
前回は超解像技術(DLSS、FSR、XeSS)の基本的な仕組みについて解説しました。今回はその補足として、これらの技術を支える周辺技術や、実際に利用する際の設定のヒントについて、もう少し説明します。
目次
動きの追跡と画質の関係
超解像(時間蓄積カメラジター法)やフレーム生成において最も重要なのが、動きの追跡(モーション・トラッキング)です。これらの技術は、共通して過去のフレームの情報と現在のフレームの情報を比較することで成立しています。そのため、「前の瞬間にここにあった物体が、次はどこへ移動したか」を正確に把握(マッピング)できなければ、合成処理に失敗し、画質が大幅に劣化してしまいます。
そのため、各社の技術には、物体追跡や密なベクトル場表現の計算、またはコーディングで運動方向のヒントを与えるなどして、動きを検出する高度なアルゴリズムが組み込まれています。特にNVIDIAのGeForce RTXシリーズなどでは、Optical Flow Acceleratorと呼ばれる専用のハードウェア回路を搭載し、この計算処理を回路面から強化しています。
アンチエイリアシングとの融合
この処理は、3Dゲームにおけるアンチエイリアシング(AA)とも密接に関係しています。デジタル画像は正方形の画素(ピクセル)の集まりです。原始的な3DCGでは、画素の中心点の色だけを計算するため、画素に合わせて斜めの線を描画すると、階段状のギザギザ(ジャギー)が発生します。これを解消するために、斜め線の色を少しずつ変えることで見た目のギザギザを抑えるアンチエイリアシングという手法が使われます。
アンチエイリアシングの代表的な方法は、本来の数倍の解像度で計算してから縮小して複数画素の平均を取って表示するスーパーサンプリング・アンチエイリアシング(SSAA)です。ただしこれは超解像の逆の手法ということができ、処理負荷が非常に重くなる欠点があります。
ここで、前回解説した時間蓄積カメラジター法が役立ちます。「カメラ位置を1画素未満でずらして撮影し、それを複数枚合成する」という手法は、それらの単純平均を取るだけで原理的にスーパーサンプリングと同じ効果をもたらします。これをTemporal Anti-Aliasing (TAA)と呼びます。これにより超解像処理とアンチエイリアシングを一つの工程で同時に行うことができます。ただ、ゲーマーの中にはそもそもエイリアシング自体を動きが見えにくくなるとして嫌う人もいますので、好みというものもあるでしょう。

操作ラグへの対策技術
フレーム生成を導入すると、どうしても処理遅延が発生しますが、これに対する対策も進んでいます。これに対抗するために開発されたのが、NVIDIA Reflex, AMD Anti-Lag, Intel XeLLなどの低遅延化技術です。
PC内部では、入力機器(マウス等)、CPU、GPU、そしてモニター表示で、それぞれに処理待ちの列(キュー)があります。各工程のタイミングを合わせるための「隙間時間」が生じますが、これが遅延の原因になります。Reflexなどの技術は、この隙間時間を最適化して入力→CPU→GPU→表示までの遅延を最も小さくなるように詰めなおすことで、入力から表示までのトータル時間を短縮します。これにより、フレーム生成によって生じる遅延を相殺し、操作感を損なわないよう調整されています。

