ACEMAGICのミニPC「K1」の実機レビューです。ウインタブではこれまでに「ACEMAGIC AX15(ノートPC)」および「NiPoGi E3B(ミニPC、NiPoGiはACEMAGICのブランド)」と、ACEMAGIC製品を2機種実機レビューしています。今回のレビュー機「K1」はCPUに旧世代のRyzen 5 7430Uを搭載し、そのぶん価格を低く抑えた、中国メーカー製品ではよく見られる手法がとられたミニPCです。
このレビューはメーカーからのサンプル機の提供を受け、実施しています。
・Ryzen 5 7430U搭載で3万円強から購入できるコスパ
・必要十分なポート構成
・ファン音は静かで温度上昇も小さい
ここはイマイチ
・パフォーマンス調整(電力調整)機能なし
・筐体の開口がしにくく、RAMの交換が面倒
1. スペック
スペック表
項目 | 仕様 |
---|---|
OS | Windows 11 Pro |
CPU | AMD Ryzen 5 7430U |
RAM | 16GB / 32GB(DDR4) ※16GBモデルはシングルチャネル ※32GBモデルはデュアルチャネル |
ストレージ | 512GB SSD(M.2 2280 SATA) ※M.2 2280空きスロット×1 |
ディスプレイ | なし |
無線通信 | Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2 |
インターフェース | USB 3.2 Gen 2 Type-C(映像出力対応) USB 3.2 Gen 2 Type-A×2 USB 3.2 Gen 1 Type-A×4 HDMI 2.0、DisplayPort 1.4B LAN (RJ45)、オーディオジャック |
カメラ | なし |
バッテリー | なし |
サイズ | 128×128×41 mm |
重量 | 465 g |
レビュー機のOSライセンスは「OEM_DM Channel」であることを確認済みです(個人利用のPCとして問題ありません)。
バリエーションモデル
・Ryzen 5/RAM16GB/SSD512GB
・Ryzen 5/RAM32GB/SSD512GB
※レビュー機はRAM32GBモデルです
2. 外観
同梱物です。画像左上から右にHDMIケーブル、ACアダプター、電源ケーブル、画像左下から右に取扱説明書、VESAブラケット、VESAブラケット用のネジです(VESAブラケットとはPCモニターの背面などにミニPCを取り付ける際に使う金具のことです。ACアダプターは出力が65Wのもので、一般的なノートPCのACアダプターよりも少し大きめです。
上面(天板)です。K1の筐体は樹脂製で筐体色はご覧の通りブラック、上面中央にACEMAGICのロゴが入っています。
底面です。四隅にゴム足があります。筐体を開口する場合、ゴム足を外すとネジが出てきます(詳細は後述します)。中央に通気口(給気口)があり吸気口の下にVESAブラケット用のネジがあります。
前面です。画像左からUSB 3.2 Gen 2 Type-C(転送速度10Gbps、映像出力対応)、USB 3.2 Gen 2 Type-A(転送速度10Gbps)×2、イヤホンジャック、電源ボタンがあります。電源ボタンは通電時に中央のマークが発光します。
背面です。画像左上から右にHDMI、DisplayPort、LAN(RJ45)、USB 3.2 Gen 1 Type-A(転送速度5Gbps)があり、画像左下にDC-INジャック、その右に排気口があります。
左右側面にはポートやボタンはなく、通気口があるのみです。
筐体の質感はそれほど良くはなく、かといって悪くもなく、という感じです。高級感はないものの、これで不満を感じるわけでもないですね。低価格帯のミニPCとして「必要十分」な外観かと思います。
3. 筐体内部
では、筐体を開口し、内部を確認してみます。
上で説明した通り、底面の四隅にあるゴム足を外すとネジ穴が見えます。ゴム足は接着剤で留まっており、工具なしでも外せますが、結構力がいります(非力な人ならペンチとかラジオペンチを使うほうがいいかも)。
このネジ穴は「細くて深い」ですw 普通のドライバーを使う場合、中大型サイズ(径が太めのもの)だと穴に入りません。また、万一「ネジがなめる(ネジ山が潰れて回せなくなる)」と、穴が深いだけに非常に厄介なことになります。私は精密ドライバーを使いましたが、くれぐれも慎重に作業するようにしてください。
