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CPU仕様表の「TDP」はいったい何を意味しているの?

CPU仕様表の「TDP」はいったい何を意味しているの?
CPUの仕様表には、TDPという項目があります。TDPは通常ワット単位で表記されるので、電力に関するものだということは分かります。TDPの正式名称はThermal Design Power(熱設計電力)で、熱にも関係しています。

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しかし、CPUはTDP通りの電力を消費するわけではなく、それより多い電力を使っていることもあれば、少ない電力しか使わないこともあります。これらはわかりにくいと言われることが多く、本稿ではそれを整理して説明していきます。

PCの消費する電力

TDPは電力消費に関する目安の数字ですが、CPUは常にTDP通りの電力を消費するわけではありません。例えばTDP28WのCore Ultra 7 155Hが常にTDP通りの電力を消費していたとしたら、68 Wh バッテリーのHP Spectre x360 14-euは2時間半しか電池が持たないことになりますが、実際には、CPUは何も計算するタスクがない時間は動作速度を落とし節電し、それによってより長時間(筆者レビューでは7~10時間程度は普通に)動作させることができています。

HP Spectre x360 14-euレビュー時のバッテリー持続時間測定時のログ

HP Spectre x360 14-euレビュー時のバッテリー持続時間測定時のログ。ほとんどの時間、TDPの値よりずっと少ない電力しか消費していません。

CPUは使った電力の分だけ発熱するので、それを冷却する必要があります。この冷却能力は機種により異なり、強力な冷却ファンを備えたデスクトップや大型ノートに比べ、小さなファンしかない薄型軽量ノートは不利になり、冷却能力の限界によって電力消費≈動作クロックに制限がかかります。

冷却能力が不足している場合、消費電力そのものに制限をかけなくても温度保護により勝手にクロックが抑えられますが、多くの場合は使用してよい最大電力としてPL (Power Limit) 値を指定し、クロック制限を事前にかけて温度が上がりすぎないようにします。例えば、PL値が28Wに設定されていれば、CPUは消費電力28Wに達するとクロックを下げ始めます。もちろんこれは最大電力なので、普段はもっと少ない電力しか消費していません。またPL値には(基本的に)2種類あり、短時間だけ出してよいターボ電力と、長時間維持してもよい電力制限値があります。スペック表にPL値が記載されている場合、通常は後者の長時間制限値になります。

機種ごとに冷却能力は違うわけですから、冷却能力に基づいて設定されるPL値は、CPUが同じであっても機種ごとに異なる値になっています。ノートPCでは、同じCPUでも軽量ノートでは低め、大型ノートでは高めの値が指定されていることが多いです。ノートPCではメーカー提供アプリで「パフォーマンスモード」「静音モード」などを選択可能ですが、それらのモード選択はこのPL値を動的に調整することで実現しています。デスクトップの場合はオーバークロック対応マザーボードならBIOSから設定できますし、OCツールで動的な変更も可能です。

……では、TDPはどこで出てくるのでしょうか?

TDPは消費電力を直接制御する値ではありませんが、PL値を設定する目安として提示されています。デスクトップ向けの機種の場合は、一般にPL値はTDPと同じ値に設定されます(近年の典型的には65W)。ノートPCの場合は軽量化などで冷却能力は機種ごとに異なり、PL値もそれに応じて決められますが、PL値設定の目安はある程度幅を持たせたcTDP (Configurable TDP)値の範囲内にすることが推奨されます。またTDPは長時間維持用のPL値の目安とされており、ターボ電力用のPL値はまた別途設定されています。

PL値は好きに決めてよいのですが、電力パーツの耐久性などもありますし、基本的にはcTDPの範囲内がチップメーカーの長期の動作保証の範囲内と考えてよいでしょう。また、CPUメーカーのスペック表にある「ベースクロック周波数」という値は、全コア同時駆動時にこのTDPの電力をちょうど消費するクロック周波数となります。

では、ここまでをまとめます。

1.PCは動作に問題ない限り節電しようとするので、消費電力は刻々と変わる。
2.冷却能力に限界があるので、それに合わせ最大電力を制限するPL値が設定されている。
3.PL値には短時間のターボ用と、長時間維持できる値があり、通常は後者が仕様表に記載される。
4.TDPはPL値を決める目安の値で、実際のPL値はこれから大きく離れることはない。

4種類のPL値

第12世代時点でのIntelのPL値説明資料では、PL値はPL1~PL4の4種類があります。このうち、定常的に使うのはPL1とPL2で、残り2つは例外的なケースで使うものでデフォルトでは無効になっています。

