ノートPCを選ぶには、性能、電池持ち、重量、画面の綺麗さ、排気音、キーボードのタイプしやすさなど様々に考慮する要素があります。PCの部品であるCPUは、そのうち性能と電池持ちに大きく影響し、基本的には世代が新しいほど高性能となっています。
当然ながら最新CPUは、比較的高価なPCに搭載される傾向がありますが、今世代は電池持ちの改善とCopilot+PCの有無が焦点になっており、特に電池持ちに関しては「前モデルの1.5倍」「2年前のモデルの2倍」といった製品が少なくないため、電池持ち重視なら高くとも買う価値はあると断言できます。

CPU世代別のノートPC各機種の実測実用バッテリー持ち分布表。データは当サイトの実機レビューのほか、実用環境でのバッテリー持ち実測テストを行っているレビュワーとして、notebookcheckさんとthe比較さんの比較的新しいレビューを参考にしました。
性能については着実に進歩していますが、いわゆる「ネットとオフィス」という用途であれば前モデルとの体感差はそこまで大きくないため、持ち出して使う機会が少ないなら前世代CPU搭載のバリューモデルも選択肢に入るでしょう。バリュー品については回を分けて取り上げます。
2025年前半の最新世代のCPUは、Intel, AMD, Qualcommの各シリーズが見事に「ほぼ同等の性能ながら1つだけ欠点がある」という構図になっており、どれを重視するかで選ぶとよいでしょう。
・Core Ultra 200V:全体的にすごいが、マルチ性能(ヘビーな動画編集等)はやや弱い
・Core Ultra 200H:全体的にすごいが、Copilot+PCに対応していない
・Core Ultra 200U:全体的に他の最新CPUからはワンランク見劣りする
・Ryzen AI 300:全体的にすごいが、電池持ちはやや短い
・Snapdragon X:全体的にすごいが、x86互換性で動かないソフトがあり、ゲームは期待できない
・Core Ultra 200 HX, Ryzen AI MAX:基本的に重量級ゲーム用
目次
Lunar lake (Core Ultra 200V)
・ネットとオフィスでは高スペック、高いグラフィック性能、バッテリー持ちも最良、Copilot+PC対応
ここがイマイチ:
・CPUのマルチスレッド性能(ヘビーな動画編集等)はやや弱い
・Cinebench 2024 シングル: 105-120
・Cinebench 2024 マルチ: 500-650
・Crossmark: 1600-1750
・Time Spy Graphics: 3000-4200
・バッテリー実測: 9-14時間
・価格帯(2025春): 17万円~、中心は20万円超
Lunar lake (Core Ultra 200V)は2024年秋に発売された製品で、記事執筆時ではkakaku.comに132機種が載るなど、最新世代の中では比較的選択肢が豊富な製品になっています。
既存のWindowsノート向けCPUとしては最高クラスのシングルスレッド性能とグラフィック性能を持ち、「ネットとオフィス」向けベンチマークであるPCMarkやCrossmarkでは高い点数を叩き出しています。グラフィック性能も高く、タイトルによりけりですが、AMDのRyzen AI 300 (Strix Point)と並んで内蔵GPU最速の性能を誇り、AAAタイトルも設定を落とせば一応遊べる水準です。バッテリー持ちは実用水準で9-14時間と、x86 CPUとしては画期的な長時間駆動を達成しているのが特徴で、第13世代Raptor lakeの倍近い数字を叩き出しています。Copilot+PCにも対応しています。Macと比べた場合、トータルで見てM3に匹敵すると言っていいでしょう。
弱点はコア数の少なさで、同世代の最新CPUの中ではマルチスレッド性能が低く、メディアワークステーション的なヘビーな動画編集などには向かないでしょう(もちろんスマホで動くレベルのステッカーをデコる程度の軽量動画編集アプリであれば問題はありません)。それでも、モバイルノート程度の放熱制限内(最大35W程度)という条件ならば13世代の上位CPUと同等のマルチスレッド性能は出せるため、十分な性能はあると言っていいでしょう。
現在はプレミアム製品を中心に採用されており、比較的高価な製品が多くなっています。「軽くて電池持ちがいい」という特性は外回り会社員や学生向けですが、学生にとってはいささか躊躇してしまう価格かもしれません。
Arrow lake-H (Core Ultra 200H)
CPU基礎性能は高く、高いグラフィック性能、バッテリー持ちも最良
ここがイマイチ:
Copilot+PCに対応していない。
・Cinebench 2024 シングル: 115-130
・Cinebench 2024 マルチ: 600-1200
・Crossmark: 1700-2100
・Time Spy Graphics: 3000-4200
・バッテリー実測: (推定値8-12時間)
・価格帯(2025春): 記事執筆時15万円~
Arrow lake-H (Core Ultra 200H)は2025年から発売されるCPUで、記事執筆時では数機種が発売されたばかりです。その中の一つASUS Zenbook 14は15万円からとなっており、最新世代の中では比較的お手頃な製品も出るようで、これから増えるでしょう。
