PCのスペック表にある「GPU」が「グラフィックを処理するパーツ」であることは皆さんご存知のことと思います。ノートPCには必ずGPUが搭載されていて、もしGPUが搭載されていない場合は電源を入れてもディスプレイには何も表示されません。
PCユーザーならほとんどの人が知っているであろう「GPU」ですが、この記事では実際にどのような役割を果たし、CPUや最近よく聞くNPUとは何が違うのかを解説します。「知ってはいるが、実際の機能についてはあまり知らない」という人も少なくないのでは?と思います。
目次
1. GPUとは?― CPUやNPUとの違いを正しく理解する
GPUの役割とは?
GPU(Graphics Processing Unit)は「画像処理に特化したプロセッサ」です。主に以下のような処理を担当しています。
・ディスプレイに映像を表示する
・3Dゲームの描画
・動画の再生・エンコード・デコード
・AIによる画像生成や推論処理
これらの処理では「同時に大量の計算を行う『並列処理』」が要求されます。CPU(Central Processing Unit, 中央演算処理装置)は「OS全体の制御」を担当し、一度に複数のタスクをこなす「汎用処理」が得意ですが、GPUは同じ処理を大量に一斉実行する並列処理に特化しており、これが画像や映像処理、AI演算において力を発揮する理由です。
NPUとの違いは?
近年、「AI PC」や「Copilot+ PC」といった製品で注目されているのがNPU(Neural Processing Unit)です。NPUは、ニューラルネットワーク(AIのモデル)による推論処理を「低電力かつ効率的に」実行する専用プロセッサです。
項目 | CPU | GPU | NPU |
---|---|---|---|
得意分野 | 一般処理(OSやアプリ全般) | グラフィック・動画・AI | AI推論処理(軽量・高速) |
演算方式 | 直列 | 並列 | 行列(AI最適化) |
消費電力 | 中 | 高 | 低 |
用途例 | Word、Excel、ブラウザなど | ゲーム、動画編集、画像生成AI | 顔認識、文字起こし、Cocreatorなど |
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
NPU、RTX、AI…今のPCで「使えるAI機能」って何? -「AI搭載PC」の現実と限界
2. iGPUとは?ノートPCの基本装備、高性能化が顕著
iGPU(Integrated GPU)は、CPUに内蔵されているGPUのことを指します。ウインタブでは「内蔵GPU」という書き方をしています。「軽作業用でゲームなどに使うのは無理」といった印象でしたが、近年は状況が大きく変化しています。
著しく高性能化
・Intel Arc Graphics(Xe LPG)
Intelの「Core Ultra(Meteor Lake)」世代以降、iGPUには従来のIris Xeではなく、Arc Graphicsが採用されています。Iris XeでもPCゲーム(3Dゲーム)はある程度こなせましたが、Arc Graphicsは大幅な性能アップを果たしており、快適に遊べるタイトルの幅が広がっています。ウインタブでは過去のレビュー経験に照らし、Arc GraphicsはdGPU(外部GPU)のGeForce GTX1650と同等以上の実力があるものと評価しています。
・AMD Radeon 80S(Ryzen AI Max搭載)
特に注目したいのがこれ、AMDの「Ryzen AI Max」シリーズに搭載されている Radeon 80Sシリーズ です。上位モデルである Radeon 8060S は、なんと外部GPUである GeForce RTX 4060 Laptopと同等クラスのパフォーマンス を発揮するとされ、軽量ノートPCでも強力なグラフィックス性能が得られる時代が到来した、と感じます。
ただし「最新世代=高性能iGPU」ではない
最新世代の型番でもあえてiGPU性能を抑えたものが存在します。
・Intel Core Ultra HX(Arrow Lake):Intel GraphicsがiGPU
・AMD Ryzen 9000シリーズ(Fire Range):Radeon 610MがiGPU
いずれも「超高性能」な型番です。しかし、これらはdGPUとの併用を前提としているようで、iGPUは下位型番と同じものが使われています。つまり、「最新世代=高性能iGPU」と単純に判断するのは禁物です(まあ、どちらも「ガチ勢向け」の型番ですけどね)。ちなみにRyzen 9000シリーズはNPUすら内蔵していません。
iGPUのメリットと限界
メリット
・本体を軽く・薄くできる
・バッテリー駆動時間が長くなる
・静音性が高い(冷却が不要または簡易で済む)
限界
・VRAM(GPU専用のビデオRAM)を持たず、システムメモリと共有
・重い3Dゲームや高解像度動画編集には性能が不十分なものが多い
3. dGPUとは?高性能を支える専用GPU
dGPU(Discrete GPU)は、CPUとは独立した専用のGPUチップです。ウインタブでは「外部GPU」という書き方をしています。「CPUとは別のパーツ」ですね。専用のメモリ(VRAM)を持ち、単体で高性能な処理を行えるのが特徴です。