Power Limit 1 (PL1)
長時間の平均電力の最大制限値。この値を超えても良いが、超えたら事後的にこの値になるようにクロックが下がります。基本的にはファンの冷却能力の限界を超えない値を指定します。それを超えた値を指定しても温度が上がりすぎ、温度によるクロック制限(サーマルスロットリング)が発動します。消費電力の長時間平均=電気代はこちらのPL1の値が支配的です。

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Power Limit 2 (PL2)
いわゆる「ターボ」と呼ばれる短時間だけ許される電力の最大制限値。この値が基本的な最大消費電力で、超えた場合、速やかにクロックが下がります。ヒートシンクや筐体そのものなど、温度のバッファとして働くものが温まるまでの短時間だけ許された出力という想定で、その時間(tau値)は標準では20~60秒程度程度に指定されています。

PL2を超える電力消費は、制御不十分でやむを得ず発生してしまうもので、10ミリ秒以下の一瞬の跳ね(スパイク)のみであると定められています。この領域のPL値であるPL3とPL4は、標準では無効になっており、基本的にはこのようなスパイクが発生しないようにすべき、という考えのようです。

Power Limit 3 (PL3)
もし到達してしまった場合に、緊急の急速クロック制限を発動する閾値。オーバークロック可のマザーボードでもユーザーがこの値を操作できないのが普通です。

Power Limit 4 (PL4)
絶対に越えてはならない回路の限界。固定値。どちらかというとメーカー向けに「オーバークロック対応のハイエンド品を名乗るなら、マザーボード側でこの程度のスパイクは耐えるように設計しろ」という指示という趣で、ユーザ側が触ったり冷却器を用意する類の値ではありませ
ん。

Intelによる図解

IntelによるPL値が消費電力のどこを制御しているかの図解

2種類のTDP

いわゆるTDPは、通常PL1の目安となります。近年はPL2でターボ周波数の指定する仕様が当たり前となっているため、PL1の目安であるTDPとともに、PL2の目安となる値も提示されています。

Intelの第14世代のガイダンスの場合は、PL1の目安の値をProcessor Base Power (PBP)、ターボ用のPL2の目安の値をMaximum Turbo Power (MTP)という名前で呼称しています。ただしTDPもPBPの別名として有効な名前とされています。またPL1値の推奨設定範囲であるcTDPは、その下限がMinimum Assured Power (cTDP-Down) 、上限がMaximum Assured Power(cTDP-Up) という名前で呼ばれています。こちらもcTDPという言葉は別名として扱われています。

AMDの場合は、PL1相当の目安は従来通りTDPと呼ばれています。cTDPも従来通りcTDPと呼ばれています。ターボ用のPL2相当の目安値はチューニングアプリなどではPackage PowerTarget (PPT)と呼ばれています。

ターボは詐欺的?

第12~14世代ではPBPとMTPが乖離していることはよくあり、例えばi7-14700(無印)はPBP65Wでもターボ時200W以上で回っている様子がしばしば見られます。ノート向けでも、例えばUltra 7-155Hは標準PBPは28Wですが、MTPは115Wもあり、4倍までブン回してよいということになっています(軽量ノートではそもそも電源系が弱くそんな設定にはされませんが)。

AMDの場合、PPTは公式スペックシート上に記載がありませんが、デスクトップ向けではTDPの1.35倍でほぼ固定されています。ノート向けでは、特に重量級のノートでcTDP上限値の1.5倍以上のワット数で動いていることもあります。

ターボ消費電力は、名目上の消費電力よりもっと多くの電力を使っているので詐欺的だ、と言われることもあります。私の意見としては、長時間の電池持ちや電気代は結局TDP/PL1から指定される値を超えることはないので、その点は気にする必要はないと思います。

しかし、性能ベンチマーク時は別で、スペック表上のTDP値に対して、実際にはもっと多くの電力を使った高クロックの性能が表示されるため、過大評価になります。このような過大評価は、Passmarkのようなベンチマークデータベースでも発生しえますし、CPUメーカー自身のプレゼンでもそのような勘違いを引き起こすものが散見されます。

Zen4発表時の公式スライド。TDPとして書かれた数字の1.35倍の電力時の性能が書かれている。「西川善司の3DGE:Ryzen 7000を支えるZen 4アーキテクチャのすべて。
CPUコアに加えられた細かい改良とI/Oダイの見どころをひもとく
」より

ターボ周波数を反映したベンチマークの値は、ターボ時間以内に処理が完了するような「ネットとオフィス」志向なら実用に近いですが、長時間多数のコアを使用するような動画編集などの用途ではベンチマークの結果と実用上の性能が乖離することになり、問題がある、というのは私も思います(このあたりは「パソコン選び:コア数はいくついるのか」が参考になるかと思います)。このため、Cinebench R23以降のベンチマークのように、ターボ時間を確実に経過して以降の計測値のみを結果見做すオプションを持つものもあります。

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