基礎性能としては、既存のWindowsノート向けCPUとしては最高クラスのCPU性能を持ち、特にシングルスレッド性能は同世代のライバルを半歩リードしています。グラフィック性能もなかなか高く、Time Spyなど3DMarkのベンチマークではクラス最高の数字を見せるものの、実ゲームのFPSは一歩劣るものが多くなっています。GPUコアが1世代古いXe+XMXを採用していたり、Arrow lake-Sでも問題になる旧式のSoCタイルあたりが原因と思われます。
記事執筆時に確認できたバッテリー持続時間実測テストは3件のみですが、いずれもMeteor lakeを上回りLunar lakeにやや届かない程度と良好な数字を見せており、ウインタブ標準テストに換算した場合は8-12時間程度と推定されます。総じてM3 Proに肉薄するか、ほぼ同等程度にみなして問題ないでしょう。
弱点は、Copilot+ PCに対応していないという点でしょう。Meteor lake世代の10TOPS台のNPUを搭載していますが、対応アプリも少なく考慮する必要がない程度です。とはいえ、Copilot+PC対応であったとしても現状Microsoft謹製であれベンダー固有であれNPU動作するアプリは数える程度しかないので、この弱点を無視しても構わないというのが私の意見ですが、PCを買い替える数年後まで同じ状況とは限らないため、Copilot+PC専用アプリがこの先充実すると予想するかどうかが、Arrow lake-Hを選ぶかどうかの境目になるのではないかと思います。
Arrow lake-U (Core Ultra 200U)
ネットとオフィスでは快適な性能、そこそこのバッテリー持ち
ここがイマイチ:
他の最新CPUには全体的にワンランク劣る。Copilot+PCも非対応。
・Cinebench 2024 シングル: 90-105
・Cinebench 2024 マルチ: 500-650
・Crossmark: 1500-1650
・Time Spy Graphics: 1500-2000
・バッテリー実測: (推定値7-10時間)
・価格帯(2025春): 記事執筆時未発売
Arrow lake-U (Core Ultra 200U)は2025年から発売されたCPUです。最新の型番がついていますが、中身はMeteor lake-UをIntel 4からIntel 3にやや改善した程度に留まります。まだ実機が発売されていませんが、その特性についてはMeteor lake-Uの性能をほぼ参考にできます。
シングルスレッド性能は最新世代と比べて若干遅い程度ですが、コア数の少なさからマルチスレッド性能は低めで動画編集等には向きません。GPUは他の主力CPU(Lunar lake, Arrow lake-H, Meteor lake-H)に比べて半減しておりAAAタイトルを遊ぶのは難しいでしょう。NPUはついていますがCopilot+PCには対応していません。ネットとオフィスなら十分快適ですが、この分野なら一番というストロングポイントはありません。
バッテリー持ちは、概ねMeteor lake-U程度は最低限期待でき、Intel 4からIntel 3になったことで若干の改善も期待できます。実用的な範囲で7-10時間程度の機種が中心になり、概ね第13世代以前の1.2~1.4倍程度、Lunar lakeやSnapdragon Xの7~8割水準になるでしょう。
全ての側面において、Raptor lake-Uよりワンランク上、かつLunar lakeよりワンランク下という印象です。Macと比べると、大まかにM1程度を期待しておくのが良いでしょう。価格次第で選択肢に入る商品という印象です。
Strix Point & Krackan Point (Ryzen AI 300)
CPU基礎性能は高く、高いグラフィック性能、Copilot+PC対応
ここがイマイチ:
バッテリー持ちはやや劣る
・Cinebench 2024 シングル: 110-120
・Cinebench 2024 マルチ: 600-1200
・Crossmark: 1650-1900
・Time Spy Graphics: 3000-3600
・バッテリー実測: 6-9時間
・価格帯(2025春): 17万円~、中心は20万円超
Strix Pointを中心とするRyzen AI 300シリーズは2024年夏に発売されたCPUで、記事執筆時ではkakaku.comに38機種がリストされています。
既存のWindowsノート向けCPUとしては最高クラスのCPU性能とグラフィック性能を持ちます。「ネットとオフィス」はもちろん快適で、PCMarkやCrossmarkでも最高クラスの点数をマークしますし、HX375はコア数の多さから消費電力を控えめにしてもマルチスレッド性能が高く動画編集等の用途にも向きます。内蔵GPU性能も高くAAAタイトルのゲームも設定を下げれば遊べる範囲に入ってきます。Copilot+PCにも対応していますので、将来Microsoftが対応アプリを拡大したときにも便利な機能を使えるでしょう。
同世代の製品と比べた時に目立つ弱点はバッテリー持ちがやや短いことです。実用的な範囲で6-9時間の範囲が多く、バッテリー持ちを大幅に伸ばしたSnapdragon XやLunar lakeと比べると6~7割水準で、前世代のMeteor lakeよりやや短く、Raptor lakeよりは長めですが、同社前世代のHawk Pointと同程度に留まっています。
Strix Point は上位製品として位置づけられており、プレミアム価格帯の製品が中心になっています。発売機種数やPassmarkサンプル数もあまり伸びていません。普及価格帯製品としてRyzen AI 7 350, 340 (Krackan Point)が追加されるので、価格や量の面ではそちらにも期待したいところです。