この画像の赤い線が「継ぎ目(ここで筐体上部と下部に分かれる)」ですが、はっきり言って開口可能なミニPCとしては形状が少々複雑です。また、随所に「ツメ」がありまして、「開口」はそんなに苦労しませんでしたが「もとに戻す」のが非常に大変でした(私は不器用なので、ツメがうまく嵌らず、何度もやり直す羽目になり、1時間くらいかかりました…)。
開けてみると、マザーボードがネジでしっかり固定されていないのか、マザーボード(基板)がグラつくのが気になりました(筐体開口用のネジでマザーボードも固定していたものと思われます)。さらに、上下に貼られた銀色のテープはEMIシールド(電磁干渉シールド)か、単なる固定用と思われますが、どうしても「コストダウン感」がありました。

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これが筐体内部です。中央にWi-Fiのケーブル(コード)が見えますが、長さは余裕があり、開口の邪魔にはなりませんでした。画像右側にRAM(上)とSSD(下)が見えます。HWiNFO 64で確認したところ、RAMはKinsotin(Kingstonではありません)製のDDR4-3200、16GBのものが2枚、SSDはブランド不明(上の画像ではRaysonという記載が見えます)でSerial ATA 6Gb/s、容量512GBのものでした。
筐体を半回転させました。一つ上の画像からSSDを外しています。左の赤枠の部分が初期搭載のSSDがあったところ(M.2 2280 SATAスロット)です。SSDを外すとWi-Fiモジュールとボタン電池が出てきました。真ん中の青枠の部分が増設用のM.2 2280 SATA/PCIeスロット、そして右の黄枠の部分がRAMスロットです。
画像だとわかりにくいですが、RAMはデュアルチャネル、つまり2枚刺さっています。2枚のRAMの間にサーマルパッドが挟まっているので見えにくいんですね。ただ、この構造にはちょっと疑問を感じます。RAMの発熱対策としてサーマルパッドを取り付けること自体は意味があります。しかし、それならなぜ「SSDにヒートシンクなりサーマルパッドを取り付けないのか?」がよくわかりません。また、RAMに挟まれているサーマルパッドは非常に粘着力が強く、RAMを外す際は相当な力を要し、サーマルパッドがボロボロになるのを覚悟する必要があります。というかこれ、「ミニPCの内部」なので、あんまり大きな力を掛けたくはないんですけど…。ということで、今回はRAMを取り外しませんでした。
ウインタブでは相当数のミニPCをレビューしていますが、ACEMAGIC K1の筐体はお世辞にも開口しやすいとは言えません。また、RAMにヒートシンクを取り付けるのは悪いことではありませんが、「この状態だとRAMは外せないじゃん!」と思いましたし、開口した筐体をもとに戻すのも非常に面倒でした。
毎日筐体を開口する人はいないと思います。開口しなくてはならないとしたら、せいぜい「空きスロットにSSDを増設する」ときくらいでしょうか。なので、実用上は開口しにくいとか、RAMの交換がしにくいといった点はそれほど大きなデメリットでもないのかもしれませんけど、レビュアーとしては「めっちゃ面倒だった。もう開口したくない」と思いました。
4. 性能テスト
ベンチマークテスト
ACEMAGIC K1は設定用の独自アプリはインストールされておらず、BIOSにもパフォーマンスを調整できる機能はありません。そのため、Windowsの電源設定を「最適なパフォーマンス」にしてベンチマークテストを実施しました。
表計算ソフトやビデオチャット、画像加工など、実際のビジネスシーンをシミュレートしたテスト、PC Markのスコアです。ビジネス系のPCの性能測定で重視すべきベンチマークテストと言えます。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 9 185H:8,099
Ryzen AI 9 365:7,896
Ryzen AI 9 HX 370:7,511
Ryzen 7 8845HS:7,446
Core Ultra 7 258V:7,527
Ryzen 9 PRO 6950H:6,987
Ryzen 7 8840U:6,949
Ryzen 7 PRO 6850H:6,858
