですが、これからPCやタブレットでお絵描きデビューをしたいと考えている初心者には多少なりともお役に立てるのではないか、と思います。
なお、このレビューはメーカーからのサンプル機の提供を受け、実施しています。
・ペンタブメーカーが作ったお絵描きAndroidタブレット
・4,096段階の筆圧と60°の傾き検知に対応するH-Pencilが付属
・ペン入力に適度な摩擦感のあるノングレアディスプレイ
・SoCにHelio G99を搭載、Androidアプリの利用も可能
・カメラ品質も高め
ここはイマイチ
・細かい描画では、ジッターが気になる場面も
・WidevineはL3
目次
1. スペック表
本体
項目 | 仕様 |
---|---|
OS | Android 14 |
SoC | MediaTek Helio G99 |
RAM | 8GB |
ストレージ | 256GB |
ディスプレイ | 12.7インチ(2176×1600) ※99% sRGB |
バンド | — |
無線通信 | Wi-Fi 5、Bluetooth5.0 |
ポート類 | USB Type-C、microSDカードリーダー |
カメラ | 前面:8MP/背面:13MP |
バッテリー | 10,000 mAh |
サイズ | 280.6×211.8×7.5mm |
重量 | 682g |
ペン(Hペンシル)
項目 | 仕様 |
---|---|
ペン技術 | Active Capacitive |
圧力レベル | 4096段階 |
傾き検知 | 対応 |
2. 外観
同梱物です。画像左からケース(スタンドとしても使えます。後述します)、充電式のペン(H-Pencilといいます)とスペアのペン先3本、その上にUSB Type-Cケーブル。続いて取扱説明書とmicroSDのイジェクトピン(この製品はLTE/5G対応ではありません)、そしてペンタブレットでも付属するグローブ(薬指と小指のみ覆うタイプです)。ACアダプターは付属しませんのでご注意ください。
前面です。Kamvas Slate 13のディスプレイは12.7インチで解像度は2,176×1,600(アスペクト比は16:11.76、あるいは4:2.94。iPadの4:3に近いですが、それよりもわずかに横長です)、発色は99%sRGBです。また、画像を見ていただくとわかると思いますが、ちょっと暗く見えますよね?Kamvas Slate 13のディスプレイはノングレア(非光沢)タイプです。タブレット製品でノングレアというのはかなり珍しいです。
ノングレアということもあり、視野角は一般的なタブレット製品よりも狭いです。
背面です。筐体素材は金属で筐体色は「ダークグレー」です(他の色は設定がありません)。先日ライターのnatsukiさんがレビューしたXPPen Magic Note Padのような「背面カメラなし」ではなく、しっかり13MPの背面カメラを搭載しています。
横持ち時の上側面です。画像右側に音量ボタンがあります。よくある「横長ボタンで一方を押すと音量上げ、もう一方を押すと音量下げ」ではなく、音量上げと下げが独立したボタンになっています。
下側面には何もありません。
右側面です。スピーカーが2つ、USB Type-Cポート、そしてmicroSDスロットがあります。
これがmicroSDスロットです。Kamvas Slate 13は5G/LTE対応しない、つまりSIMカードは使用できないので、Androidでよくある「nanoSIM+microSD」という構造ではなく、このスロットに使えるのはmicroSDカードのみです。
左側面です。こちらにもスピーカーが2つ、あとは電源ボタンがあります。
ペン(H-Pencil)は充電式です。ペンタブレット(液タブ・板タブ)用のペンのように太いものではなく、まさに「鉛筆」という感じのサイズ感なので、初心者にもとっつきやすいと思います。ペン立てに他のペンや鉛筆と一緒に入れると、探すのに苦労しそうなくらい「普通の見た目」ですね。
ケースを装着してみました。ケースの下部にH-Pencilが収納できるようになっています。ケース素材は一般的なAndroidタブレット用のものと変わりませんが、全体的に「肉厚でしっかり」しています。そのぶん重量はやや重く、このケースにタブレット本体とH-Pencilを収納した状態での実測重量は1,112 gありました。また、本体にホールセンサーがあり、ケースのフタを閉じると自動的に画面OFF、フタを開けると画面ONとなります。
もちろんタブレットスタンドとしても使えます。このように角度を2段階に調整することができます。ただ、これは動画視聴用、という感じで、本格的なペン入力をするには安定性が十分ではありません。
ペン入力をする場合はタブレット形態もしくはこの画像のような形状は向きます。この形状であれば安定性が高く、多少力を入れて描いても問題ありません。
