HPは2024年にノートPCのブランド体系を再編し、個人向けは「OmniBook」、法人向けは「EliteBook」を中心とした構成へと移行しました。この記事では、「EliteBook」シリーズの最新モデルについて解説します。
対象とするのは2025年モデルとして展開されている「EliteBook Ultra」「EliteBook X」「EliteBook 8」「EliteBook 6」の4シリーズ、全9製品。AI対応のCopilot+ PCをはじめ、処理性能や筐体品質、用途に応じた多彩な選択肢がそろっており、「信頼性の高いノートPCを探している人」「AIに対応した次世代モデルに興味がある人」におすすめのラインナップです。 この記事では各モデルの違いや強み、選び方のポイントを解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
1. EliteBookとは?
EliteBookは、HPが法人市場向けに展開しているノートPCシリーズです。ただし、HP公式オンラインストアは顧客対象を法人に絞っておらず、個人でも問題なく購入ができます(ただし、一部の製品に法人限定モデルが存在します)。
EliteBookは法人向けということもあって「堅牢性やセキュリティ」に優れており、特にセキュリティに関しては「BIOSの自動修復」や「ディープラーニングAIによる、未知のマルウェアからのリアルタイム保護」といった強力な独自機能があり、これらの機能は法人だけでなく、個人利用の際も安心感があります。
2024年のブランド再編では、法人向けポートフォリオが以下のように整理されました。

画像出所:HP(ウインタブがレイアウトを改変)
この図の右側が法人向け(Commercial)ポートフォリオで、ノートPCの柱はEliteBook、デスクトップPCはEliteDesk、クリエイティブワークステーション系はEliteStudioという構成です。
EliteBookシリーズの中でも、モデル名に含まれる数字やアルファベットにより、性能や立ち位置が明確に分かれています。HPでは「番号が増えるにつれて、デザインやデバイスの機能、全般的なパフォーマンスも高まる」と説明しています
また、下位の「4」と「2」はEliteBookではなくProBookという名称になります(2025年6月15日現在、このブランド再編に基づくProBookはまだリリースされていません)。
以下に、2025年モデルとして展開されているEliteBookシリーズの主要9機種を一覧にまとめました。
製品名 | 主な搭載CPU | ディスプレイサイズ | 重量 | 価格の目安 |
---|---|---|---|---|
EliteBook Ultra G1q AI PC![]() |
Snapdragon X Elite X1E-78-100 | 14.0インチ | 約1.349kg | 約25万円 |
EliteBook X G1i 14 AI![]() |
Intel Core Ultra 7 258V (Lunar Lake) |
14.0インチ | 約1.19kg | 約23~31万円 |
EliteBook X G1a 14 AI![]() |
AMD Ryzen AI 9 HX PRO 375 (Strix Point) |
14.0インチ | 約1.497kg | 約22~27万円 |
EliteBook 8 Flip G1i 13![]() |
Intel Core Ultra 7 255U (Arrow Lake) |
13.3インチ | 約1.399kg~ | 約24~28万円 |
EliteBook 8 G1i 16![]() |
Intel Core Ultra 7 258V (Lunar Lake) |
16.0インチ | 約1.77kg~ | 約21~25万円 |
EliteBook 8 G1i 14![]() |
Intel Core Ultra 7 258V (Lunar Lake) |
14.0インチ | 約1.46kg~ | 約22~27万円 |
EliteBook 8 G1i 13![]() |
Intel Core Ultra 7 255U (Arrow Lake) |
13.3インチ | 約1.299kg | 約19~27万円 |
EliteBook 6 G1i 14![]() |
Intel Core Ultra 5 225U (Arrow Lake) |
14.0インチ | 約1.40kg | 約17~19万円 |
EliteBook 6 G1a 14![]() |
AMD Ryzen AI 7 350 (Krackan Point) |
14.0インチ | 約1.40kg | 約17~19万円 |
※製品名をクリックするとHP公式オンラインストアの製品ページが開きます
2. Copilot+ PCについて
Microsoftが2024年に発表した「Copilot+ PC」は、ローカルでAI処理を実行できる高性能NPU(Neural Processing Unit)を備えたWindows PCの新規格(新カテゴリ)です。ただしこれは一企業が制定したものであり、業界団体などが制定した「標準用語」ではありません。「マーケティング目的」と感じられる用語です。
Copilot+ PCの要件はいくつかありますが、最も特徴的な要件は「CPUがAI処理用のチップであるNPUを内蔵しており、NPUが40TOPS以上(兆回/秒の演算性能)であること」です。