代表的なものは下記です。PCユーザーなら誰もが知っているであろう、なんならCPUのシリーズ名よりメジャーかもしれない名称です。
・NVIDIA GeForce RTXシリーズ
・AMD Radeon RXシリーズ
えー、座が荒れるので、GeForceが上かRadeonが上か、という点には言及しません。dGPUは主に以下のような用途に向いています:
・高画質ゲーム(FHD/4K・高設定・高フレームレート)
・動画編集(4K・8Kのタイムライン編集、カラーグレーディング)
・ローカルでのAI画像生成(Stable Diffusion など)
デメリットとしては、消費電力・発熱が大きいため、バッテリー持ちや静音性を求める用途には不向きです。搭載PCの価格もiGPU搭載モデルに比べて「かなり」高くなります。
4. iGPUとdGPUの比較
項目 | iGPU(内蔵GPU) | dGPU(外部GPU) |
---|---|---|
処理性能 | 低〜高(※高は一部モデル) | 中~非常に高 |
メモリ構成 | システムメモリと共用 | 専用の高速VRAM |
消費電力 | 少ない(省エネ) | 多い(バッテリー駆動は厳しい) |
本体サイズ | コンパクトなデバイスに適する | 本体サイズが大きくなることが多い |
静音性 | 高い(ファンレスも可能) | ファン必須(爆音になる場合もあり) |
用途の幅 | 一般作業〜軽めの編集やゲーム | 高度なゲーム、映像編集、AI処理など |
5. GPU関連の用語解説 - 2025年の最新動向も
少なくとも私は「GPUまわりの用語」って非常に難解だと思っています。ここでは「CUDA」「DLSS」など「なんやそれ?」と感じられる専門用語をできるだけ簡単に解説します。あわせて、2025年時点で注目されている最新のGPU世代(RTX 50 / Radeon 9000)の動向もご紹介します。
VRAM(ビデオメモリ)
VRAMはGPU専用の高速メモリで、ゲームのテクスチャや高解像度映像、3Dレンダリングの中間データなどを一時的に格納するために使われます。
iGPU(内蔵GPU)は専用のVRAMを持たず、システムメモリ(RAM)と共用します。そのため、描画データの量が増えるとメモリ不足となります(動作がカクつく、最悪アプリが落ちる)。一方、dGPU(外付けGPU)は独立したVRAM(4〜24GB程度)を搭載しており、重い処理でも安定して動作します。
ゲーム用途でのVRAMの目安(2025年時点):
・FHD(1080p)ゲーム:4〜6GB(最低限)
・2.5K(1440p)中〜高設定:8GB以上・
・2.5K(1440p)ウルトラ設定や4K中設定:12GB前後
・4K+レイトレーシングや高画質MOD使用:16GB以上推奨
一方で、動画編集やRAW現像などのクリエイティブ作業では、主にCPUとRAMの性能が重要です。
たとえばAdobe Premiere ProやLightroomでは、書き出し(エンコード)や現像処理の大半はCPUで行われます。よって、動作の快適性はVRAMではなくシステムRAMの容量に依存するとされます。ただし、DaVinci ResolveなどGPUを積極的に活用するソフトではGPU支援が有効になり、その場合はVRAM容量が快適性を左右します。VRAM4GB未満では処理が詰まりやすくなり、4〜8GB以上あると快適とされます。
つまり、VRAMはあくまで「GPUを活用する処理」の快適さに影響するもので、CPUベースの処理には直接関係しません。
CUDA(Compute Unified Device Architecture)
個人的にはこのあたりから理解に絶望感がちらつきます…。CUDAとは、NVIDIAが提供するGPU用の演算基盤で、GPUを「グラフィックス以外の処理(=汎用計算)」に活用するための技術です。正式名称は「Compute Unified Device Architecture」。
CUDA対応のソフトウェアは多く、下記のものが例示できます。
・Adobe Premiere Pro:動画エフェクトや書き出し処理の高速化
・Blender、Octane Render:3Dレンダリングの高速処理
・Stable Diffusion:画像生成AIのローカル実行
CUDAはNVIDIA製GPUでしか使えませんが、クリエイティブ用途やAI系処理の世界では、事実上の業界標準になっています。
Tensorコア ― AI時代の演算ユニット
Tensorコアは、NVIDIAのRTXシリーズに搭載されている「AI専用演算ユニット」です。特に「行列計算」に特化しており、ディープラーニングのようなAI処理を高速化します。
主な用途として、下記が挙げられます。
・Stable DiffusionやLLM(大規模言語モデル)の高速化
・DLSS(AIによる映像の高精細化、後述)のリアルタイム処理
・動画の超解像(AIによる高解像度化)やノイズ除去
特にDLSSでは、事前に学習済みのAIモデルを使って「推論」を行います。RTX搭載GPUではこの推論処理をTensorコアがリアルタイムで実行しており、ゲーム映像などを高速かつ高品質に生成します。
RTコア(レイトレーシングコア)
RTコアは、レイトレーシングという「リアルな光の表現」をゲームなどで実現するための専用ユニットです。