3. 使用感(一般的なAndroidタブレットとして)
Kamvas Slate 13はペンタブレットメーカーのHUIONが手掛ける「クリエイティブタブレット」ですが、もちろん普通のAndroidタブレットとしても使えます。まずは「普通」の部分から使用感をお伝えします。
システム

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ホーム画面とアプリ一覧画面です。OSはAndroid 14とやや古いですね。製品特性上、Clip Studio Paintやibis Paint Xといったメジャーなクリエイティブアプリがプリインストールされていました。ただ、それ以外は非常にプレーンなAndroid UIで、独自の機能も見当たりませんでした。大画面デバイス向けUIも採用されていません。良くも悪くもAndroid製品を使ったことのある人なら戸惑わないであろうUIです。
それと、プレーンなのはいいとして、設定項目に「ペン関連」のものがありませんでした。つまり、Kamvas Slate 13はOSの機能でペンの設定を変更できない、ということです。
ディスプレイ
実機を手にとってみると、一般的なAndroidタブレットとはディスプレイの見え方が違っていると感じます。全体的に輝度が低めで視野角もやや狭くなっています。
これはメーカー製品ページにあった画像です。Kamvas Slate 13は「フィルム」なのか「素材」なのかはわかりませんが、紙のような質感を出すため、ディスプレイの仕上げが特殊なものになっています。ペン入力だけでなく、タッチ操作でも少し抵抗を感じる手触りです。ただし、操作していて全く不快とは感じませんでした。むしろタッチ操作もしやすいです。
また、このディスプレイ加工は発色品質を阻害していません。Kamvas Slate 13は色域が「99%sRGB」と開示されていますが、他のディスプレイと発色を比較してみても色味は鮮やかです。「ちょっと暗め」ではありますが、手動で輝度を上げれば動画視聴やWeb閲覧でも支障はありません。
残念なのは「WidevineがL3」であることです。NetflixやAmazonプライムビデオなどの動画サブスクリプションサービスではSD画質になってしまいます(YouTubeであればフルHDでの視聴が可能です)。
スピーカー
Kamvas Slate 13は横持ち時の左右側面に2つずつ、合計で4つのスピーカーを搭載しています。音質は「抜群」とまでは言えませんが、タブレット製品としては決して悪くはありません。動画視聴の際などには臨場感のある音が楽しめます。
カメラ
ウインタブは「タブレットのカメラはついているだけでいい。なんなら要らない。」と考えています。みなさん「いいスマホ」を使っていると思いますし、写真を撮るのならスマホのほうが圧倒的に便利ですよね?(スマホがあるのに)わざわざ大型のタブレットをバッグから出して、細かな設定をして記念写真を撮る、という機会はまずないと思います。
なので、タブレットのカメラは「前面カメラでWebミーティング(この場合の画素数は2MP・1080pもあれば十分です)」「背面カメラでドキュメントなどのメモ撮影、あるいはPDF化するための素材として撮影」くらいがメインだと思うので、高い画素数も美しい発色も必要ないと思っています。
ただし、Kamvas Slate 13のカメラは「もう少し役割があるはず」ですね。外出先で、イラスト制作の素材として写真撮影をする、みたいな使い方もありえます(もちろんこの場合でもスマホで問題ないように思いますけど)。なので、一般的なタブレットよりは少し品質に気を配る必要があるでしょう。
カメラアプリは非常にシンプルです。RAW形式での撮影はできますが、撮影モード(夜景モードや美顔モードなど)はなく、ウォーターマーク(透かし)も入れられません。撮影サイズは前面カメラが8MP(3,264×2,448)、5MP(2,560×1,920)、2MP(1,440×1,088)、背面カメラが13MP(4,096×3,072)、5MP(2,560×1,920)、3MP(1,920×1,440)です。また動画は(背面カメラで)2K(2,560×1,440)、FHD(1,920×1,080)、HD(1,280×720)、VGA(640×480)です
実際に何枚か写真を撮ってみました。オリジナルは13MP(4,096×3,072)でHDRオンですが、ここに掲載する画像は1,920×1,440に縮小しています。
いかがでしょうか?撮影日は晴天の日中でしたが、私としては「タブレット製品のカメラとしては素晴らしい画質」だと感じました。これならイラスト素材用としても十分使えるんじゃないでしょうか?

