こんにちは、ウインタブ(@WTab8)です。年初からたくさんの記事をご投稿いただいていた読者の近郊ラピッドさんに、ライターに就任していただきました。これまでは記事タイトルに「読者投稿:近郊ラピッドさん」と明記していましたが、今回からそれがなくなります。また、ライターは「ウインタブの身内」なので、ご本人がお得意とするCPU関連の情報についても、(メーカーと機密保持契約の締結が必要な未発表品を含む)最新CPU搭載のPCをレビューしていただいたりといったことが可能になり、より新しく、より突っ込んだ内容の記事をご投稿いただけるようになるものと期待しております。
目次
0.はじめに
こんにちは、近郊ラピッドです。よろしくお願いいたします。以前Ryzen 6000シリーズの情報についての記事を書きましたが、最近AMDがRyzen 6000シリーズついてもう少し詳細な点を明らかにしましたので、今回はその点についてご紹介したいと思います。
すでに日本語での情報も複数存在する中ですが、個人的に気になった点を中心に紹介出来ればと思います。今回はRyzen 6000シリーズの特徴の中でも、省電力機能・新機能・登場時期についてそれぞれ見て行きたいと思います。
なお、Ryzen 6000シリーズのCPU・GPU・インターフェース部分については以前記事にしましたので、そちらを参照してください。基本的に、以前に書いた時点ではまだ明らかになっていなかった追加情報についての続報記事となっていますので、基本的なRyzen 6000シリーズの特徴については今回の記事では省いております。ご了承ください。
以前の記事:
Ryzen 6000シリーズ(Zen3+世代)のRyzen 7 6800U・Ryzen 5 6600Uについて今わかっていること
以前の記事でRyzen 7 6800UのiGPUの性能はGTX 1650 Max-Q並みではないかという噂があると書きましたが、AMDによる詳細な説明が明らかになった結果、そこまで高くないらしいと言う点が判明しましたので、ご注意ください。AMDのスライドを見てもRyzen 7 6800UのiGPUのゲーム性能は1650 Max-Qのせいぜい8割、良くて9割のフレームレートを出せる程度に留まるようなので、匹敵するとまでは言えないようです。
それでは、今から省電力機能・新機能・登場時期について見ていきたいと思います。
1.省電力機能
Ryzen 6000シリーズは半導体プロセスがTSMC 6nmになったのが大きな変更点となっていますが、省電力機能も着実に向上しています。ただすでにZen 3世代のAPUでも相当に省電力性を高めていたため、今世代の電力機構の改良は細かい点の改善が中心となっています。
具体的にどのような改善が見られたかという点を箇条書きにしました。かなり細かい点が多かったので、ある程度分かりやすいものを挙げています。
CPUコア・APU全体の省電力性能強化
・TSMC 6nmにプロセスを更新し、リーク電流を削減
・低負荷時において消費電力を抑える動作モードに以前よりも積極的に切り替えるようになった
・動作クロックの制御に利用されるCPPC2という機構をコア単位で用意
・新たな省電力動作モードの追加
・電力制御をそれぞれのCPUコア・GPUコア(CUごとではない)・ディスプレイコントローラー・USBコントローラー・サウスブリッジ等と言った細かいブロックに分けてできるようになった
・Z9・Z10というパワーステートを用意し、APUがほとんど使われていない時の消費電力を削減
ディスプレイ関係の省電力性能強化
・ローパワーディスプレイ(消費電力が1W未満)のサポート
・パネルセルフリフレッシュ機能を強化し、動きのない部分の更新を止めることで省電力化する「PSR-SU」を実装
・フルスクリーン表示時の動画のフレームレートを落とすことで省電力化ができる「PSR-SU Rate Control」を実装
ソフトウェアレベルの省電力性能強化
・新しいPMF(電源管理フレームワーク)によって、電源管理の概念が一新された。新しい「バランス」設定は従来の「バランス」設定とは異なり、電源プランを変更しなくとも高負荷時には「パフォーマンス設定」のような高いパフォーマンスを発揮するようになり、低負荷時には「静音モード」のような静音性を発揮するようになった。この設定はシステムの負荷の掛かり方に応じて変動する
このように省電力機能の改善が徹底して行われています。こうした点が積み重なることによってPC全体の消費電力を削減し、バッテリー持ちが良くなっているとされています。
