ビジネス用のノートPCを探すときに真っ先に名前が挙がるのが「ThinkPad」だと思います。長年にわたり多くの個人・法人ユーザーから支持されているブランドですが、2025年現在でもThinkPadには多くのシリーズが存在し、それぞれに明確な違いがあります。
この記事では、ThinkPadの基本的な特徴を整理しつつ「X(X1)シリーズ」「X9シリーズ」「Tシリーズ」「Eシリーズ」という代表的な4つのラインについて、それぞれどんな特徴があり、どんな人に向いているのかを解説します。あわせて、ウインタブが執筆した各シリーズの比較記事やレビュー記事へのリンクも掲載しますので、ご自身に合った1台を見つけるためのガイドとしてご活用いただければと思います。
目次
1. ThinkPadとは?
ThinkPadは、かつてIBMが開発し、現在はLenovoによって展開されているビジネス向けノートPCのブランドです。黒く無骨なデザイン、タフな筐体、そして快適なキーボードは、多くのユーザーにとって「仕事道具」として信頼できる存在となっています。
企業向けの大量導入に対応した耐久性や保守性、セキュリティ機能の充実などが特徴ですが、個人ユーザーにとっても「長く使える安心感」や「パーツの仕様が明確でカスタマイズしやすい」といった点で高い支持を得ています。
2025年現在、ThinkPadには多くのシリーズがありますが、この記事ではその中でも個人ユーザーの購入候補に挙がりやすい「X / T / Eシリーズ」に絞って紹介します。
なお、ThinkPadにはこのほかにも「Lシリーズ」や「Pシリーズ」などのラインがあります。LシリーズはTシリーズに近い構成を持ちながら、やや価格を抑えたビジネス向けモデル。PシリーズはCADや3Dレンダリングなど、より高度な処理が必要なワークステーション用途に特化したシリーズです。また、2024年モデルまでは「プレミアム、あるいは若いユーザー向けのThinkPad」として登場したZシリーズも存在しましたが、2025年モデルのリリースはなく、開発が終了した可能性があります。
2. ThinkPadのシリーズはどう違う?
以下に、2025年モデルの主な製品をシリーズごとにまとめました。搭載CPUやサイズ、価格の目安を一覧で確認できます。
製品名 | CPU | ディスプレイ | 重量 | 実売価格(目安) |
X1シリーズ | ||||
X1 Carbon Gen 13 IAL | Intel Core Ultra(Arrow Lake) | 14.0インチ | 約1.01kg | 約22~30万円 |
X1 Carbon Gen 13 Aura Edition | Intel Core Ultra(Lunar Lake) | 14.0インチ | 約0.986kg | 約26~32万円 |
X1 2-in-1 Gen 10 IAL | Intel Core Ultra(Arrow Lake) | 14.0インチ | 約1.22kg | 約25~35万円 |
X1 2-in-1 Gen 10 ILL | Intel Core Ultra(Lunar Lake) | 14.0インチ | 約1.22kg | 約28~35万円 |
X9シリーズ | ||||
X9 15 Gen 1 Aura Edition | Intel Core Ultra(Lunar Lake) | 15.3インチ | 約1.4kg | 約20~25万円 |
X9 14 Gen 1 Aura Edition | Intel Core Ultra(Lunar Lake) | 14.0インチ | 約1.24kg | 約18~23万円 |
Xシリーズ | ||||
X13 Gen 6 (Intel) | Intel Core Ultra(Arrow Lake) | 13.3インチ | 約0.93kg | 約16~23万円 |
Tシリーズ | ||||
T16 Gen 4 (Intel) | Intel Core Ultra(Arrow Lake) | 16.0インチ | 約1.76kg | 約15~25万円 |
T16 Gen 4 (AMD) | AMD Ryzen AI PRO(Krackan Point) | 16.0インチ | 約1.76kg | 約16~25万円 |
T14 Gen 6 IAL | Intel Core Ultra(Arrow Lake) | 14.0インチ | 約1.38kg | 約15~23万円 |