EliteBookではEliteBook UltraシリーズとEliteBook Xシリーズの全モデルがCopilot+ PC対応となっており、Snapdragon X Elite(ARM)や、IntelのLunar Lake(Core Ultra Vシリーズ)、AMDのStrix Point(Ryzen AI 300シリーズ)といった最新CPUが採用されています。
一方、EliteBook 8シリーズとEliteBook 6シリーズでは一部のモデルがCopilot+ PC非対応です。EliteBook 8 G1i 13とEliteBook 6 G1i 14は搭載CPUがIntel Arrow Lake(Core Ultra 200U/200H)で、NPU性能がCopilot+ PCの要件を満たさないため、Copilot+ PCではありません(ただし、Arrow Lakeは決して性能の低いCPUではなく、NPU以外の性能はCopilot+ PC対応CPUよりも高い型番があります)。
Copilot+ PCはあくまでMicrosoftが制定したハードウェア認定であり、実際にどこまでAI機能が活用できるかは用途やソフトウェア次第です。現時点での価値や実用性については次章以降でモデル別に解説します。
3. EliteBook Ultra / Xシリーズ

HP EliteBook Ultra G1q AI PC
EliteBookの中で、Copilot+ PCに対応する最上位シリーズが「Ultra」と「X」です。上に掲載したHPの表ではUltraが最上位、その下がX、と読み取れますが、2025年の製品ラインナップを見ると両シリーズは「同等」「同格」と理解していいでしょう。
「EliteBook Ultra G1q AI PC」はCPUにSnapdragon X Eliteを搭載するARM版Windows機、「EliteBook X G1i」はCore Ultra 5 228V / Core Ultra 7 258V(Lunar Lake)を搭載し、「EliteBook X G1a」はRyzen AI 7 PRO 360/Ryzen AI 9 HX PRO 375(Strix Point)を搭載していて、いずれもx64(x86-64)のCPUです。
ここで、ウインタブとしての意見を明確にしておきます。2025年現在でSnapdragon搭載機(ARM版Windows機)は推奨しません。リリース当初はダントツのNPU性能を誇ったSnapdragon X Eliteですが、現在ではx64のIntel Lunar LakeやAMD Ryzen AI 300シリーズとNPU性能の差はほぼなくなっています。一方で、OSが「ARM版」であることにより、一部のアプリで動作しないなど、ソフトウェアの互換性の完全には解消されていません。特にビジネスPCにおいて「動かないアプリがある」というのは大きな問題になりかねません。よって、ウインタブではSnapdragon搭載機(この記事ではEliteBook Ultra G1q AI PCが該当)はおすすめしません。
また、この3機種はディスプレイサイズがすべて14インチでタテ・ヨコサイズも比較的似通っているのですが、重量は大きく異なります。モバイルノートとして使う場合は筐体重量(軽さ)が非常に重要になります。毎日PCをバッグに入れて持ち歩くような場合はEliteBook X G1i(1.19kg)が、コンテンツクリエーションに使ったり、据え置きでじっくり作業する機会が多い場合はディスプレイ有機ELで解像度が2,880×1,800と高く、上位モデルではRAM64GBとなるEliteBook X G1aが向くと思います(G1iは1,920×1,200の液晶ディスプレイでRAMは32GBのみ)。
EliteBook Ultra G1q AI PCの実機レビュー記事:
HP EliteBook Ultra G1q AI PC レビュー - Snapdragon X Elite搭載、HP法人向けモバイルノートのトップモデル
EliteBook X G1i 14 AIの製品紹介記事:
HP EliteBook X G1i 14 AI - CPUがLunar LakeのCopilot+ PC、薄型軽量でセキュリティも万全なモバイルノート
EliteBook X G1a 14 AIの製品紹介記事:
HP EliteBook X G1a 14 AI - Ryzen AI PRO 300シリーズ搭載の14インチノート。強力なセキュリティ機能も搭載
4. EliteBook 8シリーズ

EliteBook 8 G1i 16
EliteBook 8シリーズは、従来の上位シリーズ「EliteBook 860/840/830」の後継という位置づけです。新ブランド体系では上位にUltraやXがあるので「中位クラスか?」と誤解しそうですが、そんなことはありません。
質感の高い筐体で、16インチ(EliteBook 8 G1i 16)、14インチ(EliteBook 8 G1i 14)、13.3インチ(EliteBook 8 G1i 13)のクラムシェルノート3サイズと、13.3インチ2-in-1(EliteBook 8 Flip G1i 13)の4モデルをラインナップしていますので、モバイル(13.3インチ)、据え置き・ときどきモバイル(14インチ)、据え置き(16インチ)と、用途に合わせて選べます。また、2-in-1タイプは4,096段階の筆圧に対応するUSIリチャージブルペンが付属し、本体にペンを内蔵できる構造なので、「タブレットモードにしてイラストやマンガの制作」をしたり、「テントモードにして動画視聴」を楽しんだりできます。
