GMKtec NucBox G10の実機レビューです。ウインタブではGMKtecのミニPCをレビューする機会が多く、その品質を高く評価しています。今回レビューするNucBox G10はCPUにRyzen 5を搭載するミニPCですが、型番としては古く「Ryzen 5搭載である」という(性能面での)期待はしにくいです。ただし、そのぶん価格も低く抑えられています。
このレビューはメーカーからのサンプル機の提供を受け、実施しています。
・旧世代のRyzen 5 3500Uを搭載し、価格を2万円台に
・低価格帯ながらRAMはデュアルチャネル
・筐体の開口は容易、SSD増設用スロットもあり
・ファン音は静かで温度上昇も小さく、動作は安定
ここはイマイチ
・パフォーマンスモードは3段階、しかし下位の2モードでは性能が低い
1. スペック表
項目 | 仕様 |
---|---|
OS | Windows 11 Pro |
CPU | AMD Ryzen 5 3500U |
RAM | 16GB(DDR4 2400, 最大64GB) |
ストレージ | 256GB/512GB/1TB SSD ※PCIe 3.0, M.2 2280 ※M.2 2280空きスロット1 |
ディスプレイ | なし |
無線通信 | Wi-Fi5、Bluetooth 5.0 |
入出力 | USB3.2 Gen1 Type-C(映像出力対応) USB Type-C(PD専用) USB3.2 Gen1 Type-A×2、USB2.0 Type-A HDMI2.1、DisplayPort1.4 LAN(RJ45)、オーディオジャック |
カメラ | なし |
バッテリー | なし |
サイズ | 103×98×42 mm |
重量 | 実測値281 g |
※OSはOEM_DMチャネルであることを確認。
※256GBモデルはAmazonのみ。楽天は512GBモデルのみ。
2. 外観
同梱物はGMKtec製品の標準構成という感じです。画像左から保証書、取扱説明書、説明書の下にHDMIケーブル、説明書の右に電源ケーブルとACアダプター、右下がVESAブラケットとネジです。ACアダプターは比較的小さめのサイズで出力は65Wのものでした。
上面(天板)です。筐体色はキレイなシルバーで、筐体(外装)は樹脂製です。高級感も安っぽさも感じられず、「必要十分な質感」だと思います。
底面です。四隅にゴム足が、中央に給気口があります。また、下側にはVESAブラケット用の穴とネジ穴があります。NucBox G10は上面から筐体を開口するため、底面を見る機会は多くありません。
前面です。画像左からイヤホンジャック、USB 3.2 Gen 1 Type-A×2、電源ボタンです。また、この画像を見ると、側面と天板の間に隙間があり、「ツメ」のようなものが2箇所にあるのがわかると思います。後述しますが、筐体を開口する際にはこのツメを外します。
背面には多数のポートがあります。画像左上にUSB Type-Cポートが2つ見えますが、うち1つ(左端)は給電専用です。NucBox G10はDC-INジャックがなく、USB Type-Cポートからの給電となります。また、バッテリーも内蔵していないため、給電用のType-Cポートは電源接続のため、常に塞がります。そのため、G10のUSB Type-Cポートは実質一つだけ、ということになります。Type-Cポートの規格はUSB 3.2 Gen 1で、映像出力にも対応します。
USB Type-Cポートの下にセキュリティロックスロット、その横が(左から)USB 2.0 Type-A、有線LAN、HDMI(上段)、DisplayPort(下段)です。
右側面です。こちらにはポート類、ボタン類はなく、排気口があるのみ。
左側面には何もありません。
3. 筐体内部
筐体を開口してみました。天板のツメを外すだけで開口でき、工具なしでも大丈夫です(ただし、ツメは樹脂製なので、乱暴にせず、慎重に作業しましょう)。画像右側にRAMスロットが2つあり、初期搭載の8GB RAMが2枚刺さっています。HWiNFO 64でRAMのブランドを確認しましたが「Unknown」と表示されてしまいました。実際RAMにはGMKtecのロゴが入っているだけです。RAMの仕様はDDR4-2666MHzでした。
画像左側にはゴム製のヒートシンクに覆われたM.2 2280 SSDが刺さっていました。容量は512GBでNVMe (PCIe 3.0 x4)、「TWSC TSC3AN512-F2T60S」という製品名でした。
RAMとSSDを外してみました。NucBox G10はかなり窮屈ですが、増設用のM.2 スロットを備えています。なので、「RAMについては空きスロットなし、SSDについてはM.2 2280を1枚増設可」です。メーカー開示では拡張用のM.2 2280 SSDも「PCIe 3.0 ×4接続」とのことです。
なお、PCにあまり詳しくない人のために書きますと、RAMは工具なしで着脱ができますが、SSDの着脱には小型(できれば精密)ドライバーが必要です。