従来のグラフィックスは光の動きを「なんちゃって」で再現していましたが、RTコアがあれば光が物体に当たって反射し、陰が落ちる…という本物に近い描画が可能になります。
代表的な対応ゲームには下記があります。
・Cyberpunk 2077
・Monster Hunter Wilds
・Hogwarts Legacy
ただし、レイトレーシングは処理が重く、RTコア非搭載のGPUではまともに動作しません。RTXシリーズの本領が発揮される機能です。
DirectX / OpenGL / Vulkan ― GPUを動かす“司令塔”
これらは「GPUとアプリの仲介役」になるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)です。
・DirectX(特にDirect3D 12): Windowsの標準API。最新の「DirectX 12 Ultimate」はレイトレーシングなどに対応。
・OpenGL: 古くからあるクロスプラットフォームAPI。現在は事実上開発が止まっており「レガシー用途向け」。
・Vulkan: OpenGLの後継として登場。Windows / Linux / Androidなどで使える次世代API。低オーバーヘッド・高性能で注目度が高い。
「DirectX=Windows標準」、「Vulkan=これからの主流」というイメージで把握しておくと良いでしょう。
2025年以降に登場する新世代GPUの動向
RTX 50シリーズ(Blackwell世代) ― DLSS 4とAI演算が飛躍的に向上
2025年、NVIDIAは新たに「RTX 50シリーズ(コードネーム:Blackwell)」を発表しました。
注目すべき進化点は:
・DLSS 4の搭載: 最大3フレームをAIで生成する「Multi Frame Generation」により、実フレーム1枚に対してAIフレームを追加 → 最大8倍の性能向上
・第5世代Tensorコア / 第4世代RTコア: AI推論もレイトレーシングも大幅に強化
・Neural Graphics(ニューラルレンダリング)技術の導入
・トランジスタ数920億・AI処理毎秒3.3京回 (RTX 5090)
これまでのGPUが「高速描画装置」だったのに対し、RTX 50は「AI時代のグラフィック基盤」という位置づけです。
Radeon RX 9000シリーズ(RDNA 4) ― 「ちょうどいいGPU」を狙うAMD
AMDは「RDNA 4」アーキテクチャを採用した「Radeon RX 9000シリーズ」を投入予定。NVIDIAと異なり「ハイエンドは狙わず、主流ユーザー向けに最適化」する戦略をとっています。
特徴は以下です
・AIアクセラレータを新搭載(第2世代): INT8(軽量な推論処理)演算性能がRDNA 3比で最大8倍
・レイトレーシング性能も向上: 第3世代のRTエンジンを搭載
・価格重視の設計: RTX最上位と直接競合しないコスパ重視のポジショニング
・代表モデル: Radeon RX 9070 XT(VRAM 16GB)
RDNA 4では「エンスージアスト向け」よりも「コスパ良好なミッドレンジ」での競争を意識しているようで、多くのゲーマー・クリエイターにとって「ちょうどいい」性能と価格のバランスが取られています。
GPUは単なるスペックの数字ではなく、「どの技術が使えるか(Tensor?RT?)」「どのAPIに対応しているか(DX12?Vulkan?)」といった要素もあります。こうした背景知識を持つことで、今あるPCの理解も、次の買い替えの判断もグッとしやすくなるはずです。
6. まとめ -「GPU=グラフィック担当」では足りない時代へ
この記事では、GPUの基本、iGPUとdGPUの違い、NPUとの関係、さらに用語の深掘りまで網羅的に解説しました。
「GPUが付いてる=なんとなく高性能」という思い込みから一歩進んで、「どのGPUが、どんな処理に向いているのか」を理解することが重要です。
特に今後は、AIや映像処理がますます重要になる中で、CPU・GPU・NPUの「三者の役割」を見極めながらPCを選ぶ時代になります。「知っているだけで“不要な盛りすぎ”を防ぎ、最適な構成にたどり着ける」というのが理想ですよね。
7.参照サイト
GeForce RTX テクノロジー紹介 :NVIDIA公式サイト
Radeon RXシリーズ :AMD公式サイト(英語)
Intel Ark :Intel公式サイト
GPU・NPU性能比較と実機レビュー :Notebook Check(英語)
GPUスペックデータベース :TechPowerUp(英語)
8.関連リンク
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2014年にサイトを開設して以来、ノートPC、ミニPC、タブレットなどの実機レビューを中心に、これまでに1,500本以上のレビュー記事を執筆。企業ではエンドユーザーコンピューティングによる業務改善に長年取り組んできた経験を持ち、ユーザー視点からの製品評価に強みがあります。その経験を活かし、「スペックに振り回されない、実用的な製品選び」を提案しています。専門用語をなるべく使わず、「PCに詳しくない人にもわかりやすい記事」を目指しています。
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