Core Ultra 7 155H:6,849
Ryzen 5 8645HS:6,708
Core i9-13900H:6,542
Core Ultra 5 135H:6,485
Core Ultra 7 155U:6,392
Core Ultra 5 125U:6,376
Ryzen 5 7535U:6,021
Core i7-1360P:5,929
Core i5-1340P:5,677
Core i7-1355U:5,452
Core i5-1334U:5,145
Core i7-1255U:4,834
Ryzen 7 5700U:4,792
Core i5-1335U:4,775
Core i5-1135G7:4,066
Intel N150:3,178
レビュー機の搭載CPUはRyzen 5 7430Uです。コードネームはBarcelo R、Zen3アーキテクチャの型番で、当初パフォーマンスについてはあまり期待していなかったのですが、PC Markのスコアは予想を上回り「第13世代のCore i7-1355Uあたりといい勝負くらい」でした。
Core Ultraには及ばないにしても、PC Markで5,000点を上回るスコアが出るのであれば、標準的なビジネス利用には十分な性能と言えるでしょう。
CPU性能を測定するCINEBENCH 2024のスコアです。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 9 275HX:132、2,094
Core i7-14700:122、1,177
Core Ultra 7 258V:121、676
Core i9-13900H:117、687
Ryzen AI 9 HX 375:114、1,144
Core Ultra 9 185H:111、910
Ryzen AI 9 HX 370:110、942
Ryzen AI 9 365:109、1,008
Snapdragon X Elite:108、1,038
Ryzen 9 8945HS:108、958
Snapdragon X Plus X1P-42-100:108、754
Ryzen 7 8845HS:106、956
Ryzen 9 7940HS:106、914
Core Ultra 7 155H:105、964
Core Ultra 7 155U:101、533
Ryzen 5 8645HS:98、585
Core Ultra 5 125U:95,533
Core Ultra 5 125H:95、516
Ryzen 9 PRO 6950H:93、774
Ryzen 7 PRO 6850H:91、765
Ryzen 7 5825U:85、590
Ryzen 3 5425U:78、365
Intel N150:59、180
※左からシングルコア、マルチコアのスコア
CINEBENCH 2024のスコアです。このテストは比較的新しいものなので、古いCPUのスコアがありませんが、比較的新しい型番との比較ではやはり分が悪いですね。過去データの下のほうにあるIntel N150のスコアと比較すると顕著に高いですが、Core Ultraの下位型番(Core Ultra 5 125U)にははっきりと差をつけられています。
グラフィック性能を測定する3D Markのスコアです。
参考(過去データから一部抜粋):
Core Ultra 7 258V:4,397、8,611、35,677
Core Ultra 9 185H:4,143、8,223、31,710
Core Ultra 7 155H:3,924、8,338、24,476
Ryzen AI 9 365:3,895、8,885、34,303
Ryzen AI 9 HX 370:3,800、8,026、31,138
Core Ultra 5 135H:3,454、7,235、24,791
Core Ultra 5 125H:3,392、7,301、23,168
Ryzen 9 7940HS:3,362、7,776、29,076
Ryzen 7 8845HS:3,330、7,908、29,873
Ryzen 7 8840U:2,943、7,206、27,471
Ryzen 9 PRO 6950H:2,846、7,051、27,983
Ryzen 7 PRO 6850H:2,660、6,601、26,920
Ryzen 5 8645HS:2,437、6,253、24,401