T14 Gen 6 ILL | Intel Core Ultra(Lunar Lake) | 14.0インチ | 約1.38kg | 約18~23万円 |
T14 Gen 6 AMD | AMD Ryzen AI PRO(Krackan Point) | 14.0インチ | 約1.38kg | 約16~23万円 |
T14s Gen 6 IAL | Intel Core Ultra(Arrow Lake) | 14.0インチ | 約1.24kg | 約18~25万円 |
T14s Gen 6 ILL | Intel Core Ultra(Lunar Lake) | 14.0インチ | 約1.24kg | 約21~25万円 |
T14s Gen 6 Strix Point | AMD Ryzen AI PRO(Strix Point) | 14.0インチ | 約1.3kg | 約23~26万円 |
T14s Gen 6 Snapdragon | Qualcomm Snapdragon X | 14.0インチ | 約1.24kg | 約20~27万円 |
T14s 2-in-1 Gen 6 (Intel) | Intel Core Ultra(Arrow Lake) | 14.0インチ | 約1.4kg | 約18~25万円 |
Eシリーズ | ||||
E16 Gen 3 IAL | Intel Core Ultra 5/7(Arrow Lake) | 16.0インチ | 約1.63kg | 約11~20万円 |
E16 Gen 3 IRL | Intel Core 3/5/7(Raptor Lake) | 16.0インチ | 約1.63kg | 約9~19万円 |
E14 Gen 7 IAL | Intel Core Ultra 5/7(Arrow Lake) | 14.0インチ | 約1.34kg | 約11~18万円 |
E14 Gen 7 IRL | Intel Core 5/7(Raptor Lake) | 14.0インチ | 約1.34kg | 約9~18万円 |
※製品名をクリックするとメーカー製品ページが開きます
この一覧表からだけでも、ThinkPad各シリーズのおおまかな違いが浮かび上がってきます。
サイズの傾向
- Xシリーズ(X1/X):13~14インチ中心で最も軽量。モバイル用途に最適。
- X9シリーズ:14インチと15.3インチ。新筐体でモバイル利用にも向く
- Tシリーズ:14インチと16インチ、据え置き型とモバイル型が混在。
- Eシリーズ(E14 / E16):14インチと16インチ、据え置きに向く。
価格帯の違い
ThinkPadはシリーズによって価格帯も異なります。以下はおおよその傾向です。ただし、注文の際にシステム構成を変更できるのもThinkPadシリーズの特徴であり、変更の内容によっては価格が変動します。
【価格帯スケール】
Eシリーズ ■■(約9〜20万円)
Tシリーズ ■■■■(約15〜27万円)
X9シリーズ ■■■■(約18〜25万円)
Xシリーズ ■■■■■■(約16〜35万円)
製品名とCPU構成の複雑さ
ThinkPadの型番や仕様には、製品選びにおいて混乱しやすい用語が多く登場します。以下の表では、主要な用語とそれに対応するCPU、そしてウインタブとしての評価(サイトとしての主張であり、必ずしも「正解」ではないかもしれません)を簡潔に整理しています。
用語 | 対応CPU | 説明 |
---|---|---|
Aura Edition | Intel Lunar Lake | LenovoとIntelの共同開発製品に冠される名称。 ThinkPadではLunar Lake(ILL)搭載モデルの一部に使用されている。 特に購入時の判断材料とする必要なし。 |
IAL | Intel Arrow Lake | Intelの最新型番。 Arrow Lake-HとArrow Lake-Uに大別され、ともにNPUを内蔵するが NPU性能は低めでCopilot+ PCの要件は満たさない。 HシリーズはGPUにIntel Arcを内蔵するなど非常に高性能。 Uシリーズは省電力タイプ。 ウインタブはHシリーズ推奨。 |