今世代は特にアイドル時の消費電力削減やディスプレイ回りの省電力化が目立つ形となっています。実際問題ノートPCを使っている時、常に高負荷が掛かっている訳ではなく、むしろ大半は無負荷か低負荷であることを考えると、低負荷時の消費電力削減は体感のバッテリー持ちの向上に大きく寄与するのではないかと思われます。AMDが24時間バッテリーの持つPCを製造可能としているのはこうした省電力技術の向上が背景にあるのでしょう。
AMDによると、Ryzen 5000シリーズに比べてバッテリー駆動時間はこの程度伸びるそうです。AMDは省電力機能の点でも高い技術を持つことができたようです。一方で、CPU性能自体を大幅に向上させるような設計変更は基本的には無いようです。主にワットパフォーマンスの向上によってCPU性能を引き上げているようなので、IPC(クロック当たりの命令実行数)の向上はあまり期待しない方が良いでしょう。
2.新機能
ここではノイズキャンセリングと4画面出力という2つの新機能について見て行きます。他の新機能については以前の記事をご覧ください。
ノイズキャンセリング機能をハードウェアで搭載
Ryzen 6000シリーズでは機械学習処理によってオーディオのノイズキャンセリングをする機能をハードウェアで搭載しました。ただし実装するかはそのPC次第なので、全てのノートPCで有効という訳では無いようです。
実装の方式ですが、ノイズキャンセリングに特化したオーディオプロセッサーを持つと言う形で実現しているようです。ノイズキャンセリングに使えるハードウェアを搭載していると言う点ではIntelの Tiger Lakeに似ていますが、Intelの方はGNA2.0という機械学習のアクセラレータを搭載しているのに対し、AMDの方はノイズキャンセリングに特化したチップを搭載しているようです。
一応Intelの実装の方はノイズキャンセリング以外の用途にも使えるようにはなっていますが、大抵はノイズキャンセリングに使われるため、AMDのように特化させる方が効率自体は良いのかもしれません。しかし一般のユーザーにとってはどちらも同じようなものだと思います。
近年はWeb会議を行うこともかなり一般的になったので、こうした機能が搭載されるのは歓迎できることです。ますますRyzen搭載機の汎用性が高くなったと言えます。
最大4画面出力のサポート
複数の外部ディスプレイを接続して広大な画面を使いたいと言う方には便利な機能だと思います。こうした機能が付いたのもGPUが刷新された影響なのだと思います。ちなみにDisplay Portは40Gbps、HDMIも48Gbpsまでサポートされているそうです。ノートPCとは思えないような強力な画面出力となっています。
3.登場時期
AMDによると、このような予定になっているようです。3月中には全て出揃うと言う形になっているため、結構早く感じます。Uシリーズも早めに登場する予定なのが個人的には嬉しい点です。
ちなみに、Ryzen 6000シリーズ採用メーカーの中にMicrosoftの名前も入っていました。恐らくSurface Laptopの新しいモデルに搭載されるのだと思います。それも楽しみですね。
4.おわりに
今回はRyzen 6000シリーズの細かい改善点について紹介しました。省電力性能の向上は細かい点が中心となっているため一つ一つは地味ですが、こうした改良の積み重ねによってノートPCのバッテリー持ちが改善されているという点が伝わってくるのではないかと思います。
こうした改良により、以前よりも更にRyzen APUがモバイルPCに採用しやすい設計になったと言えます。これからは軽量モバイルPCにもRyzen搭載機が増加してゆくと思います。
また画面出力の強化やノイズキャンセリングのサポートも見逃せない強化点となっています。こうした改善によって、Ryzen APUはますます洗練されていっているように感じます。
5.参考リンク
Ryzen 6000シリーズの日本語における参考情報です。
Zen 3+の改良点やGPUの詳細 – Ryzen 6000 Series Mobile Processor Deep Dive:マイナビニュース(大原氏)
AMDのモバイルハイエンドCPU「Ryzen 6000シリーズ」、その高性能の秘密:PC Watch(笠原氏)
“6nmプロセス化”だけではない! AMDがモバイル向け「Ryzen 6000シリーズ」の進化を力説:PC USER(井上氏)