繰り返しになりますが、ここまでのまとめを。
NucBox G10の筐体は工具なしで比較的容易に開口できる構造です。ただし、天板と天板についているツメは樹脂製なので、無理に力をかけず、慎重に作業する必要があります。
RAMの空きスロットはありません。初期搭載のRAMを外し、より大容量のRAMに取り替えることはできます。AMD公式では「Ryzen 5 3500UはRAM32GBまで対応」なのですが、G10の場合は64GBまで対応します(BIOSが64GBまで対応している)。また、SSDは空きスロットがありますので、M.2 2280 SSDを1枚追加することができますし、初期搭載のSSDをより大容量のものと交換することもできます。
4. 性能テスト
ベンチマークテスト
NucBox G10は他のGMKtec製品と同様、BIOSでパフォーマンスモード(Power Limit Select)を3段階に変更できます。そして、モードを変更すると性能は激変します。まず、PC Markのスコアから見ていきましょう。
PC Mark
モードごとのスコアを見ると、「Ryzen 5 3500Uらしいスコア」になっているのはHigh Performanceモードのみです。過去のRyzen 5 3500U搭載機のデータを見ると…
マウス m-Book X400B(Ryzen 5 3500U): 3,659
Lenovo ThinkPad E495(Ryzen 5 3500U): 3,574
こんな感じなので、High Performanceモードでも「ちょっと低め」なのですが、過去データは相当昔(2020年頃)に測定したもので、この5年余りの間にPC Mark自体が相当な回数のアップデートを受けていますので、単純なスコア比較をするのは難しいかな、とも思います。
一方で現行型番のスコアはこんな感じです。
Ryzen AI 9 365:7,896
Ryzen 7 8845HS:7,446
Core Ultra 7 258V:7,527
Core Ultra 7 155H:6,849
Ryzen 5 8645HS:6,708
Core Ultra 5 125U:6,376
Ryzen 5 7535U:6,021
Intel N150:3,178
Intel N100:2,655
PC Markのスコアに関しては、もはやRyzenというよりはIntel N100とかN150に近い、と言えます。特にQuietモードではN100よりもかなり低いスコアになってしまいました。
次に、モードごとにCPU温度やクロック、電力がどのくらい異なるのかを見てみます。「CINEBENCH 2024のマルチコアテストの実行中にHWiNFO 64で測定」しました。それぞれの項目の最大値は下記のとおりです
CPU温度 | 電力 | クロック | |
High Performance | 90.1℃ | 34.84W | 2,581.1MHz |
Balance | 74.4℃ | 15.07W | 1,989.5MHz |
Quiet | 62.5℃ | 10.08W | 1,168.1MHz |
※CPU温度:CPU (Tctl/Tdie)
※電力:CPUパッケージ電力
※クロック:平均実行クロック
Ryzen 5 3500UのTDPは15W(コンフィギュラブル:12W~35W)、ベースクロックは2.1GHz、最大ブーストクロックは3.7GHzなので、電力とクロックが低く抑えられたBalanceモードとQuietモードでスコアが不本意となるのも理解できます。CPU温度についてはHigh Performanceモードで90℃まで上昇したものの、サーマルスロットリングは発生しませんでした。
3D Mark
次に3D Markのスコアです。こちらはHigh Performanceモードで測定しました。
PC Markでは「Intel N100/N150と大差ない」と書きましたが、3D MarkではN100/N150よりも高いスコアが出ました。
Core Ultra 7 258V:4,397、8,611、35,677
Ryzen AI 9 365:3,895、8,885、34,303
Core Ultra 5 125H:3,392、7,301、23,168
Ryzen 7 8845HS:3,330、7,908、29,873
Ryzen 5 8645HS:2,437、6,253、24,401
Core Ultra 7 155U:2,319、5,162、19,024
Intel N150:456、1,249、5,237
※左からTime Spy、Fire Strike、Night Raidのスコア
最新のCore UltraやRyzenには全く太刀打ちできませんが、Intel N150よりは顕著に高いスコアが出ています。もちろんNucBox G10でPCゲームを楽しむというのは厳しいですが、N100/N150よりもグラフィック性能はワンランク上、とは言えます。
Crystal Disk Mark