4倍ズーム
ズームは最大4倍まで。さすがに4倍で撮影すると粗さが目立ちますが、それでもウインタブがよくレビューしている低価格帯の製品と比較すると「ずいぶんマシ」かなと思います。なお、マクロ(接写)には対応していません。1倍より倍率を下げることはできません。イラスト素材用なのであればマクロレンズもあってよかったかもしれませんが、製品価格も上がってしまうと思うので、ここは我慢しましょう。
4. 使用感(ペン入力について)
冒頭にも書きましたが、このレビューでは「初心者にとって使いやすいのか?」という視点で試すことにしました。
私の子(長女)は私に全く似ず、美術センスがあります。確か中学校の美術の成績も良かったはずですが記憶は定かではありません。ただ、彼女が学校から持って帰ってきた絵(水彩画)とか工作物(木彫りのペンケースなど)を見て、「こいつ相当センスあるわ」と思っていました(親バカ)。
実際、本人も絵を描くことは好きなようですが、「PCやタブレットで絵を描いた経験は皆無」です。しかし、Kamvas Slate 13のレビューについて話したところ「ぜひレビュー機で絵を描いてみたい」とのことでした。これが今回Kamvas Slate 13をレビューさせていただくきっかけとなりました。
とはいえ、PCやタブレットで絵を描いた経験がないので、クリエイティブアプリの使い方も知りません。でも、世の中便利になったといいますか、YouTubeで「超初心者向け!CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)の使い方」みたいな動画がたくさんありまして、実際に絵を描く前に親子で2本ほど動画を観て勉強しました。
約1時間後にはこの状況でした。彼女は20代と若いこともあり、ごく短時間でクリスタの使い方を理解し、絵を描き始めました。ちなみに右手に持っているのは「AIアシスタントに描かせた模写用の絵」です。
これが完成した作品です。ちなみに最初は「んぽちゃむ」の絵を描いてくれたのですが、「いやこれ権利の関係でサイトに載せられないわ」ということで、上記の絵を描いてもらった次第です。余談ですが、んぽちゃむ(私は知らなかった)は初心者がKamvas Slate 13に慣れるために模写するのに向く素材だと思います(あとで気づいたのですが、模写ってかなり大変なんですよね。一から自分で描くほうがラク)。
で、完成した作品が上手か下手かというのはこの際どうでもいい話です。レビューで書きたかったのはそういうことではなくて「Kamvas Slate 13で絵を描くのが楽しいか楽しくないか」「Kamvas Slate 13は初心者にとって『とっつきやすい』か否か」「Kamvas Slate 13のペン入力は初心者目線で高品質か否か」という点です。
彼女の答えは「大満足」でした。使い始めにクリスタの基本操作を勉強していた際は「少しダルそう」に見えましたが、レイヤーの概念を理解し、「線の調整」と「塗り」の基本知識をマスターしてからは絵を描くことに没頭していましたね。
初心者がKamvas Slate 13で絵を描き始めるのにあたって最大のハードルは「ハードウェアの使い方ではなく、ソフトウェア(アプリ)の使い方」なのでは?と思います。クリスタは知識ゼロの状態からある程度使えるようになるまでそれなりの時間がかかりますし、おそらくアプリの使い方がよくわからなくて挫折する人もいるでしょうね。しかし、上で説明した通り、現在は「超初心者向けの動画」が溢れていて、それらを1本か2本視聴すれば「とりあえず描き始められる」はずです。
次に、ライターのnatsukiさんのレビューを参考に、私自身も描き味をテストしてみました。CLIP STUDIO PAINTを使ってみたのですが、全くの初心者なので、親子で観た動画の他に、こちらの動画を観ながら、その説明通りに作業をしました。

ちなみにこちらの動画、非常にわかりやすくて、大変勉強になりました。以下、実際に絵を描きながら感じたことを書きます。