技術の選び方と画質の序列
数多くのゲームの中には、モンスターハンターワイルズのように「NvidiaのDLSS 4とAMDのFSR 4に対応」としているものがあります。こういった場合にどれを選べばよいか、各社技術を比較してみましょう。
基本的には、新しい世代の技術ほどアルゴリズムが改良されており、第二世代で時間蓄積カメラジター法(XeSSは第二世代から参入)、第三世代でフレーム生成、第四世代でマルチフレーム生成が登場し、基礎アルゴリズムの強化も含め画質は向上します。
NVIDIA DLSS (Deep Learning Super Sampling)
- 最新機能の搭載: ゲーム向け超解像技術の先駆けであり、最新機能はDLSSがまず取り入れることが多いです。レイトレーシングを用いた描画における再構成技術(レイ再構成)を実装しているのは、現在のところDLSSのみです(FSRも近々追従するようです)。
- 高い画質の評価: 一般的な画質評価においては、概ね最も高い評価を得ています。
- 対応製品と方向性: 自社製品専用の技術であり、NVIDIA製GPUの専用ハードウェア(Tensorコア)を使用します。近年、同社のラインナップから低価格帯の製品が減ったため、低性能PCの救済というよりも、負荷の重い高画質ゲームにおいて、さらなる画質とフレームレートの向上を実現するための一つのオプションという位置付けになっている印象です。
AMD FSR (FidelityFX Super Resolution)
- 初期の設計思想: FSR 3までは、機械学習を使用せず、ハードウェアを選ばない汎用的な設計が特徴でした。これは、開発元であるAMDのGPUが持つAI処理能力(TOPS値)が競合製品に比べて低かったことが背景にあると考えられます。しかし、この汎用性の高さと引き換えに、画像が破綻しやすいという課題も抱えていました。
- 技術転換: FSR 4からは、AI性能の強化に乗り出し、自社製品専用の機能や機械学習を用いる方向へと技術的な転換を図っています。このため、最新版では画質は大きく向上しています。
- 派生の広がり: FSRには多くの派生技術が存在します。オープンソースだったFSR 2の技術は、Apple MetalFX Upscaling、ARM Accuracy Super Resolution、Snapdragon Game Super Resolutionなどの派生を生み出しています。また、共同開発の形をとるFSR 4の技術が、PlayStation Spectral Super Resolutionとして派生しています。
Intel XeSS (Xe Super Sampling)
- 汎用性と機械学習の両立: DLSSと同じような、AIを用いた高品質な超解像処理を、自社専用ではない汎用的な命令(DP4a)でも実行できるようにしているのが大きな特徴です。自社製品ではさらに高速化されます。
- 中程度の画質: 画質はDLSSやFSR 4に比べると劣りますが、同じく汎用性の高いFSR 2と比較すると画質は上回ると評価されています。
- 現在の立ち位置: FSRが自社製品専用のAI技術へと舵を切った中で、XeSSは現在、唯一の汎用的な超解像技術としての立ち位置を得ています。ただし主要な超解像技術の中では最も後発の技術で、新機能の実装についても、競合技術に比べると基本的に最も遅い傾向があります。
同世代の中で画質評価をまとめると、以下のようになるでしょう。
- DLSS:ゲーム超解像技術の嚆矢であり、現在でも一歩リードという評価が多い
- FSR 最新版:DLSSに追いつこうとしているが、最新Radeon専用になった
- XeSS:DLSSの基礎アルゴリズムを、汎用のDP4a命令を使って他社製品でも使える形で実装
- FSR 2.0:機械学習ではなく、画質破綻の頻度が高い。他社製品でも使え、オープンソース。
一方で、互換性に関しては順序が逆転します。DLSSは自社専用、かつバージョンが進むと最新製品を要求するようになります。FSRの最新版も同様になっています。一方で、XeSSはRTX20+, RX5000+, ARC A+のどれでも動き、旧来のFSR 2.0もRTX10+, RX5000+, ARC A+ の幅広いハードウェアで動作します。
以上のような特性から、自分の持っているグラフィックボードでDLSSやFSR4以降が選べるなら優先して選択し、選べない場合はXeSSやFSR3以前を利用するのが基本戦略となります。
適切なFPS設定
FPS向上技術は魔法ではありません。動きの追跡に依存しているため、動き追跡を計算するための元のフレームレートが低すぎると、動きの予測が困難になり、結果としてノイズや破綻が増えてしまいます。設定の目安としては、以下の数値を維持できるよう、足りなければ画質設定を下げていくと良いでしょう。
- アップスケーリングのみ使用: 最終的に 60fps以上 になるように調整
- フレーム生成を使用: 最終的に 120fps以上 (ベースで60fps程度)になるように調整
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人間の目の特性と「滑らかさ」の限界
「FPSは高ければ高いほど良い」と考えられがちですが、人間の感覚にも限界があります。NHKがスーパーハイビジョンの基準を決める際に行った研究によれば、60fps → 120fpsでははっきりと滑らかさの向上を感じたものの、120fps → 240fpsでは違いは分かるもののそれほど品質に差はないという判断になっています。

西田幸博. スーパーハイビジョンの映像パラメータと国際標準化. NHK技研R&D 2013年 1月号 解説02 より引用
また、滑らかさの感じ方は残像の起き方、すなわちシャッター開口時間にも影響されます。必ずしも240Hzのモニターを用意しなくても、120Hzの環境でフレーム間に真っ黒な画面を一瞬挟む「黒フレーム挿入」という技術を使うことで、見た目のキレが改善することがあります。ただし画面が少し暗くなる、フリッカーを感じるなどのデメリットもあり、好みは分かれます。
これらを意識して設定を調整することで、PCゲーミングの体験はより快適なものになるでしょう。
この記事は筆者作成動画の再編集版です。
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