なお、EliteBook 8シリーズのうち、EliteBook 8 G1i 13のみCPUがIntel Arrow Lake(Core Ultra 5 225U/Core Ultra 7 255U)のため、Copilot+ PCではなく、他のモデルはすべてCopilot+ PCです。
5. EliteBook 6シリーズ

EliteBook 6 G1i 14
EliteBook 6シリーズは、従来の「EliteBook 660/640/630」の後継機です。2025年6月15日現在、EliteBook 6シリーズは14インチモデルのみが発売されているので、「EliteBook 640」の後継というのが正確ですね。
EliteBook 6 G1i 14はCPUにCore Ultra 5 225U/235U(Arrow Lake)を搭載しており、Copilot+ PCではありません。また、Core Ultra 7の設定もありません。EliteBook 6 G1a 14のCPUはRyzen AI 5 340/AI 7 350(Krackan Point)のCopilot+ PCです。
ウインタブではまだEliteBook 8/6シリーズの実機レビューはしていませんが、従来モデルのEliteBook 800シリーズと600シリーズのレビュー経験はあり、正直なところ「筐体品質に差は感じられなかった」です。そのため「コスパに優れた600シリーズのほうが『買い』なのでは?」と思っていたくらいです。
しかし、現行のEliteBook 8シリーズと6シリーズはCPUの仕様にはっきりとした差があり、明確に8が上位モデルであることがわかります。また、6シリーズの下位には(まだ発売されていませんが)ProBook 4シリーズやProBook 2シリーズが登場するものと思われますので、HPビジネスノートの「中位モデル」としての位置づけが明確になったと思います。
6. 用途別おすすめモデル
EliteBookシリーズの2025年モデル9機種を、代表的な用途ごとに分類して紹介します。重視するポイント(性能、携帯性、コスト、将来性)に応じて、モデル選びの参考にしてください。
用途 | おすすめモデル | 補足説明 |
---|---|---|
ハイエンド・ビジネスノート | Ultra G1q / X G1i / X G1a | いずれもCopilot+ PC対応。処理性能・NPU性能とも最上級で、将来的なAI機能拡張にも対応できる。筐体の質感も非常に高く、「持つ喜び」や所有満足度も大。 |
高性能な据え置きノート | 8 G1i 14 / 8 G1i 16 | Arrow LakeまたはLunar Lakeを搭載し、表示領域や拡張性に優れる。16インチモデルは大型だが作業快適性が高く、主に据え置きで使いたい人に最適。 |
軽量モバイルノート | 8 G1i 13 | 13.3インチ、約1.3kgの軽量筐体に高性能CPUを搭載。Arrow LakeでCopilot+ PC非対応ながら、NPU以外の性能は十分。本格モバイル用途にベストな選択肢。 |
コストを抑えて導入 | 6 G1i / 6 G1a | 比較的安価ながら、Arrow Lake(非Copilot+)やKrackan Point(Copilot+)などの最新CPUを採用。基本性能は十分。 |
7. まとめ
HPのEliteBookシリーズは、2025年モデルにおいて「Ultra」「X」「8」「6」という明確な4階層に整理され、「Ultra/X」シリーズは全モデルがCopilot+ PC、「8/6」シリーズはIntel Arrow Lake搭載モデルを除きCopilot+ PCです。
ウインタブとしては、Snapdragon X Elite搭載のARM版Windows機は現時点ではおすすめしていません。ソフトウェア互換性に懸念が残るため、ビジネス用途においてはx64ベースのIntelやAMD搭載モデルがより「リスクのない」選択肢だと思います。
EliteBookはすべてのモデルにおいて筐体品質が高く、堅牢性やセキュリティ機能も充実しています。価格帯や性能の違いはありますが、「がっつりビジネスに使える、信頼性の高いノートPC」を探しているなら、どのモデルも有力な候補になるはずです。
なお、今後はEliteBookの下位に位置するProBookの登場(従来モデルからのリニューアル)も予想され、HPの法人向けノートPCラインはさらに多彩になると思われます。本記事は現時点で“上位モデルを選びたい人”に向けた決定版ガイドとしてご活用ください。
8.関連リンク
2014年にサイトを開設して以来、ノートPC、ミニPC、タブレットなどの実機レビューを中心に、これまでに1,500本以上のレビュー記事を執筆。企業ではエンドユーザーコンピューティングによる業務改善に長年取り組んできた経験を持ち、ユーザー視点からの製品評価に強みがあります。その経験を活かし、「スペックに振り回されない、実用的な製品選び」を提案しています。専門用語をなるべく使わず、「PCに詳しくない人にもわかりやすい記事」を目指しています。
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