視差は認識できる程度にはあります。「線を描く」操作では視差はほとんど気になりませんでしたが、絵を描いていて「塗る」「消しゴム機能で繊細な消去作業をする」際には少し気になりました。
ジッターは同種の製品の中では少し大きめだと思います。これは画面に定規を当てて線を引くと、直線にならず、曲がってしまうような現象ですが、現在私の手元に同じコンセプトの製品があり、使い比べてみるとKamvas Slate 13のほうがジッターが大きいと感じます。私や私の子のような初心者だと「こんなものか」と納得できてしまいますが、日頃高品質なペンタブレットを愛用している人の場合は気になるかもしれません。
ペン先の追随については、筆圧を効かせ、線を太くすると遅れが目立つ印象です。CLIP STUDIO PAINTで太いペンで素早く線を描くとはっきりと遅れを感じます。ただし、じっくり描くような場面ではそれほど気になりませんでした。また、ノートアプリで筆圧の効かないペンを選ぶ場合はあまり遅れを感じません。これはSoC性能に依存する問題だと思いますので、Helio G99相当のSoCを搭載する競合製品でも似たようなものだと思います。
最後に私自身の素直な感想を。これ「楽しい!」です。アプリ解説のサイトや動画を見ながら描き進めていくと「使い方がわからない」ストレスをあまり感じることなく、時間が経つのを忘れて絵を描くことに没頭できました(ただし、腕前が腕前なので思い通りに仕上がらないストレスというのはありましたw)。
5. 性能テスト
Antutuベンチマークテストのスコアは41万点でした。Kamvas Slate 13の搭載SoCはHelio G99で、「標準的~若干高め」くらいの数値です。OSの基本操作や動画視聴、Web閲覧、重量級ではないゲームなどは十分こなせると思います。
このジャンル(お絵描きタブレット)の競合製品の多くはHelio G99搭載なので、SoC性能としては「横並び」という感じですね。
6. レビューまとめ
HUION Kamvas Slate 13はHUION公式サイトとAmazonで販売中で、8月2日現在の価格は63,749円です(8月10日までのセール価格です)。
私は今回のレビューで初めて「PCやタブレットの画面に直接ペン入力する方式で真剣に絵を描いてみた」のですが、記事内で繰り返し触れた通り、従来は少々とっつきにくかったクリエイティブアプリについて、非常にわかりやすい解説記事・解説動画に簡単にアクセスできるようになり、この手の製品で絵を描くということのハードルがかなり低くなったと感じました。実際、私も私の子も解説動画を短時間観ただけで絵を書き始めることができ、その楽しさを存分に体験していました(上手に描けるかどうかは別です)。
PCで絵を描く場合、どんな機材にするかにもよりますが「パソコンとペンタブレット、ソフトウェア」が必要になりますし、それなりの設置スペースも必要です。新規に買い揃える場合は10万円を軽く超えることになるかもしれません(ここは本当に人それぞれです)。
Kamvas Slate 13はHelio G99搭載のタブレットとしては「かなり高価」ですが、「ペン入力性能と絵を描く楽しさ」を思えば決して大きな出費でもないと思われます。Androidタブレットとしても普通に使えますので、ゲームをしたり動画を観たりといったことにも使えます(ただし、Widevine L3であることに注意)。
PCやタブレットで絵を描いてみたい、という人にはぜひ手に取っていただきたい製品です。
7.関連リンク
2014年にサイトを開設して以来、ノートPC、ミニPC、タブレットなどの実機レビューを中心に、これまでに1,500本以上のレビュー記事を執筆。企業ではエンドユーザーコンピューティングによる業務改善に長年取り組んできた経験を持ち、ユーザー視点からの製品評価に強みがあります。その経験を活かし、「スペックに振り回されない、実用的な製品選び」を提案しています。専門用語をなるべく使わず、「PCに詳しくない人にもわかりやすい記事」を目指しています。
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