ILL | Intel Lunar Lake | Intelの最新型番にして「唯一のCopilot+ PC対応CPU」。 高性能NPUを内蔵し、省電力性に優れる。 ハイパースレッディング廃止によりマルチスレッド性能は控えめ。 |
IRL | Intel Raptor Lake | CPU型番としては「現行」だがコードネームは旧世代CPUと変わらず NPUも非搭載。一覧表記載のThinkPadではEシリーズのみ採用。 性能は低くないが、オンデバイスAI対応という点ではやや弱いか。 Raptor Lake Refreshとも言うが、Intel公式の表記はRaptor Lake。 |
Strix Point | AMD Ryzen AI 9 | AMDの最新型番。 Ryzen AI 300シリーズの上位モデルに使われる。 Zen 5ベースで高性能NPUを搭載し、Copilot+ PC対応。 ウインタブ推奨。 |
Krackan Point | AMD Ryzen AI 7 / AI 5 | AMDの最新型番。 Ryzen AI 300シリーズの中~下位モデル。 Zen 5ベースでNPU内蔵。 Strix Pointよりやや性能は下がるがCopilot+ PCに対応。 ウインタブ推奨。 |
次章からは、シリーズごとの特徴や選び方について、もう少し詳しく解説していきます。
3. X1・Xシリーズの特徴と選び方
X1シリーズ:ThinkPadモバイルのフラッグシップ
X1シリーズは「最上位のプレミアムモバイルノート」です。2025年モデルはIntelの最新CPUを搭載し、パフォーマンスと薄型・軽量なサイズ感(1 kg前後)を実現しています。ディスプレイやスピーカーなどの品質も高く、個人ユーザーにも非常に人気があります。(ちょっと残念ながら)価格帯は高めですが、所有満足度も高い製品群です。
現在は14インチの「X1 Carbon」と、2-in-1仕様の「X1 2-in-1」が展開されており、いずれもCopilot+ PC対応の最新モデル(Aura Edition / ILL)と、Arrow Lake搭載モデル(IAL)があります。
X13:モバイルThinkPadの実用モデル
X13はX1シリーズよりも価格を抑えた実用派のモバイルノートです。13.3インチという「モバイルノートの王道サイズ」で、2025年モデルでは重さ1 kgを切る超軽量な筐体となりました。
2025年モデルではIntelのArrow Lake(IAL)を搭載し、AI処理に対応するNPUも搭載されていますが、Copilot+ PCの要件は満たしていません。X13は価格と性能のバランスに優れた選択肢といえ、(読者には関係ありませんが)ウインタブでも2023年モデルをメイン・モバイルノートとして愛用しています。
4. X9シリーズの特徴と選び方
X9シリーズ:ThinkPadらしくない、でも本物のThinkPad

ThinkPad X9 14 Gen 1 Aura Edition
X9シリーズは2025年モデルから始まった新ラインで、製品名に「Aura Edition」が付く、Intelとの共同開発モデルです。搭載CPUはIntel Lunar Lake(ILL)で、Copilot+ PCの要件を満たしています。
従来の「ThinkPad像」を大きく覆す設計変更が特徴で、「黒くない筐体」「トラックポイント(赤いデベソ)の廃止」「タッチパッド上部の物理ボタンなし」といった、長年のファンほど驚くような筐体仕様になっています。
X9には14インチと15.3インチの2モデルが用意されており、薄型・軽量かつ高い剛性を備えるなど、使い勝手の面ではしっかりThinkPadらしさを継承しています。見た目にこだわらないのであれば、むしろ万人にとって扱いやすい完成度です。
ある意味、「従来のThinkPadに馴染めなかった人」にThinkPadの品質を提供できるモデルとも言えます。バッテリー駆動時間に優れ、NPU性能も高いため、将来的なAI機能の拡充を見据えるなら有力な選択肢です。
5. Tシリーズの特徴と選び方
Tシリーズ:多彩すぎて難解。でも選べば光る上位モデル

ThinkPad T16 Gen 4 AMD
Tシリーズには「T14」「T14s」「T14s 2-in-1」「T16」の4モデルがあり、モバイルノートから2-in-1、据え置き型まで筐体タイプが幅広く揃っています。さらに搭載CPUのバリエーションも極めて多く、正直なところ、スペック表を見ただけでは判断が難しいシリーズです。