Snapdragon X Elite/Plus
CPU基礎性能は高く、バッテリー持ちも最良、Copilot+PC対応
ここがイマイチ:
互換性問題で動かないアプリやドライバが散見され、人によっては致命的
・Cinebench 2024 シングル: 100-110
・Cinebench 2024 マルチ: 550-1100
・Crossmark: 1000-1500
・Time Spy Graphics: 850-1700
・バッテリー実測: 10-13時間
・価格帯(2025春): 12万円~24万円程度に幅広く
Snapdragon Xシリーズは、昨年の初夏にCopilot+PCのローンチ製品として、Microsoftの全面バックアップで発売されたARM系CPUです。コア数が多い高性能のX Elite、コア数が減ったX Plus、廉価版のX無印の3種類が発売されており、記事執筆時ではkakaku.comにX Eliteが32機種、X Plusが31機種、X無印が4機種の合計67機種がリストされています。廉価版の存在などもあり、最新世代CPUの中では低価格帯が充実している印象です。
Snapdragon X Eliteは既存のWindowsノート向けCPUとしては最高クラスのCPU性能を持ちます。X PlusもCPU部分はLunar lakeとほぼ同等、X無印もMeteor lake-UやArrow lake-Uを若干上回る程度の性能で、動画編集などはやや向きませんがネットとオフィスには十分でしょう。グラフィック性能は一段劣りますが、これもネットとオフィス用途なら十分でしょう。バッテリー駆動時間は実用水準で10-13時間程度と、第13世代Intelあたりの倍近く、Lunar lakeやMac並で、発売当時はWindows PCとしては格段に長いものでした。
Snapdragon Xシリーズの弱点は、ARM系CPUであるため、対応ソフトウェアに若干の制限があることです。OSはもちろん、Officeや主要ブラウザ、.NETベースのアプリなどはARMに対応していますし、ARM非対応アプリでも大抵はARM命令への変換がうまく働いてくれます。ただどうしてもうまく動かないソフトウェアはあり、例えば「ネットとオフィス」用ベンチマークのPCMark 10は動作不具合があるため各種レビューでもデータがありません。ウインタブではGoogle 日本語入力が動かずに困るソフトとして取り上げられます。
以前の記事でも取り上げましたが、x86互換性で大きな問題になるのはドライバ類で、特にプリンタの非対応はビジネス用途で問題になるケースが多いようです。[Qualcommは「プリンタのうち90%がWindows標準のドライバで利用可能になっている」と説明しているものの、裏を返せばメーカー提供ドライバの対応状況は芳しいものではなく、それらで実現しうる固有機能まで使いなすには課題があるというのが現状です。Microsoft Surfaceも個人向けはSnapdragon Xだけになっていますが、プリンタがらみの問題もあって企業向けだけはLunar lake版が発売されています。
もう一つ問題になるのはゲームで、こちらはx86互換性問題とGPU相性の両方が関与しており、ソリティア程度なら問題ありませんがAAAタイトルは動かないものがかなりあります。そもそも基礎的なGPU性能も同世代他CPUよりやや見劣りするので、ゲーム目的ならば避けるべきでしょう。
x86アプリが変換でうまく動いている場合でも、ARMへの翻訳コストがかかるため、実質的に2世代ほど前のCPU水準の性能になってしまうため、例えばそれに該当するPCMark代役のCrossmarkの値はライバルに比べ見劣りします。
Arrow lake-HX & Ryzen AI MAX
Arrow lake-HXはデスクトップ用Arrow lake-Sをノート用のパッケージに収めたもので、2025年から発売され記事執筆時ではkakaku.comに4製品がリストされています。マルチスレッド性能はArrow lake-Hのさらに1.5倍と、格段に高い性能を提供します。ただそのポテンシャルを発揮させるにはハイエンドのゲーミングノートが備える高い放熱性能が要求されます。基本的には2~3 kgの「据え置きノート」と呼ばれる製品にdGPUとセットで搭載される類のもので、廉価品や持ち運べるノートでは採用されないでしょう。Copilot+PCには対応していません。
Ryzen AI MAXは9950X相当の16コアCPUにdGPU並の内蔵GPUを備えたゲーミングPC向け製品です。消費電力や価格もdGPU付き製品並になっており、基本的にはArrow lake-HXと同じセグメント向けの製品になります。モバイルノートでは採用はまず無理で、16インチ級のスタンダードノートでハイエンド製品で採用されるかどうか、というところでしょう。現在は持ち運び可能なROG Flow Z13が発売されていますが、こちらは前モデルですでにハイエンドdGPUのRTX 4070/4060を搭載しており、内蔵GPUだから小さくできたというよりは、例外的に小さなゲーミングノートに最初に採用されたという形になっています。またCopilot+PCにも対応しており、AI向けとも謳っています。
どちらも名目上は「ゲーミングPC」と銘打った機種に搭載されると思いますが、同時にノート用としては非常に高いマルチスレッド性能を持つため、ゲーム用のみならずメディアワークステーション用途での活躍も期待できます。
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