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内蔵GPUの使い勝手は、この5年でもう一段上がりました

オピニオン

内蔵GPUの使い勝手は、この5年でもう一段上がりました
以前にウインタブで「iGPU(内蔵GPU)とdGPU(外部GPU)、性能差はどのくらい?今ならdGPUなしでも大丈夫?」という記事が出ています。この記事では、最新のIntel Arc iGPUやAMD Radeon 800MシリーズといったiGPUは、一昔前のエントリークラスdGPUであったNVIDIA GeForce GTX 1650を凌駕するほどの性能を持つに至り、5年ほど前の大作ゲーム(AAAタイトル)や、比較的軽量なPCゲーム、フルHDクラスの動画編集、簡単な画像処理といった作業であれば、dGPUなしでも十分に快適に行えるレベルに達していることを解説しています。

ただ、記事のコメント欄でも指摘されているように、iGPUの性能向上と並行してdGPUの性能も高まっていますし、それに応じてソフトウェアの要求性能も高まっています。その結果、最新のAAAクラスのPCゲーム、高度な動画編集、AI処理などは結局、最新の上位dGPUでなければ対応しきれず、「結局のところいつの時代もiGPUは所詮iGPUだ」という意見もあります。そのご意見はもっともですが、しかし、そうした事実を踏まえた上でなお、「多くの人にとっては、もうiGPUで十分ではないか?」と言えるだけの大きな進歩が、特にここ数年で起きているのもまた事実です。今回は、その理由を4つのポイントから解説します。

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1. ドライバの成熟で「真の性能」が引き出された

以前からiGPUの性能は強化されており、カタログスペックだけを見れば古いゲームならiGPUでも遊べるという状況はありました。しかし従前は、ドライバソフトウェアの問題がiGPUの性能を本当に活かす上で大きな壁となっていました。この数年、このドライバの問題が大きく改善しています。

ゲームごとの不具合が放置されなくなった

かつてのIntelは、自社のiGPUでゲームを快適にプレイさせることに積極的ではなく、ドライバの互換性問題で特定のゲームが起動しなかったり、表示がおかしくなったりする不具合が多々あり、それらの問題が長期間放置されることも珍しくありませんでした。この状況が劇的に変化したきっかけは、Intelが自社初のdGPU「Arc Alchemist」シリーズを市場に投入したことです。dGPUとしてNVIDIAやAMDと競合する上で、ゲームへの最適化は避けて通れません。

Intel Arc ドライバー

Arcは、発売当初こそ多くのゲームで互換性の問題を抱えていましたが(参考記事)、Intelは精力的なドライバのアップデートを重ねました。その結果、発売から約1年で、プレイに支障があるゲームの割合は全体の5%まで減少 (YouTube動画)し、安定性が大幅に向上しました。このdGPU向けに行われた大規模なドライバ改善の恩恵は、同じアーキテクチャを共有するiGPUにももたらされ、iGPU環境でも多くのゲームが安定して動作するようになっています。

ドライバ改善によるフレームレート(FPS)の大幅な向上

ドライバの改善は、安定性だけでなくパフォーマンス、つまりフレームレート(FPS)の向上にも大きく貢献しました。DirectX 9やDirectX 11といった少し前の世代のゲームにおいて、ドライバ由来の性能低下が大きかったため、その解消によって平均で20%程度ものFPS向上が見られました。特にDirectX 9対応の古いゲームでは、初期ドライバと比較して最大43%もの性能向上が報告されるなど、目覚ましい成果を上げています。この傾向は第三者のレビューでも確認されており、ドライバのアップデートがいかに重要であるかを示しています。ドライバの継続的な改善がFPS向上に寄与するのはArc Battlemageシリーズでも同じであり、こちらのドライバではCPUオーバーヘッド(CPUへの負荷)が改善されたことで、『Spider-Man Remastered』のようなゲームで平均フレームレートが36%も向上したという報告もあります。

こうした改善は最新世代だけでなく、数世代前の「Tiger Lake」に搭載されたiGPUなど、Xeアーキテクチャを共有する製品全てに及んでおり、旧世代のiGPUであるにも関わらず、今なおプレイ可能なゲームが増え、パフォーマンスが向上し続けていると報告されています (YouTube動画)。

Intel ARC is FINALLY Fixed... Mostly.

2. Nintendo Switch 2ゲームのPC移植の可能性

今後のiGPU搭載PCにとって、追い風となりそうなのがNintendo Switch 2の存在です。

筆者記事で考察したように、Switch 2は素の状態でPS4 / PS4 Pro程度の性能を発揮すると考えられ、加えて超解像オプションを活用すれば1.5倍程度のFPS向上も期待できるため、概ね一昔前の大作ゲーム(PS4世代など)なら快適に遊べる性能と言ってよいでしょう。そして重要なのは、この性能はおおむね最新のiGPUに近いかそれより若干低い程度ということです。これは「Switch 2向けに開発・最適化されたゲームは、PCの内蔵GPUでも快適に動作する可能性が高い」ということを意味します。