14インチモデルは、「据え置き、ときどきモバイル」に向く標準ノートのT14、薄型軽量なモバイルノートのT14s、そしてその2-in-1版となるT14s 2-in-1の3種。16インチモデルはテンキー付きで据え置き用途に最適なT16のみです。
システムスペックと価格帯は、エントリークラスのEシリーズよりもワンランク上で、より高性能なCPUや高品質なディスプレイ構成を選択可能です。T14sやT14s 2-in-1はX1シリーズと用途がバッティングする面もありますが、X1より価格を抑えつつThinkPadらしさを保っている点が魅力です。T16は、ワークステーション(Pシリーズ)を除けば、据え置き型ThinkPadとしては最上位の存在です。
CPUの選択肢も非常に幅広く、IntelではArrow Lake(IAL)とLunar Lake(ILL)、AMDではRyzen AI 300シリーズ(Strix Point / Krackan Point)、そしてSnapdragon X Plus/Elite搭載機まで用意されています。
Copilot+ PCを前提に選ぶならILLまたはSnapdragon搭載機が対象ですが、ウインタブではSnapdragonモデルは推奨していません。アプリの互換性や動作安定性に課題がある中で、業務用途の多いThinkPadに採用するのは時期尚早と考えています。
6. Eシリーズの特徴と選び方
Eシリーズ:価格で選ぶThinkPad。でも中身はしっかり本物

ThinkPad E14 Gen 7
EシリーズはThinkPadの中で最も価格が手頃なスタンダードノートで、個人利用から法人の業務用途まで広く対応します。14インチと16インチの2モデルがあり、機能性とコストのバランスに優れた「ThinkPadのエントリーモデル」として位置づけられています。
とはいえ、「安かろう悪かろう」な製品がThinkPadを名乗ることはなく、必要十分な性能と打鍵感に優れたキーボードを備えており、「初めてのThinkPad」としても安心して選べる品質です。
2025年モデルでは、CPUにIntel Arrow Lake(IAL)とRaptor Lake Refresh(IRL)の2系統があり、ウインタブでは性能と将来性の面からIALモデルを強く推奨しています。IRLは旧世代であり、NPUも非搭載。価格差が小さいのであれば、あえて選ぶ理由はあまりありません。
ただし、IRLにはCore 3(旧Core i3)も用意されており、IALにはCore 3相当の低価格帯が存在しないため、性能を割り切って価格を最優先する場合には、IRLモデルは10万円を切る構成もあり、検討の余地はあります。
7. まとめ ― ThinkPadを使う理由は、もう理屈じゃない
ウインタブでは日々さまざまなPCやタブレットをレビューしていますが、個人としては「ThinkPad推し」であり、メインのモバイルノートとしてもThinkPadを愛用しています。
その理由はよくあるものです。「キーボードの打鍵感」「筐体の剛性」「実機の使い勝手」――スペック表に載らない部分で、他のノートPCとは一線を画していると感じるからです。…と、もっともらしく語ってはみましたが、正直に言えばこう思っています。「ThinkPadって、もう宗教みたいなものかもしれない」と。
選ぶ理由はあとからいくらでも並べられますが、いざ使い始めると「全部がいい」「この黒くて無骨なデザインが、だんだん可愛く見えてくる」「もうThinkPadしか見えない」。気づけばそんな状態になっているのです。
「いいから一度、使ってみて」。それがこの記事の結論かもしれません。……冷静に見れば、ちょっとした洗礼みたいなものかもしれませんね(笑)。
8. 関連リンク
2014年にサイトを開設して以来、ノートPC、ミニPC、タブレットなどの実機レビューを中心に、これまでに1,500本以上のレビュー記事を執筆。企業ではエンドユーザーコンピューティングによる業務改善に長年取り組んできた経験を持ち、ユーザー視点からの製品評価に強みがあります。その経験を活かし、「スペックに振り回されない、実用的な製品選び」を提案しています。専門用語をなるべく使わず、「PCに詳しくない人にもわかりやすい記事」を目指しています。
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