Core Ultra 7 155U:2,319、5,162、19,024
Core Ultra 5 125U:2,081、4,826、19,421
Core i9-13900H:1,956、5,440、19,477
Core i7-1360P:1,786、4,991、16,779
Core i7-1355U:1,760、4,859、16,891
Core i5-1334U:1,386、3,672、13,157
Ryzen 5 7530U:1,281、3,137、13,730
Ryzen 7 5825U:1,242、3,226、12,859
Ryzen 3 5425U:1,122、2,848、11,949
Ryzen 7 5700U:971、2,296、9,643
Intel N150:456、1,249、5,237
※左からTime Spy、Fire Strike、Night Raidのスコア
3D Markのスコアは第13世代のCore i5-1334Uといい勝負くらいですね。
PC Mark、CINEBENCH 2024、3D Markのスコアから考察できることとしては「概ね第13世代Core(Raptor Lake)のU型番に近い性能、Intel N150よりも圧倒的に高性能」ということでしょうか。
SSDの読み書き速度を測定するCrystal Disk Markのスコアです。K1のSSDはSATAなので最近ウインタブでテストしたノートPCやミニPC(ほとんどがPCIeです)のスコアと比較すると「遅い」です。ただ、この速度でも「すごく遅くてイライラする」場面は少なく、Office系のソフトウェアの起動ではPCIeのSSDと体感差はほとんどありません。ただし、大容量のデータ転送・保存などをする場合には速度差を感じると思います。
ノートPCのRAM容量、ストレージ容量については、こちらでウインタブの見解を述べています。
ノートPCのメモリは16GB以上が必須?本当に8GBでは足りないのか? - 用途別に考えるRAM容量
ノートPCの「ちょうどいい」ストレージ容量は?1TBが正解?用途と予算に合わせて考える
発熱とファン音
Cinebench 2024を実行しながらHWiNFO 64でCPU温度や電力の測定をしました。テスト終了時のCPU温度は最大 85℃でサーマルスロットリングは発生せず、CPUパッケージ電力は最大35Wとなりました。Ryzen 5 7430UのTDPは15Wですが、おそらくメーカー側でブースト時35Wに設定されているものと思われます。
ウインタブの経験に基づく意見ですが、これらの数値は「むしろ安全運転」かと。最近のノートPC・ミニPCではCPU温度90℃超えやスロットリング発生も珍しくないので。
アイドリング時や軽作業時(テキスト入力など)のファン音はごく静かです。ベンチマークテスト時にはファン音は大きくなりますが、(時節柄使用していた)サーキュレーターの動作音のほうが大きく、また音質も耳障りではないので、ほとんど気になりませんでした。
高負荷時には左右側面から熱い風がでますが、風量は一般的なミニPCよりも小さいです。
5. レビューまとめ
ACEMAGIC K1はAmazonで販売中で、8月25日現在の価格はRAM16GBモデルが31,998円、RAM32GBモデルが38,398円です(製品ページにある20%OFFクーポンを使用した価格)です。
レビューで高い評価ができないのは、筐体開口がしにくいこと、サーマルパッドの影響でRAMの交換がしにくいことなど、「内部の構造」です。それ以外は3万円台で購入できるミニPCとして高い評価ができます。特にCPU性能は予想以上に高かったです。
低予算、性能重視でミニPCを探している人にはいい選択肢になると思います。
6. 関連リンク
2014年にサイトを開設して以来、ノートPC、ミニPC、タブレットなどの実機レビューを中心に、これまでに1,500本以上のレビュー記事を執筆。企業ではエンドユーザーコンピューティングによる業務改善に長年取り組んできた経験を持ち、ユーザー視点からの製品評価に強みがあります。その経験を活かし、「スペックに振り回されない、実用的な製品選び」を提案しています。専門用語をなるべく使わず、「PCに詳しくない人にもわかりやすい記事」を目指しています。
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