SSDの読み書き速度を測定するCrystal Disk Markのスコアです。ストレージはPCIe 3.0 x4接続のSSDで、CrystalDiskMarkではシーケンシャルリードが3,000MB/s超、書き込みも1,700MB/s前後と、低価格で購入できるミニPCとしては良好な結果だと思います。
各種ベンチマークテストを実施した感想です。NucBox G10は初期状態でBIOSのパフォーマンスモードが「Balance」になっており、そのままテストをしてみた(レビュー初期だったので、パフォーマンスモードは意識していなかった)のですが、Passmarkスコアが2,500点になったのを見て「旧型番のRyzen 5 3500Uとはいえ、低すぎないか?」と感じました。
パフォーマンスモードの切り替えやHWiNFO64のデータを確認し「これなら納得」となりましたが、正直なところ「省電力性を優先し、あえてQuietモードやBalanceモードにすることを否定はしないが、それなら最初からIntel N100とかN150搭載にミニPCにすべきでは?」と思いました。私がNucBox G10を購入したら速攻でパフォーマンスモードを「High Performance」に変更します。
性能面では「NucBox G10の性能はRyzen 5搭載機と言うよりはIntel N100/N150搭載機に近いと考えるべき。ただしグラフィック性能などはN100やN150よりも余裕があるので、ワンランク上とは言える」というのがウインタブの評価です。
発熱とファン音
上の表にある通り、発熱についてはHigh PerformanceモードでもCPU温度は90℃にとどまり、サーマルスロットリングの発生もありませんでした。筐体は天板が少し熱を持ちますが、異常性は感じられませんでした。ただ、右側面の排気口からは結構熱い風が出ます。ミニPCなのであまり支障はないと思いますが、排気口の近くに手を置くと少し不快に感じられるかもしれません。
ファン音はHigh Performanceモードでも静かです。全くの無音ではありませんが、日中に常識的なレベルの生活音がする環境で作業する場合、ファン音はほとんど気になりません。
5. レビューまとめ
GMKtec NucBox G10はGMKtec公式サイト、Amazon、楽天で販売中です。7月24日現在のAmazonでの価格は16GB/256GBモデルが24,800円、16GB/512GBモデルが26,999円、16GB/1TBモデルが31,499円です(製品ページにクーポンがある場合、それを使用した価格です)。価格は変動しますので、下記のリンクボタンで確認してください。
ベンチマークテストの結果はIntel N100/N150に近いものでした。実際、Quietモードではアプリのインストールや起動などの場面で「Celeronかよ」と感じる挙動でした。なので、G10を常用する場合はHigh Performanceモードにする必要があるだろう、というのが個人的な感想です。High PerformanceモードであればIntel N100/N150よりもワンランク上の挙動になるでしょう。
一方で、ボトムレンジのミニPCの場合、RAMがシングルチャネルであったりSSDの増設を考慮しない(空きスロットがない)設計になっているものも少なくありません。その点NucBox G10は筐体の開口が容易でRAMはデュアルチャネル、M.2 SSD用の空きスロットもあります。また、騒音や発熱についても良好と評価でき、設計そのものは「GMKtecの水準」になっていると言えます。
Intel N100/N150搭載のミニPCはAmazonで2万円以下から購入できますが、それらの多くはRAM8GB/SSD256GBという構成です。N100/N150搭載機であってもRAM16GB/SSD512GBという構成のものは2万円台半ばくらいになります(ウインタブでお付き合いのない中国メーカーの製品だとこれより安いものもありますが、OSのライセンスに不安があると思っています)。つまり、NucBox G10の価格はIntel N100/N150搭載機と大きくは変わりません。
型番として古いとは言えRyzen 5搭載で、性能面と筐体品質、メンテナンス性を考慮すれば、27,000円程度(7月24日現在)という価格はお買い得だと思います。
6. 関連リンク
2014年にサイトを開設して以来、ノートPC、ミニPC、タブレットなどの実機レビューを中心に、これまでに1,500本以上のレビュー記事を執筆。企業ではエンドユーザーコンピューティングによる業務改善に長年取り組んできた経験を持ち、ユーザー視点からの製品評価に強みがあります。その経験を活かし、「スペックに振り回されない、実用的な製品選び」を提案しています。専門用語をなるべく使わず、「PCに詳しくない人にもわかりやすい記事」を目指しています。
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