記事にアフィリエイト広告を含みます

タイル化時代のAtom後継CPUの行方

タイル化時代のAtom後継CPUの行方
ウインタブでおなじみAtom系CPUは、一時期開発終了とアナウンスされ、Gemini Lake以降3年余り新型が出ないなど紆余曲折がありましたが、その後Jasper lakeを経て、最新のAlder lake-Nは「まだ現役で使っているちょっと前のCore-i3に匹敵しており、普通に使える」と好評を博しています。

スポンサーリンク

Atom系CPUは、Baytrail時代のスティックPCに端を発し、Gemini lake搭載の中華系ミニPC以降このセグメントで特に存在感が強く、Alder lake-NもN100搭載の中華ミニPCが安価で意外と高性能としてよく取りざたされています。Chromebookでも使われており(リファレンスモデルのGoogle dededeのリークがよく出てくることからこちらの需要でJasper lakeが復活したと考えています)、N100搭載Chromebookも順当に出ています。このほかCore i3ブランドが付いた理由であろうエントリークラスのノートにもN305搭載品が出ています。省電力化が進んできたことで、aytrail時代の主戦場だった小型タブレットでも、Surface Go 4にN200が採用されるなど徐々に商品が増えています。

このように、Atom系CPUも完全に復活して市場を確保したと見ることができ、今後とも後継製品が出ることが期待できます。ただ、次世代までは想像がつきやすいですが、タイル化に伴う大きな変更があった次々世代以降はまた話が別になってきます。今回はそれについて考えます。

Twin lake (Raptor lake-N)

Alder lake-Nは名前の通りAlder lakeがベースとなっています(最上位N305のターボ周波数3.8 GHzは本家の最上位12900のEコアターボ時3.8 GHzと一致)。そのAlder lake-Nの後継としては、Raptor lakeをベースに同じような再設計を行うことが真っ先に思いつきます。Raptor lakeはただのリフレッシュではなく、製造プロセスの改善で最大クロックが10%程度向上しており、発売当時の記事で「社内的にはIntel 7 UltraやIntel 6などと呼んでいる」と言及されるほどで、シングルスレッド性能+10%は過去の例から言っても1世代の進歩として十分な数字と言えるでしょう。

Raptor lakeベースのAtom系CPUが製造されれば、フラッグシップのN1305(仮)は13900のEコア最大ブースト周波数と同じく最大4.2 GHz程度になると予想されます。絶対性能でもAlder lake-Nではマルチ性能・体感性能で第10世代並としていたところ、シングルスレッド性能でも第10世代から第11世代下位(i3-1115G4)、Zen2(3100、4500U、5300U、7320U)など2020~2021年発売の「梅モデル」向けCPUと同程度になり、Alder lake-N同様順当に実用圏内と見なされるでしょう。

実際、複数のリーカー(例:Moore’s Law Is Dead)からRaptor lakeベースのAlder lake-N後継CPUが開発中という話が漏れており、今回は「Twin lake」というコードネームが別途与えられ、2024年後半の発売を目指しているとされています。Raptor lake Refreshの製造が終わって空いた製造ラインを埋めるようなタイミングになるので、いかにもありそうな話に思えます。

タイル化時代のAtom系CPUはどうなる?

しかし、それ以降の世代ではAtom系CPUの立場が怪しくなってきます。Atom系CPUはメインストリームのCore系CPUから内蔵GPUやメモリコントローラなど既存設計を流用しつつ、全体的にスケールダウンしたものを作ってきました。Alder lake-Nではそれが顕著ですが、Jasper lake以前もCPUコアをmont系アーキテクチャのものに置き換えつつもGPUやSystem Agent(非コア部)はCore系のものを流用・スケールダウンする手法で行われてきました。

しかし、Meteor lake以降ではCPUがタイルに分割されています。このうちCPUタイルだけをEコア8つサイズまで分割してもコストはほとんど縮小しません。5枚のタイル全てを縮小することも考えられますが、再設計の手間が大きく、Foveros接合のコストは相変わらずかかるため、コスト縮小効果は見込みにくいように思われます。このため、今まで使ってきた「既存の設計を流用してスケールダウン」という手法が使いにくくなります。