この好例となりそうなのが、PCでは高いグラフィック性能を要求する代表格である『サイバーパンク2077』が、Switch 2向けに移植されたことです。この移植は、Switch 2、iGPU程度の性能でも、そのマシンスペックに合わせた最適化やアップスケーリング技術を駆使することで、AAA級の大作ゲームですら一応プレイアブルと言えるレベルで動作させられることを証明しました。

Switch 2以前には考えられなかったこの事実は、iGPU搭載PCにとって希望となります。Switch 2で動作するように施された徹底的な最適化は、そのままPCのiGPU環境にも応用できるでしょう。以前ならiGPUのためだけに時間とコストをかけて最適化するなどということは考え難いことでした。しかしSwitch 2のためにコストをかけて最適化したゲームが、PCへ移植する際に「iGPU向けの最適なグラフィック設定」として流用できれば、これまでiGPUでは動作が厳しかった最新のゲームタイトルが、設定次第で十分に遊べるようになるケースが今後増えていくと期待できるでしょう。

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3. iGPUと動画編集:4Kの扱い

冒頭でも書いた通り、FHDまでの動画編集であれば内蔵GPUで性能的に十分である一方、近年では4K動画が広く普及した結果、結局は高性能なdGPUが必要であるという意見もあります。

ここで根本的な問題は、動画を触る人でも本当に4K動画を編集するのか?というところでしょう。プロやセミプロならともかく、一般人が撮って出しするだけのカジュアルなコンテンツ制作では、静止画はともかく動画で4kを使うことは少ないと思います。ミッドレンジのスマートフォンやウェブカム、一昔前のハンディカムであればFHDまでの動画しか撮れないことが多いですし、最新のハイエンドスマホを使っていてもストレージ容量の問題で4k60Hz動画の撮影をカジュアルに行っている人は少ないでしょう。また一般ユーザーが使うような動画編集ソフト、例えばMicrosoft ClipChampの編集機能では、4K解像度での出力や編集が有料のプレミアム機能として扱われており、大半のユーザーはFHDでの編集や書き出しを行っています。

FHD解像度での編集作業であれば、現在の多くの高性能なiGPUは十分な処理能力を持っています。特に、エンコードやデコード処理を高速に行う専用のハードウェアアクセラレーション機能がiGPUに搭載されているため、軽度なカット編集やテロップ入れ、エフェクトの適用程度であれば、iGPUだけでも十分に用が足りる、というのが実情です。したがって、「動画を少しでも編集するならdGPU必須」と一概には言えません。どのような目的でどの程度の負荷の動画編集を行うかによって、iGPUで対応できるか、dGPUが必要になるかの判断が分かれると言えるでしょう。

4. AI処理など、ゲーム以外の用途でもiGPUならではの活用が広がっている

iGPUの活躍の場は、ゲームや動画だけではありません。AI処理の分野では、依然としてNVIDIA製品にCUDAを使うのがデファクトスタンダードですが、動画の高画質化や背景ぼかしなど、クライアントサイド(PC側)で行う比較的軽量なAI処理については、CPUに統合されたNPU (Neural Processing Unit)やiGPUの活用が進んでいます。マイクロソフトが提唱する「Copilot+ PC」も、まさにこの流れを象徴するものです(参考記事)。特にCopilot+ PCについては内蔵NPUでの実装が先行して進んでいる状態です。

また、iGPUにはdGPUにはないユニークな利点もあります。それは、PCのメインメモリをビデオメモリ(VRAM)として利用できる点です。通常、dGPUは基板上に搭載された専用のVRAM(8~24GBが主流)しか使えませんが、iGPUはPCに搭載されているメインメモリの許す限り、広大なメモリ空間を利用できます。

GMKtec EVO-X2

GMKtec EVO-X2

これにより、例えばPCに128GBといった大容量メモリを搭載すれば、ハイエンドdGPUのVRAM容量では収まらないような巨大なAIモデルやデータを、時間をかければ処理できる可能性があり、Ryzen AI MAXシリーズは特にそれを売りにしていることを筆者作成動画でも解説しました。実際に、ミニPCメーカーのGMKtecから発売された「EVO-X2」では、そうした用途を見越して最大128GBのメモリを搭載できるモデルが用意されています。

5. まとめ

この5年間の内蔵GPUは、単にチップの性能が向上しただけではありません。

  1. 特にIntelで、安定したドライバの提供により、本来の性能が引き出せるようになった。
  2. Switch 2の動向次第で、iGPUで快適に遊べるゲームが増える可能性がある。
  3. 動画編集もカジュアルな用途ではFHDで済まされることが多く、その場合はiGPUで足りる。
  4. AI処理など新しい分野でも、iGPUならではの活用も始まっている。

もちろん、常に最新・最高の環境でPCゲームをプレイしたい方や、4K動画の複雑な編集、本格的なAI開発などを行う方にとって、依然としてハイエンドなdGPUは必要不可欠です。しかし、「たまにPCゲームを遊びたい」「ビジネスや学業でPCを使いつつ、クリエイティブな作業も少しだけこなしたい」といった多くのユーザーにとっては、最新のiGPUは、以前に比べても「十分使える」と言える幅がかなり広がった、と言っていい場合も多いでしょう。

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