スポンサーリンク
Meteor Lake

Meteor lake以降の構造は、性能を上げる方向でのタイルの入れ替えは容易だが、全体を満遍なく小さくするといったことをするにはむしろ足かせになる

方向性1:本格的な超低消費電力版

以前のリーク(OneRaichu)として、Intelが関係者向けに将来展望として配った資料に「HX – H – P – U」というなじみのある電力セグメントと異なる、「HX – H – PX – MX – U- N」なるセグメント分けがされたものが出ています。一番下に「N」があることから何らかの形でAtom系CPUの系譜が続くのは確実そうです。

IntelはLakefield発売後、Alder lakeの時も1P4Eの5Wセグメントを作ることを目論む(過去記事)など、再三Lakefield系のスマホ・タブレット向けの小型Coreを作ろうとしており、Lunar lakeはその系譜に位置する小型超低消費電力版ではないかという予想(筆者過去記事Moore’s Law is Dead)があります。ハイエンドスマホ向けのSoCも現在は10 Wに迫っており、Meteor lakeで行われているようなアイドル時の省電力化が進めば不可能でもないように思います。

問題があるとすれば、Lakefieldの過去例から考えて必ずしも安くならず、N4100-N5100-N100の系譜の安価ミニPC用のSKUにはマッチしなそうであることと、何よりこのセグメントへの参入は失敗し続けていることでしょう。

方向性2:モノリシック新設計型

コスト重視にしたときに一番考えやすい方向性は、以前と同様に必要な回路をモノリシック(1枚ダイ)にまとめなおして作る方法でしょう。ただ、従来は同じプロセスノードで作った回路を再配置する形だったため物理設計もかなり流用できたのに対して、Meteor lake以降はコアがIntel 4 (Meteor lake)やIntel 3 (Sierra Forest)、GPUがTSMC N5、アンコア(従来のチップセット部)がTSMC N6とバラバラで、一つにまとめるには物理層の再設計というコストが追加されてしまいます。

Twin lake(仮)の次の世代はSierra Forest用Crestmontが物理設計済みのIntel 3になるでしょう。このプロセスノードはIntel Foundry Services (IFS)という外部から製造のみ受注する事業に供されますが、こういったファウンドリ事業では顧客が良く使う定番回路はあらかじめ設計済みのものを提供することが多く、IFSでも「顧客はx86 CPU、GPU、メディアアクセラレータ、ディスプレイエンジン、内部バスなどのIntelが持つIP(知的所有権)を利用できる」(PC Watch)とされています。このため、IFSでスマホ向けSoCを作りたい顧客に向けた設計済みの回路パターンがあれば、これを流用してIntel 3でモノリシックなAtom系CPUが作られる可能性は考えられるでしょう(Intel 3使用の一種のデモンストレーションにもなるかもしれません)。

方向性3:SoCタイル流用型

Foveros導入の一つの理由は、最新プロセスノードでもアンコア部はあまり縮小させられず加工コストが上がった分無駄になるので、各パーツに最適なノードを合わせたい、というものがあります。Meteor lakeではSoCタイルが旧ノースブリッジ(MCH)、旧サウスブリッジ(PCH)の機能を統合しており、アンコア部に相当する部分に古いノードを使っています。

そこで、SoCタイルはそのまま流用し、EコアとiGPU、多少の補完機能を詰めたタイルを一つ作れば、比較的小さな変更で新しいCPUが作れるのではないかとも考えられます。本流CPU終売後に余ったSoCタイルを消化する方法としても使えるでしょう。

この方法では、Core向けSoCタイルは性能も豪華で単体でも100 mm²近くに達するなどやや大きいこと、Foverosの接合コストが追加でかかることなどから、製造コスト的な面では不利になるかもしれません。ただ、Arrow lake / Lunar lake以降のIntel 18AなどCPUタイルのコストがより高くなってくると、結局この方法が最もコストが安くなる可能性はあります。その場合、SoCタイルの設計を新規に起こし、Lakefieldのようにアクティブタイルを2枚貼り合わせるのがベストのバランスになるかもしれません。

いずれにしてもまだTwin lakeが設計中~検証中あたりのフェーズで、Crestmont以降の世代のAtom系CPUは、どのような方向性になるにしてもかなり先の話にはなるでしょう。

関連リンク

CPU情報 記事一覧

スポンサーリンク